アナログ・ダイアログの2017年12月号から、アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM1000」について紹介しています。今回も、引き続き同モジュールを使用して、小規模かつ基本的な測定を行う方法を説明します。ADALM1000に関する以前の記事は、こちらからご覧になれます。
それでは、実験を始めましょう。
目的
この実験では、RL直列回路の過渡応答について学びます。パルス信号を用いて時定数についての考え方を理解することを目標とします。
背景
今回の実験は、コンデンサをインダクタに置き換えたことを除けば、前回(トピック4:RC回路の過渡応答)の実験と同様です。今回は、RL回路にパルス信号を印加し、その回路の過渡応答を解析します。RL回路の時定数により、回路の応答であるパルスの幅にどのような影響が及ぶのかを明らかにします。
時定数τとは、RC回路やRL回路において、電圧や電流がある一定の値に達するまでに要する時間のことです。一般に、スイッチングが生じてから時定数の5倍(5τ) 以上の時間が経過したとき、電流と電圧は最終値に達します。この状態は定常応答とも呼ばれています。
RL回路の時定数は、等価インダクタの端子から見たときのテブナン抵抗の値で等価インダクタンスを割った値として求められます。
パルス信号というのは、あるレベルから別のレベルまで両方向に変化する電圧または電流のことです。波形において、高いレベルに保持される時間と低いレベルに保持される時間が等しい場合には、方形波と呼ばれます。その場合、パルスのサイクル(高いレベルと低いレベルの対)の長さを周期Tと呼びます。理想的な方形波のパルス幅tpは、周期Tの1/2になります。
パルス幅と周波数の関係は、次式によって表すことができます。
RC回路では、コンデンサの両端の電圧は時間と共に上昇しました。それに対し、RL回路ではインダクタの両端の電圧は時間と共に低下します。一方、RL回路における電流波形は、RC回路における電圧波形と同じような形になります。
すなわち、インダクタを流れる電流は、以下の式のようになり、指数関数的に最終値に向けて増加していきます。
ここで、Vはt = 0の時点で回路に印加される電源電圧です。応答曲線は、図3に示すように上昇します。
(時間軸はτ で正規化しています。)
インダクタの電流において、過渡的な成分については次式で表すことができます。
ここで、
I0はt = 0においてインダクタに流れる初期電流値、
L/R = τは時定数です。
応答曲線は、図4に示すように指数関数的に減少していきます。
ADALM1000を使えば、インダクタに流れる電流(ソースによって供給される電流)を直接測定することができます。そこで、その電流と抵抗の両端の電圧を測定して比較してみます。抵抗の電圧はVR = I × LRなので、インダクタに流れる電流と同様の波形になります。時定数τは、オシロスコープに表示される波形を基に測定することができ、τ = L/RTOTALになるはずです。
ここで、RTOTALは全抵抗成分であり、抵抗の値とインダクタの抵抗成分の和になります。
インダクタの抵抗成分は、実験を始める前に抵抗計によって測定します。
準備するもの
- ADALM1000
- 抵抗:220Ω
- インダクタ:20mH(10mHのインダクタを2本直列に接続)
手順
- ADALM1000の抵抗計ツールを使って、インダクタの抵抗成分と抵抗の合計値であるRTOTALを測定します。つまり、抵抗計ツールに、直列に接続したL1とR1を接続します。この場合、グラウンドを基準として抵抗値が測定される点に留意してください。
- R1 = 220Ω、L1 = 20mHとし、ソルダーレス・ブレッドボード上で図5に示す回路を構成します。その上で、「ALICE」のオシロスコープ・ソフトウェアを起動します。
- チャンネルAのAWG(任意信号発生器)の「Min」を0.5Vに設定し、「Max」を4.5Vに設定します。そして、2.5Vを中心値とする4Vp-pの方形波を入力電圧として回路に印加します。AWG Aの「Mode」ドロップダウン・メニューで「SVMI」モードを選択します。またAWG Aの「Shape」ドロップダウン・メニューで「Square」を選択します。さらに、AWG Bの「Mode」ドロップダウン・メニューでは「Hi-Z」モードを選択します。tp = 5τのときの周波数を式(2)を使って求めます。
- ALICEの 「Curves」ドロップダウン・メニューで、表示を行うために「CA-V」、「CA-I」、「CB-V」を選択します。また「Trigger」ドロップダウン・メニューで「CA-V」と「Auto Level」を選択します。約2サイクル分の方形波がグリッド上に表示されるように、時間のスケールを調節します。
この構成は、オシロスコープのチャンネルAによって回路の入力電圧とインダクタに流れる電流を観測し、チャンネルBによって回路の出力電圧を観測するというものです。「Sync AWG」セレクタがチェックされていることも確認してください。
- VRの波形はIL(t)の波形と同様の形状です。VRの波形から時定数τを測定し、L/RTOTALから求めた値と比較します(ヒント:0.63 × VRに対応する時間を調べます)。詳細については、「背景」の節に戻って確認してください。
- tp = 25τとtp = 0.5τの条件でも回路の応答を観測し、結果を記録します。
問題
- tpの値がそれぞれ2 τ、5 τ、1 0 τのときのILとVRをプロットしてください。
- コンデンサはエネルギーを蓄えます。では、インダクタは何を蓄えるのでしょうか。簡潔に答えてください。
答えはStudentZoneで確認できます。
注記
アクティブ・ラーニング・モジュールを使用する記事では、本稿と同様に、ADALM1000に対するコネクタの接続やハードウェアの設定を行う際、以下のような用語を使用することにします。まず、緑色の影が付いた長方形は、ADALM1000が備えるアナログI/Oのコネクタに対する接続を表します。アナログI /Oチャンネルのピンは「CA」または「CB」と呼びます。電圧を印加して電流の測定を行うための設定を行う場合には、「CA-V」のように「-V」を付加します。また、電流を印加して電圧を測定するための設定を行う場合には、「CA-I」のように「-I」を付加します。1つのチャンネルをハイ・インピーダンス・モードに設定して電圧の測定のみを行う場合、「CA-H」のように「-H」を付加して表します。
同様に、表示する波形についても、電圧の波形は「CA-V」と「CB-V」、電流の波形は「CA-I」と「CB-I」のように、チャンネル名とV( 電圧) 、I( 電流)を組み合わせて表します。
本稿の例では、ALICE(Active Learning Interface for Circuits and Electronics)の Rev 1.1 を使用しています。
同ツールのファイル(alice-desktop-1.1-setup.zip)は、こちらからダウンロードすることができます。
ALICEは、次のような機能を提供します。
- 電圧/電流波形の時間領域での表示、解析を行うための2チャンネルのオシロスコープ
- 2チャンネルのAWG(任意信号発生器)の制御
- 電圧と電流のデータのX/Y軸プロットや電圧波形のヒストグラムの表示
- 2チャンネルのスペクトル・アナライザによる電圧信号の周波数領域での表示、解析
- スイープ・ジェネレータを内蔵したボーデ・プロッタとネットワーク・アナライザ
- インピーダンス・アナライザによる複雑なRLC回路網の解析、RLCメーター機能、ベクトル電圧計機能
- 既知の外付け抵抗、または50Ωの内部抵抗に関連する未知の抵抗の値を測定するためのDC抵抗計
- 2.5Vの高精度リファレンス「AD584」を利用して行うボードの自己キャリブレーション。同リファレンスはアナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれている
- ALICE M1Kの電圧計
- ALICE M1Kのメーター・ソース
- ALICE M1Kのデスクトップ・ツール
詳細についてはこちらをご覧ください。
注) このソフトウェアを使用するには、PC にADALM1000を接続する必要があります。