トランスを使うことなく、100V以上の高電圧を入力とする降圧コンバータを実現する

質問:

トランスを使うことなく、100Vを超える電圧からそれより低い電圧を直接生成することは可能でしょうか?

How to Convert Voltages Using a High Voltage Buck Controller Without a Transformer

回答:

もちろん、不可能ではありません。但し、定格電圧が100V以上の降圧コンバータが必要になります。また、その降圧コンバータは、デューティ・サイクルが低い場合でも高い効率が得られるものでなければなりません。このことは、低い出力電圧を得たい場合に特に重要になります。

はじめに

降圧(ステップダウン)コンバータの原理に基づくスイッチング電源は、あらゆるアプリケーションで使用されています。その種の電源は、トランスを使用することなく、シンプルなインダクタ(コイル)を使用することで高電圧から低電圧への変換を高い効率で実現します。その設定が極めて容易であることも相まって、スイッチング方式の降圧コンバータは広く使用されるようになりました。なかでも一般的だと言えるのは、60V以下の電源電圧(入力電圧)から12V以下の出力電圧を生成するアプリケーションです。それよりも電源電圧が高いか、必要な出力電圧が高い場合には、適切なコントローラICやコンバータICを入手できる可能性が低くなります。

フライバック型やフォワード型のスイッチング・レギュレータを使用すれば、60Vよりもはるかに高い入力電圧を対象として変換を実施できます。しかし、これらのトポロジはトランスをベースとしています。つまり、大きなスペースと多くのコストを要するトランスが必須の要素になるということです。

高電圧降圧コントローラが求められる理由

まず、インダクタを1つだけ使用する一般的な降圧コンバータについて考えてみましょう。図1に示した降圧コンバータにおいて、入力可能な最大電圧範囲を決める主な要素は2つのスイッチ(S1とS2)です。しかし、高い入力電圧を使用する場合、コントローラICが内蔵するドライバが、スイッチS1に必要な高いゲート電圧を生成できるようになっていなければなりません。その電圧は、最大電源電圧に、MOSFETの駆動に必要なスレッショルド電圧を加えた値になります。つまり、高い入力電圧に対応するためには、高電圧に対応するMOSFETだけでなく、高電圧に対応するコントローラICを選択する必要があります。続いて図2をご覧ください。これは、高電圧降圧コントローラIC「LTC7897」の使用例です。このICは、最大135V(絶対最大定格は140V)の電源電圧に対応できるように設計されています。このICを使用すれば、非常に高い入力電圧に対応できるだけでなく、非常に高い出力電圧も供給できます。出力電圧は、入力電圧より低いという条件の下、最大135Vに設定することが可能です。

図1. トランスを使用しない降圧コンバータ(概念図)
図1. トランスを使用しない降圧コンバータ(概念図)
図2. LTC7897の使用例(概念図)。同ICは、最大135Vの入力電圧を許容できる高電圧降圧コントローラです。
図2. LTC7897の使用例(概念図)。同ICは、最大135Vの入力電圧を許容できる高電圧降圧コントローラです。

この高電圧降圧コントローラを使用すれば、100Vの入力電圧を基に12Vの出力電圧を生成するといったことが行えます。LTC7897はコントローラICなので、ディスクリートのパワー・スイッチと共に使用することが前提になります。その際、MOSFETとしては大電流に対応できるものを選択することが可能です。そうすれば、図2に示したようなアプリケーションを実現できます。つまり、12Vの出力電圧、20Aの負荷電流を供給する降圧コンバータを構成できるということです。

図2の構成は、高電圧から低電圧への変換を行う場合の例です。ただ、LTC7897を使用すれば、高い正の電圧から負の電圧を生成することもできます。その場合、反転昇降圧のトポロジで同ICを使用することになります。トランスは不要であり、シンプルなインダクタを1つ使用するだけで済みます。

反転昇降圧のトポロジには、最大入力電圧の面で特徴的な能力を備えるコントローラが必要です。つまり、非常に高い入力電圧に対応できるコントローラを使用しなければなりません。具体的には、入力となる電源電圧に、出力となる負の電圧の絶対値を加えた値以上の定格電圧を備えている必要があります。具体的な例を挙げると、入力電圧VINが48V、必要な出力電圧VOUTが-65Vの場合、コントローラの定格電圧は少なくとも113V以上でなければなりません。つまり、低い負の電圧(絶対値が大きい)を生成したい場合には、高い定格電圧を備える高電圧降圧コントローラが最適だということです。

図3に示したのは、LTC7897を反転トポロジで使用する例です。この回路は、48Vの入力電圧を基に-65Vの出力電圧を生成します。

図3. LTC7897を反転トポロジで使用する例(概念図)。この構成の場合、コントローラについては高電圧に対応する能力が特に重要になります。
図3. LTC7897を反転トポロジで使用する例(概念図)。この構成の場合、コントローラについては高電圧に対応する能力が特に重要になります。

まとめ

高電圧を入力とするスイッチング電源を実現したい場合、必ずしもトランスをベースとするトポロジを選択する必要はありません。LTC7897のような適切なコントローラICを採用すれば、複雑かつ高価なトランスを使用することなく、多くのアプリケーションに対応できます。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。