質問:
マイクロコントローラによって16ビットの分解能で制御できる絶縁型の出力モジュールを実現したいと考えています。何か良い方法はありますか?
回答:
D/Aコンバータ「AD5422」を含む3つのICで構成したソリューションをお勧めします。
現在では、ビルや製造フロアをはじめとする至るところでプログラマブルなコントローラが使用されるようになっています。その目的は、様々な機械やシステム、プロセスを効率良く制御することです。通常は、PLC(Programmable Logic Controller)またはDCS(Distributed Control System)モジュールに、各種のデバイスを接続して使用することになるでしょう。それらのデバイスを制御するために、PLCやDCSモジュールには出力モジュールが設けられます。電流、電圧、またはその両方を出力できるモジュールです。例えば、産業分野で使用される制御モジュールは、±5V、 ±10V、0V~5V、0V~10V、4mA~20mA、0mA~20mAといった標準的なアナログ出力電圧/電流に対応する必要があります。また、産業分野では、マイクロコントローラと出力デバイスの間にガルバニック絶縁を施すことが求められるケースが少なくありません。
従来のソリューションでは、ディスクリート型の設計によってガルバニック絶縁が実現されていました。その場合、制御信号としては、マイクロコントローラからのデジタル信号をアナログ信号に変換するなど、何らかのアナログ出力を使用することになります。しかし、ディスクリート方式の設計には、集積型のソリューションと比べて多くの欠点があります。例えば、コンポーネントの数が多いことからシステムが複雑になります。また、基板のサイズが大きくなり、コストも上昇します。そうした欠点は、短絡に対する保護機能や故障の診断機能などを追加することによって更に増長されます。
より良い方法は、できるだけ多くの機能を集積したICを活用することです。例えば、アナログ・デバイセズが提供するD/Aコンバータ(DAC)であるAD5422を採用するとよいでしょう。同ICは、分解能が16ビットの高精度品であり、D/A変換の機能に加えてプログラマブルな電流源/電圧出力を提供します。そのため、産業用プロセス制御のアプリケーションに求められる要件を満たすことができます。
多くのプロセス制御アプリケーションでは、4mA~20mAの標準的な電流出力と、ユニポーラ/バイポーラの電圧出力が求められます。図1に、そうした用途で使用されるPLC/DCSモジュールに特に適した回路例を示しました。AD5422を使用して出力モジュールを構成しており、アナログ出力段は完全に絶縁された状態で制御されます。絶縁機能は、4チャンネルのデジタル・アイソレータ「ADuM1401」によって実現されます。
16ビットのDACであるAD5422の出力は、SPI(Serial Peripheral Interface)を介して構成することが可能です。同ICは、産業環境で役立つ診断機能も搭載しています。上述したとおり、マイクロコントローラとAD5422の間に必要な絶縁機能は、ADuM1401によって実現しています。ADuM1401の4つのチャンネルは、AD5422のSPI制御に使用されます。LATCH、SCLK、SDINに対応する3つのチャンネルによってデータを送信し、SDOに対応する1つのチャンネルによってデータを受信します。
産業分野のアプリケーションでは、高い干渉電圧に耐えられる堅牢な出力モジュールが必要になります。堅牢性に関する要件は、各種の規格で規定されています。例えば、IEC 61000では、EMC(電磁両立性)に関する要件を定めています。そうした規格に準拠するには、出力に外付けの保護回路を追加しなければなりません。図1の回路に適用可能な保護回路の一例を図2に示しました。
電流出力IOUTは、4mA~20mAまたは0mA~20mAの範囲で選択的にプログラムすることが可能です。電圧出力は、それとは独立したVOUTピンによって供給されます。これについては、0V~5V、0V~10V、±5V、±10Vに対応するよう構成することができます。どの電圧範囲を選択した場合でも、オーバーレンジは10%です。電流出力にも電圧出力にも、短絡/オープンに対する保護機能を適用しています。両出力は、最大1μFの容量性負荷と最大50mHの誘導性負荷を駆動することが可能です。
AD5422のアナログ電源(AVDD)には10.8V~40V、デジタル電源(DVCC)には2.7V~5.5Vを供給します。ただ、DVCCは電源出力ピンとしても使用できます。つまり、システム内の他のコンポーネントに電圧を供給したり、プルアップ抵抗の終端として使用したりすることも可能です。そうした場合には、DVCC_SELECTピンをフローティングにします。すると、AD5422が内蔵するLDO(低ドロップアウト)レギュレータの4.5V出力がDVCCピンから供給されます。この場合、DVCCピンからは最大5mAの電流を得ることが可能です。図1の回路において、DVCCはADuM1401への給電に使用されています。具体的には、絶縁バリアを挟んだDAC側の領域への給電を担います。
AD5422で使用するリファレンス電圧は「ADR4550」によって生成します。ADR4550は、高精度、低消費電力、低ノイズの電圧リファレンスです。初期誤差は最大0.02%であり、優れた温度安定性を発揮します。また、出力ノイズは最小限に抑えられています。そのため、AD5422は高い精度でD/A変換を実行することができます。
本稿で紹介した回路は、電流出力と電圧出力の両方に対応します。特に、IEC 61000などのEMC規格への準拠が求められるPLC/DCSモジュール用の出力モジュールに適しています。