SMUとは何なのか?

SMU( ソース・メジャー・ユニット) は、1 つのピンまたはコネクタにソース機能と測定機能の両方を持たせた、計測器です。つまり、電圧または電流を供給すると同時に、電圧や電流の測定も行えます。電源やファンクション・ジェネレータ、DMM( デジタル・マルチメーター)、オシロスコープ、電流源、電子負荷といった機能が、高精度の同期性能を備える 1 つの計測器として統合されています。

図 1 . ADALM1000 のブロック図。1 チャンネル分を示しています。
図 1 . ADALM1000 のブロック図。1 チャンネル分を示しています。

アナログ・デバイセズは、アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM1000」を提供しています。これは、基本的には SMU として機能するものですが、オシロスコープやファンクション・ジェネレータとして使うこともできます。ただ、出力機能(ジェネレータ)と入力機能(オシロスコープ)が同じピンを共有することになるため、それら 2 つの機能を同時に使用することはできません。

なぜ、プログラマブルな SMU が重要なのか?

テストの種類によっては、プログラムが可能な計測器など必要としないということもあるでしょう。1 回~数回、値を測定したいだけというケースも確かにあるからです。しかし、実際には長期にわたって性能を測定し、プロットやグラフを作成しなければならないことも少なくありません。その場合には、非常に多くのデータを収集する必要があります。そうした評価を手作業で行うと、非常に時間がかかるうえにミスを犯す可能性が高くなります。

また、より速く、より正確に測定を行ったり、長期間(数ヵ月~数年)にわたる測定作業によって継続的にデータを収集したりするために、テストの自動化が必要になるケースも少なくありません。そうした場合、データを収集し、解析に向けてデータベースにエクスポートするために、必ずコンピュータが必要になります。

なぜ、負の電圧が重要なのか?

すべての実験に負の電圧が必要なわけではありません。また、その必要性を避けることができるケースもあります。多くのデバイスは、印加される電圧が正であるか負であるかによって動作が変化します。そうしたデバイスの動作を正しく理解するためには、負の電圧も印加できるようにしなければなりません。ADALM1000 が備える SMU 用の各チャンネルは、グラウンドに対して 0 V~ 5 V の電圧のみ生成します。また、電流のソースとシンクの両方が可能な 2.5 V と 5 V の固定出力も提供しています。DUT(被測定デバイス)を、グラウンドではなく 2.5 V の出力と SMU の出力の間に接続すれば、DUT両端の電圧を -2.5 V ~ 2.5 V の範囲で掃引できます。また、ADALM1000 は 2 つの SMU を搭載しています。そのため、それら 2 つの出力の間に DUT を接続することも可能です。1 つのチャンネルを 0 V から 5 V まで掃引しながら、もう一方を 5 V から 0 V まで掃引することで、DUT の両端には -5 V ~ 5 V の電圧を生成できます。

ここでは、例としてダイオードについて考えてみます。ダイオードは、1 方向だけに電流を流すデバイスです。ダイオードが正しく機能しているかどうかを確認するには、両方向の電流の流れを測定する必要があります。その測定方法としては 2 つ考えられます。1 つ目の方法では、まずダイオードの 1 方向について測定を行います。続いて、手作業によってダイオードを逆向きに接続し、もう 1 方向の測定を行います。その後、2 つの測定結果を 1 つにまとめるということです。もう 1 つの方法は、正と負の電圧を印加して、電流を測定する方法です。実際、この方法はとても便利なので、振る舞いがダイオードと似ている多くのデバイスの特性評価に利用されています。太陽電池セルや LED がその例です。図 2は、ADALM1000 にダイオードを接続し、-5 V から 5V まで電圧を掃引する例です。

図 2 . ダイオードの電流を測定するための構成。-5 V から 5 V まで電圧を掃引します。
図 2 . ダイオードの電流を測定するための構成。-5 V から 5 V まで電圧を掃引します。

図 2 の構成では、チャンネル A を 0 V から 5 V まで掃引するようにプログラムします。一方、チャンネル B は5 V から 0 V まで掃引するようにプログラムします。それにより、2 つのチャンネルの差分の電圧が抵抗の両端に現れます。この抵抗は、ダイオードに流れる電流を制限する役割を果たします。図 3 に示したのは時間領域で見た波形です。緑色の線はチャンネル A の電圧、オレンジ色の線はチャンネル B の電圧、黄色の線はチャンネルB の電流です。なお、チャンネル A の電流は表示されていませんが、単純にチャンネル B の電流波形を反転したものになります。

図 3 . 時間軸で見た電圧と電流の波形
図 3 . 時間軸で見た電圧と電流の波形

これらの測定結果をプロットするとともに、簡単な計算を行う方法について考えてみましょう。プロットしたいのは、ダイオードの両端の電圧とダイオードに流れる電流の関係です。ダイオードの両端の電圧は、チャンネル Aとチャンネル B の電圧の差から、抵抗の両端に生じる電圧降下(V = I × R)を差し引くことで求められます。その計算は、Python で記述した以下の式(ソフトウェア・モジュール「ALICE」で使用)で行うことができます。

数式 1

上式の 100 という数字は抵抗値です。図 4 は、この式の値(ダイオードの両端の電圧)に対するダイオードの電流値をプロットしたものです。

図 4 . - 5 V ~ 5 V の電圧に対するダイオードの電流値
図 4 . - 5 V ~ 5 V の電圧に対するダイオードの電流値

SMU は何に使用されるのか?

日常的に使われている電気製品の多くは、工場での出荷検査や品質管理工程の一貫として SMU を使ってテストされています。例えば、家の照明に LED を使っていたり、屋根にソーラー・パネルを設置していたりするなら、それらは製造プロセスの中で SMU を使ってテストされているはずです。

ADALM1000 は、次世代の電子デバイスについて学ぶ工学部の学生向けに設計されました。SMU は、カーボン・ナノチューブや量子井戸ヘテロ構造、生体膜、バイオセンサーなど、あらゆる物質やデバイスが、どのように電気を通すのかを把握するうえで役に立ちます。つまり、ADALM1000 を使えば、あらゆるコンポーネントについて、 -5 V ~ 5 V の DC または低周波の電圧に対する電気的特性を、±0.1 mA ~ 180 mA の電流を測定することで理解することができます。

SMU を必要とする測定にはどのようなものがあるのか?

ここでは、太陽電池セルの例を挙げます。研究所において、技術者がより高効率、低コストの太陽電池セルを製造する方法を検討しているとします。太陽電池セルの性能がどの程度であるかを把握するためには、小規模なテスト用のデバイス(おそらくは数 mm2 から数 cm2 の大きさ)を作製し、その性能を評価することになるでしょう。この大きさだと、1 個の LED を点灯させる程度の電力しか生成することはできません。ただ、基本的な動作範囲や効率を評価するには十分です。ADALM1000 を使用すれば、このような小型の太陽電池セルの測定が行えます。

太陽電池セルにおいて鍵になる特性は、どのくらい効率的に太陽光のエネルギーを電力に変換できるのかということです。これは、光を既知の強さで照射し、単位面積当たりの発電量を測定することによって評価できます。電力は電圧と電流の積なので、太陽電池セルの端子電圧(V)と生成された電流(I)を測定することが出発点になります。

生成された電圧は、光を照射している際、セルの端子に電圧計を接続することによって測定できます。同様に、電流は、セルの端子の両端に電流計を接続することで測定可能です。なお、電流の測定値を太陽電池セルの面積で割ると電流密度が得られます。

ここで 1 つ問題になることがあります。電圧と電流(または電流密度)の積を求める場合、得られるのは理想的なデバイスで生成できる電力量(単位面積当たりの電力量)のみです。電圧計の内部抵抗はほぼ無限大なので、それによって電圧を測定する場合、電流は流れません(0 A)。つまり、生成される電力はゼロということになります。このようにして測定される電圧は、開回路電圧と呼ばれます。同様に、電流を測定するために端子の両端に電流計を接続した場合、電流計の内部抵抗はほぼゼロなので、回路を短絡してセルのテストを行っていることになります。この場合、電流は流れますが、電圧は印加されません。電圧が 0 V なので、この場合も生成される電力はありません。このようにして測定される電流は短絡電流と呼ばれます。

実際の太陽電池セルでは、生成されている電流の量に応じて出力電圧が変化します。このことが理由となって、測定には SMU が使用されます。SMU を使う方法であれば、電流の変化を測定している間に電圧も変化するからです。

図 5 に示したのは、小規模な太陽電池セルの典型的なI-V 曲線です。ここでは、ソーラー・ガーデン・ライト用の 3 cm × 3 cm の太陽電池セルを使用しています。電流は、SMU のチャンネルに吸い込まれるので負の値になります。電圧が 0 V の時の電流は短絡電流であり、電流が 0 A の時の電圧は開回路電圧です。

図 5 . 太陽電池セルの I - V 曲線。X 軸は電圧( 単位は V ) で、Y 軸は電流( 単位は mA) です。
図 5 . 太陽電池セルの I - V 曲線。X 軸は電圧( 単位は V ) で、Y 軸は電流( 単位は mA) です。

I-V 曲線は、電圧と電流の変化の様子を表します。太陽電池セルについてこのような評価を行えば、生成される実際の電力量の算出が可能になります。図 6 は、セルの両端の電圧と電力(単位は mW)の関係を表すグラフです。電力は単純に電圧と電流の積で算出されます。以下に示す Python の式により、mW を単位とする電力を算出できます。

数式2
図 6 . 太陽電池セルの電圧と電力の関係。X 軸は電圧( 単位は V ) で、Y軸は電力( 単位は mW) です。
図 6 . 太陽電池セルの電圧と電力の関係。X 軸は電圧( 単位は V ) で、Y軸は電力( 単位は mW) です。

グラフのピークの部分は、生成される電力が最大になる点です。これは最大電力点と呼ばれています。SMU はセルで生成された電力を吸い込んでいるので、電力量は負の値になります。

図 2 の方法を使用すれば、負の電圧を印加して(逆バイアスで)、太陽電池セルの測定が行えます。この方法を使えば有用な情報を得ることができます。まず、逆バイアスを印加してもデバイスが破壊されないということがわかります。これはデバイスの品質が良好であるということを示します。また、利用可能な余剰の電流が存在するかどうかがわかります。負の電圧を印加することで、そうしなければ得られないであろう電荷をデバイスから効果的に取得できます。取得した電荷を発電に使用することはできませんが(実際にはデバイスから電力を得ているのではなく供給している)、光電流の損失メカニズムの一部を理解するうえで役に立ちます。このように、I-V 曲線の測定は、太陽電池セルの開発と最適化に使用される最も重要なツールの 1 つです。同様に、I-V 曲線は、LED、有機EL、トランジスタ、センサーなどの多様なデバイスについて理解するうえでも非常に重要な役割を果たします。

図 7. ADALM1000 の外観
図 7. ADALM1000 の外観

本稿を皮切りとして、今後は ADLAM100 を中核とするシリーズ記事によって、興味深い実験を紹介していきます。取り上げられた実験を試してみたい方は、当社の販売代理店である Digi-KeyMouser のサイトにアクセスしてください。それにより ADALM1000 を入手することができます。

今月の問題

質問 1:

図 5 を見ると、太陽電池セルで得られる最大電力を把握することができます。この最大電力には、どのような物理的な大きさが影響を及ぼしますか。

質問 2:

太陽電池セルから取り出せる最大電力はどのくらいの量ですか。

質問 3:

出力電力を最大レベルに保つための機能は、どのように呼ばれていますか
(ヒント: 「ADP5091」について調べてみてください)。

答えは StudentZone で確認できます。

著者

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。