AN-2549: ロー・パワー入力ドライバとリファレンスを備えマルチプレックス・アプリケーション用に最適化された、16 ビット、6MSPS のSAR ADC システム
回路の機能とその利点
図1 に示す回路は、16 ビット、6MSPS の逐次比較(SAR)A/Dコンバータ(ADC)と差動入出力ドライバを組み合わせたもので、低ノイズのS/N 比 = 88.6dB および低歪みの全高調波歪み(THD)= −110dBc をロー・パワーで実現するよう最適化されたものです。この回路は、ポータブル・デジタルX 線システムやセキュリティ・スキャナなどの高性能のマルチプレックス・データ・アクイジション・システムに理想的です。それは、SARアーキテクチャにより、パイプラインADCに通常付随するレイテンシまたはパイプライン遅延を生じることなくサンプリングできるためです。6MSPS のサンプリング・レートが複数チャンネルの高速サンプリングを可能にし、ADC は、真の16ビットDC 直線性とシリアル低電圧差動信号(LVDS)インターフェースを備え、低ピン数および低デジタル・ノイズを実現しています。
ドライバは、低ノイズ(1nV/√Hz)のADA4897-1 オペアンプを2 個使用しており、ロー・パワー・レベル(アンプあたり3mA)でのAD7625 ADC の動的性能を維持しています。ADA4897-1 は、セトリング時間が短い(0.1%まで45ns)ため、マルチプレックス・アプリケーションに最適です。
この組み合わせにより、業界トップクラスの動的性能を、小ボード面積(AD7625 は5mm × 5mm の32 ピンLFCSP 、ADA4897-1 は8 ピンSOIC、AD8031 は5 ピンSOT-23 パッケージに収納)かつ低消費電力で実現します。
回路の説明
ADA4897-1 は、低歪み(1MHz で−93dB のスプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR))、高速セトリング(0.1%まで36ns)、広帯域幅(230MHz、−3dB、G = 1)という特長を備えています。どちらのADA4897-1 ドライバもゲインが1 に設定されています。20Ω の抵抗と56pF のコンデンサを使用した単極142MHz のローパス・RCフィルタが、各ドライバとADCの間に配置されています。このフィルタが、AD7625 の入力でのオペアンプの出力ノイズを制限し、帯域外高調波をある程度まで減衰します。
ADA4897-1 の出力におけるコモンモード電圧は、ユニティ・ゲイン・バッファとして設定されたAD8031 を用いて、AD7625 のVCM 出力電圧(公称値2.048V)をバッファすることで設定されます。コモンモード・バイアス電圧が、590Ω の直列抵抗を介して入力に印加されます。AD8031 は、低出力インピーダンスであり、また、トランジェント電流からの高速セトリング能力があるため、コモンモード電圧を駆動するために最適なデバイスです。
AD7625 は、LVDS インターフェースを用い、6MSPS で92dB のS/N 比という革新的な動的性能と、16 ビット(1LSB)の積分比直線性(INL)性能を実現しています。ADR434 電圧リファレンス(4.096V)は、温度ドリフトの小さい、低ノイズ、高精度のXFET リファレンスです。最大30mA の出力電流を供給でき、また、最大20mA をシンクできます。
ADR434 は、8 ピンMSOP または8 ピンのナローSOIC パッケージで提供されています。AD8031 オペアンプは、ADR434 の出力をAD7625 のリファレンス入力から絶縁すると共に、低インピーダンスおよびREF 入力でのトランジェント電流に対する高速セトリングを実現します。
デュアル・ドライバに必要なのはわずか54mW で、これを135mW のADC 電力とリファレンスおよびリファレンス・バッファの電力12mW に加えても、回路全体の合計電力はわずか201mW です。
回路は、消費電力を最小限に抑えて、最高のシステム歪み性能を実現できるように、ADA4897-1 ドライバの入力に+7V および−2Vの電源を使用します。ADA4897-1 の出力段は、レールto レールであり、5V 単電源での動作時の振幅は150mV から4.85V の間です。ただし、この範囲の両端に2V のヘッドルームを追加すると歪みを低下できます。
図2 に、+7V と−2V の電源を入力段に用いた回路のAC 性能を示します。S/N 比 = 88.6dB、THD = −110.7dB で、20kHz の入力信号はフルスケールを0.6dB 下回ります(93%フルスケール)。
図3 に、5V の電源を入力段に用いた回路のAC 性能を示します。S/N 比 = 86.7dB、THD = −101.1dB で、20kHz の入力信号はフルスケールを1.55dB 下回ります(84%フルスケール)。
このデータは、電源電圧が−2V および+7V から0V、+5V に低下したために、S/N 比が約1.9dB、THD が約9.6dB 悪化したことを示しています。
単電源構成は、システムに両電源がなくても高性能を実現しなくてはならないユーザにとって有用です。
バリエーション回路
AD7625 は、内部リファレンスを内蔵しており、システム要件に応じて使用できる外部リファレンス用入力を2 個備えています。リファレンス電圧は、ADR3412 リファレンス(1.2V)出力をREFIN ピンに印加することで生成できます。これが、オンチップ・リファレンス・バッファによって内部で4.096V の正しいADC リファレンス値に増幅されます。ADR3412 は、AD7625 が使用しているのと同じ5V アナログ・レールで給電でき、また、オンチップ・リファレンス・バッファを用いることもできます。
あるいは、ADR434 またはADR444 などの4.096V の外部リファレンスを、図1 に示すAD8031 などのバッファ・アンプを用いて、ADC の非バッファREF 入力に接続できます。この手法は、システム・リファレンスを複数のADC で共用するマルチチャンネル・アプリケーションで一般的なものです。
ADR434 およびADR444 を用いる構成は、リファレンスの温度係数が低い(ADR434BおよびADR444Bの場合、最大で3ppm/ºC)ことが要求されるシングル・チャンネル・アプリケーションでも優れています。ADA4897-1 オペアンプに供給するために用いられる7V レールは、ADR434 またはADR444 のVIN 電源ピンにも供給できます。
もう1 つの優れた4.096V リファレンスは、ADR4540 低ドロップアウト(> 300mV)高精度リファレンスで、これは、5V 電源での動作が可能です。
ADA4897-1 およびAD8031 のシングル・オペアンプは、必要に応じ、それらのデュアル・バージョン(それぞれADA4897-2 およびAD8032)に置き換えることができます。
3MHz までの高入力周波数の場合は、ADA4899-1(15mA/アンプ)が推奨駆動アンプです。
ADA4938-1(37mA/アンプ)は、10MHz までの信号に対し優れており、シングルエンド/差動コンバータとして用いることもできます。
この回路に限らず高速回路の性能は、適切なプリント基板(PCB)のレイアウトに大きく左右されます。これには電源のバイパス、制御されたインピーダンス・ライン(必要な場合)、部品の配置、信号の配線、電源プレーン、グランド・プレーンなどが含まれますが、これらに限定されません。(PCB レイアウトの詳細については、MT-031 チュートリアル 、MT-101チュートリアル、および高速プリント回路基板レイアウトの実務ガイドを参照してください。)