ADALM2000による実習:2軸の傾きセンサー

目的

今回は、3軸対応の加速度センサー「ADXL327」を使用して簡単な傾きセンサーを構成します。その上で、アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」を使用し、X軸とY軸の傾きによって出力電圧がどのように変化するのかを確認してみます。

ADXL327を使用した傾きセンサー

まずは、傾きセンサーとADXL327の概要について説明します。その上で、実際に傾きセンサーを構成してみましょう。

背景

傾きセンサーは、各軸に対する基準面の傾きを測定するために使用されます。傾きセンサーが出力するのは、各軸に対する傾斜角に比例した電気信号です。重力を基準とした測定により、向きや傾きを簡単に検出することができます。

この実習では、ADXL327を使用して、2軸(X軸とY軸)に対する傾きを検出する回路を構成します。図1に、同ICの機能ブロック図を示しました。

図1. ADXL327の機能ブロック図
図1. ADXL327の機能ブロック図

ADXL327は3軸に対応可能な加速度センサーであり、小型、低消費電力であることを特徴とします。測定に必要なあらゆる機能を内蔵しているので、シグナル・コンディショニング済みの電圧出力が得られます。傾きを検出するアプリケーションでは、重力の静的加速度に加え、動き、衝撃、振動に起因する動的加速度を測定することができます。同ICの出力信号は、加速度の大きさに比例するアナログ電圧です。単一の構造によってX/Y/Z軸に対応した測定が行われます。3軸の検出方向はほぼ直角であり、交差軸感度はほとんど存在しません。

図2. 加速度センサーと各軸の関係
図2. 加速度センサーと各軸の関係

準備するもの


  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 加速度センサー:ADXL327(1 個)
  • コンデンサ:0.047µF(2 個)、0.1µF(1 個)
  • コンパレータ:「AD8561」(2 個)
  • LED:4 個
  • 抵抗:100kΩ(4 個)

ハードウェアの設定

傾きセンサーは、図1に示したブロック図の構成で実現できます。ADXL327の電源ピンの近くにはコンデンサCDCを配置しています。同コンデンサは、加速度センサーを電源ノイズから適切に隔離する役割を果たします。ほとんどのアプリケーションでは、0.1µFのコンデンサを1個使用すればよいでしょう。また、XOUTピンとYOUTピンにもコンデンサを付加しています(ZOUTピンは今回は不使用)。これは、エイリアスとノイズを低減するためのローパス・フィルタの役割を果たします。これらのコンデンサの値について、詳しくはADXL327のデータシートを参照してください。ここでは、0.047µFのコンデンサを使用することにします。この回路をブレッドボード上に実装してください(図3)。

図3. 図1の回路を実装したブレッドボード
図3. 図1の回路を実装したブレッドボード

手順

正の電源(3V)を投入し、オシロスコープのチャンネル1でXOUT、チャンネル2でYOUTの出力を観測します。ADXL327の場合、ゼロgバイアスの公称出力値は、すべての電源電圧VSに対してVS/2です。この例の場合、初期状態として約1.5Vのオフセット信号が観測されるはずです(図4)。ここで、ブレッドボードをX軸またはY軸に対して様々な角度で傾けてください。すると、検出された傾きに比例して出力電圧が増減するはずです。

LEDをインジケータとして付加する

続いて、図1の傾きセンサーにインジケータとしてLEDを追加してみましょう。

背景

上の例では、オシロスコープでADXL327の出力電圧を観測しました。ここでは、図1の回路にコンパレータ「AD8561」とLEDを追加することにします。それにより、傾斜角が変化したり振動を検知したりした際、傾きセンサーから光信号が出力されるようになります。この例では、各軸に対して1個のAD8561を使用します。ゼロgバイアスにおける出力は、両方の軸についてほぼ同じ値になります。それらと同等の値を両コンパレータのリファレンスとして入力します。その上で、各コンパレータの2つの出力にLEDを1個ずつ接続してください。1つのコンパレータからの2つの出力信号は、互いに逆の状態になります。したがって、一度に1つのLEDしか点灯しません。

図4. ゼロgバイアスにおける出力電圧
図4. ゼロgバイアスにおける出力電圧

ハードウェアの設定

ソルダーレス・ブレッドボード上で、加速度センサーの各出力に2個のコンパレータを追加します。各コンパレータには、2個のLEDと電流制限抵抗を追加してください。その回路図を図5、ブレッドボードを図6に示しました。

図5. LEDを付加した傾きセンサーの回路図
図5. LEDを付加した傾きセンサーの回路図
図6. 図5の回路を実装したブレッドボード
図6. 図5の回路を実装したブレッドボード

手順

2つのコンパレータは±5Vの電源を必要とします。そこで、ADALM2000の電源V+とV-をそれぞれ5Vと-5Vに設定します。また、任意波形ジェネレータ(AWG1)は出力チャンネル1(W1)から3Vの一定の信号が生成されるように設定します。この信号はADXL327のVSとして使用します。一方、AWG1の出力のチャンネル2(W2)は、コンパレータのリファレンス入力を生成するために使用します。その値は、ゼロgバイアスの出力とほぼ同じ値に設定する必要があります。加速度センサーがゼロgバイアスの場合に出力する値は、図4に示したとおりです。以上で設定は完了です。このような状態でブレッドボードを様々な角度に傾けます。そうすると、傾斜角の変化が検出されて加速度センサーの出力電圧が変化するたびに、コンパレータの出力も変化します。それに応じてLEDが点灯します。ADALM2000のオシロスコープ機能は2つのチャンネルしか備えていません。そのため、それぞれによって観測できるのは、加速度センサーの1つの出力電圧だけです。それに対し、LEDと使うことで、X軸とY軸の両方の変化を点灯によって把握することができます。XOUTにはオシロスコープのチャンネル1、W2によって生成されるリファレンス電圧にはオシロスコープのチャンネル2を接続してください。

図7. ゼロgバイアスにおけるXOUTとリファレンスの測定結果
図7. ゼロgバイアスにおけるXOUTとリファレンスの測定結果

ブレッドボードをX軸に対して右側に傾けると、コンパレータの入力電圧がリファレンス電圧よりも低くなります。それにより、コンパレータの/OUTピンの出力がハイになり、それに対応するLEDが点灯します。

図8. ブレッドボードをX軸に対して右側に傾けた場合の結果
図8. ブレッドボードをX軸に対して右側に傾けた場合の結果

ブレッドボードをX軸に対して左側に傾けると、コンパレータの入力電圧がリファレンス電圧よりも高くなります。それにより、コンパレータのOUTピンがハイになり、同ピンに接続されている方のLEDが点灯します。

図9. ブレッドボードをX軸に対して左側に傾けた場合の結果
図9. ブレッドボードをX軸に対して左側に傾けた場合の結果

問題1

コンデンサCDCの値を変更すると、回路の動作にはどのような影響が出ますか。

問題2

なぜ、回路を設計する際には帯域幅を制限しなければならないのでしょうか。また、XOUT、YOUT、ZOUTのそれぞれに対する帯域制限の条件について説明してください。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Andreea Pop

Andreea Pop

Andreea Popは、アナログ・デバイセズのシステム設計/アーキテクチャ・エンジニアです。2019年より現職。クルジュナポカ工科大学で電子工学と通信工学の学士号を取得しています。また、同校でIC/システムに関する修士課程を修了しました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。