概要
高い堅牢性が求められるシステムには、複数の電源が用意されることがあります。様々な状況に応じていずれかの電源を選択し、給電を実施するということです。そのようなシステムを設計する場合には、各電源や給電先のデバイスが損傷するのを確実に防ぐことが肝要です。そのためには、スイッチを活用して各電源の切り替えを適切に実行する必要があります。その実現手段の1つが、各電源のパスにダイオードを配置する方法です。この方法を採用した場合、より電圧が高い電源から電力が供給されます。ただ、実際にはダイオードを使用する方法よりも柔軟性が高く、はるかに高い電力効率が得られる手法が存在します。それは、理想ダイオードと呼ばれるICを使用する方法です。本稿では、その理想ダイオードを採用することにより得られるメリットについて説明します。なお、理想ダイオードの種類は大きく2つに分けられます。1つは、最も電圧が高い電源からシステムに対する給電が行われるようにするためのシンプルな製品です。もう1つは、各電源電圧の値を高い自由度で選択できる製品です。この種の製品を採用した場合、各電源電圧の高低について考慮する必要はありません。それぞれの値を自由に選択し、それに伴って生じ得る問題を回避することができます。
はじめに
異なる複数の電源から給電できるように構成されたアプリケーションの例は少なくありません。例えば、バッテリ駆動の多くの機器は、バッテリの代わりに使用できるプラグイン型の電源を備えています。また、メインの電源に追加する形で、ACアダプタのAC/DCコンバータで生成した電圧をUSBケーブル経由で供給できるようになっている機器も数多く存在します。
ユーザにとって、いくつかの方法で機器に給電できるのは有益なことです。また、電源に冗長性があるということは、システムの堅牢性が高いということを意味します。
但し、複数の電源を使用可能なシステムを設計する場合には十分な配慮が必要になります。例えば、1つの電源から別の電源に対してエネルギーが流入し、何らかの損傷が生じるといった事態は絶対に避けなければなりません。ここで図1をご覧ください。このシステムには2つの電源が用意されています。そして、各電源のパスにはダイオードが配置されています。この構成では、常により電圧が高い電源から負荷に対する給電が行われます。また、このようなシンプルな構成でありながら、使用していない側の電源も適切に保護されます。このように回路を構成すれば、期待したとおりの機能が得られます。但し、この方法には1つの大きな欠点が存在します。この回路では、電源のパスに配置されたダイオードによって150mV~450mVの電圧降下が生じます。つまり、ダイオードによって多くの電力損失が発生するということです。このことは、特に電源電圧が低い場合に大きな問題になります。例えば、バッテリ駆動の機器などでこのような電力損失が生じるのは非常に好ましくありません。
実は、上記の欠点を回避するために最適なICが存在します。それが理想ダイオードと呼ばれるものです。理想ダイオードでは、ダイオードの代わりにスイッチ(通常はMOSFET)を使用します。そのスイッチがオンになったときにも電圧降下が生じますが、その値はダイオードを使用する場合と比べてはるかに小さくなります。どれだけの電圧降下が生じるのかは、スイッチに実際に流れる電流とスイッチのオン抵抗RDS(ON)によって決まります。理想ダイオードが内蔵するスイッチのオン抵抗は非常に小さいため、電力の損失を少なく抑えられるということです。
図2に示すのは、理想ダイオードとして「LT4422」を2つ使用した場合の例です。この回路では、電源のパスの抵抗値(LT4422のオン抵抗)がわずか50mΩに抑えられます。したがって、電圧降下も非常に小さくなります。また、同ICの消費電流はわずか10μAです。そのため、トータルの損失も少なく抑えられます。なお、図2の回路には1つの追加機能が盛り込まれています。それはLEDによるインジケータ機能です。これにより、負荷に対する給電にどちらの電源が使用されているのかを目視で確認できます。
図2の回路は図1の回路の代替となるものですが、消費電力をより少なく抑えつつ、付加機能も提供するということです。
図2の回路は、図1の回路と同じ原理に基づいて動作します。つまり、電圧が高い方の電源から負荷に対する給電が行われます。ただ、LT4422はイネーブル・ピン(SHDNピン)を備えています。つまり、このピンを制御すれば、必要に応じて同ICをディスエーブルの状態に移行させることが可能です。しかし、その状態においても、INピンの電圧がOUTピンの電圧より高い場合、同ICが内蔵するMOSFETのボディ・ダイオードが導通します。それによって無駄な電力が消費されます。この問題に対処できるように設計されたのが、LT4422の派生品である「LT4423」です。LT4423では、2つのMOSFETがバック・ツー・バックの形で接続されています。つまり、2つのMOSFETは、他方のMOSFETが同時にオンにならない限り、それぞれのボディ・ダイオードに電流が流れないように配置されています。
図3に示したのがLT4423の使用例です。この回路では、各電源電圧の高低について考慮することなく、それぞれの値を自由に設定できます。そのようにして選択を行った場合でも、ボディ・ダイオードに関連する問題を回避することが可能です。但し、このタイプの製品は2つのMOSFETを内蔵していることから、電源のパスの抵抗値が高くなります。LT4422の場合、電源を投入した際のオン抵抗は50mΩです。それに対し、LT4423のオン抵抗は200mΩに達します。
LT4423は、2つのMOSFETを内蔵するだけでなく、過熱に対する保護機能も備えています。ダイオードを使用する場合とは異なり、LT4423の温度が160℃(代表値)を超えると電源のパスが非導通の状態になります。そのため、より堅牢性の高いシステムを構築できます。
理想ダイオードを使用すれば、複数の電源から給電可能なシステムを構築できます。そのような冗長性を実現することで、システムの堅牢性が高まります。また、本稿で紹介した理想ダイオード製品を採用すれば、LEDを用いたインジケータ機能や、過熱に対する保護機能などを利用することも可能になります。
まとめ
理想ダイオードは、一般的なダイオードの代替となる優れたIC製品です。これを使用すれば、複数の電源を備えつつ、より高い電力効率を達成可能なシステムを構成できます。それだけでなく、高い柔軟性を得たり機能を追加したりすることも可能になります。理想ダイオードは使いやすいデバイスであり、それを利用した設計も容易です。特に、本稿で紹介したLT4422やLT4423を採用した場合、そうした効果がより顕著になります。