抵抗(と老婦人)には秘められた深みがある

質問:

以前、抵抗の熱ノイズについて説明していただきました。 抵抗は、接続端が2つだけ、抵抗値という単純な特性が1つだけの きわめて簡単なコンポーネントに思われます。 こんなものでも、うっかりとはまってしまう罠がまだ他にもあるのでしょうか?

RAQ:  Issue 27

回答:

最近、魅力的な白髪の老婦人の80回目の誕生会に出席しました。彼女の話を聞いていたら、10代の頃、フランスのレジスタンス(抵抗)に加わってナチの弾薬を運ぶ列車を吹き飛ばしたことがあると知って、驚いてしまいました。

あなたも別のタイプのレジスタンスに出し抜かれることもあるかもしれませんよ。抵抗値やその許容誤差といったものは、わかりやすい特性です。消費電力も仕様で規定されているし、場合によってはブレークダウン電圧も決まっています。

しかし、ほかにも考慮しなければならない特性がたくさんあります。高精度アナログ回路では2つないし2つ以上の抵抗のマッチングが非常に重要になることがあります。1本の抵抗だけの精度では十分ではありません。ある温度でマッチングしている2本の抵抗がもう1本の抵抗とマッチングするのは、3本の温度係数(TC)が全てマッチングする場合のみです。自己発熱などの原因によってそれぞれの抵抗の温度が異なってしまう場合は、TCのマッチングだけでも十分ではありません(ただし、TCがかなり低い場合は例外)。マッチングが重要な場合、抵抗は1つのサブストレート上に置く必要があります。独立した抵抗ネットワークの場合はセラミックかガラス製のサブストレート、ICに組み込んだ高精度の薄膜抵抗の場合はシリコン製にします。これによって、抵抗、TC、温度がマッチングします。

抵抗は、一般に抵抗材料と銅接続部で構成されています。2つの異種導体を接触させると熱電対が形成され、ゼーベック効果によって電圧が発生します。銅とニクロムの場合は約40µV/℃で、炭素抵抗の400µV/℃を上回ります。したがって、抵抗の両端に温度差がある場合はその間に電圧が存在することになり、回路のDC誤差が増加します。これが問題になる場合は、温度差を最小限に抑える必要があり、おそらくは低い熱電emfの(高価な!)抵抗を使用することになります。

抵抗には、抵抗値だけでなく、容量とインダクタンスもあります。巻線型またはスパイラル薄膜構造を持った高精度の抵抗には、かなり大きい(数µH)インダクタンスがあります。インダクタンス最小化技術を用いても、できあがった構造のインダクタンスは十分に低くはなりません。高周波ではリアクタンスが問題になり、考慮に入れる必要があります。

値が高い抵抗(≥50MΩ)では、多くの場合抵抗値が印加電圧によって変動するため、歪みが生じます。これは、値の低い低品質の抵抗にも発生することがあります。また、このような抵抗には、熱ノイズだけでなく電流に依存するノイズも伴うことがあります。

私の友人と同様、抵抗は見かけ以上に複雑なものです。抵抗をよく理解すれば、あなたの回路は良くなるでしょう。

著者

james-m-bryant

James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。