MAX16031/MAX16032システムモニタの外部温度センサキャリブレーション

要約

システムモニタのMAX16031/MAX16032は、リモート温度検出用の外部ダイオード接続トランジスタをサポートしています。ダイオード接続トランジスタは、温度に依存した特性を示しており、単純なプロセスを使用して測定することができます。これらの特性は、トランジスタのタイプに応じて少し異なるため、MAX16031/MAX16032が正確な温度読取りを生成するには、まず、キャリブレーションプロセスを行う必要があります。

EEPROM設定可能なシステムモニタのMAX16031/MAX16032は、複合システムの電圧、温度および電流を監視するために設計されています。これらのEEPROM設定可能なデバイスによって、動作範囲、温度/電圧/電流の上限/下限値、フォルト出力設定、および動作モードを極めてフレキシブルに選択することができ、これらの値をデバイス内に格納することができます。

MAX16031は、最大8つの電圧、3つの温度(1個の内部/2個の外部リモート温度ダイオード)、および1つの電流を監視します。MAX16032は、最大6つの電圧、および2つの温度(1個の内部/1個のリモート温度ダイオード)を監視します。これらの監視対象のパラメータはそれぞれ、ADCに多重化され、各レジスタに書き込まれ、SMBus™およびJTAGインタフェースから読み取ることができます。

外部温度センサ用のEEPROMにあるキャリブレーションパラメータは、アプリケーション回路で使用されるダイオードのタイプによって決まるため、お客様側で設定する必要があります。このアプリケーションノートでは、外部温度センサをキャリブレーションする手順を提供します。温度測定の一般的な2電流法を簡単に紹介した後、MAX16031/MAX16032で使用される特別な2電流手法を説明します。また、ダイオード接続2N3904トランジスタを例として使用する特別なキャリブレーション手順も提供します。

温度センサの概説

すべての半導体デバイスは温度依存性を示します。特に注目するところは、順バイアスPN接合のIV曲線です。以下のダイオード式はこの動きを表しています。

Equation 1

ここで、Tはケルビン(K)で測定した温度、nはダイオード理想係数、kはボルツマン定数(1.38e-23)、qは電子(1.6e-19)の電荷素量、VBEはベースエミッタ間電圧、ISは逆方向飽和電流、およびIはダイオード電流です。

温度を検出するための単純ながら高精度な方法は、2つの異なる電流をダイオードにフォーシングし、各電流のベースエミッタ間電圧の間の電圧差を取得する方法です。これは、ISへの依存性を取り消し、ベースエミッタ間電圧差と温度との関係を完全にリニアにします。次式は、これが2つの電流、IHとILの場合、どのようになるかを示しています。

Equation 2

ここで、ΔVBEは、両電流のベースエミッタ間電圧の差分、IHは高フォーシング電流、およびILは低フォーシング電流です。その他のパラメータは、前と同じままです。Tを解析して摂氏温度に変換すると、次が求められます。

Equation 3

この式は、温度が物理定数、ダイオード理想係数、および2つの検出電流で決定された比を持つΔVBEに正比例することを示しています。

MAX16031/MAX16032の温度検出機能

MAX16031/MAX16032は、前のセクションで検討した2電流法を使用して外部温度ダイオードの温度を測定します。ΔVBEをディジタルコードにスケーリングおよび変換した後、デバイスは-273.15度オフセットを表す固定コードを引き算します。結果の数値は、摂氏(℃)の温度で、分解能は0.5°です。

温度検出回路は、さまざまなダイオード理想係数を補償するキャリブレーションを必要とします。MAX16031/MAX16032には、各外部温度センサに必要な2つのキャリブレーション値、利得とオフセットがあります。

利得値は、r19h[7:2] (センサ1)およびr4Fh[5:0] (センサ2)に格納されており、IH電流を制御します(IL電流は6µAに固定)。表1は、各利得レジスタビットのビット重みを示しています。たとえば、値110000bは84µAのIHに対応します。

表1. 利得レジスタビット重み

r19h[7:2], r4Fh[5:0] Bit IH Value Added to 80µA (µA)
Logic '1' Logic '0'
0 +0.25 0.0
1 +0.25 0.0
2 +0.5 0.0
3 +1.0 0.0
4 0.0 +2.0
5 +4.0 0.0

オフセット値は、r1Bh[7:5] (センサ1)およびr4Dh[6:4] (センサ2)に格納されており、オフセット誤差を補償するために、温度変換結果に加算されます。表2は、可能なオフセット値を示しています。

表2. オフセットレジスタ値

r1Bh[7:5], r4Dh[6:4] Value Offset (°C)
100 +8
101 +6
110 +4
111 +2
000 0
001 -2
010 -4
011 -6

MAX16031の評価キット(EVキット)を使用する場合、ソフトウェアは、図1に示したTemperature Settings (温度設定)ダイアログから各キャリブレーションレジスタへの簡便なアクセスを提供します。Current and Temperature (電流と温度)タブ(図2)から、External Temperature 1 (外部温度1)またはExternal Temperature 2 (外部温度2)リンクをクリックし、各温度監視チャネルの設定ダイアログにアクセスします。

図1. Temperature Settings (温度設定)ダイアログ
図1. Temperature Settings (温度設定)ダイアログ

図2. Current and Temperature (電流と温度)タブ
図2. Current and Temperature (電流と温度)タブ

通常動作時はもちろん、キャリブレーション手順時も、内蔵のディジタル温度センサフィルタをイネーブルすると非常に有用になります。EVキットソフトウェアで、Miscellaneous (その他)タブにあるTemp sense filter time constant (温度検出フィルタ時定数)ドロップダウンリストから中心周波数を選択します。これは、表3に記述されたレジスタr5Bh[6:4]に対応しています。

表3. 温度センサディジタルフィルタ

r5Bh[6:4] Value Cutoff Frequency (Hz)
000 Filter Disabled
001 2.53
010 5.06
011 10.1
100 20.2
101 40.5
110 81
111 162

キャリブレーション手順

MAX16031/MAX16032の温度センサ回路をキャリブレーションするには、2つの異なる温度のデータを取得する必要があります。最良の結果を得るために、これらの温度の間隔が広く離れている必要があります。簡単にするために、1番目の温度を+25°Cに設定することができます。精度を高くするには、2番目の温度を室温より低くではなく、高くする必要があります。妥当な値は+85°Cです。最高精度を得るには、-40°Cと+85°Cでのデータを取得する必要があります。以下のMAX16031例では、+25°Cと+85°Cでのキャリブレーションデータを取得し、ダイオード接続設定(コレクタとベース間を短絡)にFairchild 2N3904トランジスタを使用しています。

最良の結果を得るために、キャリブレーション対象のセンサを温度制御された槽の非導電性液体に浸す必要があります。例では、Fluorinert™ FC-77を使用していますが、鉱油などの他の液体でも機能します。このような装置が利用できない場合、センサが大きな熱的質量を持つ金属物体に取り付けられている(これはキャリブレーション時の温度の安定性を高める)場合は、市販のオーブントースタでも十分です。温度を測定するために、センサに対して優れた熱的な結合を持つ高精度の熱電対を使用します。

キャリブレーションデータを収集するには、以下の手順を使用します。

  1. オフセットレジスタがゼロに設定されていることを確認します。
  2. 温度を低値(この例では+25°C)に設定し、安定するまでの十分な時間を取ります。
  3. 利得レジスタを80µAに設定します。
  4. MAX16031から返されたディジタル値を記録します。
  5. 可能な利得レジスタ値ごとに、手順4を繰り返します。
  6. 温度を高値(この例では+85°C)に設定し、安定するまでの十分な時間を取ります。
  7. 手順3、4、および5を繰り返します。
データが収集されると、いくつかの単純な計算が実行されます。MAX16031から収集された温度ごとに、誤差値を計算します。

TERR = TMAX16031 - TMEASURED Eq. 4

次に、1つの利得値の各誤差値間の差分を計算します。

Δ = TERR_85 - TERR_25 Eq. 5

表4は、キャリブレーションデータ例を示しています。Gain Reg Code (利得レジスタコード)とGain Value (µA) (利得値(µA)の列は、利得レジスタ設定を16進コードおよびその等価電流ソース値の両方で示しています。TMAX16031 (°C)列は、低温度(+25°C)および高温度(+85°C)での各利得設定のMAX16031温度変換結果レジスタから取得された読取りを示しています。TERR (°C)列は、MAX16031で記録された温度と実際の測定温度間の誤差(差分)をリストしています。Δ (°C)列は、高温度と低温度で記録された誤差値間の差分をリストしています。

表4. キャリブレーションデータ例

Gain Reg Code Gain Value (µA) TMAX16031 (°C) TERR (°C) Δ (°C)
+25 +85 +25 +85
0x10 80 17.5 75 -7.5 -10 -2.5
0x12 80.25 17.5 75.5 -7.5 -9.5 -2
0x14 80.5 17.5 76 -7.5 -9 -1.5
0x16 80.75 18 76.5 -7 -8.5 -1.5
0x18 81 18.5 76.5 -6.5 -8.5 -2
0x1A 81.25 18.5 77 -6.5 -8 -1.5
0x1C 81.5 19 77.5 -6 -7.5 -1.5
0x1E 81.75 19.5 78 -5.5 -7 -1.5
0x0 82 20 78.5 -5 -6.5 -1.5
0x2 82.25 20 79 -5 -6 -1
0x4 82.5 20.5 79 -4.5 -6 -1.5
0x6 82.75 21 79.5 -4 -5.5 -1.5
0x8 83 21 80 -4 -5 -1
0xA 83.25 21.5 80.5 -3.5 -4.5 -1
0xC 83.5 22 81 -3 -4 -1
0xE 83.75 22.5 81.5 -2.5 -3.5 -1
0x30 84 22.5 82 -2.5 -3 -0.5
0x32 84.25 23 82 -2 -3 -1
0x34 84.5 23 82.5 -2 -2.5 -0.5
0x36 84.75 23.5 83 -1.5 -2 -0.5
0x38 85 24 83.5 -1 -1.5 -0.5
0x3A 85.25 24.5 83.5 -0.5 -1.5 -1
0x3C 85.5 24.5 84 -0.5 -1 -0.5
0x3E 85.75 25 84.5 0 -0.5 -0.5
0x20 86 25.5 85 0.5 0 -0.5
0x22 86.25 25.5 85 0.5 0 -0.5
0x24 86.5 26 85.5 1 0.5 -0.5
0x26 86.75 26.5 86 1.5 1 -0.5
0x28 87 26.5 86.5 1.5 1.5 0
0x2A 87.25 27 87 2 2 0
0x2C 87.5 27.5 87 2.5 2 -0.5
0x2E 87.75 28 87.5 3 2.5 -0.5

次の作業は、利得とオフセットキャリブレーションパラメータを探すことです。Δ (°C)列を調べ、ゼロに最も近い値を持つセルを探します。この場合、87と87.25の利得設定の2行にゼロがあります。これは、ゼロのスロープに対応し、無視可能な利得誤差があることを意味します。次に、これらの行のTERR (°C)値を調べ、オフセットレジスタを使用して差し引くことができる誤差値を含む行を選択します。この例では、'001'のオフセットレジスタ値を取り消すことができるように、2のオフセット誤差を持つ行が選択されます。

これで、オフセットおよび利得レジスタに取得された値をアプリケーション回路に使用されるMAX16031モニタのEEPROM設定レジスタにロードすることができます。いつでも同じ値を使用することができ、十分な高精度が得られます。

精度を高めるために、基板試験時に各ユニットの利得パラメータを回路内でプログラムすることができます。高精度の熱電対をデバイス近くに配置し、温度を測定します。MAX16031の温度が測定対象温度にマッチングするまで、利得レジスタの内容を調整します。

著者

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Eric Schlaepfer