ADALM2000による実習:バイポーラ・トランジスタで構成した差動ペア

目的

今回は、NPNトランジスタで構成したシンプルな差動アンプを取り上げます。本題に入る前に、ハードウェアに関する制限について触れておきます。アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」の任意波形ジェネレータ(AWG)は、広い出力帯域幅を備えています。その分、広い帯域にわたってノイズが現れます。今回の実習では差動アンプ(差動増幅回路)を扱うので、計測に使用する入力信号のレベルはやや小さく設定します。そのため、AWGの出力を直接使用すると、十分なS/N比が得られません。そこで、信号のレベルを高めに設定すると共に、AWGの出力と回路の入力の間にアッテネータ/フィルタを配置することにします(図1)。この回路は、以下の部品を使用して構成します(2つの入力に対応)。

  • 抵抗:100Ω(2 個)
  • 抵抗:1kΩ(2 個)
  • コンデンサ:0.1 μF(2 個。印字は 104)
図1. アッテネータとフィルタ。11:1の減衰を実現します。
図1. アッテネータとフィルタ。11:1の減衰を実現します。

今回のすべての実験には、図1の回路を適用します。

テール抵抗を備える差動ペア

まずは、最も基本的な構成の差動ペアを取り上げます。以下のコンポーネント類を使用して図2の回路を構成します。

準備するもの

  • ADALM2000(アクティブ・ラーニング・モジュール)
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:10kΩ(2 個)
  • 抵抗:15kΩ(1 個。10kΩ の抵抗と 4.7kΩ の抵抗を直列に接続して使用)
  • 小信号NPN トランジスタ:「2N3904」(2 個 )または「SSM2212」(1 個の NPN マッチング・トランジスタ・ペアIC)

説明

図3に、図2の回路を実装したブレッドボードを示しました。トランジスタQ1とQ2としては、入手可能な製品の中からVBEのマッチングが最適なものを選択します。Q1とQ2のエミッタは、いずれもテール抵抗R3の一端に接続します。R3のもう一端は、Vn(-5V)に接続してください。これにより、テール電流が供給されます。Q1のベースには図1の回路を介してAWG1の出力(W1)を接続し、Q2のベースには同様にAWG2の出力(W2)を接続しています。Q1、Q2のコレクタには負荷抵抗R1、R2を接続します。両抵抗のもう一端は、正電源Vp(5V)に接続しています。オシロスコープの差動入力(2+と2-)を使用し、R1、R2に現れる差動出力を観測します。

図2. テール抵抗を備える差動ペア
図2. テール抵抗を備える差動ペア

ハードウェアの設定

AWG1のW1は、ピークtoピークの振幅が4V、オフセットが0V、周波数が200Hzの三角波を生成するように設定します。一方、AWG2のW2は、ピークtoピークの振幅が4V、オフセットが0V、周波数が200Hz、位相が180°の三角波を生成するように設定します。図1の回路は、抵抗分圧器として構成されています。同分圧器により、Q1とQ2のベースに印加される信号の振幅は、200mVよりわずかに低い値まで減衰します。オシロスコープのチャンネル1については、1+をW1に接続し、1-をW2に接続します。差動出力を表示するためのチャンネル2(2+と2-)は1V/divに設定します。オシロスコープ機能による信号の表示には、ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用します。

図3. 図2の回路を実装したブレッドボード
図3. 図2の回路を実装したブレッドボード

手順

オシロスコープの表示としては、X軸をチャンネル1(AWGの出力)、Y軸をチャンネル2(2+と2-)に対応づけます。R3の値を変更することによって、この回路のゲインにテール電流が与える影響(ゲインの線が原点を通るときの傾きなど)を確認してください。併せて、ゲインが線形になる入力範囲、回路が飽和したときに非線形に減衰する様子などを詳しく観察してください。更に、この基本的な回路にエミッタ・ディジェネレーション抵抗などを加えて、入力振幅の範囲を拡張/線形にする方法や回路のゲインに及ぶ影響などについて詳しく調べます。

オシロスコープは、測定した2つの信号の数周期分が表示されるように設定します。図4に、XYプロットによって得られる波形の例を示しました。

図4. 図2の回路の信号波形(XYプロット)
図4. 図2の回路の信号波形(XYプロット)

テール電流の制御用に電流源を使用する

テール電流を制御するために抵抗を使用するのは、最適な方法だとは言えません。そうではなく、電流源を構成して差動ペアにバイアスをかける方法を検討するべきです。2021年1月の記事「ADALM2000による実習:定電流源」で説明したように、数個のトランジスタと抵抗を組み合わせることによって、定電流源を構成することができます。具体的には、図5に示したようにトランジスタQ3、Q4を追加します。

追加で準備するもの

  • 小信号 NPN トランジスタ:2N3904(2 個 )またはSSM2212

説明

図6に示したように、ブレッドボードを使って図5の回路を実装します。

図5. テール電流を生成するための定電流源を適用した差動ペア
図5. テール電流を生成するための定電流源を適用した差動ペア

ハードウェアの設定

AWG1は、ピークtoピークの振幅が4V、オフセットが0V、周波数が200Hzの三角波を生成するように設定します。また、AWG2はピークtoピークの振幅が4V、オフセットが0V、周波数が200Hz、位相が180°の三角波を生成するように設定してください。図1の回路の抵抗分圧器により、Q1とQ2のベースに印加される信号の振幅は、200mVよりわずかに低い値まで減衰します。オシロスコープのチャンネル1については、1+をW1に、1-をW2に接続してください。差動出力を表示するためのチャンネル2(2+と2-)は1V/divに設定します。

図6. 図5の回路を実装したブレッドボード
図6. 図5の回路を実装したブレッドボード 

手順

オシロスコープは、測定した2つの信号の数周期分が表示されるように設定します。図7に、XYプロットによって得られる波形の例を示しました。

図7. 図5の回路の信号波形
図7. 図5の回路の信号波形

コモンモード・ゲインの測定

図8. コモンモード・ゲインを測定するための回路
図8. コモンモード・ゲインを測定するための回路

差動アンプには、同相ノイズ除去という重要な性質があります。その性能は、Q1とQ2のベースを同一の入力源に接続することによって測定できます(図8)。図10に示した波形は、抵抗と電流源でバイアスした差動ペアの差動出力を示したものです。コモンモード電圧は、W1によってグラウンドをまたいで2.9Vから-4.5Vまで掃引して印加しています。入力の正の最大振幅は、トランジスタのベース電圧がコレクタ電圧を超えてトランジスタが飽和する点で制限されています。これは、トランジスタのコレクタ電圧がグラウンドを基準とするシングルエンドになっている(つまり、オシロスコープの入力2-が接地されている)ことから確認できます。

ハードウェアの設定

AWG1は、ピークtoピークの振幅が8V、オフセットが0V、周波数が100Hzの正弦波を生成するように設定します。オシロスコープのチャンネル1については、1+をW1に接続し、1-をグラウンドに接続してください。チャンネル2(2+と2-)は1V/divに設定します。

図9. 図8の回路を実装したブレッドボード
図9. 図8の回路を実装したブレッドボード

手順

オシロスコープは、測定した2つの信号の数周期分が表示されるように設定してください。図10に、プロットによって得られる波形の例を示しました。

図10. 図8の回路の信号波形
図10. 図8の回路の信号波形

問題:

図8の回路において、トランジスタQ1のベースへの入力に対して出力2+と2-は反転するでしょうか。それとも非反転になるでしょうか。

また、入力電圧(W1)が上昇したとき、各出力電圧(2+と2-)はどのようになるか説明してください。入力電圧が低下したときには、どのようになりますか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。アカデミック・プログラムや、Circuits from the Lab®向けの組み込みソフトウェア、QAプロセス・マネジメントなどに携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務しています。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。