オートゼロ・アンプの不思議を解き明かす_その2

オフセット、ドリフト、1/f ノイズを除去するオートゼロ・アンプ。その設計アイデアの紹介

2部からなるこの記事の「その1」では、オートゼロ・アンプの動作原理について説明し、重要な特性を明らかにしました。今回はオートゼロ・アンプの特徴を最大限に活かしたアプリケーションのアイデアをいくつかご紹介します。

オートゼロ・アンプの使用法は、その他のオペアンプとあまり変わりません。ほとんどの新型のオートゼロ・アンプは、他のアンプ製品と同じピン配置と機能を備えています。同じように、DCクローズド・ループ・ゲインを抵抗で設定し、フィルタリングや積分などの機能も同じように実行できます。大部分のアプリケーションで主に対応しなければならないのは、帯域幅を制限することによってチョッピングのノイズとパスバンドからのIMDに対する副作用の影響をなくすことです。チョッパ周波数が固定されたオートゼロ・アンプの場合は、チョッピング・ノイズを避けるためにDC信号かそのチョッパ周波数より1kHzないし2kHz低い周波数信号のアプリケーションに制限されてしまいます。

高精度電流検出 : 高精度の電流センサは、差動構成で使用するオートゼロ・アンプ特有の利点を活用できます(図1)。電流センサは、帰還制御システムの高精度電流源などで使用されています。また、バッテリ周辺の電流監視、電気ステアリングのトルク帰還制御、高精度の電力計測器など、さまざまなアプリケーションで利用されています。

Figure 1
図1. 電流検出アンプ

このようなアプリケーションでは、直列電圧降下を最小限に抑えるために、抵抗値が極めて低いシャント抵抗を使用することが望ましくなります。これによって、電力の無駄使いを抑え、大きな電圧降下なしに電流を計測できます。代表的なシャント抵抗は0.1Wです。電流の測定値が1A以上の時、シャント抵抗の電位差は数百mV、場合によっては数Vになることもあり、アンプの誤差発生源は余り気にする必要がなくなります。これに対し、電流の測定値が1mA程度と低い場合、その検出電圧が100μVとなり、絶対精度を維持するには、極めて小さいオフセット電圧とドリフトが必要になります。入力バイアス電流を低くして、バイアス電流が測定電流の大部分を占めることがないようにする必要もあります。高いオープン・ループ・ゲイン、CMRR、PSRRはすべて、回路全体の精度を維持するのに役立ちます。電流の変化があまり早くなければ、固定周波数(スペクトラム拡散していない)のオートゼロ・アンプを利用することで優れた結果が得られます。

一般に、信号帯域幅はできる限り小さい値に制限するとよいでしょう。こうすることで、チョッピングのクロック・ノイズによる影響が最小限に抑えられ、全体のノイズも可能な限り低減できるためです。ちなみに、オートゼロ・アンプの合計電圧ノイズは、信号帯域幅の平方根に比例します(EN=eN×√BW)。オプションのコンデンサ(C)を帰還抵抗と並列に追加することで、簡単なローパス・フィルタができます。また、ゲインやフィルタ用に通常のアンプを追加することもできます。オートゼロ・アンプの高いオープン・ループ・ゲインによって100~1000倍のクローズド・ループ・ゲインも簡単に実現でき、オフセットが数mVで電圧ノイズも割高の低価格CMOSアンプを後段に利用してもシステム精度を損うことはありません。アンプのゲイン帯域幅を回路段のゲインで割った値がチョッピングのクロック周波数の1/2以下であれば、オートゼロ・アンプに高いゲインを使用することで、フィルタのロールオフにもう1つ極を追加することもできます。ただし、フィルタの性能はアンプごとに異なるGBWの影響を受けます。

信号周波数がチョッピングのクロック周波数の1/2を上回る場合は、AD8571 やAD8628などのクロック・レートが疑似ランダムのオートゼロ・アンプを使用してください。この場合、広帯域幅ノイズがわずかに増加するため、その分全体の最大精度がわずかに低下しますが、帯域幅が高くなるので、チョッピングのクロックによるチョッピングノイズで大きな誤差が生じることがなく、IMDの影響がごくわずかになります。

ストレイン・ブリッジ : 低オフセット、且つ低周波数性能での広いダイナミック・レンジが求められる、もう1つの一般的なアプリケーションは、ストレイン・ブリッジを使用するものです。力センサや圧力センサあるいは重量計にこれらのブリッジを利用しますが、フルスケール時でも出力電圧は比較的小さいものになります。この例では、AD8554 (クワッド)の4個のアンプのうち3つを使用して、励起と差動増幅を構成しています(図2を参照)。フルスケール出力は数10mVになります。この場合、オートゼロ・アンプのオフセット電圧がごく低いために、測定信号の誤差が少なくなります。1/f ノイズがないため、重量計のサンプル周期を長くすることができます。これらのアンプは長期ドリフトが低いことから、再キャリブレーションの回数が減るか、場合によっては不要になるというメリットがあります。

Figure 2
図2. 単電源のストレインゲージ・ブリッジ・アンプ

通常圧力センサ・システムでは、高精度な出力要求を満たすために直線性が必要になり、低いオフセットと低ドリフトの特性が役に立ちます。アンプの誤差がごくわずかであるため、十分な特性評価を行なったセンサのスケーリングと直線性で、アンプとの相互作用を心配する必要はありません。入力バイアス電流が低いため、高いブリッジ・インピーダンスにも利用できます。これにより、ブリッジの励起電流を最低減に減らして設計できることから、携帯機器やループ電源のアプリケーションでシステムの消費電力を劇的に改善できます。ブリッジの励起電流が小さいため、ブリッジの自己発熱による誤差も最小限に抑えられます。ストレインゲージ・ブリッジのアプリケーションはほとんどが低周波数であるため、チョッピング周波数をスペクトラム拡散していないAD8551のようなオートゼロアンプであっても問題ありません。ランダム・クロックのオートゼロ・アンプを利用すれば、周波数帯域がもっと高いものやAC励起のブリッジにも対応できます。

赤外線(IR)センサ、なかでも熱電対は、自動車の空調、耳式体温計、住宅の断熱分析、自動車修理の診断などさまざまなアプリケーションでの温度測定用途で利用されるようになっています。センサの出力信号が比較的小さいことから、DC誤差が生じないようにするには、高いゲインとともに低オフセット電圧と低ドリフトが要求されます。AC結合する場合は(図3)、低オフセットと低ドリフトのために入力アンプの出力が飽和状態に近くなるまでドリフトすることはありません。入力バイアス電流が低いため、センサの出力インピーダンスが大きくても誤差はごくわずかです。圧力センサと同じく、時間の経過と温度変化に伴うアンプのドリフトが非常に小さいため、一度温度測定のキャリブレーションを行っておけば、後で生じる誤差は非常に小さくなります。1/fノイズがないので、5Hzなどの低周期で行われるDCレベル測定でのS/N比を改善します。図3に、100~300μVのAC信号を1~3Vのレベルに上げることができるアンプを示します。

Figure 3
図3. 熱電対用の高入力インピーダンス、AC結合プリアンプ

高精度電圧リファレンス(図4)低電圧システムにおける高精度電圧リファレンスICは、使用するに当たり柔軟性に欠け使い難い場合があります。たとえば、(a) 超低ドロップアウト電圧が必要だったり、(b) 負荷電流のソースやシンクを行わなければならなかったり、(c) 高精度産業機器用途などでこうした高精度アンプやコンバータが使用されているシステムには、正のリファレンスに合わせて対になる負のリファレンスも必要だったりすることがあります。オートゼロ・アンプは、オフセットとドリフトがきわめて低く、出力駆動能力があり、しかもアクティブな帰還を使用するため、オートゼロ・アンプと高精度電圧リファレンスを組み合わせれば、こうした問題を効果的に解決できます。

Figure 4a
a. 4.7Vから僅か0.2Vのドロップ電圧の安定化した規準電圧4.5Vを生成
Figure 4b
b. 簡単な構成のバッファリング
Figure 4c
c. ±2.5V電源から±2.048Vリファレンスを生成
図4. 高精度電圧リファレンスの柔軟性を高める高精度アンプ

ご紹介した回路は、オートゼロ・アンプを応用した用途のほんの一部にすぎません。それほど広くない信号帯域幅で、小さい入力信号と広いダイナミック・レンジに対応するアプリケーションでは、ほとんどの場合、オートゼロ・アンプを利用することで性能向上を図ることができます。キャリブレーションが必要なシステムで、メンテナンスなしに長期にわたり性能を維持しなければならない場合も、オートゼロ・アンプが役に立つでしょう。DC性能のチャンネル間マッチングの高い精度が要求されるアプリケーションも、オートゼロ・アンプが検討対象になります。オートゼロ・アンプはDC誤差が非常に小さいため、高いゲインのマルチチャンネル、あるいはシングル・チャンネルであっても、複数の入力チャンネルのマッチングが大幅に低下することがありません。複数のデバイス(デュアルとクワッド)でも低周波数のAC入力のマッチングがとれているため、効果的に利用できます。


著者

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Eric Nolan

Reza Moghimi

Reza Moghimi

Reza Moghimiは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ事業所)の高精度シグナル・コンディショニング・グループのアプリケーション・エンジニア・マネージャです。 1984年にサンノゼ州立大学でBSEE、1990年にMBAを取得しました。