AN-1120: ロー・ドロップアウト (LDO) レギュレータのノイズ源

ノイズ源が問題となる理由

重大なノイズとそうでないノイズの違いは、注目する回路の動作に対するノイズの影響の度合いです。

例えば、スイッチング電源には3 MHz で大きな出力電圧リップルがあります。電源の供給を受けている回路の帯域幅が数Hz の場合(例えば温度センサー)、このリップルは問題になりません。一方、同じスイッチング電源をRF 位相ロック・ループ (PLL)に使用すると、結果は大きく異なります。

ノイズ源、そのスペクトル特性、ノイズ削減方針、問題の回路のこのノイズに対する感度を理解することは、強固なシステムをデザインする際に重要です。

また、このアプリケーション・ノートでは、電源除去比 (PSRR)と内部発生ノイズの違いを明らかにし、各パラメータのデータ・シート規定値の適用方法を説明します。

ノイズ原因

ロー・ドロップアウト (LDO) レギュレータまたは問題となるすべての回路のノイズ源は、おおまかに固有と非固有の2 種類に分類することができます。固有ノイズは頭の中にあるノイズのようなもので、非固有ノイズはジェット機のノイズのようなものです。

電子回路の場合は、固有ノイズは電子デバイスにより内部で発生されるノイズであり、非固有ノイズは回路外部のソースから来るノイズです。

LDO は使い易いですが、PSRR と内部発生ノイズが混同されることがあります。多くの場合、この2 つは共に単純にノイズとして分類されています。これは、仕様の誤った適用になります。2 つのタイプのノイズの特性は異なり、システム性能への影響を削減する方法が異なるためです。

図1 に、LDOの簡略化したブロック図を示し、固有ノイズ源と非固有ノイズ源の違いも示します。誤差アンプはLDOのPSRRを決定するため、LDO入力でのノイズ除去能力も決定しますが、固有ノイズはLDO出力に常に現れます。

図 1.固有ノイズ源と非固有ノイズ源を持つ簡略化した LDO
図 1.固有ノイズ源と非固有ノイズ源を持つ簡略化した LDO

固有ノイズ

多くの固有ノイズ源が存在し、各々は独自の特性を持っています。図2 に、代表的なデバイスのノイズが周波数に対して変化する様子と、全体ノイズに対する各タイプのノイズ成分を示します。1/f 領域から熱領域への変化点はコーナー周波数と呼ばれます。主なタイプの固有ノイズとしては、熱ノイズ、1/f ノイズ、ショット・ノイズ、バーストすなわちポップコーン・ノイズなどがあります。

図 2.代表的なノイズ電力の周波数特性
図 2.代表的なノイズ電力の周波数特性

熱ノイズ


熱、ジョンソン、またはホワイト・ノイズは、絶対ゼロより上の温度の導体または半導体の電荷キャリア (電子と正孔)の動揺から発生します。熱ノイズの電力は温度に比例します。元々持っているランダム性のため、周波数で変化しません。

熱ノイズは物理的プロセスであり、次のように計算することができます。

数式 1.

ここで、

k はボルツマン定数 (1.38−23 joules/Kelvin)。

T は単位Kelvin で表した温度 (K = 273°C)。

R は抵抗(Ω)。 

B はノイズが観測される帯域幅(Hz)。抵抗両端で測定される電圧も計測が行われる帯域幅の関数です。 

例えば、1 MHz 帯域幅、室温での100 kΩ 抵抗により回路のノイズが増加し、次のように計算することができます。

数式 2.


1/fノイズ


1/f ノイズは、半導体の表面欠損から発生します。1/f ノイズの電力は、デバイスのバイアス電流に比例し、熱ノイズとは異なり、周波数に反比例します。この反比例性は非常に低い周波数で維持されますが、数KHz を超えると、ほぼ平坦になります。また1/f ノイズはピンク・ノイズとも呼ばれます。これは周波数スペクトルの下端に向かって重みが増す傾向があるためです。

1/f ノイズは、デバイス形状、デバイス・タイプ、半導体材料に強く依存します。このため、数学モデルをつくることが極めて困難で、個々のケースの実験結果を使って、1/f ノイズのキャラクタライズと予測を行っています。

一般に、バイポーラ・トランジスタやJFET のような埋め込みジャンクションを持つデバイスは、MOSFET のような表面デバイスより1/f ノイズが小さい傾向があります。


ショット・ノイズ


ショット・ノイズは、PN ジャンクションの場合のように電位障壁が存在する場所で発生します。半導体デバイス内の電流は量子性を持つため、電流は連続的ではありません。電荷キャリア(正孔と電子)が障壁を越えるとき、ショット・ノイズが発生します。熱ノイズと同様に、ショット・ノイズはランダムであるため、周波数により変化しません。


バーストすなわちポップコーン・ノイズ


バーストすなわちポップコーン・ノイズは、イオン汚染に関係すると見られる低周波数ノイズです。バースト・ノイズは、回路のバイアス電流または出力電圧の突然のシフトとして現れます。このシフトが短時間続いた後に、バイアス電流または出力電圧が突然元の状態に戻ります。これらのシフトはランダムですが、バイアス電流に比例し、周波数の2 乗に反比例 (1/f2)するように見えます。

現代の半導体プロセス技術の清浄度は非常に高いため、バースト・ノイズは実質的になくなり、デバイス・ノイズでは主要なファクタではありません。

非固有ノイズ

非固有ノイズ源は、固有ノイズ源より遥かに大きいものです。非固有ノイズ源には次が含まれます。

  • 敏感な回路に結合する電磁界
  • 圧電材料に不要なAC 電圧を発生させる機械的衝撃または振動
  • 電源または良くないデザインのPCB レイアウトを介して伝導または放射により他の回路から混入するノイズ

電磁結合


電磁界により、放射結合、容量結合、誘導結合、伝導結合によりノイズが回路に混入します。これらのタイプの結合の影響は、正しいPCB レイアウトとシールド技術により小さくすることができますが、これらはこのアプリケーション・ノートの範囲外です。


圧電効果


層数の多いセラミック・コンデンサのような部品は、機械的な衝撃と振動 (マイクロフォン効果)に弱くなっています。これは、構造内に誘電率の高い材料を使っているためです。これらの誘電体は高い圧電性を持つため、小さな機械的振動をマイクロボルトまたはミリボルト・レベルの信号へ容易に変換します。これが、大きな値のセラミック・コンデンサの使用を低レベル・シグナル・チェーン回路に対して推奨できない理由です。

フィルム・コンデンサは圧電性を持ちませんが、これらも振動に敏感です。これは、フィルム誘電体に機械的ストレスが加わると、フィルムの厚さが少し変化し、これにより容量が少し増減するためです。コンデンサに蓄積されるエネルギーは一定であるため、容量変化に対応するため電圧が少し変化する必要があります。エネルギー、容量、電圧の間の関係は次式で表されます。

数式 3.

機械的ストレスがなくなると、コンデンサの電圧は元の状態に戻ります。機械的ストレスが周期的である場合、小さなAC 電圧が発生します。


電源ノイズ


固有ノイズの後は、一般に電源ノイズとリップルがLDO 出力の最も大きなノイズ源です。 ノイズ源のスペクトル内容に応じて、LDO はダウンストリームの回路に対する電源品質を大幅に向上させことができます。

多くのシステムでは、AC メインまたはバッテリーからの電源が中間電圧に変換されて、高効率スイッチ・モード電源によりシステム内に分配されます。これらの中間電圧は、使用するポイントで特定の電圧に変換されます。

スイッチ・モード電源からのノイズは、その回路構成と負荷状態に強く依存します。スペクトル値は、数Hz~数十MHz になります。多くの場合、これらのノイズのある電源分配バスはLDO によりノイズが除かれて、敏感なアナログ負荷に電源が供給されます。入力電源からノイズを除去する LDO の能力は、そのPSRR と周波数による変化に依存します。

LDOのノイズ

LDO での主な固有ノイズ源は、内蔵リファレンス電圧と誤差アンプです。

現代のLDO は、15 μA 以下の静止電流を実現するため、十ナノアンペア・オーダーの内部バイアス電流で動作します。これらの低バイアス電流では、 GΩ にもなる大きな値のバイアス抵抗の使用が必要です。


リファレンス電圧ノイズ


抵抗の熱ノイズはVn = √(4kTRB)として定義されるため、抵抗はリファレンス回路に対して大きなノイズ成分を持つと見ることができます。幸運にも、LDO のリファレンス電圧は数Hz を超える帯域幅を必要としないため、内蔵の受動フィルタで容易にこのノイズを除去することができます。

例えば、ソース・インピーダンス0.1 GΩのバンド・ギャップ・リファレンスは、10 Hz~100 kHzで 407 μV rmsのノイズを持っています。帯域幅を10 Hzに制限することにより、ノイズを4.1 μV rmsに削減することができます。帯域幅を1.6 Hzに削減すると、リファレンスのノイズ成分は1.3 μV rmsまで小さくなります。コーナー周波数1.6 Hz の1 極 RC フィルタを1 GΩの抵抗と100 pFのコンデンサで構成することができます。 図3 に、このような1.0 V の超低ノイズ・リファレンスをシリコン内で実現する方法を示します。

図 3.超低ノイズ、超低消費電力のリファレンス電圧 (ADP223)
図 3.超低ノイズ、超低消費電力のリファレンス電圧 (ADP223)

誤差アンプ・ノイズ


低ノイズ・リファレンスを使う場合、誤差アンプが総合出力ノイズの重要な成分になります。リファレンスと誤差アンプのノイズ成分は相関がないため、2 乗平均の方法で加算する必要があります。

図4 に、 500 mV リファレンス電圧を内蔵する2.5 V 出力 LDOの例を示します。リファレンス電圧ノイズを1 μV rmsとし、誤差アンプ・ノイズを1.5 μV rmsとすると、9 μV rmsの合計ノイズは次のように計算されます。

数式 4.

図 4.リファレンス電圧と誤差アンプのノイズ成分 (ADP223)
図 4.リファレンス電圧と誤差アンプのノイズ成分 (ADP223)
 

LDO ノイズの削減


LDO ノイズを削減する主な方法としては、次の2 つがあります。

  • リファレンス電圧のフィルタリング
  • 誤差アンプのノイズ・ゲインの削減

 

LDOによっては、外付けコンデンサを使ってリファレンス電圧をフィルタできることがあります。実際、多くのいわゆる超低ノイズ LDOでは外付けノイズ削減コンデンサを使って低ノイズ仕様を実現しています。リファレンス電圧の外付けフィルタリング機能を使う欠点は、スタートアップ時間がフィルタ・コンデンサ・サイズに比例することです。図3 に、このケースを示します。100 pF のコンデンサが接続されるノードは、外付けコンデンサを接続するために外部に接続されます。

誤差アンプのノイズ・ゲインを小さくしても、リファレンス電圧のフィルタリングの場合ほどスタートアップ時間に大きな効果を持ちません。このためスタートアップ時間と出力ノイズとの間のトレードオフは簡単になります。残念なことに、一般に固定出力 LDO での出力ノイズの削減は、帰還ノードに対してアクセスできないため不可能ですが、 大部分の調整可能な出力を持つLDO では帰還ノードを容易にアクセスすることができます。

誤差アンプのノイズ成分がリファレンス電圧の成分より大きい場合、誤差アンプのノイズ・ゲインを小さくすると、LDO の全体ノイズを大幅に削減することができます。誤差アンプがメイン・ノイズ成分になっているか否かを判断する1 つの方法は、特定のLDO の固定バージョンのノイズと調整可能バージョンのノイズを比較することです。固定 LDO のノイズが調整可能なLDO のノイズより小さい場合は、誤差アンプがメイン・ノイズ源です。

図5 に、R1、R2、R3、C1 が外付け部品である調整可能な 2.5 V出力のLDO を示します。R3 は、アンプの高周波ゲインを1.5×から2×へ増やすように選択しました。LDOによっては位相マージンが小さい、すなわちゲイン=1 で不安定なことがあります。C1 は、ノイズ削減回路 (C1、R1、R3)の低周波ゼロ点を10 Hz~100 Hzに設定して、1/f 領域のノイズを十分削減するように選択しました。

図 5.調整可能LDO でのノイズ・ゲインの削減
図 5.調整可能LDO でのノイズ・ゲインの削減

図6 に、調整可能な高電圧 LDOのノイズ・スペクトル密度に対するノイズ削減 (NR) 回路の効果を示します。図6 では、20 Hz~2 kHzでノイズ性能に約3 倍 (約10 dB) の改善が見られます。2 つのカーブが20 kHzより上で重なることに注意してください。これは、誤差アンプのクローズド・ループ・ゲインがアンプのオープン・ループ特性を満たし、ノイズ・ゲインをさらに削減できないためです。

図 6.調整可能なLDO のノイズ・スペクトル密度
図 6.調整可能なLDO のノイズ・スペクトル密度

また、同じ周波数範囲でPSRRも改善されています (詳細については、PSRRの改善 のセクションを参照してください)。


LDO データシートのノイズ仕様


一般に、LDO の固有ノイズは次の2 つの方法でデータ・シートに規定されています。

  • ある帯域幅での総合積分ノイズ。μV rmsで表示されます (図7 参照)。
  • ノイズ・スペクトル密度のカーブ。ノイズは μV/√Hz の周波数特性としてプロットされます (図6 参照)。
図 7.負荷電流対RMS ノイズおよび出力電圧のプロット(ADP223)
図 7.負荷電流対RMS ノイズおよび出力電圧のプロット(ADP223)

アナログ・デバイスのデータ・シートでは、10 Hz~100 kHz帯域幅で総合積分ノイズを規定しています。 図7 に、様々な出力電圧と10 Hz~100 kHz帯域幅でのADP223 の総合 rms ノイズと負荷電流との関係を示します。

一般に、軽い負荷ではrms ノイズが低くなります。これはLDOの帯域幅が、静止電流とともに狭くなるためです。負荷電流が数mA に到達すると、LDO はフル帯域幅で動作しますが、ノイズは負荷とともに一定です。

図8 に示すADP223 のノイズ・スペクトル密度のプロットは、10 Hz~100 kHzの周波数範囲で出力電圧と共にノイズ・スペクトル密度が変化する様子を示しています。同じ帯域幅でこのグラフのデータを積分すると、rms ノイズが得られます。次式を使って任意の周波数範囲の rms ノイズを計算します。

数式 5.

ここで、

BW = NFU − NFL

NFL は周波数下限でのμV/√Hz で表したノイズ。

NFU は周波数上限でのμV/√Hz で表したノイズ。

例えば、図8 に示す1.2 V 出力の10 Hz~100 Hz でのrms ノイズ概略値は、

数式 6.

ノイズ・スペクトル密度の測定値は、LDO がフル帯域幅で動作するためには十分大きいが、大きな自己発熱が発生しない負荷電流で取得しています。最大出力電流が1 A 以下の大部分のLDO の場合、10 mA は十分な値です。

図 8.出力電圧対ノイズ・スペクトル密度のプロット (ADP223)
図 8.出力電圧対ノイズ・スペクトル密度のプロット (ADP223)

LDO ノイズ仕様の比較


rms ノイズは1 つの値として表されるため、様々なLDO の性能を比較する際に便利ですが、比較されるLDO のノイズ規定値が同じテスト条件下で規定されることが重要です。

例えば、1.2 V 出力 ADP223 のrms ノイズは10 Hz~100 kHzで約27.7 μV rmsです。ノイズ帯域幅を100 Hz~100 kHzに狭めると、rms ノイズは約26.2 μV rmsに減少します。rms ノイズは低下します。これは、10 Hz~100 Hz 範囲での8.9 μV rms のノイズはノイズ測定値に含まれなくなるためです。

数式 7.

また、注目するLDO のすべてのノイズ削減機能に注意を払うことも重要です。ノイズ削減のために外付けコンデンサを必要とするLDO では、コンデンサなしではノイズが100 倍になることがあります。フットプリントが小さく、かつコストが重要となるアプリケーションでは、外付けノイズ削減コンデンサが不要ですが、コンデンサを必要とするLDO より少しノイズが多いLDO をPCB 面積とコストの節約のために選択することができます。

LDOのPSRR

LDO のPSRR は固有ノイズと混同されることがあります。簡単に言えば、PSRR は回路が電源入力の余分な信号 (ノイズとリップル)をどの程度抑圧または除去し、これら不要な信号で出力回路が壊されないようにするかを表します。回路のPSRR は次のように定義されます。

数式 8.

ここで、VEIN とVEOUT はそれぞれ入力と出力に現れる余分な信号です。

ADC、DAC、アンプのような回路の場合、このPSRR は問題の回路の内部動作に電源を供給する入力に適用します。LDO の場合、入力電源ピンから安定化出力電圧と内部回路に電源を供給します。


周波数の関数としてのPSRR


PSRRは周波数に依存するため、1 つの値で定義されません。図1 に、リファレンス電圧、誤差アンプ、パワー・パス・エレメント(例えばMOSFETやバイポーラ・トランジスタ)から構成されるLDOを示します。誤差 アンプは、出力電圧を安定化するDCゲインを提供します。誤差アンプの主にAC ゲイン特性により、LDOのPSRRが決定されます。一般的なLDOは、10 HzでPSRRが最大80 dBになることがありますが、数十KHzでPSRRが最小20 dBまで低下することがあります。

誤差アンプのゲイン帯域幅とPSRR との関係を図9 に示します。この例は、出力コンデンサとパス・エレメントの寄生を無視した大幅に簡略化したケースです。

図 9.簡略化した LDO のゲインとPSRR の周波数特性
図 9.簡略化した LDO のゲインとPSRR の周波数特性

PSRR は、ゲインのロールオフが3 kHz で開始されるまで、60 dBオープン・ループ・ゲインの逆数に等しくなります。PSRR は20 dB/ディケードのレートで減少し、3 MHz でPSRR は0 dB になります。これより高い周波数ではこの値を維持します。

図10 に示すPSRR プロットに、LDOのPSRRを特徴づける 3 つのメイン周波数領域 (リファレンス PSRR 領域、オープン・ループ・ゲイン領域、出力コンデンサ領域)を示します。

図 10.代表的なLDO PSRR の周波数特性
図 10.代表的なLDO PSRR の周波数特性

リファレンス PSRR 領域は、リファレンス・アンプのPSRR とLDO オープン・ループ・ゲインに依存します。理論的には、リファレンス・アンプは電源変動から完全に分離されています。実際には、最大数十Hz までの電源ノイズを除去することだけがリファレンスに要求されます。これは、誤差アンプ帰還により低い周波数で高いPSRR が保証されるためです。

10 Hz 以上では、2 番目の領域のPSRR はLDO のオープン・ループ・ゲインにより支配されます。この領域の PSRR は、ユニティ・ゲイン周波数まで誤差アンプ・ゲイン帯域幅の関数になります。低い周波数では、誤差アンプのAC ゲインは DC ゲインに一致し、3 dB ロールオフ周波数に到達するまで一定です。3 dB ロールオフ・ポイントより上の周波数では、誤差アンプのAC ゲインは周波数と共に20 dB/ディケード(typ)のレートで減少します。

誤差アンプのユニティ・ゲイン周波数より上では、制御ループの帰還はPSRR に影響を与えなくなります。PSRR は、出力コンデンサおよび入力電圧と出力電圧の間の寄生により決定されます。出力コンデンサの ESR、ESL、ボード・レイアウトは、これらの周波数でPSRR に大きな影響を与えます。高い周波数での共振の影響を小さくするためレイアウトを注意深く行うことが不可欠です。


負荷電流の関数としてのPSRR


周波数の関数としてのPSRR のセクションで示したように、LDO のPSRR は誤差アンプ帰還ループのゲイン帯域幅に依存します。このループのゲインに影響を与えるものはすべて、LDOのPSRR に影響を与えます。負荷電流は2 つの方法でPSRR に影響を与えます。

一般に50 mA 以下の軽い負荷電流で、パス・エレメントの出力インピーダンスは高くなります。 LDO 出力は、制御ループの負帰還により理想電流源に見えます。 出力コンデンサとパス・エレメントにより形成される極のため、出力インピーダンスが比較的低い周波数で生じて、低い周波数でPSRR が大きくなる傾向があります。また、低い電流で出力ステージのDC ゲイが高いことによって、誤差アンプのユニティ・ゲイン・ポイントより下の周波数でPSRR が大きくなる傾向があります。

重い負荷電流では、LDO 出力は理想電流源から離れて見えるようになり、パス・エレメントの出力インピーダンスが比較的低く、このため出力ステージのゲインが小さくなります。出力ステージのゲイン低下により、DCから帰還ループのユニティ・ゲイン周波数の間でPSRRが減少します。 図11 に、負荷電流の関数としてDC ゲインが減少する様子を示します。100 mA~200 mAで、ADP151 のDC ゲインは 20 dB以上減少します。

図 11.LDOの負荷電流対 PSRR (typ)―ADP151
図 11.LDOの負荷電流対 PSRR (typ)―ADP151

出力の極の周波数が高くなるので、出力ステージの帯域幅は広くなります。高い周波数でループ帯域幅が大きくなるため、PSSR が大きくならなければならないように見えます。実際には、全体のループ・ゲインが減少するため高い周波数 PSRR が改善されません。一般に、PSRR は重い負荷の場合より軽い負荷での方が優れています。


LDOヘッドルームの関数としてのPSRR


LDOのPSRRは、入力電圧と出力電圧との間の電位差すなわちヘッドルームの関数でもあります。固定ヘッドルーム電圧の場合、負荷電流が増加するとPSRRは減少します。これは、負荷電流が大きく、かつヘッドルーム電圧が小さいときに顕著です。 図12に、2.8 V 出力 ADP151 の500 mVでの PSRRと、 200 mA負荷で1Vヘッドルームのときの PSRRの差を示します。

図 12.LDO のヘッドルーム対PSRR (typ)―ADP151
図 12.LDO のヘッドルーム対PSRR (typ)―ADP151

飽和から抜け出して、負荷電流の増加と共に三極管動作領域に入ると、パス・エレメント (ADP151 の場合PMOSFET) のゲインは減少します。このため、LDOの全体ループ・ゲインが減少して、PSRRが小さくなります。ヘッドルームが小さくなるほど、ゲインの低下が大きくなります。ある小さいヘッドルーム電圧で、制御ループ・ゲインがまったくなくなり、PSRRはゼロになります。

ループ・ゲインを小さくするもう一つのファクタは、パス・エレメントの抵抗RDSONがゼロでないことです。RDSON には、MOSFETのオン抵抗、内部接続抵抗、ワイヤー・ボンディングが含まれます。RDSON はLDOのドロップアウト電圧から計算されます。例えば、WLCSPでのADP151 は、200 mA 負荷で最悪ケースのドロップアウト電圧は 200 mVです。これは、RDSONが約1.0Ωであることを意味します。 図13 に、パス・エレメントの簡略化した回路図とRDSONを示します。

図 13.簡略化した LDO とパス・エレメントの抵抗
図 13.簡略化した LDO とパス・エレメントの抵抗

負荷電流によるRDSON の電圧降下は、パス・エレメントのアクティブ部分のヘッドルームを減少させます。例えば、パス・エレメントが1 Ω デバイスの場合、200 mA の負荷電流によりヘッドルームが200 mV 狭くなります。 LDO が1 V 以下のヘッドルーム電圧で動作する場合、LDO PSRR を計算する際に、この電圧降下を考慮する必要があります。

PSRRの改善

与えられた負荷電流に対して、LDO のPSRR を次の方法で改善することができます。

  • 少なくとも1 V のヘッドルームでLDOを動作させます。ADP151 のようにLDOによっては、最小 500 mVで動作することもあります。
  • 予想負荷より少なくとも1.5 倍の最大負荷電流定格を持つLDO を使います。
  • LDO の入力または出力に外付けフィルタを接続します。
  • 十分なヘッドルームがない場合、2 個以上のLDO をカスケード接続します。

PSRRを大きくする外付けフィルタの追加


外部フィルタを追加すると、LDO 回路のPSRR を大幅に改善することができますが、回路が複雑になり、ヘッドルームと効率が小さくなります。アプリケーションに応じて、LDO の入力 (プリフィルタ) または出力 (ポストフィルタ) へフィルタを追加することができます。

ポストフィルタは、LDO出力に大きな低周波ノイズが存在する場合に使用されます。ポストフィルタは、ADP151 のような現代の低ノイズ LDOでは不要になりました。ポストフィルタの欠点は、フィルタ・インダクタの抵抗のために負荷レギュレーション誤差が増えることです。

プリフィルタの追加は、スイッチング・コンバータの出力電圧リップルのような高周波ノイズを除去する必要があるときに望まれます。また、負荷レギュレーションに影響を与えないためにも望まれます。

図14 に、プリフィルタとポストフィルタを使用したLDO 回路を示しますが、外付けフィルタを1 個使用することが一般的です。

図 14. 外付けのプリフィルタとポストフィルタを使用したLDO
図 14. 外付けのプリフィルタとポストフィルタを使用したLDO

主なフィルタ部品は LF と CF で、これによりフィルタのコーナー周波数が決定されます。CD とRDは、LFとCFの共振を制動します。 CIN とCOUT はLDO に使用される代表的な入力コンデンサと出力コンデンサですが、CINは必須ではありません。

次式を使って、CF、LF、CD、RD の値を求めることができます。

数式 9-11

例えば、スイッチング・コンバータの1 MHz リップルを少なくとも30 dB 小さくするとします。コーナー周波数は、100 kHz~200 kHz の範囲に設定することが妥当です。

CF = 1μF かつLF = 1μH とすると、式 9 からfC = 160 kHz。式 10 から、CD = 10 μF、さらに式 11 から、RD = 1 Ω。

図15 に、このフィルタ例の応答を示します。1 MHz での減衰量は約33 dBで、最大ピーキングは81 kHz で約 0.7 dB です。

図 15.応答 of the 例リップル・フィルタ
図 15.リップル・フィルタ例の応答

ヘッドルームの減少を小さくするため、ポストフィルタの場合は負荷レギュレーション誤差を小さくするため、インダクタ LFのDC 抵抗を小さくする必要があります。また、インダクタの飽和電流も少なくとも回路の最大予想負荷電流までの大きくする必要があります。

PSRRを大きくするためのLDOのカスケード接続

十分なヘッドルームを持つアプリケーションでは、ADP151 のようなLDOをカスケード接続すると、PSRRを大幅に改善すると同時にADP151 の低出力ノイズ特性を維持することができます。図16 に、LDOを2 個カスケード接続した回路図を示します。バイパス・コンデンサCIN、COUT、COは、ADP151 データ・シートの推奨値で、この場合は1 μFです。

図 16.LDO のカスケード接続
図 16.LDO のカスケード接続

LDO1 の出力は、LDO2 のヘッドルームが少なくとも500 mVになるように選択します。最適な結果を得るために、LDO1 のヘッドルームも少なくとも500 mVになるようにします。 図17 に、1 個の 1.8 V ADP151 のPSRRとカスケード接続された2 個のADP151 のPSRR との比較を示します。両ケースとも、負荷電流とヘッドルームは、それぞれ200 mAと1 Vです。図17 から、2個のLDOをカスケード接続すると、広い周波数範囲でPSRRが最大30 dB改善されることが判ります。

図 17. 1 個の LDO とカスケード接続したLDO のPSRR
図 17. 1 個の LDO とカスケード接続したLDO のPSRR

LDOのPSRR 仕様の比較


LDO のPSRR 仕様を比較するときは、測定が同じテスト条件で行われていることを確認してください。多くの旧型LDO では、PSRR を120 Hz または1 kHz で規定するだけで、ヘッドルーム電圧または負荷電流について規定していません。少なくとも、電気的仕様の表で幾つかの周波数でPSRR を規定する必要があります。理想的には、様々な負荷とヘッドルーム電圧でのPSRRの代表的特性プロットを使って意味のある比較を行う必要があります。

また、出力コンデンサも高い周波数でLDO のPSRR に影響を与えます。例えば、1 μF のコンデンサは10 μF のコンデンサの10倍のインピーダンスになります。コンデンサ値は、誤差アンプの0 dB クロスオーバー周波数より上の周波数で特に重要 です。この部分では電源ノイズの減衰量は出力容量の関数になります。PSRR の値を比較する際、比較が有効であるためには、出力コンデンサが同じタイプと値である必要があります。

LDO の総合 ノイズ

固有ノイズとPSRR は、LDO の総合出力ノイズの成分になります。アプリケーションに応じて、固有ノイズ成分、PSRR、いずれか一方、または両方が重要になります。PSRR と内部発生ノイズがアプリケーションの全体性能に影響を与える場合、ノイズに対して1 つの数値を適用することはできません。

代表的なアプリケーションは、RF のPLL に電源を供給するスイッチング・コンバータです。スイッチング・コンバータのリップルを減衰させるため、出力をLDO でレギュレーションします。LDO の固有ノイズにより、PLL の電源が少し変調されるため、PLL 出力に位相ノイズが発生します。PLL の位相ノイズは、電源電圧の関数としてのVCO 周波数シフトにより発生します。これはΔf/ΔV で表され、VCO のゲイン・プッシュと呼ばれることがあります。

LDO のPSRR により、LDO のユニティ・ゲイン周波数までのスイッチング・コンバータ・ノイズ が削減されます。LDO のユニティ・ゲイン周波数を超えると、スイッチング・コンバータ・ノイズはLDO 出力コンデンサか、またはLDO の後ろの受動フィルタにより減衰させられます。減衰が不十分なスイッチング・コンバータ周波数の高調波は、PLL 周波数の両側にスプリアスとして現れます。

まとめ

一般にLDO ノイズは、固有すなわち内部発生ノイズと、非固有すなわち外部発生ノイズの2 つの成分から構成されています。

熱 ノイズと1/f ノイズ は内部発生ノイズの主な成分で、LDO のデザインと半導体技術 の関数になります。

非固有ノイズには多くのソースがありますが、最も一般的なのは、LDO の入力電源に存在するノイズです。

LDO は優れたライン・レギュレーションと負荷レギュレーションを確保するために高いゲインを持っているので、入力電源からのノイズとリップルを減衰させることができます。この機能が、 LDO のPSRR と呼ばれています。LDO は有限の帯域幅を持つため、LDO のPSRR は 周波数の関数として減少します。LDOの帯域幅を超えるノイズは減衰されないため、受動フィルタ部品で削減することができます。

著者

Glen-Morita

Glenn Morita

Glenn Moritaはワシントン州立大学で学士号を取得して1976年に卒業しました。卒業後はTexas Instruments社に入社し、最初の仕事として、ボイジャー計画で使用される宇宙探査用の赤外線分光装置に関する業務に携わりました。それ以来、計測、防衛、宇宙、医療の分野で設計技術者として働いてきました。2007年にはADIに入社し、ワシントン州ベルビューにある電力管理製品チームでアプリケーション・エンジニアとして活動しています。μWからkWのレベルのリニア・レギュレータ、スイッチング・レギュレータを25年以上にわたって設計してきました。体温を対象としたエネルギー・ハーべストに関する特許を2件保有しています。それらは、エネルギー・ハーベストを体内植え込み型除細動器の電源として使用するための技術に関するものです。そのほかにも、体外式除細動器において電池の寿命を延伸するための特許も保有しています。プライベートでは、鉱物の収集、宝石の加工、写真撮影、国立公園巡りを楽しんでいます。