AN-2083: 車両追跡システム向けの電源統合化ソリューション

はじめに

車両追跡システム(VTS)は通常、乗用車やトラックに装着されます。VTS は、全地球測位システム(GPS)などの技術を用いて車両の速度、位置、方向に関するリアルタイム情報を提供するものです。

VTS が高い信頼度で機能するためには、堅牢な DC/DC 電源を備えることが必要です。電源は、ロード・ダンプ、コールド・クランク、逆極性などの一般的な車両故障状態、および、ISO7637-2 規格と ISO 16750-2 規格に記載されている破損につながる可能性のあるその他のトランジェントからシステムを保護するよう、設計する必要があります。

また、車両から電力が供給されない場合に、システムはバックアップ・バッテリに切り換えて連続動作を確保できる必要があります。最後に、車載電源は、各種車載向け電磁場干渉(EMI)規格、中でも CISPR 25 に準拠する必要があります。

こうした課題に対処するため、アナログ・デバイセズは、車両追跡システム向けの高性能で簡便な電源ソリューションである、EVAL-ADVTS4152-EBZ 電源ソリューションを開発しました。

図 1. EVAL-ADVTS4152-EBZ 電源ソリューション評価用ボード
図 1. EVAL-ADVTS4152-EBZ 電源ソリューション評価用ボード

統合化ソリューション

EVAL-ADVTS4152-EBZ 電源ソリューションでは、サージ・ストッパ LT4356-1、高効率降圧レギュレータ LT8609A、バッテリ・バックアップ・パワーマネージャ LTC4040 の 3 つの主要ブロックを統合しています。これらの 3 ブロックが連携して、VTS などの後段の電子回路に信頼性と効率に優れた電力を供給します。

EVAL-ADVTS4152-EBZ は、公称 12V または 24V のシステムに対応し、5V 3A の連続電流を出力できるよう設計されています。車載バッテリからの電力が使用できない場合、システムは自動的に単一セルのリチウムイオン(Li-Ion)またはリン酸鉄リチウム(LiFePO4)バッテリによるバックアップ電源に切り替わります。

図 2. EVAL-ADVTS4152-EBZ の機能ブロック図
図 2. EVAL-ADVTS4152-EBZ の機能ブロック図
表 1. EVAL-ADVTS4152-EBZ の電気仕様
パラメータ テスト条件/コメント Min Typ Max 単位
INPUT
Operating Range


Positive Surge Protection
Reverse Protection

12V および 24V の電源システムに最適
メイン
バッテリ


6.5
2.7

-40


12 or 24


38
5
200


V
V
V
V
OUTPUT
Voltage
Ripple


Current


出力 = 5V、2A
メイン 12V(降圧モード)
バッテリ 3.6V(昇圧モード)

4.5



3.842
9.522

5.5



3

V

mV
mV
A
BACKUP BATTERY
Operating Range
Selectable Charging Voltage


リチウムイオン
LiFePO4

2.7


3.95, 4.0, 4.05, or 4.1
3.45, 3.5, 3.55, or 3.6

5

V
V
V

サージ・ストッパ


高電圧トランジェントを処理する車載電源の設計には困難が伴う場合があります。壊れやすい電子回路に損傷を与えずにデバイスが過剰な電力を消費する必要があるためです。EVALADVTS4152-EBZ 電源ソリューションにはサージ・ストッパLT4356-1 が備わっており、高電圧トランジェントからシステムを保護し、このような事象が生じている間も動作し続けます。

LT4356-1 は、外付けの N チャンネル金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)をパス・トランジスタとして駆動します(図 3 を参照)。通常動作では、LT4356-1 は MOSFET を完全にオンにし、入力から供給先の負荷に向けて低インピーダンスのパスを生成します。入力電圧のサージが過大な場合、LT4356-1 は、MOSFET のゲートを制御し、OUT ピンとグラウンド間に設けられた R33 と R34 の抵抗分圧器によって設定される安全な電圧に、出力を調整します。TMR ピンとグラウンドの間に接続されたコンデンサ(CTMR)が 1.35V に充電されるまで、MOSFET はオン状態を維持します。1.35V に充電されると、その時点で GATE ピンはローになり MOSFET をオフにします。

図 3. LT4356-1 サージ・ストッパ
図 3. LT4356-1 サージ・ストッパ

ロード・ダンプ

ロード・ダンプは高電圧トランジェントの一例です。ロード・ダンプが発生するのは、車載バッテリの充電中にオルタネータが切断され電圧サージが生じた場合です。EVAL-ADVTS4152-EBZ はサージ・ストッパ LT4356-1 を使用して、壊れやすい車載電子回路をこのようなトランジェント状態から保護します。

テスト・セットアップ

ロード・ダンプ・テスト用パルスは、ロード・ダンプ・ジェネレータ DC1950A を使用して生成され、EVAL-ADVTS4152-EBZの入力部を介して印加されます。更に、1A の定電流負荷がEVAL-ADVTS4152-EBZ の出力に加えられます。ロード・ダンプ状態のテスト・セットアップを図 4 に示します。

図 4. ロード・ダンプ状態のテスト・セットアップ
図 4. ロード・ダンプ状態のテスト・セットアップ

図 5 に示すように、実際のサージ波形は、チャンネル 2(C2)に表示され、105.6V のサージが約 400ms で減衰する様子が読み取れます。チャンネル 3(C3)に示すように、出力部の電圧値は 5V を維持し、電力の中断がないことがわかります。図 5 には、LT4356-1 の応答もチャンネル 1(C1)に示されています。波形の平坦な部分は、チップが 38V の所定クランプ電圧に電圧を調整していることを示しています(図 5 を参照)。

図 5. 高電圧トランジェント時の EVAL-ADVTS4152-EBZ の応答
図 5. 高電圧トランジェント時の EVAL-ADVTS4152-EBZ の応答

降圧レギュレータ


次に、LT4356-1 の出力は、高効率降圧レギュレータ LT8609Aの入力に接続されます(図 6 を参照)。LT8609A は 3.0V~42V の幅広い入力範囲を持ちます。RT とグラウンドの間の抵抗を用いて、スイッチング周波数を設定します。SYNC ピンを使用すると、スペクトル拡散変調による低 EMI 動作が可能となります。

図 6. LT8609A 降圧レギュレータ
図 6. LT8609A 降圧レギュレータ

バッテリ・バックアップ・パワーマネージャ


VTS が継続的に機能するには、車載バッテリからの電力供給が途絶えた場合に備えてバックアップ電源を持っていることが必要です。EVAL-ADVTS4152-EBZ には、大電流昇圧 DC/DC レギュレータ LTC4040 があり、単一セル・リチウムイオンまたはLiFePO4バッテリから電源をバックアップします(図 7 を参照)。

LT4356-1 の出力が 1.2V のパワー・フェール入力(PFI)閾値未満に低下すると、2.5A の昇圧レギュレータがバックアップ・バッテリから後段の負荷に電力を供給します。

図 7. LTC4040 バッテリ・バックアップ・パワーマネージャ
図 7. LTC4040 バッテリ・バックアップ・パワーマネージャ

通常モードからバックアップ・バッテリ・モードへの移行

ブラウンアウト状態を模すために、EVAL-ADVTS4152-EBZ の入力の電源を切断し、通常動作からバックアップ・バッテリ・モードへの波形の変化を観察しました。図 9 にテスト・セットアップを示します。また、このシミュレーションは、コールド・クランクなどの低電圧トランジェントの間、どのようにEVAL-ADVTS4152-EBZ が動作を続けるのかも示します。

図 8 では、通常の 12V 入力をチャンネル 1(C1)で示します。チャンネル 3(C3)に示すシステム出力は、12V の入力が低下しても 5Vの出力が維持されることを示しています。また、この結果は、コールド・クランク・トランジェントの間も EVAL-ADVTS4152-EBZ が継続的に動作できることを示しています。

図 8. ブラウンアウト状態の間の EVAL-ADVTS4152-EBZ の応答(VIN = 12V および VOUT = 5V)
図 8. ブラウンアウト状態の間の EVAL-ADVTS4152-EBZ の応答(VIN = 12V および VOUT = 5V)

 

図 9. ブラウンアウト状態のシミュレーション・テスト・セットアップ
図 9. ブラウンアウト状態のシミュレーション・テスト・セットアップ

 

バッテリ充電電圧の選択

車載バッテリが使用可能な場合、昇圧レギュレータは降圧バッテリ・チャージャとして逆の動作を行います。充電電圧は、ユーザによって選択可能なピンを介し、バッテリの種類に応じて設定できます。LTC4040は、2種類のバッテリ化学組成(リチウムイオンおよび LiFePO4)のそれぞれに対し 4通りの充電電圧オプションを備えており、これらのオプションは、S1、S2、S3 のスライド・スイッチ・ピンを使用して選択できます。表 2 に、2種類のバッテリに対する充電電圧を選択するためのスイッチ設定を示します。

表 2. バックアップ・バッテリ用充電電圧設定
Battery Type Switch Setting Min Typ Max Unit
BATTERY REGULATED OUTPUT VOLTAGE
For LiFePO4 Option



For Li-Ion Option

S1 = 0, S2 = 0, S3 = 0
S1 = 0, S2 = 1, S3 = 0
S1 = 0, S2 = 0, S3 = 1
S1 = 0, S2 = 1, S3 = 1
S1 = 1, S2 = 0, S3 = 0
S1 = 1, S2 = 1, S3 = 0
S1 = 1, S2 = 0, S3 = 1
S1 = 1, S2 = 1, S3 = 1

3.42
3.47
3.52
3.57
3.92
3.97
4.02
4.07

3.45
3.50
3.55
3.60
3.95
4.00
4.05
4.10

3.48
3.53
3.58
3.63
3.98
4.03
4.08
4.13

V
V
V
V
V
V
V
V

サーマル・シャットダウン対策


異常に高い DC 電圧からの保護を行う設計が必要な場合、EVAL-ADVTS4152-EBZ には、ピン選択可能な温度スイッチADT6401 を使用して過熱保護を行うオプションがあります。ADT6401 の回路図については、EVAL-ADVTS4152-EBZ、UG1916 を参照してください。

プリコンプライアンス・テスト

ISO 7637-2:2011 規格およびISO 16750-2:2012 規格


ISO 7637-2:2011 規格と ISO 16750-2:2012 規格は、発生し得るトランジェントについて説明し、そのトランジェントをシミュレーションするテスト方法を指定しています。参考として、準拠に必要なテスト条件を図 10 に示します。

図 10. ISO 7637-2 および ISO 16750-2 のテスト条件
図 10. ISO 7637-2 および ISO 16750-2 のテスト条件

CISPR 25 放射エミッションおよび伝導エミッション


CISPR 25 は、車両におけるオンボード・レシーバーを保護するために放射エミッションおよび伝導エミッションを規制する、自動車向け規格です。EVAL-ADVTS4152-EBZ の放射 EMI 性能を、図 11 と図 12 に示します。これに対し、伝導 EMI 性能を図13 と図 14 に示します。図 11~図 14 の赤色の線は、CISPR25 クラス 5 に定める放射エミッションおよび伝導エミッションのピーク制限を表しています。

図 11. 放射 EMI 性能、水平偏波
図 11. 放射 EMI 性能、水平偏波
図 12. 放射 EMI 性能、垂直偏波
図 12. 放射 EMI 性能、垂直偏波
図 13. 伝導 EMI 性能、正極性
図 13. 伝導 EMI 性能、正極性
図 14. 伝導 EMI 性能、負極性
図 14. 伝導 EMI 性能、負極性

著者

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Celso Aron

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Dominic Clavillas

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Jardine Penaflor