概要

設計リソース

設計/統合ファイル

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  • Assembly Drawing
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機能と利点

  • 16ビット 6MSPS SAR ADC システム
  • 低消費電力のドライバ
  • 多重化データ収集に最適

回路機能とその特長

図 1 に示す回路は、16ビット、6 MSPS、逐次比較型(SAR)A/Dコンバータ(ADC)と 差動/差動ドライバを組み合わせて、低消費電力で低ノイズ(信号対ノイズ比[SNR] = 88.6 dB)と低歪み(全高調波歪み [THD] = −110 dBc)を実現できるように最適化されています。この回路は、SARアーキテクチャによってパイプラインADCで通常生じる待ち時間やパイプライン遅延なしにサンプリングを行うので、携帯型デジタルX線システムやセキュリティ・スキャナーなどの高性能多重化データ収集システムに最適です。6 MSPS のサンプリング・レートにより、複数チャンネルの高速サンプリングが可能です。また、このADCは真の16ビットDC直線性性能を実現し、シリアル低電圧差動シグナリング(LVDS)インターフェースを備えているので、ピン数とデジタル・ノイズを低減できます。

図1. AD7625を駆動するADA4897-1(全接続の一部およびデカップリングは省略されています)

 

ドライバには、低消費電力(アンプ当たり3mA)でAD7625 ADCの動的性能を維持する2個の低ノイズ(1 nV/√Hz)オペアンプ ADA4897-1を使用します。ADA4897-1はセトリング・タイムが短い(0.1%まで45 ns)ので、多重化アプリケーションに最適です。 

この組み合わせにより、低消費電力で業界最先端の動的性能を実現し、5 mm × 5 mm 32ピンLFCSPパッケージのAD7625、8ピンSOICパッケージのADA4897-1、5ピンSOT-23パッケージのAD8031を使って、小さな基板面積に収まります。

回路説明

ADA4897-1は、低歪み(1MHzでのSFDRが−93dB)、高速セトリング・タイム(0.1%まで36ns)、広帯域幅(−3 dB帯域幅:230MHz、G = 1)のデバイスです。ADA4897-1ドライバはどちらも、ゲイン1に設定されています。20 Ωの抵抗と2.7 nFのコンデンサを使った単極の2.95 MHzローパス・フィルタが各ドライバとADCの間に配置されます。このフィルタにより、AD7625の入力でのオペアンプの出力ノイズを制限し、帯域外高調波をいくらか減衰します。

ADA4897-1出力の同相電圧は、ユニティゲイン・バッファとして構成されたAD8031を使ってAD7625のVCM出力電圧(公称2.048V)をバッファすることによって設定されます。同相バイアス電圧が590Ωの直列抵抗を介して入力に印加されます。AD8031は出力インピーダンスが低く、過渡電流に対するセトリングが高速なので、同相電圧の駆動に最適です。

AD7625は、LVDSインターフェースを使用し、6 MSPSでのSNRが92dB、16ビット(1LSB)の積分非直線性(INL)という画期的な動的性能を実現します。ADR434 電圧リファレンス(4.096V)は、低ノイズ、高精度のXFETリファレンスで、温度ドリフトを低く抑えます。このリファレンスは最大30mAの出力電流をソースし、最大20mAをシンクします。

ADR434は8ピンMSOPパッケージまたは8ピン細型SOICパッケージで供給されます。1個のAD8031オペアンプにより、ADR434の出力をAD7625のリファレンス入力から絶縁し、REF入力に対して低インピーダンスと過渡電流の高速セトリングを実現します。

デュアル・ドライバの消費電力はわずか54mWで、ADCの消費電力135mWとリファレンスおよびリファレンス・バッファの消費電力12mWを加えると、回路全体の消費電力は合計でわずか201mWとなります。

この回路は、ADA4897-1ドライバの入力に+7Vと −2Vの電源を使用することにより、消費電力を最小限に抑え、システムの最適な歪み性能を実現します。ADA4897-1の出力段はレールtoレールで、5V単電源動作時に150mVと4.85Vの間で振幅します。ただし、この範囲の両端に2Vのヘッドルームを追加すると、歪みはさらに低減されます。

入力段に+7Vと−2Vの電源を使った回路のAC特性を図2に示します。SNR = 88.6dB、THD = −110.7dBで、フルスケールより0.6dB小さい(フルスケールの93%)20kHzの入力信号を使用しています。

図2.デュアル電源動作(+7V、−2V)でのAD7625およびADA4897-1、
SNR = 88.6dB、THD = −110.7dB、基本振幅=フルスケール−0.6dB

 

図3. デュアル電源動作(5V)でのAD7625およびADA4897-1、
SNR = 86.7dB、THD = −101.1dB、基本振幅=フルスケール−1.55dB

 

入力段に5V単電源を使った回路のAC性能を図3に示します。SNR = 86.7dB、THD = −101.1dBで、フルスケールより1.55dB小さい(フルスケールの84%)20kHzの入力信号を使用しています。

電源電圧が−2V、+7Vから0V、+5Vに低下しているために、SNRが約1.9dB劣化し、THDが9.6dB劣化していることがデータから分かります。

単電源構成は、システムにデュアル電源を備えていなくても高性能を達成する必要があるユーザーに適しています。

バリエーション回路

AD7625はリファレンスを内蔵していますが、システム要件に応じて外付けリファレンスを使用する2つのオプションも備えています。REFINピンにADR3412リファレンス(1.2V)の出力を与えることによってリファレンス電圧を生成できます。このリファレンス電圧は内蔵のリファレンス・バッファによって内部で増幅されて、4.096Vの正確なADCリファレンス値になります。ADR3412はAD7625に使用されるのと同じ5Vのアナログ・レールによって給電され、内蔵のリファレンス・バッファも使用できます。

また、図1に示すように、AD8031などのバッファ・アンプを使って、ADR434やADR444などの4.096V外部リファレンスをADCのバッファされていないREF入力に接続することもできます。この手法は、複数のADCでシステムのリファレンスを共有するマルチチャンネル・アプリケーションでよく使われます。

また、ADR434およびADR444の構成は、リファレンスの温度係数が小さい(ADR434B および ADR444Bでは最大3ppm/°C)ことが求められるシングルチャンネル・アプリケーションに最適です。ADA4897-1 オペアンプへの給電に使用される7Vレールで、ADR434またはADR444のVIN電源ピンに給電することもできます。

もう一つの魅力的な4.096Vリファレンスは、5V電源で動作可能な低ドロップアウト(>300 mV)高精度リファレンスADR4540です。

必要であれば、ADA4897-1とシングル・オペアンプAD8031をデュアル・バージョン(それぞれ、ADA4897-2AD8032)に置き換えることができます。

入力周波数が最大3MHzと高い場合、推奨する駆動アンプはADA4899-1(15 mA/アンプ)です。 

ADA4938-1(37 mA/アンプ)は最大10 MHzの信号に最適で、シングルエンド/差動コンバータとして使用できます。

この回路のような高速回路の性能は、適切なPCBレイアウトに大きく依存します。これには電源バイパス、管理されたインピーダンス・ライン(必要な場合)、部品配置、信号配線、電源プレーン、グラウンド・プレーンなどが含まれますが、これらに限定されるわけではありません。PCBレイアウトの詳細についてはチュートリアルMT-031、チュートリアルMT-101、および技術記事 「高速プリント回路基板レイアウトの実務ガイド」を参考にしてください。

回路の評価とテスト

EVAL-AD7625EDZ 評価ボードは、AD7625 ADCの評価およびテスト用に開発したものです。図1に示す回路をテストするために、2個のADA4899-1オペアンプ(U13、U14)を2個のADA4897-1オペアンプと交換しました。

詳細な回路図と操作説明はEVAL-AD7625EDZの技術文書に記載されています。この技術文書には、この回路ノートに記載されているACテストの実行方法が説明されています。

入力アンプの+7Vと −2Vの電源は、外部のデュアル電源からEVAL-AD7625EDZボードに接続されていることに注意してください。

テスト・セットアップの機能ブロック図を図4に、評価ボードの写真を図5に示します。


必要な装置


回路をテストするために、下記の装置が必要です。

  • EVAL-AD7625EDZ 評価ボード(修正済み)(ソフトウェアと7V DC用ACアダプタを含む)
  • EVAL-CED1Zコンバータの評価およびデモ用プラットフォーム・ボード
  • Agilentの81150AあるいはAudio PrecisionのSYS2702 のような低歪み信号発生器
  • USB 2.0ポート付きWindows® XP、Windows VistaまたはWindows 7(32ビットまたは64ビット)対応PC
  • 7V DC用ACアダプタ(評価ボードに含まれている)
  • +7V および−2Vの外部DC電源(50 mA)

 

図4. テスト・セットアップの機能図

 

図5. EVAL-CED1Zボードに接続されたEVAL-AD7625EDZボード(修正済み)