ウィーン・ブリッジ発振器の解析と構築【Part 2】実用的な実装

はじめに

前回(Part 1)は、ウィーン・ブリッジ発振器の歴史や動作原理について説明しました。その上で、理想的な回路素子を用いたシミュレーションについて検討しました。今回(Part 2)は、より実用的なウィーン・ブリッジ発振器の例を取り上げて解析を実施します。続いて実際に回路を構築し、その動作を確認してみます。更に、大幅に高い性能が得られる代替回路を実装して評価を実施します。

なお、本稿の内容に即したプリント回路基板の設計ファイルも提供しています。それを使用すれば、記事を読み進めながら自身で回路を構築することが可能です。

制御に白熱電球を使用すべきか?

Part 1では、白熱電球(ランプ)をゲイン制御素子として使用するウィーン・ブリッジ発振器を紹介しました。その方法でも確かに回路は機能します。しかし、どのような電球を選んでも適切な動作が得られるというわけではありません。したがって、使用する電球は慎重に選択する必要があります。そこで、今回はより簡単に実装できる実用的な回路の例を紹介することにします。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000(M2K)
    • ADALM2000を使用しない場合には、2チャンネルのオシロスコープ、信号発生器、ネットワーク・アナライザ、±5Vのバイポーラ・トラッキング電源を用意
  • アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれるコンポーネント
    • ソルダーレス・ブレッドボード
    • ジャンパ線キット
    • コンデンサ:10nF(2個)、1μF(2個)
    • 抵抗:10kΩ(3個)、4.7kΩ(2個)
    • ポテンショメータ:5kΩ(単回転型、1個)
    • シリコン・ダイオード:「1N4148」(2個)

なお、本稿の実習内容に即したプリント回路基板を製作するための設計ファイルと、「LTspice®」によるシミュレーション用のファイルも用意してあります。必要に応じ「Wien Bridge PCB filesand LTspice files(ウィーン・ブリッジ発振器のプリント回路基板の設計ファイルとLTspiceのファイル)」から入手してください。

実用的かつ完全なウィーン・ブリッジ発振器

まず、アンプ回路のゲインを穏やかに制御するために、逆並列の形で接続したダイオードを使用する方法を取り上げることにします。その完全な(かつ実用的な)ウィーン・ブリッジ発振器の回路図を図1として示しました。Part 1で紹介した回路では、アンプ回路の入力抵抗として白熱電球(印加する電圧に応じて実効的な抵抗値が増加)を使用していました。それに対し、図1の回路では、印加する電圧に伴い実効的な抵抗値が減少するダイオードによって帰還抵抗の一部をシャントするようにしています。ダイオードの存在を無視すると、アンプ回路のゲインは1 + (10k +4.7k)/(4.7k + 2k)で決まります。つまり、その値は約3.19になります(理想的なウィーン・ブリッジ発振器では、発振を維持するために3.0のゲインが必要になることを思い出してください)。しかし、ダイオードD1、D2の両端の電圧が約600mVに近づくと、D1、D2、抵抗R2から成る並列抵抗の値が小さくなり、アンプ回路のゲインが低下します。

図1. 完全かつ実用的なウィーン・ブリッジ発振器
図1. 完全かつ実用的なウィーン・ブリッジ発振器

LTspiceでwien_bridge_osc_complete.ascというファイルを開き、シミュレーションを実行してみてください。その結果(回路の出力電圧)は、図2のようになるはずです。図1のV3(キック回路)は、シミュレーションの開始直後に0.1V、5ミリ秒のパルスをブリッジ回路に印加します。シミュレーションを実行するためには、このキック回路が必須だというわけではありません。しかし、この回路を使用することによって、シミュレーションが定常状態に到達するまでの時間を大幅に短縮できます。キック回路を使わなくても、シミュレーションを実行すると信号の変動が発生し、最終的には発振動作が得られます。ただ、モデルに含まれるアンプのオフセットが小さいことから、大幅な遅延が生じる可能性があります。この起動時間の長さは現実のアプリケーションでも懸念事項になり得ます。したがって、論理ゲートで構成したパルス・ジェネレータなど、V3と同様に機能する回路の使用を検討するべきです。シミュレーションを実行する際には、vkickを様々な値(ゼロを含む)に変更してみてください。

図2. 図1の回路のシミュレーション結果
図2. 図1の回路のシミュレーション結果

次に、図1の回路をブレッド・ボード上に実装します。つまり、図3に示すような回路を構成します。

図3. 図1の回路を実装したブレッド・ボード
図3. 図1の回路を実装したブレッド・ボード

この回路では、R5としてポテンショメータを使用しています。これを使うことにより、発振が開始するように回路のゲインを調整することができます。回路の出力信号は、ソフトウェア・ツール「Scopy」のオシロスコープ機能を使って観測します。垂直軸は1V/div、水平軸(時間軸)は200マイクロ秒/divに設定してください。それにより図4のような結果が得られるはずです。

図4. 図3の回路の出力信号
図4. 図3の回路の出力信号

図4を見ると、「きれい」な正弦波が出力されているようです。ただ、実際にはどのようなレベルで「きれい」なのでしょうか。時間領域の信号(オシロスコープのトレース)を目視して、歪みを検出するのはほぼ不可能なはずです。実際、完璧な正弦波と比較したとしても、1%未満の歪みを目視で確認するのは難しいでしょう。低レベルの歪み成分の存在を適切に分析するには、フーリエ変換を利用する必要があります。フーリエ変換はScopyのスペクトラム・アナライザ機能を使用することで実行できます。そこで同機能の画面を開き、「Start frequency」を0kHz、「Stop frequency」を20kHz、「Top」を0dB、「Bottom」を-120dBに設定してください。ここからが重要なのですが、まず「Channel 1」の設定をクリックし、「Blackman-Harris window」を選択してください。また、「Gain Mode」を「High」に設定しましょう。

ここで1つ注意すべきことがあります。

ADALM2000の入力範囲は±2.5Vまたは±25Vです。オシロスコープ機能を使う場合、その入力範囲は垂直方向のゲインを調整すると自動的に選択されます。ただ、スペクトラム・アナライザ機能ではそのようにはなりません。例として、ウィーン・ブリッジ発振器の出力が±2.5Vを超えるレベルまでゲインを増大させるケースを考えます。その場合、「Gain Mode」を「Low」に設定してクリッピングを回避しなければなりません。クリッピングが生じたとしても何かが損傷することはありませんが、出力信号に過剰なレベルの歪みが発生した状態になります。

以上のようにして設定が完了したところで、スペクトラム・アナライザ機能によってウィーン・ブリッジ発振器の出力を観察してみましょう。すると、図5に示すような結果が得られるはずです。

図5. ウィーン・ブリッジ発振器の出力スペクトル。ダイオードを用いたクランプ回路によって振幅を制御した場合の結果です。
図5. ウィーン・ブリッジ発振器の出力スペクトル。ダイオードを用いたクランプ回路によって振幅を制御した場合の結果です。

ダイオードを用いたクランプ回路によってゲインを制限するのは簡単です。しかし、この方法によって出力信号の歪みを約-40dB(約1%)以下に抑えるのは難しいでしょう。

問題1

ゲイン制御素子と歪みの間にはどのような関係がありますか。

問題2

ショットキー・ダイオードでは、順方向の電圧降下がシリコン・ダイオードと比べて小さくなります。ダイオードを用いたクランプ回路において、一方のシリコン・ダイオードをショットキー・ダイオードに置き換えると、歪み成分(高調波)はどのようになりますか。

歪みを大幅に抑えられる回路

ここで、Part 1の図1の回路をもう一度確認してみてください。ここでは、その回路を改変した例を紹介します(図6)。#327の白熱電球は、28Vを使用する表示ランプです。低温時の抵抗値は約130Ω、高温時の抵抗値は約650Ωになります。この白熱電球の特性は、LTspiceで使用できるようにモデル化することが可能です。簡単に言えば、消費電力の関数によって抵抗値が決まるモデルを作成すればよいということになります。ただ、実際の抵抗値は瞬時に変化することはありません。したがって、その点を考慮したモデル化が必要です。出力される正弦波の振幅は、ゼロから最大値に達し、再びゼロに戻り、負の最大値に向かって変化していきます。もし、瞬時に抵抗値が変化するとしたら、正弦波の振幅に連動してアンプのゲインも変化してしまいます。その結果、出力波形に歪みが生じることになります。これは、決して求めている結果ではありません。

図6に示した回路の動作は、電球の熱時定数が、出力される正弦波の半周期よりはるかに長いことを前提としています。では、なぜこのような前提を設けているのでしょうか。電圧V、抵抗rで消費される電力は、V2/rで決まります。そのため、出力信号が正と負のうちどちらに振れていても消費電力は正の値になります。ここでは、抵抗値の変化にかかる時間をモデル化するために、白熱電球の消費電力を電流に変換することにしました。その電流により、抵抗R100とコンデンサC100を並列に接続した回路を駆動します。この場合の時定数は50ミリ秒になります。これは1.59kHzの正弦波の1周期である628マイクロ秒よりもはるかに長い時間です。したがって、白熱電球の抵抗値は、何周期にもわたる平均消費電力に依存することになります。

wien_bridge_osc_experimenter.ascというシミュレーション用のファイルを開くと、図6に示した回路図が表示されます。なお、このシミュレーション用のファイルはプリント回路基板の設計ファイルのフォルダ内に配置されています。

図6. 白熱電球のモデルによって振幅を制御する回路。LTspiceによるシミュレーションに使用します。
図6. 白熱電球のモデルによって振幅を制御する回路。LTspiceによるシミュレーションに使用します。

出力をプロービングするように設定し、上記のファイルのシミュレーションを実行します。すると、図7に示すような結果が得られるはずです。

図7. LTspiceによるシミュレーション結果。図6の回路の出力信号を表しています。
図7. LTspiceによるシミュレーション結果。図6の回路の出力信号を表しています。

これを見ると、最初に過渡的な状態が生じていることがわかります。この期間、回路は発振を維持するために最適な振幅を見いだそうとしているのだと考えればよいでしょう。この回路は、図3に示したのと同様にブレッド・ボード上に実装しても構いません。ただ、もう少し信頼性が高く永続的なものを使用したいなら、プリント回路基板を使用して実装するとよいでしょう。図8の下側に示したのがプリント回路基板によって構築したボードです。図8は、このボードにADALM2000を接続した様子を表しています。

図8. プリント回路基板を使用して実装したウィーン・ブリッジ発振器のボード
図8. プリント回路基板を使用して実装したウィーン・ブリッジ発振器のボード

図9に示したのは、上記のボードの出力スペクトルです。3次高調波が-60dB(つまり0.01%)以下に抑えられている点に注目してください。これは、ダイオードによるクランプ回路を使用した場合に達成可能な値の1/10程度に相当します。実は、これはADALM2000の測定限界(distortion floor)よりも低い値です。測定器の性能は、評価の対象となるデバイスの性能よりも4~10倍(必要な値は状況によって異なる)優れているべきです。この原則と照らし合わせれば、ADALM2000によって図8の回路を評価するのは不適切であることがわかります。この回路の歪みを正確に測定するための唯一の選択肢は、より優れた計測器を使用することです。

図9. 図8のボードを使用して取得した出力スペクトル
図9. 図8のボードを使用して取得した出力スペクトル

まとめ

Part 1では、ウィーン・ブリッジ発振器の歴史や動作原理について解説しました。それを踏まえて、Part 2ではより実用的な回路や性能を大幅に改善した回路について詳細に検討しました。更に、実際に回路を構築して動作を確認することで、この発振器に関する理解を深めました。ここまでの過程により、動作を完全に理解した高性能の発振器が手に入ったことになります。では、この発振器はどのように活用すればよいのでしょうか。それは、古いクッキーの缶を小物入れに転用するようなものです。しゃれたノブとジャンク箱の中にある電源スイッチを探し出して取り付ければ、友人や家族、同僚を驚かせるユニークな試験装置を構築できるはずです。

問題3

オーディオ帯域を対象とした最先端の歪み測定器としてはどのようなものがありますか。

問題4

据え置き型の最先端の歪みアナライザを購入する余裕がない場合、他の選択肢としてどのようなものを利用できますか(Part 1で紹介したビデオがヒントになります)。

答えはStudentZoneで確認できます。

参考資料

Bill Hewlett「A New Type Resistance-Capacity Oscillator(新型の抵抗‐容量発振器)」(修士論文)、kennethkuhn.com、2020年5月

U.S. Patent 2,268,872: Variable Frequency Oscillation Generator(可変周波数発振器)

Using Lamps for Stabilizing Oscillators(ランプを使用して発振器の安定化を図る)」Tronola、2011年10月

Wien Bridge Oscillator(ウィーン・ブリッジ発振器)、Wikipedia

Jim Williams「Application Note 43: Bridge Circuits -Marrying Gain and Balance(アプリケーション・ノート43:ブリッジ回路 - ゲインとバランスの調和)」Linear Technology、1990年6月.

Jim Williams「Thank You, Bill Hewlett(Bill Hewlettさん、ありがとう)」EDN Magazine、2001年2月

Jim Williams、Guy Hoover「Application Note 132: Fidelity Testing for A-D Converters(アプリケーション・ノート132:A/Dコンバータの忠実度のテスト)」Linear Technology、2011年2月

リソース

ウィーン・ブリッジ発振器の検討に用いるLTspiceのファイル

ウィーン・ブリッジ発振器のプリント回路基板の設計ファイルとLTspiceのファイル

謝辞

この演習は、「ASEE 2021」において「EE Freshman Practicum(フレッシュマン向けの電気工学の実習)」の著者であるRobert Bowman氏(博士)と共同で実施したワークショップに着想を得たものです。ワークショップ全体のビデオはYouTubeでご覧いただけます。

著者

Mark Thoren

Mark Thoren

Mark Thorenは、アナログ・デバイセズのプリンシパル・エンベデッド・システム・アーキテクトです。ソフトウェア/デジタル・プラットフォーム・グループに所属。システム・エンジニアとして、多様な製品で使用されるハードウェアやソフトウェアを顧客中心の考え方に基づいて開発しています。2001年に高精度データ・コンバータをサポートするアプリケーション・エンジニアとしてLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)に入社。以降、ミックスド・シグナル・アプリケーションを対象とした評価用システムの開発、トレーニング、技術資料の作成、カスタマ・サポートなど、様々な職務に携わっていました。メイン大学で生物資源工学の学士号と電気工学の修士号を取得しています。