車載電源の性能を最大限に高め、放射を抑制するレイアウトのガイドライン
要約
高周波スイッチングレギュレータを使用した車載電源では、優れたPCBレイアウトによって、クリーンな出力を供給するとともに、電磁干渉(EMI)チャンバーでの放射問題対策を短縮することができます。このアプリケーションノートでは、性能を最大限に高め、放射を抑制するスイッチングレギュレータMAX16903/MAX16904のレイアウト方法について説明します。
同様の記事が2012年1月19日に「John Day's Automotive Electronics News」に掲載されました。
はじめに
MAX16903やMAX16904などの高周波スイッチングレギュレータを使用した車載電源では、優れたPCBレイアウトによって、クリーンな出力を供給するとともに、電磁干渉(EMI)チャンバーでの放射問題対策を短縮することができます。このアプリケーションノートでは、MAX16903とMAX16904を例として取り上げ、レイアウトの最適化が極めて有効な回路において、設計上非常に重要ないくつかの問題を概説します。
レイアウトの一般的ガイドライン
- 入力コンデンサ(C3)、インダクタ(L1)、出力コンデンサ(C2)のトレースループの面積を最小限に抑える。
- BIAS出力コンデンサ(C4)をピン13 (BIAS)とピン14 (GND)のできるだけ近くに配置し、ピンとコンデンサの間にはビアを設けない。これはICのアナログ電源であり、この接続にインダクタンスがあるとBIAS電源のノイズが増大し、ひいてはLX出力のジッタを増大させる場合がある。
- トレースは幅を広くするよりも短くする。
AC-DC電流パスの最適化
放射を抑制するには、MAX16903/MAX16904の受動部品のレイアウトが極めて重要です。電流のステップ変化があるパスはAC電流パスとみなされ、スイッチングサイクルのオン部分とオフ部分ともに電流が流れるパスを消去することによって視覚化可能です。オンおよびオフサイクルともに電流が流れるパスはDC電流パスとみなされます。
AC電流パス
同期DC-DCコンバータのMAX16903は、3つの受動部品(C2、C3、L1)がスイッチング電流パスに直接接続されています。これら3つの部品は、放射とデバイスの性能に最も大きな影響を与えます。図1と図2は、オンサイクルとオフサイクル中のスイッチング電流パスを示しています。図3はこれら2つの電流パスの差で、di/dtが最大になる場合を示しています。部品C3のレイアウトを最適化することが最優先で、その次に重要なのがL1とC2の最適化です。
図1. OUT2でのPMOSオン時の電流
図2. OUT2でのDMOSオン時の電流
図3. OUT2でのAC電流の差
ブーストAC電流パス
DC-DCコンバータのMAX16903/MAX16904では、LXピン(DMOSのソース)より5V高い電源電圧が必要なハイサイドDMOSデバイスを使用しています。この電圧を生み出すため、LXピンとBSTピンの間にブーストコンデンサを接続します(図4)。DMOSのオフサイクル中に、ブーストコンデンサ(C1)は5VのBIASレギュレータから充電されます。BIAS出力はエラーアンプの電源にも使用されます。そのため、BIASをできるだけ安定させ、エラーアンプ回路に悪影響を与える過剰なノイズを除去することが重要です。これを実現する最善の方法は、C4の配線とMAX16903/MAX16904との間でインダクタンスを最小限に抑えることです。したがって、C4をピン14 (GND)とピン13 (BIAS)のできるだけ近くに配置し、ビアを追加しないようにします。
図4. ブーストコンデンサのAC電流
スペクトラム拡散
優れたレイアウトを採用しても顧客が要求する放射テストをパスしない場合は、スペクトラム拡散クロックを有効にしたMAX16903/MAX16904を発注可能です。スペクトラム拡散対応のデバイスでは、標準のデバイスに比べてFM帯域のノイズを15dB低減することができます。スペクトラム拡散対応のデバイスの発注方法については、データシートを参照してください。
例:TSSOPパッケージを使用した2層PCBレイアウト
図5と図6は、上述のガイドラインに従った2層レイアウトの例を示しています。
図5. TSSOPパッケージを使用した2層PCBレイアウトの例(上層)
図6. TSSOPパッケージを使用した2層PCBレイアウトの例(下層)
例:TDFNパッケージを使用した2層PCBレイアウト
図7と図8は、上述のガイドラインに従った2層レイアウトの例を示しています。
図7. TDFNパッケージを使用した2層PCBレイアウトの例(上層)
図8. TDFNパッケージを使用した2層PCBレイアウトの例(下層)
主電源のフィルタリング
主電源は伝導性放射をモジュールから出る前に低減することができる最後のポイントであるため、主電源のフィルタリングも非常に重要です。MAX16903などの高周波スイッチングレギュレータでは、伝導性放射の問題はFM無線帯域(76MHz~108MHz)で発生するのが普通です。これらの放射を低減するには、この周波数範囲でハイインピーダンスとなるフェライトビーズや自己共振周波数が108MHzを超えるインダクタを追加します。
結論
スイッチングレギュレータのMAX16903では、重要な受動部品を正しくレイアウトすることで、ノイズと放射をその発生源において抑制することができます(図9)。これによって、プロジェクトの評価段階で貴重な時間と労力が節約されます。
表1. 部品リスト | ||
Designation | Qty | Description |
C1 | 1 | 0.1µF, 10V ±10% X7R 0402 ceramic capacitor |
C2 | 1 | 10µF, 10V ±10% X7R 1206 ceramic capacitor |
C3 | 1 | 4.7µF, 50V ±10% X7R 1210 ceramic capacitor |
C4 | 1 | 2.2µF, 10V ±10% X7R 0805 ceramic capacitor |
R1, R2 | 1 | 20kΩ ±1% 0402 resistors |
L1 | 1 | LPS3015-472MLB 4.7µH inductor |
U1 | 1 | MAX16903/MAX16904 Low-IQ DC-DC Converter |
図9. PCBレイアウトに使用した回路図