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AN-2562: DAC のダイナミック消費電力制御における5V レギュレータによる大きな過渡電流供給
回路の機能とその利点
図1 に示す回路は、D/Aコンバータ(DAC)による4mA~20mA出力回路用の独自の省電力ソリューションです。10Ω~1000Ωの一般的な抵抗性負荷に向けて十分なヘッドルームを得るためには、従来の4mA~20mA 出力ドライバ段では少なくとも20V(および追加のヘッドルーム)で動作させて、高値の抵抗性負荷を駆動するのに十分な電圧を得る必要がありました。逆に、値の小さい抵抗性負荷の場合は、固定値の高電圧電源では内部消費電力が著しく大きくなるため、DAC の精度に影響し、追加のヒート・シンクが必要になります。
クワッド16 ビットDAC であるAD5755 は、4 つの独立した高効率DC/DC コンバータを内蔵しており、4mA~20mA ドライバの実出力電圧を検出しそれに基づいて、動的に調整可能な昇圧電圧で4 つの出力段を駆動します。この昇圧回路は、どのような負荷抵抗に対しても、出力段で数ボルトのヘッドルームを維持します。これにより、10Ω 負荷に24mA の出力電流を流す場合であれば、最大内部消費電力が約1/4 に減少します。
内部DC/DC コンバータには外付けの5V 電源が必要で、DAC 出力がフルスケールでスルーイングする際には著しく大きい電流がこれに流れます。ADP2300 を用いた高効率の外付けDC/DC コンバータ回路が、15V による駆動でこの電圧を供給します。ADP2300 は最大800mA の大きな電流ステップに対して優れた過渡応答を示し、これによって昇圧コンバータの正常な動作が確保され、別の5V 電源の必要がなくなります。
回路全体は±15V 電源で動作するため、DAC は、4mA~20mA の出力に加えて、最大±10V の産業用信号レベル範囲の電圧も出力可能です。この部品の組み合わせは低コストで電力効率に優れたソリューションであり、必要な外付け部品の数は最小限で、変動する負荷条件に対しても16 ビット性能を確保できます。
回路の説明
この回路は、AD5755 のスルー・レート制御とダイナミック消費電力制御の機能を改善し、より完成度が高く堅牢なDAC ソリューションを作成したものです。ADP2300 を使用した単純な降圧DC/DC コンバータを実装することにより、この回路では、AD5755 の出力をスルーイングするときに必要な、通常より大きい電流を供給できます。
AD5755 は、デジタル・データをアナログ電流(0mA~20mA、4mA~24mA、0mA~24mA)や電圧出力(0V~5V、0V~10V、±5V、±10V)に変換する標準的なDAC のように動作します。AD5755 は、AVSS電源が−26.4V、AVDD が+33.0V までの広い範囲で動作します。
消費電力制御
標準的な電流制御モジュールやアクチュエータの設計では、負荷抵抗値は一般的には50Ω~750Ω の範囲ですが、10Ω という低い値や1kΩという高い値になることもあります。4mA~20mA出力ドライバ段は、このような負荷抵抗値の全範囲にわたり十分なヘッドルームが得られる電源電圧で動作することが必要です。例えば、1kΩ 負荷を24mA で駆動するとき、3V のヘッドルームが必要と仮定すると、27V より高い電源電圧が必要です。この場合、出力ドライバに起因するパッケージ内部の消費電力は3V × 24mA = 72mW となります。しかし、同じ27V 電源で10Ωの負荷を駆動する場合には、ドライバの内部消費電力がおおむね27V × 24mA = 648mWになります。クワッドDAC であれば、2.5W より大きくなります。
このAD5755 回路は、出力電圧を検出して動的に昇圧供給電圧を安定化し、十分なヘッドルームを加えた電源電圧の要求に応えます。10Ω に向けた24mA 出力では、昇圧電圧が7.4V になり、内部消費電力はわずか7.4V × 24mA = 178mWになります。安定化しない場合と比較すると、ほぼ1/4 の低減になります。
5V 入力で動作する4 つの独立したDC/DCコンバータにより、4 つのDAC 出力のそれぞれに対して別々の昇圧電圧が生成されます。
DC/DC コンバータ
AD5755 は4 つの独立な内蔵DC/DCコンバータを備えています。個々のチャンネルに対し、VBOOST_X 電源の動的な制御が可能です。図2 に、DC/DC 回路に必要とされるディスクリート部品を示します。この後のセクションでは、この回路の動作について説明します。
CDCDC の後ろに10Ω と100nF のローパスRC フィルタを配置することを推奨します。このフィルタはわずかに電力を消費しますが、VBOOST_x 電源のリップルを低減します。LDCDC、CDCDC、DDCDC の推奨部品の値を表1 に示します。
Symbol | Component | Value | Manufacturer |
LDCDC | XAL4040-103 | 10 μH | Coilcraft |
CDCDC | GRM32ER71H475KA88L | 4.7 μF | Murata |
DDCDC | PMEG3010BEA | 0.38 VF | NXP |
DC/DC コンバータの動作
内蔵DC/DC コンバータでは、固定周波数のピーク電流モード制御方式を採用し、4.5V~5.5V のAVCC入力を昇圧してAD5755 の出力チャンネルを駆動します。これらは、デューティ・サイクルが90%(代表値)より小さい不連続導通モード(DCM)で動作するように設計されています。
不連続導通モードとは、スイッチング・サイクルのかなりの時間インダクタ電流がゼロになる動作モードを意味します。DC/DC コンバータは非同期であるため、外付けショットキー・ダイオードが必要です。
DC/DC コンバータの出力電圧
あるチャンネルの電流出力が有効であるとき、コンバータはVBOOST_X 電源を7.4V(±5%)または(IOUT × RLOAD + ヘッドルーム)のいずれか高い方に安定化します。ヘッドルーム電圧の値は約3V です。出力をディスエーブルした電圧出力モードでは、コンバータはVBOOST_X 電源を+15V(±5%)に安定化します。出力をディスエーブルした電流出力モードでは、コンバータはVBOOST_x 電源を7.4V(±5%)に安定化します。
1 チャンネル内ではVOUT_X とIOUT_X の出力段は共通のVBOOST_X 電源を共用するので、IOUT_XとVOUT_Xの出力段をまとめて接続できます。
DC/DC コンバータのセトリング時間
電流出力モードでは、約1V(IOUT × RLOAD)より大きいステップに対するセトリング・タイムはDC/DC コンバータのセトリング・タイムにより支配されます。IOUT_x ピンに必要な電圧とコンプライアンス電圧の和が7.4V(±5%)を下回る場合は、この例外となります。小さい負荷のセトリング・タイムほど高速になります。24mA より小さい電流ステップに対するセトリング・タイムも高速になります。
DC/DC コンバータVMAX の機能
最大VBOOST_x 電圧はDC/DC コントロール・レジスタに設定されます。この最大電圧に到達すると、DC/DC コンバータがディスエーブルされ、VBOOST_x 電圧は約0.4V だけ徐々に減少します。VBOOST_x 電圧が減少すると、DC/DC コンバータが再イネーブルされ、電圧はまだ必要であればVMAX まで徐々に戻ります。
図3 に示すように、AD5755 がVMAX 値まで上昇したとき、ステータス・レジスタのDC-DCx ビットがアサートされ、電圧がVMAX − 0.4V まで下がると同ビットのアサートは解除されます。
AVCC 電源の静的電流要件
このDC/DC コンバータは次式のVBOOST_X 電圧を供給するように設計されています。

このため、負荷と出力電圧が固定の場合、DC/DC コンバータの出力電流は次式で計算できます。

ここで、
IOUT はIOUT_X から流れる出力電流(アンペア単位)。
ηVBOOST はVBOOST_X における効率(比率)。
AVCC 電源のスルーイング電流要件
スルーイング時のAICC 電流要件は、DC/DC コンバータの出力容量を充電するために出力電力が増加するので、静的動作時より大きくなります。AICC 電流の供給が十分でないと、AVCC 電圧が低下します。このAVCC の低下により、スルーイングに必要なAICC は更に増加します。これは、AVCC の電源が更に低下し、VBOOST_X の電圧、そして出力電圧が、目標の値に到達しない場合があるということを意味します。このAVCC電圧は全てのチャンネルに共通であるため、他のチャンネルにも影響を与えます。
ADP2300 のAVCC 電源
前述のように、AD5755 の供給電流要件を満たすために、ADP2300 といくつかのディスクリート部品を使用して簡単な5Vレールを作成します。図4 に示すように、出力電圧とFB ピンの間の抵抗分圧器によって出力電圧を外部で設定します.
テストのデータと結果
ADP2300 回路を使用したシステムの積分非直線性(INL)、微分非直線性(DNL)、総合未調整誤差(TUE)を、図5、図6、図7 にそれぞれ示します。全ての計測においてAD5755 の昇圧レギュレータは動作しています。