24GHzのレーダー向けプラットフォーム「Demorad」、産業分野の新興量産市場に適した非接触センサーの開発に貢献

24GHzのレーダー向けプラットフォーム「Demorad」、産業分野の新興量産市場に適した非接触センサーの開発に貢献

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John Morrissey

John Morrissey

はじめに

シリコンをベースとする24GHz対応のミリ波レーダー技術が開発されたことにより、新世代の非接触スマート・センサーを実現できるようになりました。そうした製品は、自動車や、ドローンを含むUAV(無人航空機)などで活用されています。それだけでなく、産業用、民生用といった量産市場のアプリケーションでも広く使用されるようになりました。レーダー技術をベースとする非接触センサー(レーダー・センサー)を使用すれば、物体の存在、動き、角度位置、速度などを検出できます。また、センサーから数cm~数百mの範囲の距離を測定することも可能です。そうした様々な情報をリアルタイムで取得することが可能になるということです。最近まで、ミリ波帯に対応するレーダー・センサーは、ディスクリート構成で実現されていました。そうしたセンサーは、サイズが大きく複雑で価格も高くなるため、産業分野での利用は限られていました。そのような状況を覆すものとして、アナログ・デバイセズは24GHzのレーダーに対応するIC製品を多数提供しています。それらの製品は、低消費電力、小型、低コスト、使いやすさにつながる高い性能と集積度を誇ります。そのため、物体の検知、追跡、セキュリティ対策、衝突を回避するための警告システムといったアプリケーションに最適です。

レーダー・センサーを開発する上での課題

本稿では、まずレーダー・センサーを開発する上での課題について整理します。その上で、24GHzに対応するレーダー・システム向けのソリューションが、それらの課題をどのように解決するのか解説を加えます。

上述したように、現在はRFレーダーを利用する新たなセンサー・アプリケーションが続々と登場している状況にあります。それに伴い、多くの企業はレーダー・センサーを利用するソリューションの評価、設計、製造を迅速に実現したいと考えています。しかし、そうした企業は一連の新たな課題に直面しているというのが実状です。アナログ・デバイセズは、それらの課題を解決可能なものして「Demorad」を開発しました(図1)。これは、24GHzに対応するレーダーをターゲットとしたシステム・レベルのプロトタイプ・ソリューションです。これを利用すれば、完全なシステム(リファレンス設計)をベースとして、アプリケーション用のハードウェアとソフトウェアを開発することができます。Demoradは、マイクロ波を利用するレーダーを対象とした全く新たな評価用プラットフォームです。すぐに実行可能なサンプル・ソフトウェアが付属しているので、レーダー・センサーをわずか数分間のうちに起動することができます。このプラットフォームを利用すれば、レーダー・センサー製品のプロトタイピングを迅速に実現することが可能になります。言い換えれば、対象物/物体の存在、動き、角度位置、速度、センサーからの距離といった情報をリアルタイムで測定する機能を即座に実現できるということです。

図1. Demoradの外観。24GHzのレーダー向けプラットフォームです。

図1. Demoradの外観。24GHzのレーダー向けプラットフォームです。

このシステム・ソリューションのハードウェアには、RFアンテナに加え、RFからベースバンドまでのシグナル・チェーン全体が含まれています。シグナル・チェーンの構成要素としては、受信(Rx)用の「ADF5904」、送信(Tx)用の「ADF5901」、フェーズ・ロック・ループ(PLL)の「ADF4159」、A/Dコンバータを内蔵するアナログ・フロント・エンド(AFE)「ADAR7251」を使用しています(図2)。DSPベースの組み込みプロセッサ「ADSP-BF707」も搭載しているので、ノート型/デスクトップ型のPCに簡単に接続することができます。また、使いやすいGUI(Graphical User Interface)と、レーダーを利用するためのアルゴリズム(ソフトウェア)も備えています。加えて、Blackfin®DSP用のライブラリとして、レーダー・システムで利用可能なFFT(高速フーリエ変換)処理用のソフトウェアや制御用のファームウェアも提供されています。そのため、このプラットフォーム・システムは、ソフトウェアをロードしたPCにわずか数分間で接続することが可能です。GUIやDSP用の関数ライブラリなど、完全なソフトウェア・サポートが提供されていることから、24GHzのレーダー向けに開発された各種ICに迅速に対応できます。更に、レーダー・センサー向けのソフトウェアを設計する際、MATLAB®を使用してPC上で後処理を行うために、未処理のデータを書き込む機能なども追加されています。それにより、2D/3Dレーダー用のFFTや、CFAR(Constant False Alarm Rate:一定誤警報率)、分類用のアルゴリズムなどの機能を開発することができます。

図2. Demoradのブロック図。RFからベースバンドまでのシグナル・チェーンなどを示しています。

図2. Demoradのブロック図。RFからベースバンドまでのシグナル・チェーンなどを示しています。

Demoradの詳細については、製品ページをご覧ください。

FMCWレーダーの基礎

図3は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)レーダーに関連する事柄についてまとめたものです。図示しているのは、この種のレーダーで生成すべきランプ信号/チャープ信号です。それに加えて、レーダー・センサーの設計情報を定義するために使用される一連の理論式を示してあります。

図3. FMCWレーダーに関連する事柄

図3. FMCWレーダーに関連する事柄

レーダー・センサーで測定する距離の分解能は、送信キャリアのスイープ帯域幅に依存します。その帯域幅が広いほど、距離の分解能は高くなります。また、速度の分解能はキャリアの周波数とドウェル時間に依存します。キャリアの周波数が高いほど、あるいはドウェル時間が長いほど、速度の分解能は高くなります。角度の分解能は、キャリアの周波数に依存します。キャリアの周波数が高いほど、角度の分解能は高くなります。

図4は、取得したデータに対する後処理について説明するためのものです。Demoradの場合、この後処理はADSP-BF707で実行することになります。

図4. FMCWレーダーにおけるデジタル領域での後処理

図4. FMCWレーダーにおけるデジタル領域での後処理

Demoradのシグナル・チェーンに配置されたDSPには、基本的なアルゴリズムが実装されています。DSPによって、FFT、ビームフォーミング、CFARを実行するためのアルゴリズムです。基本的な対象物の検知や分類は、ホストPC上で実行されます。Demoradは、レーダーの信号を時間領域と周波数領域で収集することを想定して設計されています。対象物の検知や分類を行うための高度なアルゴリズムは搭載していません。そうした処理の開発作業は、アプリケーションのレベルで行うことになるでしょう。そのためには、レーダー・センサーが動作する環境や、必要となる物体検知の種類についての十分な知識が必要になります。つまり、最終的なシステムの開発者が担うべき作業になります。

図5は、Blackfin製品であるADSP-BF70x用に最適化された2DのFFTについて示したものです。窓関数を適用しており、飽和の回避、S/N比の向上、メモリ・レイアウトの最適化が図られています。そのため、広い帯域幅に対応し、効率的なデータ処理を行うことが可能になっています。Demoradは、様々な動作モードを備えています。以下、各モードについて概観することにします。

図5. 2DのFFTによる距離とドップラー周波数の算出

図5. 2DのFFTによる距離とドップラー周波数の算出

FMCWレーダー・モード

FMCWレーダー・モードは、静止した対象物までの距離を測定するために使用します。対象物に対応する受信信号の周波数はダウンコンバートされますが、その値は対象物までの距離に比例することになります。GUIを使用すれば、FFT処理によって周波数を容易に求めることができます。また、距離‐時間の表示オプションを使用すれば、移動している対象物に対応した表示が得られます。ディスプレイには、多数のFMCWスイープがストアされます。

レンジ・ドップラー・モード

レンジ・ドップラー・モードを使用すれば、対象物までの距離と速度を分析することができます。これは、非常に強力な動作モードだと言えます。2DのFFTによる評価では、複数の送信ランプ信号(チャープ信号)を同時に処理することが可能だからです。このモードで処理されたデータは、レンジ・ドップラー・マップとして表示されます。レンジ・ドップラー・モードは強力なものであり、様々な速度の対象物が同じ距離の位置にあったとしても、それらを分離することが可能です。この処理は、様々な方向に高速で移動する複数の対象物に対して有効です。例えば、車が反対方向に動いていたり、追い越し動作を行っていたりといった具合に、交通の状況が複雑な場合にも対応できます。

デジタル・ビームフォーミング・モード

デジタル・ビームフォーミング(DBF)モードを使用すれば、対象物までの距離と角度を表示することができます。対象物の角度は、4つの受信チャンネルで取得した信号を使用して推定されます。ディスプレイには、XY平面における対象物の空間分布が表示されます。DBFモードにおいて、システムはFMCWモードと同じように構成されますが、ダウンコンバートされたIF信号に対する処理に違いがあります。DBFモードでは、距離の計算を行った後、4つの受信チャンネルの間の位相差を評価することによって対象物の角度の情報を計算します。また、DBFモードでは、レーダーが備えるフロント・エンド・システムのキャリブレーションが必要になります。その目的は、受信チャンネルの間の不要かつデタミニスティックな位相の変化を排除することです。Demoradには、工場から出荷された際のキャリブレーション・データが用意されており、GUIの実行時にそれらがロードされます。サンプリングしたIF信号の補正を行った後に、センサーで取得したデータの評価が実施されます。

Demoradでは、ADF5901の2つの送信出力と適切なアンテナの配置によってMIMO(Multiple-input, Multiple-output)を活用します。それにより、7つの受信チャンネルが得られ、センサーにおける角度の分解能が向上します。例えば、4つの現実の受信チャンネルと4つの仮想的な受信チャンネルが1つのチャンネルで重なることになります。Demoradで使用する信号は、ADF4159(PLL)の高速ランプ機能を利用して生成します。アップ・チャープが280マイクロ秒、ダウン・チャープが4マイクロ秒である場合、ランプ信号のトータルの周期は284マイクロ秒となります。1MSPSで動作するADAR7251(ADCを内蔵するAFE)により、256個のサンプルが取得されるか、アップ・ランプでデータがサンプリングされます。

Demoradでは、FMCWレーダーを使用することにより、最大200m離れた位置にある物体までの距離と速度を約75cmの分解能で検知することができます。視野角(FOV:Field of View)は、アンテナ・アレイの設計に基づいて、方位角で約120°、仰角で約15°となります。Demoradでは、デジタル・ビームフォーミングで使用されるようにアンテナを組み合わせることで、FOV内の角度の情報を算出します。