SEPIC/昇圧/反転/フライバック対応のコントローラで、高インピーダンスの電圧源や長い電源ラインの問題を解決
はじめに
アナログ・デバイセズの「LT8710」は、SEPIC(Single EndedPrimary Inductor Converter)、昇圧、反転、フライバックといった構成をサポートする汎用のDC/DCコントローラICです。車載分野や産業分野のシステムで広く使われています。このICは、インピーダンスの高い電源を使用するアプリケーションや、入力電流を制限しなければならないアプリケーションで役立つ機能を備えていることを特徴とします。例えば、工場や倉庫で長い電源ラインが使われている場合には、入力電圧源の抵抗成分がかなり大きくなり、DC/DCコンバータから負荷までの電圧降下が大きくなります。その値は、装置を移動させると変動することがあり、供給電圧のレギュレーションがより困難になります。また、太陽電池パネルには、入力インピーダンスが高く、出力電力にピークが存在し、電圧範囲は狭いという特徴があります。本稿では、リチウムイオン・バッテリ用のチャージャ回路を例にとり、LT8710の活用法を紹介します。その方法を採用することで、インピーダンスが高く、電流量に制限のある入力電圧源の問題を解決することができます。
回路の構成と機能
図1に示したのが、本稿で紹介するリチウムイオン・バッテリ用のチャージャ回路です。バッテリ電圧としては、可搬型の電動工具でよく使われる20Vを想定しています。電圧源VSRCは24Vで、高インピーダンスの電源ライン、抵抗RLNを介して、チャージャのVIN(LT8710EFEの入力端子)に印加されます。電圧源については、開放電圧が22V~24V、最適動作電圧が18V~19Vの一般的な12Vの太陽電池パネルを思い浮かべていただけばよいでしょう。チャージャの制御にはLT8710を使用し、同期整流方式と非結合のSEPICトポロジを適用します。伝動機構は、ディスクリートのインダクタL1とL2、トランジスタQ1とQ2、インダクタ間のデカップリング・コンデンサ、入力/出力フィルタで構成されます。抵抗RSCによって充電電流ICHRGを2Aに設定し、抵抗RVFLによってフロート電圧を21Vに設定します。また、抵抗RIN1、RIN2から成る分圧器によって、入力電圧のレギュレーションの対象となるレベルを18.6Vに設定しています。
図2は、図1のチャージャの機能が時間軸で見てどのように働くのかを示したものです。VSRCとVINが19V以上であるとき、LT8710で構成したSEPICは、プログラムされた2AのICHRGによって、リチウムイオン・バッテリを充電します。時間の経過に伴い、VSRCが20V以下に低下していき、VINの値もそれに応じて低下していきます。VINが入力電圧のレギュレーションの対象となるレベルに達すると、LT8710はVSRCが低下し続けても、チャージ電流ICHRGの量を制限して、VINの値を維持します。図2の横軸は時間(正規化済み)の経過を表していますが、太陽電池パネルでは単位は時間になり、複雑な産業用システムでは単位は分または秒になります。
LT8710の入力電流に基づいて、コンバータの負荷を制御する方法はもう1つあります。それは、IMONピンに接続されたコンデンサの電圧をモニタリングする方法です。最大電流によって約50mVの電圧が得られるように、抵抗RSCを選択します。それに応じた電圧が、IMONに接続したコンデンサの両端に現れます。例えば、電流が流れておらず、ISPピンとISNピンの間の電圧がゼロであるなら、IMONに現れる電圧は約0.616Vになります。ISPとISNの間の電圧が50mVであれば、IMONの電圧は1.213Vになります。この機能は、他の多くの機能と同様に、LT8710の評価用ボード「DC2067A」や、それに対応するLTspice®のモデルを使って評価することができます。
まとめ
LT8710は、同期整流方式のSEPICや、昇圧、反転などのトポロジをサポートするDC/DCコントローラICです。汎用性と柔軟性に優れることを1つの特徴とします。また、入力電圧とスイッチング周波数の対応範囲が広いことも特徴の1つです。更に、入力電圧と出力電流のレギュレーションを入力電流または入力電圧に基づいて実施できるという高度な機能を備えています。これらの特徴から、LT8710は、産業用機器や太陽電池パネル向けのシステム、電流に関して制約のあるその他のアプリケーションに対する最適な選択肢となります