アクティブ・フィルタを設計しない方法(あるいはダイバーの気を散らすのはサメだけではない)

質問:

アクティブ・フィルタを入念に設計したのに仕様に合わないのはなぜでしょうか?

RAQ:  Issue 12

回答:

その理由は、アクティブ・フィルタ用のソフトウェアの多くが実際のアンプ動作のことをわかっていないからです。最近、私は休暇で紅海へダイビングに行きました。携帯電話とコンピュータは自宅に残し、仕事のことは一切忘れていました。ところが、ばかなことにタオルとカメラをアナログ・デバイセズのロゴ入りリュックサックに入れてダイビング・ボートに乗り込んだのです。ダイバー仲間の1人にロシア出身のエカテリンがいて、アナログ・デバイセズのオペアンプでアクティブ・フィルタを設計したところ、いくつか問題にぶつかっていました。そこにこのロゴです。これで万事休す!

彼女のフィルタ設計は完璧でした。SPICE解析もそれを証明しており、コンポーネントの許容誤差も適切でした。幸い、私はコンピュータがなくてもフィルタがどうして予想どおりに機能しないかわかりました。設計は、すべてのパラメータがゼロか無限大の理想的なオペアンプをもとにしていました。しかし、現実はそれほど都合よくありません。

電圧帰還型オペアンプには、一般に高いオープン・ループ・ゲインと単極の周波数応答があります。高精度タイプでは106dBを超えるゲインがありますが、ゲイン帯域幅積が数MHzを超えることはめったになく、オープン・ループ・ゲインは数Hzで低下し始めます。オーディオ・スペクトルの上限の20kHzになると、高精度オペアンプのオープン・ループ・ゲインは50dBを下回ることがあります。これでは、アクティブ・フィルタの設計は台無しです。さらに、高信号レベルでは、スルーレートによってもアンプの周波数応答が制限されます。

高速オペアンプにはこのような問題はありません。しかし、多くの高速オペアンプは容量性帰還によって発振します。多くのアクティブ・フィルタ・トポロジは容量性帰還を使用しているため、電流帰還型オペアンプでアクティブ・フィルタを設計することは賢いやり方ではありません。

設計者は、小型で安価な高精度コンデンサを使用するために値の高い抵抗を使用しがちです。高い抵抗にバイアス電流が流れ込むと、抵抗での電圧降下によってアンプのオフセット電圧の仕様が低下します。オペアンプのノイズ電流もシステム・ノイズに大きな影響を与えます。

抵抗の(ジョンソン)ノイズは、オペアンプのノイズを上回ることもあります。フィルタ設計者は必ずしもこの点を考慮に入れるわけではなく、また適切な高周波電源デカップリングを行うわけでもありません。このために、アンプの高周波応答が損なわれてしまいます。

エカテリンの問題は、使用していたアンプが遅すぎたことが原因でした。幸い、私はもっと高速のアンプを勧めることができました。その後、帰宅してから知ったのですが、これによって彼女の回路は必要な性能を楽々

と上回ることができました。アクティブ・フィルタの問題を解決した後、私たちは海と美しい岩礁を楽しみ、もう仕事に気を散らすことはありませんでした。

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。