目的
今回は、アクティブ整流器を取り上げます。その回路は、オペアンプ、閾値の低いPチャンネルのMOSFET、フィードバック機構によって構成します。このような構成により、PN接合をベースとするダイオードよりも順方向電圧を小さく抑えられます。この回路は、いわば単方向に電流を流すためのバルブとして機能します。
背景
ダイオードを使用すれば、AC電圧を整流してDC電圧を生成する単純な電源回路を構成できます。しかし、そのような電源は本質的に効率が低いので、改善を図る必要に迫られるはずです。ダイオードとしては標準的なものや超高速であることを特徴とするものが使われますが、定格電流に対する順方向電圧が1V以上に達する製品も存在します。そのようなダイオードをAC電源に直列に接続した場合、生成されるDC出力電圧はその電圧降下に伴って低下することになります。また、ダイオードに流れる電流と電圧降下によって消費される電力はかなり多くなる可能性があり、発熱の問題が生じるおそれもあります。ショットキー・ダイオードであれば順方向電圧が低いので、標準的なダイオードを使用した場合と比べれば状況は改善されます。とはいえ、ショットキー・ダイオードでも固定の順方向電圧が生じるということに違いはありません。
このような問題を解消するためのものとして、ダイオードの代わりにMOSFETを使用する方法が考えられます。入力されるAC電圧波形と同期する形でMOSFETをアクティブにスイッチング制御することで、ダイオードを使う場合と同様の効果を得るということです。ダイオードと比べると、MOSFETの方が伝導損失が少ないので、より高い効率を実現することができます。そうしたアクティブ整流(同期整流とも呼ばれます)では、AC電圧波形の適切なポイントで極性に応じてMOSFETのオン/オフを切り替えるということを行います。それにより、所望の方向にだけ電流を流す整流器としての機能を実現します。
接合ダイオードを使用する場合とは異なり、MOSFETを使用する場合、伝導損失はそのオン抵抗RDS(ON)と電流の値に依存します。サイズが十分に大きく、オン抵抗が小さいMOSFETを選択すれば、どのようなダイオードを使用する場合と比べても、順方向の電圧降下を数分の一程度に抑えることができます。つまり、アクティブ整流器を採用すれば、ダイオードを使う場合よりも損失をはるかに少なく抑えて、全体的な効率を高めることが可能になります。
アクティブ整流器では、MOSFETのオン/オフ制御に使用する信号の同期をとる必要があります。そのため、ダイオードを用いた整流器と比べると、回路の設計がより複雑になります。しかし、ダイオードによって生じる熱に対処するための回路の複雑さを考えれば、アクティブ整流器はより良い代替策であると考えられます。しかも、実際のアプリケーションでは、効率に対する要件は厳しくなる一方です。このことも考慮すれば、アクティブ整流器の方がはるかに優れた選択肢だと言えるでしょう。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- ジャンパ線
- レール to レール入出力の CMOS オペアンプ:1 個(例えば「AD8541」)
- PMOS トランジスタ:1 個(「ZVP2110A」またはそれに相当する製品)
- コンデンサ:4.7µF(1 個)、220µF(1 個)
- 抵抗:10Ω(1 個)、2.2kΩ(1 個)、47kΩ(1 個)、1MΩ(1 個)
説明
図1に示したのが、今回取り上げるアクティブ整流器です。この回路は、シンプルな半波整流器として機能します。トランジスタのゲートを駆動するアクティブ回路は、オペアンプであるAD8541を使用して構成しています。同オペアンプは、任意波形ジェネレータ(AWG)から出力されるAC信号の電圧が出力電圧VOUTよりも高いことを検出したら、PMOSトランジスタであるM1(ZVP2110A)をオンにします。この回路は、オペアンプの最小動作電圧(AD8541の場合は2.7V)、またはPMOSトランジスタの閾値電圧(ZVP2110Aの場合は一般に1.5V)までの低いAC電圧に対応してアクティブ整流を行います。入力電圧が更に低い場合には、MOSFETのドレインとバックゲートの間のダイオード構造により、ダイオードをベースとする通常の整流器として機能します。
VINがVOUTよりも高い場合、オペアンプは以下の式に従ってPMOSトランジスタをオンにします。
各変数の意味は以下のとおりです(電圧はグラウンドを基準とします)。
VGATE:M1のゲート電圧
VIN:AC入力電圧
VOUT:コンデンサC1と抵抗RLが接続された出力電圧
入出力電圧と、PMOSのドレイン‐ソース間電圧VDS、ゲート‐ソース間電圧VGSの関係は、以下の式で表されます。
上記の式を組み合わせると、MOSFETのVGSはVDSの関数として次のように表されます。
抵抗R2の値が同R1の21倍である場合(1MΩ/47kΩ)、M1のVDSが75mV降下すれば、閾値電圧が-1.5VであるPMOSトランジスタは十分にオンになります。R1に対するR2の比率を更に大きく設定すれば、入出力間の電圧降下はより小さくても構いませんし、より閾値電圧の高いトランジスタを使用することも可能です。
C1の基本的な役割は、出力電圧を滑らかにすることです。オペアンプはこのC1から電力を得ることができるので、オペアンプ用の電源を別途用意する必要はありません。この回路で使用するオペアンプを選択する上では、次のような要件を満たす必要があります。まず、オペアンプはレールtoレールの入出力を備えていなければなりません。また、電源レールの近くの電圧で動作する場合にゲインの位相反転が生じないことが求められます。加えて、オペアンプの帯域幅によって、回路の周波数応答が制限されることには注意が必要です。通常は効率を考慮し、電源電流の少ないオペアンプが選択されます。しかし、そのような製品を選択すると、帯域幅が狭くなり、スルー・レートが低くなる可能性が高くなります。その場合、AC入力の周波数が高くなると(例えば500Hz以上)、アンプのゲインは低下し始めます。単電源のCMOSオペアンプであるAD8541は、上記の要件のすべてを満たします。しかも、電源電流はわずか45µAです。
ハードウェアの設定
上述したとおり、図1の回路は、オペアンプを自己給電型で使用しつつ、半波整流を実現するアクティブ整流器として機能します。この回路を、図2のようにソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください。
手順
VINとして使用するAWG1は、ピークtoピークの振幅が6V以上、オフセットが0V、周波数が100Hzの正弦波を生成するように設定します。オシロスコープの入力は、VIN、VOUT、シャント抵抗RSの電圧など、回路上の様々な値を観測するために使用します。それにより、RSやM1を流れる電流の値を把握することができます。なお、信号の表示にはソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用します。
まず、C1として、220µFという値の大きいコンデンサを使用します。220µFと4.7µFのコンデンサには極性があるので、回路に正と負の端子を必ず正しく接続してください。
オシロスコープの2つの入力を使用し、VINの入力AC波形とVOUTのDC出力波形を観察します。VOUTの値は、VINのピーク値に非常に近くなるはずです。次に、220µFのコンデンサを、それよりもはるかに値の小さい4.7µFのコンデンサに置き換えます。その状態で、VOUTの波形がどのように変化するか観察してください。VOUTの値がVINに最も近くなるときに、そのAC入力サイクルの区間と、トランジスタM1のゲート電圧とを見比べてみてください。
オシロスコープのチャンネル2を10Ωのシャント抵抗であるRSの両端に接続し、測定機能を使用して電流のピーク値と平均値を取得します。得られた平均値を、VOUTで測定した電圧から算出した2.2kΩの負荷抵抗RLのDC電流値と比較します。220µF、4.7µFのコンデンサを使用した場合、それぞれどのような結果になるか確認してください。
整流回路の潜在的な用途
スイッチの電圧降下が非常に小さく、基本的に単方向にだけ電流を流す回路には、他にも潜在的な用途があります。例えば、バッテリ・チャージャの入力として、太陽光パネルや風力タービン発電機など、断続的な挙動を示す電源が使用されるケースがあります。その場合、バッテリ・チャージャはバッテリを充電するために十分に高い入力電圧が得られなければ、バッテリの放電を防ぐ必要があります。これを実現するために、一般的にはシンプルなショットキー・ダイオードが使用されます。ただ、本稿の冒頭で指摘したように、そのようにすると効率が低下してしまう可能性があります。それに対し、オペアンプの動作電源電流の値が十分に小さいオペアンプを使用して本稿で紹介したような回路を構成/適用したとします。その場合、オペアンプの消費電流の値は、大きなショットキー・ダイオードの逆方向のリーク電流よりも低く抑えられている可能性があります。
問題
アクティブ整流器を使用する実際のアプリケーションの例をいくつか挙げてください。答えはStudentZoneで確認できます。