目的
今回の実習では、アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」を使用して、インダクタの自己共振周波数(SRF:Self-resonant Frequency)を測定します。その測定結果を基に、インダクタの寄生容量の値を算出してみましょう。
背景
アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」には、何種類かのインダクタが含まれています。当然のことながら、それらのインダクタは理想的なものではありません。他のコンポーネントと同様に、現実のインダクタには誤差をはじめとする非理想的な要素が含まれているからです。図1の回路は、現実のインダクタを最も単純にモデル化したものです(3素子モデル)。ご覧のように、実際のインダクタには、インダクタンスLしか存在しないわけではありません。例えば、インダクタでは損失が生じます。この損失は、図1の回路では直列抵抗Rによってモデル化されています。また、現実のインダクタには図1の回路においてCで表されている並列の寄生容量が存在します。抵抗Rの値が小さいほど(0Ωに近いほど)、そして容量Cの値が小さいほど(0Fに近いほど)、そのインダクタは理想的なものに近いと言えます。
巻線間容量とSRFの関係
古典的な説明によれば、図1の回路のCはインダクタの巻線間(および巻線とコア間など)の分布容量を表しています。この巻線間容量は、周波数SRFにおいてインダクタンスLと共に並列共振を生成し、インダクタが同調回路として機能します。
3素子モデルと周波数の関係
この3素子モデルは、SRFより低い周波数では誘導性の性質を示します。また、誘導性のリアクタンスと容量性のリアクタンスの大きさが等しく符号が逆であることから、SRFより高い周波数では容量性のデバイスのように振る舞い、SRFでは抵抗性の性質を示します。
インダクタのSRFでは、以下に示すすべての条件が満たされます。
- 入力インピーダンスの値がピークになります。
- 入力インピーダンスの位相角がゼロになり、正(誘導性)から負(容量性)へと変化します。
- 位相角がゼロなので、Q はゼロです。
- 負の容量性リアクタンス(XC = 1/j ω C)が正の誘導性リアクタンス(XL = j ω L)を相殺するので、実効インダクタンスはゼロになります。
- 2 ポートの挿入損失(S21 dB)が最大になります。これは、周波数と S21 dB の関係を表すプロットの最小値に対応します。
- 2 ポートの位相(S21 の位相角)はゼロになります。それより低い周波数では負になり、それより高い周波数では正になります。
SRFの値は以下の式によって決まります。
この式は、3素子モデルのインダクタンス、容量、SRFの間にどのような関係があるのかを表しています。ここで、Lはインダクタンス(単位はH)、CPは寄生容量(単位はF)を表しています。
この式から明らかなように、インダクタンスまたは容量が大きくなるほどSRFの値は低くなります。また、インダクタンスまたは容量が小さくなるほどSRFの値は高くなります。
3素子モデルのシミュレーション
実際に回路を構成する前に、シミュレーションによりSRFについて確認しておきましょう。シミュレーションの対象にするのは図2に示した回路です。インダクタの3素子モデルに相当するのは、L、R、CPで構成された部分です。V1は理想的なAC電圧源です。抵抗RSは電源V1の抵抗成分として働きます。コンデンサCLと抵抗RLは負荷の成分です。CLについては、ADALM2000が備えるオシロスコープの入力チャンネルの標準入力容量に等しい値を設定しています。図2では、RLの値はRSと同じ値に設定しています。ただ、オシロスコープのチャンネルの入力抵抗である1MΩなど、より高い値に設定しても構いません。
ここでは、1mHのインダクタLに対し、15pFのCP、100mΩのRという寄生素子が存在していると仮定します。その条件の下、10kHzから10MHzまでの周波数掃引を行うシミュレーションを実施しました。図3に示したのがその結果です。この図において、赤色のプロットはRLの値をRSと同じ200Ωに設定した場合の結果を表しています。ご覧のように、RLに現れる振幅は、インダクタのインピーダンスが最大になるSRFで急激に低下しています。一方、青色のプロットは、RLの値をオシロスコープの入力抵抗と同じ値である1MΩに設定した場合の結果です。その場合も、インピーダンスが最大になる周波数で鋭いヌル(null)が生じています。また、それより約1オクターブ低い周波数において、RLの振幅には鋭いピークが現れています。このようなピークは、電源と負荷の抵抗値が一致していない場合に発生します。
準備するもの
- ADALM2000(アクティブ・ラーニング・モジュール)
- ソルダーレス・ブレッドボード
- ジャンパ線キット
- インダクタ:1mH(1 個)。それ以外にも様々な値のインダクタを用意
- 抵抗:200 Ω(2 個)。100 Ωの抵抗 2 個を直列接続したものでも可
説明
図4に示したのが、インダクタの自己共振周波数を測定するための回路です。青色の四角は、ADALM2000の任意波形ジェネレータ(AWG)とオシロスコープのチャンネルを表しています。
ハードウェアのセットアップ
図4の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図5)。AWGの出力とオシロスコープの入力に対する接続は、図4のとおりに行ってください。ADALP2000には、様々な値のインダクタが含まれています。各インダクタは、一度に1つずつ使用してください。
手順
ソフトウェア・ツール「Scopy」を使用し、ネットワーク・アナライザ機能(ソフトウェア計測器)を起動してください。ここでは、AWGを使用して周波数掃引を行います。100kHzから開始し30MHzで停止するように周波数を設定してください。信号の振幅は1V、オフセットは0Vに設定します。ボーデ線図の振幅の範囲は-60dB~40dBに設定しましょう。位相については、最大値を180°、最小値を-180°に設定します。続いて、オシロスコープのチャンネル1をクリックすることでリファレンスとして設定してください。更にステップ数を100に設定します。
ADALP2000に含まれる様々な値のインダクタを対象として1回の掃引を実行してください。それにより、周波数に対する振幅と位相のプロットを取得します。そのプロットは、シミュレーションの結果とよく似たものになるはずです。なお、詳細な分析を行いたい場合には、取得したデータを含む.csvファイルを生成し、ExcelやMATLAB®にエクスポートしてください。
問題
SRFの式を使って、実測で使用したインダクタの巻線間容量の値を計算してください。
答えはStudentZoneで確認できます。
追加の実験
共振についてより詳細に検討するために、39pF、100pFといった外付けコンデンサをインダクタに並列に接続し、周波数特性を再度測定してください。それにより、新たな共振周波数が得られるはずです。その結果と共振周波数の式を用いれば、単純なモデルのLとCPの値を計算/確認することができます。