信号コンディショナMAX1452/MAX1455を電源の制約に対応させる

要約

MAX1452/MAX1455は、システムレベルの製造時に使用するディジタルモードと通常動作に使用するアナログモードで動作可能な、高精度、低コストの信号コンディショナです。アプリケーション回路において、VDD端子への給電に使用する電源の駆動能力によっては、(a)アナログモードで起動すべきデバイスのディジタルモードでの起動、(b)過大な出力ノイズ、および(c) VDDFの電圧不足によるEEPROM動作の信頼性低下、などの可能性があります。このアプリケーションノートでは、アプリケーション回路に単一の部品を追加することでこれらの問題に対処し、製造歩留まりと製品の信頼性の両方を改善する方法を示します。

解説

MAX1452/MAX1455は、システムレベルの製造時に使用するディジタルモードと、通常動作に使用するアナログモードという2つのモードで動作可能な、高精度、低コストの信号コンディショナです。MAX1452/MAX1455は、起動時および電圧低下発生後にチップ上のディジタルロジックとステートマシンが適切な状態に初期化されることを保証するための、パワーオンリセット(POR)回路を内蔵しています。このPORは電源電圧の検出を行い、電源電圧が必要な動作レベルに達するまでロジックを初期化状態に保持します。MAX1452/MAX1455は、(1)内部のロジックおよびアナログ回路への給電を行うVDDと、(2)チップに搭載されたEEPROMメモリ回路への給電を行うVDDFの2つの電源入力で動作します。システムレベルで、VDDとVDDFは直接または抵抗を通して相互に接続されます(後述)。

標準動作回路では、VDDF端子上にRC回路が存在します(VDD-VDDF間のRと、VDDF-GND間のCで構成)。このRCフィルタが必要なのは、コストとスペースの制約から通常は駆動能力の限られたVDD電源を選択することになり、EEPROM動作中にVDDのレベルを維持することができないためです。この限られた駆動能力の結果として、製造や動作の際に潜在的な問題が発生する可能性があります。それらの問題の1つは、誤ったモードでの起動です。この問題が発生すると、出力がアナログモードで起動せず、ディジタルモードで起動します。これは一般に、VDDFがVDDより大幅に遅れることによって、フラッシュメモリ内の制御ロケーション読出しの信頼性が失われるために発生します。第2の問題はVDDのリップルに起因する出力ノイズであり、信号に結合して出力に現れる可能性があります。最後に、書込み動作の後でEEPROMセル電荷注入量が不足する可能性があります。適切な電流能力を持つVDDが選択されているアプリケーションでは、これらの問題は発生しません。

背景

MAX1452/MAX1455は、較正用の係数とデバイス構成情報を格納するためのEEPROMを内蔵しています。実行されるEEPROMの動作によって、VDDF電源から流れる電流は7mA~25mAになります。動作中のEEPROMには、読取り、書込み、および消去の3つの動作モードがあります。書込みと消去の2つの動作は、モジュールの製造時に(ディジタルモードでの)較正と試験のために使用されます。製造後はデバイスがロックされ(アナログモードに切り替えられ)、読取り動作だけが実行されます。重要な点として、書込み動作と消去動作のための大電流レベルは製造時にのみ発生するものであり、アプリケーション回路の設計に当たってこれらを考慮する必要はありません。

製造時のEEPROM動作では、較正と試験の際にVDDFから約25mAが流れる可能性があります。消去動作は、25mAを1µsにわたって使用し、その後16mAの電流を5msにわたって使用します。書込み動作は、25mAを1µsにわたって使用し、その後16mAの電流を80µsにわたって使用します。

通常動作時には、係数および構成レジスタのロードやリフレッシュのためにEEPROMの読取り動作が1msに10回行われます。1回の読取り動作では、1µsにわたって7mAの電流が流れ、その後の1µsは電流が流れません。その結果、短い間隔で連続する10個の読取り動作が1msごとに発生することになり、VDDFの実効平均電流は小さな値になります。

MAX1452/MAX1455を使用するアプリケーションでは、EEPROMの動作に必要な電流を供給するために、(特に4~20mAのアプリケーションの場合) VDD電源の大きさを適切に設定する必要があります。十分な電流ソース能力がないと、VDDFとVDDの電圧が最低保証動作電圧である4.5Vを下回る可能性があります。

MAX1452/MAX1455が通常動作モードのとき、内蔵EEPROMが読取り動作を実行する際にVDDF上で電圧リップルが発生することがあります。VDDが不十分である場合、これらの電圧リップルがVDDに結合して、望ましくない出力ノイズが生成される可能性があります。このチップはVDDとVDDFの電源端子が独立しているため、ユーザアプリケーションでVDDF電源端子に外付けのRCフィルタを取り入れて、望ましくないノイズ結合を低減することが可能です。しかし、RCフィルタの値を選択する際には数多くの点について検討が必要になります。Rの値は、EEPROM動作中におけるVDDへの電流スパイクを防止することができるよう十分に大きな値にする必要があります。同時に、起動時の問題を防止するため、初期起動中にVDDFがVDD電圧に僅差で追従することができるよう十分に小さな値にする必要があります。もちろん、Cの選択も同様に重要であり、RとCの値の理想的な組み合わせが存在します。しかし、この場合の理想的な値が、すべての問題にとって適切なものとは限りません。

VDDへの不十分な給電によって生じる問題に対処するためのダイオードの追加

望ましくない結果を招くことなしにVDDFのRCフィルタを利用して出力ノイズを改善するためには、RCフィルタのRと並列の形でVDDとVDDFの間にショットキダイオードを追加する方法があります(図1)。このショットキダイオードの順方向電圧は、VDDとGNDの間の寄生ダイオードの順方向電圧より小さくなければならず、また製品の最大動作温度で導通しないだけの十分な大きさがなければなりません。ショットキダイオードBAT54 (+25℃での順方向電圧300mV)のテストを行い、このアプリケーションに適することを確認しました。そうしたダイオードをVDDとVDDFの間に追加することで、次のような改善が実現します。

  • 起動時の問題の解決。このダイオードによって、VDDFが非常に僅差でVDDに追従することが可能になります。両者の差は、1ダイオード降下分(< 300mV)だけです。その結果、POR信号が発生されたときのVDDFの電圧が、EEPROM内の制御ロケーションを正しく読み取ることができる適正なレベルとなり、正しい動作モードで起動することになります。
  • 出力ノイズの低減。ダイオードの追加によって、大幅に大きなCの値(読取り動作での大電流使用時にVDDFのレベルを維持するためには最低でも0.47µFが必要)とRの値(一般的には1kΩ)を使用することが可能になります。より大きなRC値を使用しても、起動時の問題が発生することはありません。RCフィルタの時定数に関係なく、VDDとVDDFの差は常に1ダイオード降下分(< 300mV)だけになります。ダイオードがない場合は、読取り動作の際に、Cの値が大きすぎるとVDDFの立上りに大きな遅延が発生し、起動時の問題が発生する結果になります。また、Cの値が小さすぎるとVDDのスパイクが大きくなって出力に伝播し、望ましくない出力ノイズが発生します。
  • EEPROM書込み時におけるEEPROMセル電荷注入量の改善。この改善が得られるのは、VDDFのレベルが常に必要最小値である4.5V (VDD = 5V)より高い値に保たれるためです。

Figure 1. This typical MAX1452 application circuit also includes a Schottky diode to address VDD supply drive limitations.

図1. この標準的なMAX1452のアプリケーション回路も、ショットキダイオードを使用してVDD電源の駆動能力の制約に対処しています。