質問:
パワー・コンバータの外付け部品を選択する簡単な方法はありませんか?
回答:
3つの方法が考えられます。
通常、電源回路は、出力電圧を一定の値に保つための制御ループを備えています。電源回路を設計する際の目標は、入力電圧や負荷過渡応答に変動があっても、出力電圧を保てるように制御できるようにすることです。つまり、出力電圧の設定値からの偏差を最小限に抑えられるように制御ループを最適化することを目指すということです。その際には、スイッチング・レギュレータICの応答速度と出力コンデンサの値の関係が重要になります。例えば、ループの応答がかなり速ければ、より値の小さい(小型の)出力コンデンサを使用しても、出力電圧を許容範囲内に保つことができます。言い換えると、スイッチング・レギュレータの応答速度を最適化すれば、小型の出力コンデンサを選択し、システムのコストを削減すると共に、回路の実装面積を抑制できるということです。
ほとんどのスイッチング・レギュレータICは、制御ループを調整するための補償用のピンを備えています。多くの場合、それらにはITHまたはVCといったピン名が付けられているはずです。コンデンサと抵抗の値を適切に選択すれば、制御ループの伝達関数に極とゼロを加え、最適な動的性能と制御ループの高い安定性が得られます。では、それら補償用の部品は、どのようにして選択すればよいのでしょうか。
この問いに対しては、3つの答えが考えられます。以下、それぞれについて説明していきます。
【方法1】データシートに記載された計算式を使って値を決定する
1つ目の方法は、スイッチング・レギュレータICのデータシートに記載されている計算式を使用するというものです。安定化については、選択した1つのパワー・ステージを考慮した考え方が提示されています。図1は、降圧型のスイッチング・レギュレータIC「LTC3311」を使用する場合の回路例です。ITHピンと補償用の適切な部品を使用して回路を構成します。
【方法2】設計ツールを利用する
2つ目の方法は、外付け部品の値を決定するための設計ツールを使用するというものです。例えば、LTpowerCAD®などのツールを使用すれば、伝達関数を適切に設定することができます。この方法を使えば、制御ループの応答に関するより高度な洞察を適用できます。図2に示したのは、LTpowerCADのユーザ・インターフェースです。ご覧のように、ボーデ線図によって制御ループの特性をグラフィカルに表示したり、出力電圧の時間領域の負荷過渡応答を確認したりすることが可能です。ツール上であれば、ITHの設定値を容易かつ自由に変更できます。それにより、最適な設定値を見いだすことが可能です。
ゲーテは、「all theory is gray」(すべての理論は灰色だ)といった意味の言葉を残しています。現実の回路には、回路図上には現れない寄生成分が存在します。それらについては、開発から量産に移行する前に確認し、問題があれば解決を図らなければなりません。そのためには、机上の検討によって選択した補償用の部品をITHピンに接続し、実際にテストを行ってみる必要があります。それにより、VOUTにおける電圧の変化は許容範囲内であるか、負荷過渡応答に問題はないか、電源回路全体の動作は安定しているかといったことを確認します。
このようなハードウェアのテストでは、補償に向けた1つの設定についての確認しか行えません。とはいえ、わずかに値を変更して設定を最適化することも不可能ではありません。但し、そのためには、ハードウェア上で必要に応じてハンダ付けの作業を行う必要があります。補償用の部品の最適な組み合わせを見つけるためには、値の異なる部品を実際に実装してみなければならないからです。
【方法3】事前に構成済みのRC回路を適用する
3つ目の方法は、最もエレガントなアプローチだと言えます。その方法とは、事前に構成済みのRC回路を適用することで、問題を解決するというものです。図3に示したのが、実際の回路の例です。図中の「LB013A」は、アナログ・デバイセズが提供する小型の回路基板です。この基板には、値の切り替えや調整が可能なシンプルなRC回路が実装されています。全体の容量値と抵抗値は、小型のスイッチやポテンショメータによって変更できるようになっています。面倒なハンダ付け作業は不要であり、負荷過渡応答のテストの実行中に補償用の設定を最適化することができます。LB013Aのような回路基板は簡単に製作できますが、事情に応じてアナログ・デバイセズから購入してもよいでしょう。
まとめ
本稿では、スイッチング・レギュレータの補償用部品の値を最適化する方法を3つ紹介しました。これらの方法を使えば、あらゆる電源回路の補償を実現できます。