概要
設計リソース
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-SDP-CB1Z ($116.52) Eval Control Board
デバイス・ドライバ
コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。
機能と利点
- 高集積2線式、3線式、4線式RTD測定システム
- 24ビット分解能
- 精度: <1°C
- 低消費電力
- 精度:<1°C(全温度範囲)
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
-
機能的に安全な測温抵抗体(RTD)システムの設計および認証方法2022/07/21
回路機能とその特長
図1に示す回路は、高精度計測アプリケーション用に最適化された、低消費電力、低ノイズ、24ビットΣ-Δ A/Dコンバータ(ADC)であるAD7124-4/AD7124-8をベースとした、2線式、3線式、または4線式の測温抵抗体(RTD)システムです。
この回路ノートでは、0°Cで±0.3°Cの精度を持ったクラスBのPt100 RTDセンサーを使用していますが、より高精度のRTDであるクラスA、クラスAA、1/3 DIN、または1/10 DINなどの他のクラスにも応用できます。この回路は、低消費電力アプリケーションで有用なPt1000 RTDにも対応しています。
AD7124-4/AD7124-8は、高分解能、低非線形性、低ノイズ性能、それに高い50Hz/60Hz除去を実現可能で、産業用RTDシステムに適しています。システムの代表的なピークtoピーク分解能は、通常消費電力モード、sinc4フィルタを選択の場合、出力データ・レートが50SPSで0.0043°C(17.9ビット)です。また、低消費電力モード、ポスト・フィルタを選択の場合、出力データ・レートが25SPSで0.0092°C(16.8ビット)です。これらの設定の値は、システム精度がセンサーの精度よりもかなり優れていることを示しています。
AD7124-4/AD7124-8は、RTD測定をサポートするために必要ないくつかの重要なシステム・ビルディング・ブロックを統合しています。プログラマブル励起電流源はRTDを励起し、プログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)はRTDを増幅します。これらの機能により、センサーとの直接インターフェースが可能になり、コストと消費電力を削減しながら設計を簡素化できます。
複数のオンチップ・デジタル・フィルタ処理オプションと、消費電流、出力データ・レートの範囲、セトリング時間、および実効値ノイズが最適化された3種類の統合電源モードにより、アプリケーションの柔軟性が高まります。低消費電力モードでの消費電流はわずか255μAで、通常消費電力モードでは930μAです。パワーダウン・モードでは、ADC全体とその補助機能がパワーダウンされるので、AD7124-4/AD7124-8の消費電流は1μA(代表値)に抑えられます。このパワー・オプションにより、AD7124-4/AD7124-8は、入力モジュールのような無電力であることが重要なアプリケーションや、トランスミッタ全体の消費電流が4mA未満でなければならないループ電源型スマート・トランスミッタのような低消費電力アプリケーションに適しています。
AD7124-4/AD7124-8は、その包括的な機能セットの一部として、広範な診断機能も内蔵しています。この機能を用いて、アナログ・ピンの電圧レベルが指定の動作範囲内にあるかどうかを確認できます。これらのデバイスには、シリアル・ペリフェラル・インターフェース(SPI)バスの巡回冗長検査(CRC)とシグナル・チェーンのチェックも含まれており、より堅牢なソリューションを実現できます。これらの診断機能により、診断機能を実装するための外部部品を削減できるため、ソリューションの小型化、設計サイクル・タイムの短縮、コスト削減が可能になります。
回路説明
RTDの概要
RTDは、温度測定によく使用されるセンサーです。RTDは純金属(白金、ニッケル、銅など)から作られており、温度変化に伴う抵抗値の変化が予測可能で、一般には+850°Cまで測定できます。RTDは、サーミスタ、熱電対、半導体(IC)温度センサーなど、他種の温度センサーと比較すると、高精度で安定性が高いセンサーです。最も広く使用されているRTDは、白金のPt100とPt1000です。これらのセンサーは、0℃における公称抵抗値によって分類されます。プラチナRTDセンサーの許容差と精度の限界値を定義する業界標準がいくつかあります。
図1の回路では、−200°C~+600°Cの範囲を測定できるクラスBのPt100 RTDセンサーを使用しています。クラスBのPt100 RTDの抵抗値は0°Cで100Ω(代表値)であり、温度係数は約0.385Ω/°C(代表値)(図2参照)、0°Cでの許容差は±0.3°Cです。RTDのキャリブレーション温度(0°C)を逸脱した温度では、許容差の範囲が広がり、精度が低下します。Pt1000 RTDも同様の範囲と許容差のものが入手可能です。ただし、Pt1000 RTDの抵抗値は、Pt100センサーの抵抗値に比べて10倍高くなります。
RTD測定アプリケーションで一般的に使用されるRTD構成には、2線式、3線式、4線式の3種類があります。2線式は最もシンプルな構成です。しかし、この構成では、リード抵抗がRTDと直列となって補正できないため、誤差が生じます。したがって、2線式RTDは、リード線が短く、精度へのリード抵抗の影響が最小化される場合に使用されます。長いリード線の抵抗は、2つの励起電流を使用する3線式接続で補正できますが、長いリード線の抵抗による誤差は、4線式接続を使用することでほぼなくなります。したがって、4線式の構成が最良の性能となります。
ただし、3線式RTDでは、RTDへの接続が3つしか必要ないため、コネクタ・サイズを最小限に抑える設計に有効です(必要な接続端子は3つで、4線式RTDでは4端子必要)。
RTDの伝達関数
PT100 RTDの仕様によれば、抵抗値は約0.385Ω/°Cで変化します。この関係は、RTDのおおよその温度を素早く求める方法として使用できます。この方法は、RTDの温度係数が温度範囲にわたってわずかに変化するため、不正確です。しかし、温度を素早く確認する方法としては有用です。
おおよその温度を計算するには、式1を使用します。ここで、RTDの抵抗値は、0°Cで100Ωです。
RTDの伝達関数はCallender-Van Dusen方程式として知られ、より正確な結果が得られます。これは、2つの異なる多項式で構成されています。0°C未満の温度には式2を使用し、0°Cを超える温度には式3を使用します。
温度(T)≤ 0°Cの式は次のとおりです。
T ≥ 0°Cの式は次のとおりです。
ここで、
RRTD(T)R(T)は温度(T)におけるRTDの抵抗値。
R0は0°CでのRTDの抵抗値(この場合、R0 = 100Ω)。
A = 3.9083 × 10−3。
TはRTDの温度(°C)。
B = −5.775 × 10−7。
C = −4.183 × 10−12。
式2および式3の伝達関数が与えられている場合、温度をRTD抵抗値の関数として決定するには多くの異なる方法があります。この回路ノートでは、正確さの点から直接的な数学による方法を選択しています。式3を使用すると、温度は次式で計算できます。
ここで、rはRTDの抵抗値で、他の変数は前に定義したとおりです。
この方法は、≥0°Cの温度でうまく機能します。0°C未満の温度におけるRTDの温度を計算するには、最適な多項式が必要です。この回路ノートで使用している多項式は、式5に示すように5次の多項式です。
RTDの測定
RTDの抵抗値を正確に測定するには、一定の励起電流源によってRRTD端子間に低レベルの電圧を生成させます。この低レベルの電圧は、次にADCのオンボードPGAによって増幅され、さらに24ビットのΣ-Δ ADCを用いて高精度デジタル表現に変換されます。電流源の誤差は、測定値を、同じ電流源で駆動される高精度のリファレンス抵抗(RREF)端子間の電圧と比較することで容易に相殺が可能で、それによってレシオメトリック測定結果が得られます。
ADCがユニポーラ・モードで動作している場合、RTDの抵抗値(R)を計算する一般式は次式で与えられます。
ADCがバイポーラ・モードで動作している場合、RTDの抵抗値(R)を計算する一般式は次式で与えられます。
ここで、
CODEはADCのコード。
RREFはリファレンス抵抗値。
NはADCの分解能(この場合は24)。
Gは選択したゲイン。
例として、AD7124-4/AD7124-8をバイポーラ・モードに設定し、温度を25°Cに設定した場合、AD7124-4/AD7124-8から読み出されるコードは11270065になります。このコードを式7を用いて抵抗値に変換すると次のようになります。
式4を用いて線形化すると、温度は24.921°Cとなります。
2番目の例として、AD7124-4/AD7124-8をバイポーラ・モードに設定し、温度を−25°Cに設定した場合、AD7124-4/AD7124-8から読み出されるコードは10757779になります。
このコードを抵抗値に変換すると次のようになります。
式5を用いて線形化すると、温度は−24.982°Cとなります。
RTD設計の考慮事項
以下のセクションでは、回路部品を設計し、図1に示すRTD測定回路に必要な動作を設定する際の一般的なガイドラインについて説明します。
RTD配線構成のセクションでは、各配線構成で使用される様々な回路技術と接続について説明しています。ここに示したそれぞれの回路構成で使用される全ての考慮事項と計算については、RTD配線構成のセクションを参照してください。
ADC
システムの精度は、RTDセンサーの仕様とADCの性能に依存します。AD7124-4/AD7124-8は、RTD測定のための統合ソリューションを提供します。これらのデバイスは、高分解能、低い非直線性、低ノイズ性能、そして優れた50Hz/60Hz除去性能を実現できます。AD7124-4/AD7124-8は、オンチップ・プログラマブル励起電流源、リファレンス・バッファ、RTDからの小信号を増幅する低ノイズPGAで構成されています。これらにより、センサーとの直接インターフェースが可能になり、必要な外付け回路を最小限に抑えることができます。 .
電源
AD7124-4/AD7124-8では、アナログとデジタルの電源を分離しています。デジタル電源IOVDDはアナログ電源から独立しており、DGNDを基準として1.65V~3.6Vの範囲で使用できます。アナログ電源AVDDはAVSSを基準とし、低消費電力および中消費電力モードでは2.7V~3.6Vの範囲、通常消費電力モードでは2.9V~3.6Vの範囲となります。図1に示す回路は単電源で動作します。そのため、AVSSとDGNDは互いに接続し、グランド・プレーンは1つしか使用しません。AVDD電圧とIOVDD電圧はADP150電圧レギュレータを用いて個別に生成されます。ADP150レギュレータを使用して、AVDD電圧は3.3V、IOVDD電圧は1.8Vに設定されます。別々のレギュレータを使用すると、ノイズを最低限に抑えることができます。
電源モードの選択は、目的のアプリケーションにおける電流バジェット割り当てに依存します。アプリケーションが、より高い出力データ・レートと優れたノイズ性能を必要とする場合は、デバイスを通常消費電力モードに設定できます。ポータブル・アプリケーションでは、低消費電力の部品を使用する必要があります。また、一部の工業用アプリケーションでは、最大4mAの電流バジェットが可能なように、システム全体の電源を4mA~20mAループから供給します。この種のアプリケーションでは、デバイスを中消費電力モードまたは低消費電力モードに設定できます。
励起電流と出力コンプライアンス
AD7124-4/AD7124-8は、レジスタにより50μA~1mAの範囲で設定可能な2つの励起電流源を備えています。励起電流の選択は、RTDの入力電圧範囲、ゲイン選択、リファレンス抵抗とリファレンス・バッファ・ヘッドルーム抵抗に影響します。性能を向上させるためには、励起電流をできる限り最大にします。ただし、RTD測定の際には、励起電流源の出力コンプライアンスも考慮する必要があります。この回路では、500μAを選択し、出力コンプライアンス電圧はAVDD − 0.37Vとなります。この回路のAVDD電源電圧は3.3Vです。したがって、励起電流源の出力コンプライアンス・レベルは2.93V未満でなければなりません。
Callender-Van Dusen方程式を用いると、RTDの温度範囲を−200°C~+600°Cとした場合、500μAの励起電流でRTD端子間に発生する電圧は約9.26mV~156.85mVとなります。
アナログ入力とゲイン選択
センサーからの信号は非常に小さいため、低ノイズのゲイン・ステージで増幅する必要があります。これは、選択するRTDに応じて、数10ミリボルト~数100ミリボルトの幅があります。PGAを内蔵するADCを使用すれば、外付けのアンプ・コンポーネントは不要になります。AD7124-4/AD7124-8は、RTDからの小信号を1~128のプログラマブルなゲイン範囲で増幅するオンチップの低ノイズPGAで構成されているため、センサーとのダイレクト・インターフェースが可能です。ゲイン・ステージの入力インピーダンスは高いため、入力リーク電流を通常消費電力モードで3.3nA(typ)、低消費電流モードで1nA(typ)に制限します。オンチップ励起電流を500μAに設定した場合、最高温度が600°Cで、RTD端子間に発生する電圧は約156.85mVとなります。
AD7124-4/AD7124-8の最大レンジを確保するために、PGAのゲインは16に設定します。PGAは、RTDセンサーの最大出力電圧を2.5096Vに増幅します。
リファレンスとリファレンス・バッファのヘッドルーム
図1の回路では、REFIN+とREFIN1−をリファレンス入力としています。RTDを流れる電流は、リファレンス電圧を生成する高精度リファレンス抵抗にも流れます。高精度リファレンス抵抗の端子間に発生する電圧は、RTD端子間の電圧にレシオメトリックとなります。したがって、励起電流で生じる変動は除去されます。
リファレンスは、スイッチド・キャパシタによって連続的にサンプリングされます。この回路では、リファレンス入力は外付けのリファレンス抵抗によって駆動されます。RC値が大きいと、測定にゲイン誤差が生じることがあるので注意してください。内部リファレンス・バッファをイネーブルすると、誤差を増やすことなく、広範囲の抵抗値またはEMCフィルタ処理が可能になります。リファレンス・バッファをイネーブルした場合、正しい動作に必要なヘッドルームを十分にとる必要があります。
リファレンス電圧は、最小リファレンス電圧~最大リファレンス電圧の範囲内になければなりません。AD7124-4/AD7124-8は0.5V~(AVDD − AVSS)の範囲のリファレンスで動作できます。リファレンス・バッファは電源レールの上下に少なくとも0.1Vのヘッドルームを必要とします。
励起電流(IEXC)を500μAとし、ADCの増幅電圧(VRTD MAX)を考慮すると、リファレンス抵抗値は次のようになります。
したがって、5.11kΩの抵抗を選択し、次式によりリファレンス電圧(VREF)が求められます。
0.125V(500μA × 250Ω)のヘッドルームは、図1(2線式と4線式のセクションを参照)に示すように、250Ωの抵抗をグラウンドに接続することで得られます。このヘッドルーム抵抗は、リファレンス抵抗を回路のロー・サイドに配置している場合に必要です。図1(3線式セクションを参照)に示すように、リファレンス抵抗がハイ・サイドにある場合、リファレンス・バッファのヘッドルーム条件は、より高いRTD温度測定(300°C以上)の場合に満たされます。したがって、この測定構成では追加のヘッドルーム抵抗は必要ありません。しかし、より低いRTD温度測定(300°C未満)では、図1(3線式セクションを参照)に示すように、100Ωの抵抗をグラウンドへ接続することによって、0.1V(500μA × 100Ω)のヘッドルームが得られます。
これまで述べたとおり、この回路のAVDD電源電圧は3.3Vです。したがって、励起電流源の出力コンプライアンス・レベルは2.93V未満でなければならず、リファレンス電圧は0V~3.3Vの範囲内でなければなりません。
AIN0(IOUT0)ピンの最大電圧は、高精度リファレンス抵抗の端子間電圧にRTDの端子間電圧を加え、さらにヘッドルーム抵抗の端子間電圧を加えたものであるため、この仕様は満たされています。
デジタル・フィルタ処理とアナログ・フィルタ処理
差動フィルタ(約800Hzカットオフ)およびコモンモード・フィルタ(約16kHzカットオフ)が、アナログ入力とリファレンス入力に実装されています。このフィルタ処理は、変調器周波数およびその倍数の周波数での妨害を除去するために必要です。
センサーで高精度の測定を行うためには、センサーのノイズと精度がシステム全体の誤差を支配することも重要です。ノイズは、ADCが認識できるセンサー信号レベルのごく小さな変化を制限して、システムの分解能に直接影響するため、システムの精度に影響を与える可能性があります。また、キャリブレーションを行って、正確で再現性のある測定結果が必要とされる場合にも影響を与える可能性があります。したがって、ADCの分解能とノイズ性能がセンサーのノイズと分解能よりも優れていることが重要です。
AD7124-4/AD7124-8は、オンチップ・デジタル・フィルタ処理の柔軟性に優れています。いくつかのフィルタ・オプションを使用できます。選択するフィルタ・オプションは、出力データ・レート、セトリング時間、50Hz/60Hz除去に影響します。この回路ノートでは、sinc4フィルタとポスト・フィルタを実装しています。sinc4フィルタを使用しているのは、出力データ・レートの全範囲にわたって優れたノイズ性能と50Hz/60Hz除去性能を備えているからです。ポスト・フィルタは、セトリング時間が40msで、50Hzと60Hzの除去を同時に行うために使用します。
同一のフィルタ、ゲイン、出力データ・レート設定において、各システムの入力にRTDを接続した場合とADCアナログ入力を短絡した場合のノイズ実効値とノイズ性能を表1と表2に示します。RTDにはノイズがいくらかあるため、RTDを接続すると測定ノイズが大きくなります。
RTD構成 | 入力条件 | ノイズ実効値(nV) | ノイズ・フリー分解能 |
2線式 | RTD接続 短絡 |
169.33 102 |
0.0029°C(18.09ビット) 0.0017°C(18.83ビット) |
3線式 | RTD接続 短絡 |
199.37 100 |
0.0032°C(17.9ビット) 0.0018°C(18.7ビット) |
4線式 | RTD接続 短絡 |
199.37 100 |
0.0032°C(17.9ビット) 0.0018°C(18.7ビット) |
RTD構成 | 入力条件 | ノイズ実効値(nV) | ノイズ・フリー分解能 |
2線式 | RTD接続 短絡 |
347 335 |
0.0059°C(17.05ビット) 0.0057°C(17.1ビット) |
3線式 | RTD接続 短絡 |
774 360 |
0.0070°C(16.8ビット) 0.0050°C(17.3ビット) |
4線式 | RTD接続 短絡 |
774 360 |
0.0070°C(16.8ビット) 0.005°C(17.3ビット) |
キャリブレーション
AD7124-4/AD7124-8は、オフセット誤差とゲイン誤差を除去できる異なるキャリブレーション・モードを備えています。この回路ノートでは、内部ゼロスケール・キャリブレーションと内部フルスケール・キャリブレーションを使用しています。これらのキャリブレーションはADCのゲイン誤差とオフセット誤差のみを除去し、外部回路によって生じるゲイン誤差とオフセット誤差は除去しないことに注意してください。
診断機能
AD7124-4/AD7124-8は、アナログ・ピンの電圧レベルが指定の動作範囲内にあるかどうかを確認できるオンチップ診断機能を備えています。全てのアナログ入力ピン(AINx)は、過電圧と低電圧、それにADCの飽和を個別に確認できます。アナログ入力の電圧がAVDDを超えると過電圧のフラグが立ち、アナログ入力の電圧がAVSSを下回ると低電圧のフラグが立ちます。システムの広範な診断機能には、SPIバスのCRCとシグナル・チェーンのチェックも含まれ、より堅牢なソリューションが得られます。これらの診断機能により、診断機能を実装するための外部部品点数を削減できるため、ソリューションの小型化、設計サイクル・タイムの短縮、コスト削減が実現します。IEC 61508規格に従って実施した、代表的なアプリケーションの故障モードの影響と診断解析(FMEDA)において、安全側故障割合(SFF)は90%を超える値を示しました。
RTD配線構成
AD7124-4は4差動または7疑似差動の入力チャンネルに、AD7124-8は8差動または15疑似差動のチャンネルに構成できます。これらはフレキシブルなマルチプレクサを用いているので、センサーの接続が容易で、同じ基板上に複数の2線式、3線式、4線式のRTDを接続できます(表3を参照)。
製品 | 配線構成 |
||
2線式 | 3線式 | 4線式 | |
AD7124-4 | 2 | 2 | 2 |
AD7124-8 | 5 | 4 | 5 |
以下のセクションでは、図1に示す3種類のRTD配線における回路とADC構成について説明します。これらのセクションでは、RTD設計の考慮事項のセクションで既に述べたように、ADCの構成、センサー接続、出力コンプライアンス、リファレンスとゲインの選択などのADC側からの条件とともに、RTDをADCにインターフェースするために必要な様々な技術を考察し、RTDの各構成設計について焦点を当て、理解を深めます。また、各セクションでは、単一RTDセンサーで各構成を使用した際の結果や、それから学ぶこと、得られることについて議論します。
2線式RTD構成
2線式RTD構成は最も単純な構成です。AD7124-4/AD7124-8の3つのアナログ・ピン(AIN0、AIN2、AIN3)が2線式構成を実装するのに使用されます。AIN2とAIN3は完全差動入力チャンネルとして構成され、RTD端子間電圧の検出に使用されます。使用されるリファレンス入力は、REFIN+とREFIN1−です。ロー・サイドにリファレンス抵抗を使用するため、リファレンス・ヘッドルーム抵抗が必要です。
2線式構成の場合、励起電流源が1つ必要です。RTD、リファレンス抵抗、ヘッドルーム抵抗を励起するのに使用される励起電流源は、AVDDから生成され、AIN0 (IOUT0)に送られます。同じ電流が、リファレンス電圧を生成するRTDと高精度リファレンス抵抗を流れるため、レシオメトリック測定が確保されます。
2線式の場合、AIN0ピンとAIN2ピンはコネクタで短絡する必要があります。AIN3とREFIN1(+)もコネクタで短絡する必要があります。アナログ・ピンとその構成の詳細を図3に示します。リファレンス抵抗とヘッドルーム抵抗の選択は、励起、ゲイン、デジタル・フィルタ処理も含めて、RTD設計の考慮事項のセクションに基づきます。
AD7124-4/AD7124-8の2線式RTD測定の構成は次のとおりです。
- 差動入力:正のアナログ入力(AIN+) = AIN2、負のアナログ入力(AIN−) = AIN3
- 励起電流:IOUT0 = AIN0 = 500μA
- ゲイン= 16
- 5.11kΩの高精度リファレンス抵抗
- 250Ωのヘッドルーム抵抗
- デジタル・フィルタ処理(sinc4、50SPS、およびポスト・フィルタ、25SPS)
図3に示すRTD回路を使用し、異なるデジタル・フィルタ構成および消費電力モード構成のAD7124-4/AD7124-8を用いて、データを収集しました。具体的には、デジタル・フィルタ処理とアナログ・フィルタ処理のセクションで述べたように、通常消費電力モードではsinc4フィルタを使用し、低消費電力モードではポスト・フィルタを使用しています。
この2線式システムの代表的なノイズ・フリー・コード分解能は、通常消費電力モードおよびsinc4フィルタ選択時で18.09ビット、低消費電力モードおよびポスト・フィルタ選択時で17.05ビットです。これらは、それぞれの温度測定において、約0.0029°Cと0.0059°Cの誤差変動に相当します。2線式RTDを接続した場合のノイズ分布を図4と図5に示します。
2点キャリブレーションと線形化により、2線式システムの全体的な精度は、−50°C~+165°Cの温度範囲において±1°Cより優れています。各温度について、AD7124-4/AD7124-8を使って、RTDの端子間電圧を前述の要領で測定しました。RTD伝達関数のセクションで説明したように、この電圧は抵抗に変換され、線形化されて、温度に変換されます。
以上のデータから得られた誤差(設定温度から測定温度を差し引いた値)を図6と図7に示します。各RTD温度設定に対して、AD7124-4/AD7124-8は25°Cに保たれています。ここに示されているように、誤差は0°CでのRTDエンベロープに近く、リード抵抗によって誤差が付加されます。0°C以上でも以下でも、測定値はRTDの仕様内に収まっています。図6と図7には、AD7124-4/AD7124-8を異なる温度に設定した場合のRTD誤差の偏差も示されています。AD7124-4/AD7124-8のそれぞれの温度設定において、内部ゼロスケール・キャリブレーションとフルスケール・キャリブレーションが行われています。図6と図7に示すように、2線式測定の場合、全体的な誤差も0°CでのRTDのエンベロープに近くなっています。他の全ての温度では、RTDの誤差は、AD7124-4/AD7124-8の全ての温度設定について、クラスB RTDに期待される誤差の範囲内に十分収まっています。
図8と図9は、25°Cで内部ゼロ・スケール・キャリブレーションとフル・スケールキャリブレーションを1回実施した場合のRTD温度測定値の誤差を示しています。図8と図9は、25°Cでの1回のキャリブレーション、またはAD7124-4/AD7124-8の各個別温度でのキャリブレーションでは、AD7124-4/AD7124-8が高温になるとリード抵抗誤差のために性能が劣化することを示しています。
2線式RTDにおけるリード抵抗の考慮事項
2線式RTDの実装では、誤差境界の下限にかなり近い誤差が見られます。この背景には、2線式RTDの測定値が、そのリード抵抗のために実際の測定値よりも常に高くなることがあります。2線式RTD構成の場合、図3のリード抵抗、RL1とRL2は、RTD素子と直列に抵抗を追加するため、ADC入力端子間の電圧測定値を増加させ、その結果、印加温度よりも測定温度が高くなります。
例えば、24 AWG銅線の公称抵抗は、0.026Ω/foot(0.08Ω/meter)です。RTDのリード線の長さが25フィートの場合、リード線の合計抵抗(RL1およびRL2)は1.3Ωに相当します。RTDの温度係数は約0.385Ω/°Cです。したがって、1.3Ωのリード抵抗は、リード抵抗により(1.3/0.385) = 3.38°Cの誤差を生じることになります。
この誤差を補正する唯一の方法は、手動でオフセットをキャリブレーションすることであり、これはリード線の抵抗が一定である限り可能です。しかし、リード線抵抗は温度によって変化します。したがって、周囲温度が変化すると、リード線抵抗も変化し、温度測定にある程度の誤差が生じることになります。リード線が長い場合、この誤差原因は大きくなります。
したがって、2線式RTD構成は、リード線が短いアプリケーションや高抵抗センサー(例えば、PT1000)を使用して、リード抵抗の精度への影響を最小限に抑えることができる場合に主に使用されます。
3線式RTD構成
3線式RTD構成は、ピン数が3つで他の構成よりも精度に優れるため、最も一般的に使用される構成です。
図10に示す回路では、AD7124-4/AD7124-8のAIN0、AIN1、AIN2、AIN3の4つのアナログ・ピンが3線式測定の実装に使用されています。AIN2とAIN3は完全差動入力チャンネルとして構成され、Pt100 RTDセンサーの電圧を検知するのに使用されます。RTDを励起するための励起電流源はAVDDから生成され、AIN0に送られます。これと同じ電流がAIN1に送られ、RL2リード抵抗に流れ、RL1リード抵抗端子間で降下した電圧を相殺する電圧を生成します。使用されるリファレンス入力は、REFIN+とREFIN1−です。ここでもレシオメトリック構成が採用され、励起電流の変動による誤差が除去されます。
アナログ・ピンとその構成の詳細を図10に示します。
AD7124-4/AD7124-8の3線式RTD測定の構成は次のとおりです。
- 差動入力:AIN+ = AIN2 および AIN− = AIN3
- 励起電流:IOUT0 = AIN0 = 500μA
- 励起電流:IOUT1 = AIN1 = 500μA
- ゲイン = 16
- 5.11kΩの高精度リファレンス抵抗
- 100Ωのヘッドルーム抵抗
- デジタル・フィルタ処理(sinc4、50SPS、およびポスト・フィルタ、25SPS)
リファレンス、励起電流、ゲイン、およびデジタル・フィルタ処理の選択は、RTD設計の考慮事項のセクションに基づいています。
PGAをイネーブルすると、アナログ入力バッファも自動的にイネーブルになります。PGAを使用すると、入力ピンの電圧をAVSSと同程度にまで下げることができます。そのため、アナログ入力ピンにヘッドルーム抵抗は必要ありません。リファレンス・バッファもイネーブルになります。リファレンス抵抗がハイ・サイドにあるため、リファレンス・バッファのヘッドルーム条件は、より高いRTD温度測定(300°C超)の場合に満たされます。したがって、この測定構成では追加のヘッドルーム抵抗は必要ありません。しかし、より低いRTD温度測定(300°C未満)では、リファレンス・ヘッドルーム抵抗が必要です。
3線式RTD測定の場合は、2つの高精度励起電流源が必要になります。これらにより、RL1とRL2によって生成されるリード抵抗誤差を簡単に相殺できます。RL3のリード抵抗は、測定精度に影響を与えないことに注意してください。図10に示す3線式RTD構成では、リファレンス抵抗はRTDのハイ・サイドに配置されています。このセットアップでは、1つの励起電流がリファレンス抵抗とRTDの両方を流れ、2番目の励起電流がRL2リード抵抗を流れて、RL1リード抵抗の端子間で降下した電圧を相殺する電圧を生成します。1つの励起電流だけがREFIN1+とREFIN−へのリファレンス電圧を生成し、またRTD端子間電圧を生成するので、電流源の精度、ミスマッチ、ミスマッチ・ドリフトはADCの伝達関数に最小限の影響しか与えません。
3線式RTDの結果
図10に示すRTD回路を使用し、異なるデジタル・フィルタ構成と消費電力モード構成のAD7124-4/AD7124-8を用いて、データを収集しました。具体的には、デジタル・フィルタ処理とアナログ・フィルタ処理のセクションで述べたように、通常消費電力モードではsinc4フィルタを使用し、低消費電力モードではポスト・フィルタを使用しています。
この3線式システムの代表的なノイズ・フリー・コード分解能は、通常消費電力モードおよびsinc4フィルタ選択時で17.9ビット、低消費電力モードおよびポスト・フィルタ選択時で16.8ビットです。これらは、それぞれの温度測定において、約0.0033°Cと0.0070°Cの誤差変動に相当します。3線式RTDを接続した場合のノイズ分布を図11と図12に示します。
2点キャリブレーションと線形化により、3線式システムの全体的な精度は、−50°C~+200°Cの温度範囲において±1°Cより優れています。各温度について、AD7124-4/AD7124-8を使って、RTDの端子間電圧を前述の要領で測定しました。RTD伝達関数のセクションで説明したように、この電圧は抵抗に変換され、線形化されて、温度に変換されます。
以上のデータから得られた誤差(設定温度から測定温度を差し引いた値)を図13と図14に示します。それぞれのRTD温度設定において、AD7124-4/AD7124-8は25°Cに保たれ、誤差はPt100 Class Bの誤差ウィンドウ内に十分収まっています。図13と図14は、異なるAD7124-4/AD7124-8の温度設定間のRTD誤差の偏差も示しています。AD7124-4/AD7124-8の各温度設定において、内部ゼロスケール・キャリブレーションとフルスケール・キャリブレーションが実施されます。図13と図14に示すように、全体の誤差は許容誤差バジェット内に十分収まっています。
図15と図16は、25°Cで内部ゼロ・スケール・キャリブレーションとフル・スケールキャリブレーションを1回実施した場合のRTD温度測定値の誤差を示しています。図15と図16は、25°Cでの1回のキャリブレーションと、AD7124-4/AD7124-8の各個別温度でのキャリブレーションが同様の性能になることを示しています。
3線式RTDにおけるリード抵抗の考慮事項
3線式測定では、2番目の励起電流がリード抵抗をアクティブに補正します。したがって、温度に伴うリード抵抗値の変化も測定に影響しなくなります。
ただし、リード抵抗補償の精度は、各リード線の抵抗値が等しいこと(具体的には、RL1 = RL2)に依存します。RL3の端子間での降下電圧は、RTD素子の端子間で測定された電圧に影響を与えません。したがって、RL3は、この回路ノートで示す回路の測定に誤差を生じさせることはありません。
繰り返しになりますが、50フィートの長さの24 AWG銅線では、抵抗値は1.3Ωです。補償電流と励起電流が完全にマッチングしていると仮定した場合、マッチングに10%の誤差が生じると、RTD測定に0.13 Ωの誤差が生じます。RTDの温度係数は約0.385Ω/°Cです。したがって、リード抵抗のミスマッチによる0.13Ωの測定誤差は、リード抵抗のミスマッチにより約(0.13/0.385) = 0.337°Cの誤差に変換されます。したがって、3線式測定を正確に行うためには、接続ケーブルのマッチング特性を正確に知る必要があります。
リード抵抗が完全にマッチングしている仮定すると、励起電流(IOUT0とIOUT1)のミスマッチは、合計リード抵抗に比例する誤差を生成します。例えば、励起電流に0.5%のミスマッチ(AD7124-4/AD7124-8仕様の代表値)があるとすると、RTD抵抗測定に0.5%の誤差を生じます。Pt100 RTD抵抗の公称温度係数は0.385Ω/°Cで、これは2.6°C/Ωの温度変化に相当します。抵抗測定に0.5%の誤差があると、RTD測定誤差は(0.005 × 2.6) = 0.013°C/Ωとなります。10Ωのリード抵抗(約400フィートの24AWG銅線)の場合、電流のミスマッチによる誤差は0.13°Cに過ぎません。
これまでの議論から、ほとんどの実用的なアプリケーションでは、励起電流の0.5%のミスマッチよりも、リード抵抗のミスマッチの方がはるかに大きな誤差を生じることがわかります。
図10の回路では、高精度リファレンス抵抗はハイ・サイドに配置されています。ハイ・サイドの構成は、単一のRTDを使用するシステムで正常に機能します。複数の3線式RTDを使用する場合は、リファレンス抵抗を1つで済ますため、高精度抵抗をロー・サイドに配置するのが良いでしょう。
電流源のミスマッチとミスマッチ・ドリフト
リファレンス抵抗をロー・サイドに配置した場合、励起電流のマッチングを良好にする必要があります(3線式RTD)。以下の2つの異なる方法により、電流のミスマッチによる誤差を最小限に抑えることができます。
- 励起電流のチョッピング
- 励起電流の測定によるキャリブレーション
励起電流のチョッピング
AD7124-4/AD7124-8のクロス・ポイント・マルチプレクサにより、チョッピング構成を簡単に実装できます。図17は、高精度5.11k&Omegaのリファレンス抵抗をPt100 RTDのロー・サイドに接続した3線式RTD構成を示しています。この構成では、使用する電流源とゲインを再検討する必要があります。IOUT0とIOUT1はともに250μAに設定されています。この電流を選択することで、回路が電流源の出力コンプライアンスに準拠し、高精度抵抗の端子間に生成されるリファレンス電圧にも適合します。ADCのフル・レンジを利用するために、PGAのゲインを32に設定しています。リファレンス・バッファがイネーブルでヘッドルーム(100mV)を必要とするため、リファレンス抵抗のロー・サイドに抵抗が必要です。
電流をチョップするために、図17に示すように、IOUT0をAIN0に接続し、IOUT1をAIN1に接続している時のRTD電圧を測定します。次に、電流が入れ替わった時、つまりIOUT1をAIN0に接続し、IOUT0をAIN1に接続した時に、RTDの端子間電圧について2回目の測定を行います。これら2つの電圧測定値の平均を、RTD抵抗値の計算全体に使用し、その後、式2~式7を用いて温度を計算します。チョッピング法は、励起電流のミスマッチやミスマッチ・ドリフトの影響を大幅に低減します。ただし、2回の測定が必要なため、スループット・レートに影響します。
励起電流チョッピング法を使用した測定データを収集し、それに対応するPt100温度誤差を記録しました(図18を参照)。測定した全てのRTD温度について、AD7124-4/AD7124-8の異なる周囲温度に対して、温度誤差はPt100 RTDの誤差範囲内にあります。これらの結果は、励起電流をチョッピングした場合でも、ハイ・サイド高精度リファレンス抵抗構成で収集したデータと同等の結果が得られることを示しています。
励起電流測定によるキャリブレーション
励起電流を測定して3線式システムのキャリブレーションを行う構成を図19に示します。この構成では、高精度リファレンス抵抗をRTDのロー・サイドに接続します。この構成は電流をチョッピングする構成と似ており、電流は両方とも250μAに設定し、PGAゲインは32に設定します。しかし、主な違いは、追加の差動入力チャンネルが必要なことです。追加入力チャンネルにより、2つの励起電流の測定が可能になります。この測定は、各励起電流を個別にイネーブルした時の、内部リファレンスに対する高精度リファレンス抵抗端子間の電圧降下を測定することによって行います。測定された電圧は、高精度リファレンス抵抗の値に基づいて電流に変換され、その後、電流比率の計算に使用された後、ミスマッチの補正に使用されます。
図20は、RTD測定におけるキャリブレーション後の温度誤差を示しています。この結果は、RTD誤差がRTDの期待誤差範囲内にあり、測定誤差がRTD自体の誤差プロファイルに近いことを示しています。正確な結果を得るためには、電流のキャリブレーションを定期的に行う必要があります。
複数の3線式RTD構成
AD7124-4/AD7124-8は、複数の3線式RTD用の測定システムとして使用できます。ADCをマルチチャンネルに設定している場合、ADCはチャンネルごとに1回の変換を実行しながら、自動的に有効なチャンネルを順次切り替えます。チャンネルが変わる際、変換を生成するためにフィルタの完全なセトリング時間が必要となるため、全体のスループット・レートに影響を与えます。したがって、複数のセンサー間でマルチプレクスを行う場合、デジタル・フィルタの遅延を考慮することも重要です。励起電流はシーケンサの外部にあるため、励起電流のオン/オフやこれらの電流を特定のチャンネルに与えるには、ユーザがデバイスに書き込む必要があります。ただし、ターンオン時間はADCに接続された外付けのRC値に依存します。したがって、実際のターンオンまたはターンオフ時間はアナログ・デバイセズの管理外となるため、測定を行う際にはこの点にも考慮する必要があります。
単一の3線式RTDを構成するには、3線式RTD構成のセクションを参照してください。
AD7124-4は2個の3線RTDを接続可能で、AD7124-8は最大4個の3線RTDを接続可能です。
複数の3線式RTDを使用する場合は、リファレンス抵抗が1つで済むため、高精度抵抗をロー・サイドに配置するのが良いでしょう。それぞれの3線式RTDは、最低でもAD7124-4/AD7124-8の4つのピン、つまり、2つの励起電流用ピンと2つのアナログ入力用ピンを必要とします。したがって、RTD電圧を測定するために必要な手順は次のとおりです。
- 外部リファレンスをREFIN1+とREFIN1−にセットします。
- 入力にRTDが接続されているアナログ入力チャンネルをイネーブルします。
例として、4つの3線式RTDをAD7124-8に接続した場合を図21に示します。1つの3線式RTDをAIN2およびAIN3アナログ入力ピンに接続し(チャンネル0構成)、励起電流をAIN0およびAIN1から供給します。同様に、2つめの3線式RTDをAIN4およびAIN5アナログ入力ピンに接続し(チャンネル1構成)、励起電流をAIN6とAIN7から供給します。他の3線式RTDも同様に接続します。全てのRTD構成の詳細を表4に示します。
センサー | チャンネル | IOUT0 | IOUT1 | AIN+ | AIN− |
RTD1 RTD2 RTD3 RTD4 |
0 1 2 3 |
AIN0 AIN6 AIN10 AIN14 |
AIN1 AIN7 AIN11 AIN15 |
AIN2 AIN4 AIN8 AIN12 |
AIN3 AIN5 AIN9 AIN13 |
温度測定は、以下の手順で各RTDに対して順に行うことができます。
- 測定するRTDへのIOUT0とIOUT1の電流をイネーブルします。
- IOUT0をAIN0に、IOUT1をAIN1に導通します。電圧をチャンネル0(AIN2とAIN3)で測定します。したがって、チャンネル0をイネーブルする必要があります。他の全てのチャンネルは、この測定ではディセーブルします。
- チャンネル0をディセーブルに、チャンネル1をイネーブルにして、IOUT0とIOUT1の電流をAIN6とAIN7に導通します。電圧をチャンネル1(AIN4とAIN5)で測定します。EVAL-AD7124-4SDZ/EVAL-AD7124-8SDZには、AIN4とAIN5にオンボードのサーミスタが接続されているので注意してください。AIN4とAIN5を使用する場合は、このサーミスタ(R28)を取り外します。
- 全てのRTDを測定するまで、この手順を繰り返します。
4線式RTD構成
4線式RTD構成は、最も簡単で最も正確な構成です。この構成における唯一の複雑さは、他の2つの構成と比較して、PCB面積の大部分を占める4ピン・コネクタのサイズです。4線式RTD構成を実装するために、AD7124-4/AD7124-8の3つのアナログ・ピン、AIN0、AIN2、AIN3を使用します。AIN2とAIN3は完全差動入力チャンネルとして構成し、RTD端子間電圧の検出に使用されます。使用されるリファレンス入力は、REFIN+とREFIN1−です。ロー・サイドにリファレンス抵抗を使用するため、リファレンス・ヘッドルーム抵抗が必要です。
4線式RTD構成の場合、励磁電流源が1つ必要です。RTD、リファレンス抵抗、ヘッドルーム抵抗を励起するのに使用される励起電流源は、AVDDから生成され、AIN0 (IOUT0)に送られます。同じ電流が、リファレンス電圧を生成するRTDと高精度リファレンス抵抗を流れるため、レシオメトリック測定が確保されます。
アナログ・ピンとその構成の詳細を図22に示します。リファレンス抵抗とヘッドルーム抵抗の選択は、励磁、ゲイン、デジタル・フィルタ処理も含めて、RTD設計の考慮事項のセクションに基づきます。
AD7124-4/AD7124-8の4線式RTD測定の構成は次のとおりです。
- 差動入力:AIN+ = AIN2およびAIN− = AIN3
- 励起電流:IOUT0 = AIN0 = 500μA
- ゲイン= 16
- 5.11kΩの高精度リファレンス抵抗
- 250Ωのヘッドルーム抵抗
- デジタル・フィルタ処理(sinc4、50SPS、およびポスト・フィルタ、25SPS)
図22に示すRTD回路を使用し、異なるデジタル・フィルタ構成と消費電力モード構成のAD7124-4/AD7124-8を用いて、データを収集しました。具体的には、デジタル・フィルタ処理とアナログ・フィルタ処理のセクションで述べたように、通常消費電力モードではsinc4フィルタを使用し、低消費電力モードではポスト・フィルタを使用しています。
この4線式システムの代表的なノイズ・フリー・コード分解能は、通常消費電力モードおよびsinc4フィルタ選択時で17.9ビット、低消費電力モードおよびポスト・フィルタ選択時で16.8ビットです。これらは、それぞれの温度測定において、約0.0033°Cと0.0070°Cの誤差変動に相当します。4線式RTDを接続した場合のノイズ分布を図23と図24に示します。
2点キャリブレーションと線形化により、4線式システムの全体的な精度は、−50°C~+200°Cの温度範囲において±1°Cより優れています。各温度について、AD7124-4/AD7124-8を使って、RTDの端子間電圧を前述の要領で測定しました。RTD伝達関数のセクションで説明したように、この電圧は抵抗に変換され、線形化されて、温度に変換されます。
以上のデータから得られた誤差(設定温度から測定温度を差し引いた値)を図25と図26に示します。それぞれのRTD温度設定において、AD7124-4/AD7124-8は25°C.に保たれ、誤差はPt100 Class Bの誤差ウィンドウ内に十分収まっています。図25と図26は、異なるAD7124-4/AD7124-8の温度設定間のRTD誤差の偏差も示しています。AD7124-4/AD7124-8のそれぞれの温度設定において、内部ゼロスケール・キャリブレーションとフルスケール・キャリブレーションが行われています。図25と図26に示すように、全体の誤差は許容誤差バジェット内に十分収まっています。
図27と図28は、25°Cで内部ゼロ・スケール・キャリブレーションとフル・スケールキャリブレーションを1回実施した場合のRTD温度測定値の誤差を示しています。図27と図28は、25°Cでの1回のキャリブレーションと、AD7124-4/AD7124-8の各個別温度でのキャリブレーションが同様の性能になることを示しています。
4線式RTDにおけるリード抵抗の考慮事項
リード線の抵抗誤差を完全に補正するには、4線式RTDの構成を推奨します。ここでは、2本の追加ワイヤをRTDの両端に接続し、1つのペアが電流を供給し、もう1つのペアが電圧測定を実行するため、リード線の抵抗は測定に影響を与えません。したがって、4線式RTDでの測定が最も正確です。
複数の2線式/4線式RTD構成
AD7124-4/AD7124-8は、複数の2線式/4線式RTDの測定システムとして使用できます。ADCをマルチチャンネルに設定している場合、ADCはチャンネルごとに1回の変換を実行しながら、自動的に有効なチャンネルを順次切り替えます。チャンネルが変わる際、変換を生成するためにフィルタの完全なセトリング時間が必要となるため、全体のスループット・レートに影響を与えます。したがって、複数のセンサー間でマルチプレクスを行う場合、デジタル・フィルタの遅延を考慮することも重要です。励起電流はシーケンサの外部にあるため、励起電流のオン/オフやこれらの電流を特定のチャンネルに与えるには、ユーザがデバイスに書き込む必要があります。ただし、ターンオン時間はADCに接続された外付けのRC値に依存します。したがって、実際のターンオンまたはターンオフ時間はアナログ・デバイセズの管理外となるため、測定を行う際にはこの点にも考慮する必要があります。
単一の2線式または4線式を構成するには、2線式RTD構成のセクションまたは4線式RTD構成のセクションを参照してください。
AD7124-4は2つの2線式/4線式RTDを接続できるのに対して、AD7124-8は最大5つの2線式/4線式RTDを接続できます。同じリファレンス入力を全てのRTDに使用することができ、1つの電流源で全てのRTDを励起できます。RTDの温度測定が必要になった時に、電流を各RTDのトップ・サイドに順に導通していきます。AD7124-4/AD7124-8のクロス・マルチプレクサにより、複数のチャンネルを個別に設定でき、各チャンネルを異なるセットアップ用に設定できます。
RTD電圧を測定するために必要な手順は次のとおりです
- 外部リファレンスをREFIN1+とREFIN1−にセットします。
- 測定するRTDへのIOUT0電流をイネーブルします。
- 入力にRTDが接続されているアナログ入力チャンネルをイネーブルします。
例として、5つの2線式/4線式RTDをAD7124-8に接続した場合を図29と図30に示します。1つの2線式/4線式RTDをAIN2およびAIN3アナログ入力ピンに接続し(チャンネル0構成)、励起電流をAIN0から供給します。同様に、2つめの2線式/4線式RTDをAIN4およびAIN5アナログ入力ピンに接続し(チャンネル1構成)、励起電流をAIN1から供給します。他のRTDも同様に接続します。全てのRTD構成の詳細を表5に示します。
センサー | チャンネル | IOUT0 | AIN+ | AIN- |
RTD1 RTD2 RTD3 RTD4 RTD5 |
0 1 2 3 4 |
AIN0 AIN1 AIN8 AIN11 AIN14 |
AIN2 AIN4 AIN6 AIN9 AIN12 |
AIN3 AIN5 AIN7 AIN10 AIN13 |
温度測定は、以下の手順で各RTDに対して順に行います。
- IOUT0をAIN0に導通します。電圧をチャンネル0(AIN2、AIN3)で測定します。したがって、チャンネル0をイネーブルする必要があります。他の全てのチャンネルは、この測定ではディセーブルします。
- チャンネル0をディセーブルに、チャンネル1をイネーブルにして、IOUT0電流をAIN1に導通します。電圧をチャンネル1(AIN4とAIN5)で測定します。EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZには、AIN4とAIN5の間にオンボードのサーミスタが搭載されています。AIN4とAIN5を使用する場合は、このサーミスタ(R28)を取り外します。
- 全てのRTDを測定するまで、この手順を繰り返します。
バリエーション回路
複数のRTDを使用する場合は、リファレンス抵抗が1つで済むため、高精度抵抗をロー・サイドに配置するのが良いでしょう。0°Cで±0.1°C未満という高い精度を持つ高グレードのRTDクラスを使用することで、回路の性能を向上させることができます。PT1000センサーの場合、励起電流が低くなるため、このデバイスは低消費電力アプリケーションに適しています。
単一の2線式または4線式RTDを使用する場合は、高精度抵抗をハイ・サイドに配置することもできます。性能は、リファレンス抵抗をロー・サイドに配置した場合と同じです。
回路の評価とテスト
必要な機器
2線式、3線式、または4線式のRTD測定システムには、以下の機器が必要です。
- EVAL–AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZ評価用ボード
- EVAL–SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1Zシステム・デモンストレーション・プラットフォーム(SDP)
- AD7124_EVAL+ Software
- USB給電の電源
- クラスB、Pt100、2線式、3線式、または4線式のRTD
- USB2.0ポートを備えたWindows®搭載PC
ソフトウェアのインストール
AD7124-4/AD7124-8およびEVAL-SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1Zの完全なソフトウェアユーザ・ガイドは、EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZユーザ・ガイドおよびSDPユーザー・ガイドに記載されています。
ソフトウェアは、ハードウェアとのインターフェースに必要です。このソフトウェアは、ftp://ftp.analog.com/pub/evalcd/AD7124からダウンロードしてください。セットアップ・ファイルが自動的に実行しない場合は、setup.exeファイルをダブルクリックします。EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZとEVAL-SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1ZをPCのUSBポートに接続する前に評価用ソフトウェアをインストールして、PCに接続した時に評価用システムが正しく認識されるようにします。
評価用ソフトウェアのインストールが完了したら、EVAL-SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1ZをEVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZに接続し、EVAL-SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1Zを付属のケーブルでPCのUSBポートに接続します。評価用システムが検出されたら、表示されるダイアログボックスに従ってインストールを完了させます。
セットアップとテスト
EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZとEVAL-SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1Zの両方を接続するまで、ハードウェアに電源を接続しないでください。2線式、3線式、または4線式RTD構成のためのテスト・セットアップの機能ブロック図を図31に示します。
回路のテストにはEVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZが必要です。また、正しく動作させるために以下のセンサーと抵抗が必要です。
- 2線式、3線式、または4線式のPt100 RTD、クラスB
- 5.11kΩの高精度リファレンス抵抗
- 250Ωまたは100Ωのバッファ・ヘッドルーム用抵抗
ハードウェアを設定するには、以下の手順を実行します。
- EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZの全てのリンクを、EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZのユーザ・ガイドに記載されているデフォルトのボード位置に設定します。
- 7Vまたは9Vの電源をJ5に接続して、EVAL-AD7124-4SDZまたはEVAL-AD7124-8SDZに電源を供給します。
- 使用するRTD構成(2線式、3線式、4線式)に応じて、RTD、高精度リファレンス抵抗、バッファ・ヘッドルーム抵抗を接続します。CN-0383 Hardware and Software User GuideのWikiページを参照してください。
- EVAL-SDP-CK1ZまたはEVAL-SDP-CB1ZをUSBケーブルでPCに接続します。
AD7124_Eval+ Softwareを実行します。この評価用ソフトウェアはAD7124-4とAD7124-8の両方に使用できます。ソフトウェアを実行する際、PCに接続されている評価用ボードを選択します。AD7124-8の場合、ドロップダウン・メニューからEVAL-AD7124-8SDZを選択します(図32を参照)。
評価用ボードを選択すると、図33のウィンドウが表示されます。AD7124-4/AD7124-8を2線式、3線式、または4線式のRTD測定用に設定するには、2-WIRE RTD、3-WIRE RTD、または4-WIRE RTD Demo Modesボタンをクリックします(図33を参照)。
Demo Modesボタンをクリックすると、それぞれのRTD構成用にADCソフトウェアが設定されます。AD7124-4/AD7124-8をそれぞれのRTD測定用に設定する前に、もう1つのステップが必要です(AD7124-4/AD7124-8の内部フルスケール・キャリブレーションとゼロスケール・キャリブレーション)。このキャリブレーションはRegistersタブで行うことができます(図34を参照)。
ADCレジスタ・マップの設定、キャリブレーション、測定手順の詳細については、CN-0383 Hardware and Software User GuideのWikiページを参照してください。