電圧リファレンスの選択

質問:

どのように電圧リファレンスを選べばよいですか?

RAQ:  Issue 114

回答:

どうやら、私のアナログ回路の部品の選び方についての記事がかえって事態をややこしくしてしまったようです。太陽が冷えるときが来ても[ 1 ]、私はまだ記事を書いているかもしれません。 

アナログICの選定に関する一般的な問題について学ぶには、アナログICの選定に関するRAQ[ 2 ]と、その関連記事[ 3 ]を読んでください。

タイプごとに最適化しなければならないパラメータがありますが、ここでは電圧リファレンス(ADCDAC、その他のアナログ回路の精度を決定する安定した正確なDC電圧を生成するデバイス)について考察します。

電圧リファレンスの目的は正確な電圧を生成することであり、当然、出力電圧の値と精度は非常に重要です。さらに、温度ドリフト、長期安定性、出力回路、ヘッドルーム、ノイズといったデバイス固有のパラメータを考慮することも忘れてはなりません。

供給可能な出力電圧の範囲は限られており、ほとんどの場合、+0.5Vから+10Vまでとなっています。私が知る限り、三端子の負リファレンスは市販されていませんが[ 4 ]、二端子(シャント型)リファレンスを正電源または負電源と一緒に使用することは可能です。電圧が固定のリファレンスに加えて、1~2つの外部抵抗器で出力を設定できるリファレンスもあります。もちろん、これらのリファレンスの精度と安定性は、抵抗器の精度と安定性、リファレンス自体の精度によって左右されます。

では、どのような精度と安定性を期待できるでしょうか? AD588では、初期の誤差が0.01% max(1万分の1または約13ビット)、最大温度係数が1.5ppm/°C maxと規定されています。この場合 -40°Cから+100°Cまでの工業用温度範囲では、210ppm(または12ビットの1LSB)の変動を生ずる可能性があります。したがって、温度補償なしで保証できる未校正の最高絶対精度は、全温度範囲で約12ビットになります[ 5 ]。高価な高精度電圧標準器(ICではなく装置)を使用して校正し、ICの温度範囲を室温±20℃に制限したとしても、温度補正後に達成できる絶対精度は16ビット程度にしかならないでしょう。

ただし、温度が大きく変動する場合、校正や温度補正を十分に行っていても、熱機械的ヒステリシスにより電圧リファレンスの再現性は約14ビットに制限されます[ 6 ]

多くのリファレンスのデータシートでは、一般に長時間ドリフトを約25ppm/1000時間に規定しています。この誤差は、経過時間の平方根に比例するので、25ppm/1000時間は約75ppm/年になります。多くの場合、経年変化の速度は最初の数千時間が経過した後は遅くなるので、実際のレートはこれよりもいくらか良い(ただ、確実ではない)と考えられます。というわけで、先ほどと同様、14ビット程度という数字になります。

基本的なリファレンス出力構造には、直列型とシャント型の2つのタイプがあります。シャント型リファレンスは、ツェナー・ダイオードと同様、2つの端子を持ち、固定された電圧で変動電流を吸い込みます。シリーズ・レギュレータには、入力、出力、グラウンドの3つの端子があります[ 7 ]。リファレンス電圧よりも大きいDC電圧を入力に印加すると、正確なリファレンス電圧が出力されます。ほとんどのリファレンスの場合、入力電圧は出力よりも1Vあるいはそれ以上大きくする必要がありますが、ロー・ドロップアウト・リファレンスはその差を数十ミリボルトあるいは数百ミリボルトまで小さくすることができます。

最も簡単なシリーズ電圧リファレンスにはエミッタ・フォロア出力段があり、電流を吐き出すだけですが、多くのリファレンス・アプリケーションではリファレンスが電流を吸い込むことも同様に要求されます。アプリケーションで双方向の電流の流れが必要な場合、この点を確認する必要があります。

高精度リファレンス電圧を発生させるために使われる装置は多少ノイズが多いものもあるので、リファレンスのノイズがアプリケーションに適した十分な低さであることを確認することが重要です。中間帯域のノイズ(100Hz以上)のスペクトル密度は数十mV/√Hz以上あることがありますが、通常、リファレンスが容量性負荷で安定していれば、コンデンサにより、フィルタで減衰させることができます。ただし、リファレンスが安定していても、容量性負荷によりターンオン時間が長くなる可能性があることに注意してください。低周波ノイズは(もっと厄介ですが)、通常、低周波帯域(多くの場合0.1Hz~10Hz)で規定されています。5V pk pk未満であれば優れていて、1V pk-pk~2V pk-pkであれば非常に優れています。汎用アナログICに適用されるその他の考慮事項は、電圧リファレンスにも当てはまります。

汎用アナログICに適用されるその他の考慮事項は、電圧リファレンスにも当てはまります。

 

 

 


1これに関しては心配する必要はありません。太陽がついに燃え尽きるときが来たとしても、30年以内に核融合発電が実用化されると見込まれています。

2Issue111 : アナログICの選び方

3How to choose analog integrated circuits, Part 1
 How to choose analog integrated circuits, Part 2

4負のシリーズ・レギュレータはいくつか存在しますが、電圧リファレンスとして使用できるほど精度が良くありません。負の三端子リファレンスを設計しない方が良いという技術的な理由はありませんが、それらが存在しないのは、需要がないためと思われます。(「これを申し上げるのは、今日はあなたで50人目です。需要がないから販売していないんです!」)

5いったいウィリアム・テルはどの程度正確だったのか?

6Hysteresis Blocks Magic

7これは基本的なデバイスの話です。もっと複雑なリファレンスには、チップ・イネーブル、ノイズ・フィルタリング、センス、フォース出力端子などの端子も組み込まれている可能性があります。

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。