目的
今回は、磁場の生成/検出の原理に基づき、簡単な磁気近接センサーを構成してみます。同センサーは、電磁石を近づけると、より高い電圧を出力します。その様子を実験で確認してみましょう。
背景
近接センサーは、何らかの物体に別の物体が近づいたことを検出するために使用されます。例えば、簡素な近接センサーを使用すれば、扉や窓の開閉状態を検出することができます。また、近接センサーは洗練された高精度な絶対位置検出器として設計されることもあります。そうしたセンサーも、多くのアプリケーションで使われています。近接センサーはいくつかの方法で実現できます。その1つが、磁石によって生成された磁場の強度を検出するというものです。永久磁石が使われるケースが多いのですが、電磁石も使用可能です。今回の実習では、フェライトコアをベースとするソレノイドを使用して磁場を生成することにします。ソレノイドは、コアの周りに導線コイルを円筒状に巻き付けたものです。それにより、特定のインダクタンスの値を持つインダクタが構成されます。このソレノイドを使って電磁石を実現することにします。
アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」には、100µHのインダクタが含まれています。磁場の生成には、そのインダクタを使用します。生成される磁場の強さは、同キットに含まれている磁界センサー「AD22151」によって検出できるだけのレベルに達します。AD22151は、リニア方式の磁界トランスデューサです。このセンサーは、パッケージ上面に垂直に印加された磁場に比例する電圧を出力します。その動作はホール効果に基づいています。ホール効果とは、電流が流れている物体に磁場をかけると、その物体に電圧(ホール電圧)が発生するというものです。このホール電圧は、磁場のローレンツ力によって荷電粒子が移動した結果、電界が生成されることによって生じます。この種のセンサーは、ホール・センサーとも呼ばれます。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- ジャンパ線
- 磁界トランスデューサ:AD22151(1 個)
- インダクタ:100µH(1 個)
- 抵抗:100Ω(4 個)、470Ω(2 個)、100kΩ(1 個)、200kΩ(1 個)
- コンデンサ:0.1µF(1 個)、10µF(1 個)
- LED:1 個
ハードウェアの設定
まずは、図1に示す電磁石の回路を構成します。
図2に示したのが、AD22151を使用して構成した磁気近接センサーの回路です。
図1、図2の回路をブレッドボード上に実装してください(図3)。
手順
任意波形ジェネレータ(AWG1)の出力(W1)を使用して、AD22151のVCCに入力する5Vの電圧を生成します。また、正の電源V+を5Vに設定し、電磁石の回路に対する給電を行います。電磁石を遠くに置いた場合には、近接センサーの近くに磁場は存在しないことになります。その状態で、AD22151の出力をオシロスコープのチャンネル1で観測してください。
磁束密度の大きさは0G(ゼロ・ガウス)なので、AD22151の出力は理想的には電源電圧の中央値(5.0Vの電源の場合は2.5V)になるはずです。ただ、実際には中央値とは異なる値が観測されるでしょう(図4)。現実のセンサーとオペアンプを使用するとDCオフセットが発生し、そのDCオフセットにはオペアンプのクローズドループ・ゲインが乗算されるからです。
続いて、電磁石をAD22151に近づけていきます。すると、その磁場に比例して出力電圧が上昇していきます(図5)。電磁石をAD22151から遠ざけていくと、電圧は再び下降します。最終的には、図4と同じ状態に戻ります。
図4の出力オフセット電圧の値は、5.0Vの電源とオペアンプのサミング・ノード(6番ピン)の間に抵抗R4を追加することによって調整できます。その目的は、磁場が印加されていない場合の近接センサー(AD22151)の出力電圧を、その線形動作範囲の下限側にできるだけ近づけることです。必要なR4の値は、以下のようなステップを踏むことで算出できます。
ここでは、AD22151の電源電圧をVCC、電源電圧の中央値をVMIDで表すことにします。
オシロスコープのチャンネル2を電圧計ツールとして使用し、VCCの値を測定してください。R4の値を計算するには、オペアンプのサミング・ノードに対する入力電流と出力電流の値を把握する必要があります。そこで、抵抗R2を流れる電流をIR2で表すことにします。理想的な条件の下では、R2の両端の電圧はVMIDになります。そのため、IR2の値はゼロになります。しかし、実際には磁場がない状態のAD22151の出力電圧と同センサーの内部でバッファされたVREFの間には小さなオフセット電圧が存在します。通常、このオフセット電圧はゲインが小さければ無視できます。一方、この例のようにゲインの高い回路では相応の配慮が必要になります。
まず、電圧計を使用し、AD22151の7番ピンの電圧を測定します。その結果をVREFの値として記録しておいてください。同様に、6番ピンの電圧を測定します。その値をオペアンプの入力コモンモード電圧VCMとして記録しておきます。VCMは、負のフィードバックによって、AD22151の出力に非常に近い値に駆動されます。ここで、R2の両端の電圧VR2は以下の式によって表されます。
VR2 = VREF – VCM (1)
R2を流れる電流IR2は、次の式で求まります。
IR2 = VR2/235 Ω (2)
続いて、フィードバック抵抗R3を流れる電流値を計算します。それにあたっては、電磁石を遠くに置いた場合のAD22151の出力電圧(0Gに対応します)を考慮する必要があります。その出力電圧をVOUT,Zとすると、R3を流れる電流は次の式で表されます。
IR3 = (VCM – VOUT,Z)/100 kΩ (3)
VOUT,Zの値をより低いレベル(ここでは0.5Vとします)にシフトするために必要な電圧VSHIFTの値は、次の式で決まります。
VSHIFT = 0.5 V – VOUT,Z (4)
このVSHIFTは負の値になることに注意してください。V OUT,Zを0.5Vにシフトするためには、R3に追加で電流を流さなければなりません。その電流ISHIFTの値は、次の式で計算できます。
ISHIFT = VSHIFT/100 kΩ (5)
VSHIFTが負の値なので、ISHIFTの値も負になります。オフセット電圧を所望の値にシフトするためには、サミング・ノードからR4の方向に電流IR4を流します。IR4はISHIFTとは逆向きなので正の値です。つまり、IR4 = -ISHIFTです。
R4の両端の電圧は、VCCとVCMの電位差です。したがって、R4の値は次の式で計算できます。
R4 = (VCC – VCM)/IR4 (6)
R4の計算値に最も値が近い抵抗をADALP2000の中から選択します。誤差が生じる場合には、出力電圧が高くなるものを選択してください。R4は図6に示すように配置します(図8も参考にしてください)。この例の場合、ADALP2000に含まれている中で最も値が近いのは200kΩの抵抗です。オシロスコープのチャンネル1で、出力オフセット電圧が所望の0.5Vに近い値になっていることを確認してください(図7)。それにより、AD22151の線形動作範囲の下限側にシフトされていることになります。
近接センサーにLEDによる表示機能を追加する
続いて、近接センサーの出力にLEDを付加してみましょう。そうすれば、LEDを視覚的なインジケータとして機能させられます。LEDを実装したブレッドボードを図8に示しました。LEDのアノードとセンサーの出力の間には100Ωの抵抗を配置します。それにより、LEDに流れる電流を制限します。LEDのカソードはグラウンドに接続します。この状態で電磁石をAD22151に近づけていくと、LEDの光度が高くなります。つまり、磁場によってセンサーの出力電圧が上昇しているということです。
問題1
インダクタの値を変更すると、回路の応答はどのように変化しますか。
問題2
なぜ、出力オフセット電圧を下方にシフトする必要があるのでしょう。理由を説明してください。
答えはStudentZoneで確認できます。