システム・レベルのアプローチが可能にするプロセス制御用の高精度、高密度の絶縁型アナログ出力モジュールの設計

はじめに

プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)モジュールや分散制御システム(DCS)モジュールなど、プロセス制御アプリケーション用のチャンネル間絶縁型アナログ出力モジュールを設計する場合、通常、消費電力とチャンネル密度がトレードオフとなります。モジュール・サイズが小さくなってチャンネル密度が大きくなると、モジュールの最大消費電力バジェットに対応するために、チャンネルあたりの消費電力を小さくする必要があります。チャンネル密度が高くなるということは、各チャンネルに使用できるPCB面積が小さくなることも意味します。

システム・レベルのソリューション

AD5758およびADP1031を使用して消費電力とスペースに関する課題の両方を解決し、高い集積度を実現するシステム・ソリューションを図1に示します。このデザイン・ノートでは、全チャンネルの合計消費電力が2W未満の8チャンネル・モジュールを作成する方法を説明します。

図1 AD5758およびADP1031使用の8チャンネル基板

図1 AD5758およびADP1031使用の8チャンネル基板

ADP1031は絶縁とサイズに関わる課題を解決して電源とデータについて300Vの基本絶縁を提供し、AD5758は低消費電力で高精度の、設定変更可能な電流または電圧出力チャンネルを実現します。

集積され絶縁された電源およびデータ

ADP1031では、アナログ・デバイセズが特許取得済みのi Coupler®技術を使用しており、絶縁された3つの電源レールとSPIおよびGPIOデータ絶縁機能が7mm×9mmサイズのパッケージに組み込まれています。この高い集積度により、チャンネル絶縁に必要なすべての条件をPCB上の小さい面積にまとめることが可能となるので、PCB面積上の課題を解決する助けとなります。

図2 ADP1031のブロック図板

図2 ADP1031のブロック図板

低消費電力

AD5758は、電流出力に設定した場合に、動作条件が最も厳しい場合でもモジュール内の消費電力を最小限に抑えるために、ダイナミック消費電力制御(DPC)と呼ばれる手法を実装しています。DPCは出力電圧を継続的に追跡し、出力ドライバに供給する電力を出力負荷電流の維持に必要な最小限の値まで減らすことによって行われますが、これにはプログラマブルで高効率の内蔵降圧コンバータが使われます。電流出力モードでDPCを有効にすると、AD5758は自動的にDPC電圧を調整して、あらゆる負荷条件下で消費電力を最小限に抑えます。

図3 AD5758のブロック図

図3 AD5758のブロック図

ADP1031の設計は、合計チャンネル電力を最小限に抑えられるよう、最も厳しい負荷条件下でもAD5758に効率的な絶縁電源を提供できるように最適化されています。ADP1031に内蔵された高速SPIチャンネルも、アクティブ状態で消費電力を減らし、非アクティブ状態では低消費電力状態となるように設計されています。

絶縁型フライバック・トランス

ADP1031は帰還チャンネルを内蔵しており、フライバック・トランスの構成に必要なものは単一の1次巻線と2次巻線だけなので、設計が容易です。これは、トランスのフォーム・ファクタを小型化できる一方で、効率と絶縁に関する条件を満たせることを意味します。ADP1031用に推奨されるトランスのサイズは、8.6mm×8.26mm、高さは9.7mm未満です。推奨トランスのリストはADP1031のデータシートに記載されています。

ソリューション・サイズ

集積度が高いので、それぞれの絶縁チャンネルは両面PCB上の400mm2に満たない面積に取り付けることができます。これには、関係するすべての受動部品と絶縁間隔が含まれます。

診断機能とHART接続機能を備えた柔軟な高精度チャンネル

AD5758には、誤動作や不具合を迅速に検出する先進の診断機能が組み込まれています。

エラー・フラグは2つのレジスタに保存されます。1つはオンチップ・デジタル診断機能用のデジタル診断結果レジスタ、もう1つはオンチップ・アナログ診断機能用のアナログ診断結果レジスタです。主な診断機能の一部を以下に挙げます。

  • ウォッチドッグ・タイマー・エラー
  • SPI CRCエラー
  • 無効SPIアクセス
  • SCLKカウント・エラー
  • キャリブレーション・メモリCRCエラー
  • 出力過電圧エラー
  • 電圧出力短絡エラー
  • 電流出力オープン・サーキット・エラー
  • 過熱エラー
  • 内部電源エラー
  • DPCエラー

診断機能を網羅したリストについては、AD5758のデータシートを参照してください。

AD5758には、内部電源およびグラウンド、内部ダイ温度モニタ、内部リファレンスなど、ユーザ選択可能なノードに関する診断情報を提供するための12ビットADCも組み込まれています。

AD5758にはCHARTピンがあり、ここにHART®信号を容量的に結合することができます。HART接続を有効にすると、VIOUTピンにHART信号が出力されます。この機能は、VIOUTを電流出力用に設定した場合にのみ使用できます。

EMC性能

AD5758のピンにはすべてライン・プロテクタが組み込まれており、ネジ端子への接続も可能です(VIOUT、+VSENSE、−VSENSE)。ライン・プロテクタは、電圧を内部的にVDPC+とAVSSの2つのレールに制限することにより、±38Vまでの正と負の電圧からこれらのピンを保護します。これらの制限値を外れる電圧がVIOUTピン上で検出された場合は、エラー・フラグがセットされます。このフラグはSPIポートから読み出すことができます。

AD5758およびADP1031システムでは広範なEMCテストを実施済みです。テスト結果の概要については、表1と表2を参照してください。

表1 エミッション性能の概要
テスト 基本規格 周波数範囲(MHz) 限界値 測定最小マージン(dBμV/m) 結果
放射エミッション CISPR 11クラスB 30~1000 30dBμV/m(30MHz~230MHz)、37dBμV/m(230MHz~1000MHz) 9.25 合格
表2 イミュニティ性能試験の概要
テスト 基本規格 テスト・レベル 性能基準 結果
伝導耐性 IEC 61000-4-6 10 V/m A 合格
放射耐性 IEC 61000-4-3 10 V/m A 合格
ESD IEC 61000-4-2 接触放電時:±6kV B 合格
ESD IEC 61000-4-2 空気放電時:±12kV B 合格
ESD IEC 61000-4-2 カップリング放電時:±30kV B 合格
EFT IEC 61000-4-4 ±4 kV B 合格
サージ IEC 61000-4-5 ±4 kV B 合格

システム・アプリケーション構成図

図4 システム接続図

図4 システム接続図

図5 各種負荷における8チャンネル・モジュールの消費電力と電源電圧の関係

図5 各種負荷における8チャンネル・モジュールの消費電力と電源電圧の関係

まとめ

AD5758とADP1031使用のシステムレベル・ソリューションを使用すれば、信頼性の高いコンパクトな8チャンネルのチャンネル間絶縁型アナログ出力モジュールを実装することができます。このモジュールは、8チャンネルすべてが最も厳しい消費電力条件下で動作した場合でも、2Wという業界最良の消費電力性能を実現します。

著者

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Donal O’Sullivan

アナログ・デバイセズの産業オートメーション技術グループのシステム・アプリケーション・エンジニア。アイルランドのリメリックに勤務。専門はプロセス制御アプリケーション。