オペアンプは、産業用プロセス制御、科学計測器、医療用機器など各種アプリケーション向けの高品質電流源を作成するために広く使用されています。Analog Dialogue(Volume 1, Number 1, 1967)にはフローティング負荷や接地負荷に定電流を供給する、シングル・アンプ電流源がいくつか紹介されています。圧力トランスミッタやガス検出器などの産業用アプリケーションでは、これらの回路が4 ~ 20 mAまたは0 ~ 20 mAの電流供給用として広く使用されています。
改良型Howland電流源回路(図1)は、グランドに接地した負荷を駆動できるため、かなり普及しています。トランジスタは比較的高い電流を実現できますが、MOSFETに置き換えればさらに高い電流を達成することができます。低価格の低電流アプリケーションの場合は、トランジスタを省略することも可能です(「Difference Amplier Forms Heart of Precision Current Source」Analog Dialogue, Volume 43, Number 3, 2009)。
この電流源の精度は、アンプと抵抗によって決まります。本稿では、誤差を最小限に抑えるための外部抵抗の選択方法を紹介します。
改良型Howland電流源の分析により伝達関数が得られます。
(1) |
ヒントその1:R2 + R5 = R4と設定する
式1では負荷抵抗が出力電流に影響しますが、R1 = R3、R2 + R5 = R4と設定すれば、式は次のように単純化できます。
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ここで、出力電流はR3、R4、R5のみで表される関数です。アンプが理想的なものであれば、出力電流の精度は抵抗の許容誤差によって決まります。
ヒントその2:RL = n × R5と設定する
コンポーネント・ライブラリ内の抵抗の総数を減らすために、R1 = R2 = R3 = R4と設定します。式1は次のように簡単になります。
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R5 = RLであれば、式はさらに簡単になります。
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ここで、出力電流はR5の抵抗のみに左右されます。
入力信号は場合によって減衰する必要があります。たとえば、入力信号が10 VでR5が100 Ωの場合、出力電流は100 mAとなります。20 mAの出力電流を得るには、R1 = R3 = 5R2 = 5R4と設定する必要があります。ここで、式1は次のように単純化されます。
RL = 5R5 = 500 Ωであれば、
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ヒントその3:R1/R2/R3/R4の値が大きくなると、電流精度が向上する
ほとんどの場合、R1 = R2 = R3 = R4、RL≠R5なので、出力電流は式3のように表されます。たとえばR5 = 100 Ω、RL = 500 Ωとした場合、R1の抵抗と電流精度との関係は図2のようになります。0.5%の電流精度を達成するには、R1を40 kΩ以上にする必要があります。
ヒントその4:抵抗許容誤差は電流精度に影響する
実際の抵抗は理想的なものではなく、抵抗ごとに許容誤差が規定されています。図3の回路例は、R1 = R2 = R3 = R4 = 100 kΩ、R5 = 100 Ω、RL = 500 Ωです。入力電圧を0.1 Vに設定した場合、出力電流は1 mAとなります。表1に、個々の抵抗許容誤差に起因する出力電流誤差を示しています。0.5%の電流精度を得るには、R1/R2/R3/R4 に対して許容誤差0.01%、R5に対して0.1%、RLに対して5%を選択する必要があります。許容誤差0.01%の抵抗は高価なため、AD8276などの集積差動アンプを使用するのが理にかなっています。このデバイスは優れた抵抗マッチングとコスト効率を実現しています。
表1. 抵抗許容誤差(%)に対するワーストケースの出力電流誤差(%)
抵抗許容誤差/ 諸抵抗 |
5 | 1 | 0.5 | 0.1 | 0.05 | 0.01 | 0 |
R1/R2/R3/R4 | 110.11 | 10.98 | 5.07 | 1.18 | 0.69 | 0.30 | 0.20 |
R5 | 5.05 | 1.19 | 0.70 | 0.30 | 0.25 | 0.21 | 0.20 |
RL | 0.21 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.20 |
結論
改良型Howland電流源を設計するときは、出力電流が負荷抵抗に左右されないような外部抵抗を選択してください。抵抗許容誤差は精度に影響を及ぼすため、精度とコストのトレードオフが必要となります。アンプのオフセット電圧とオフセット電流も精度に影響します。アンプが回路条件を満たすかどうかはデータシートで確認してください。これらの仕様が精度にどのように影響するかは、Multisimを使ってシミュレートできます。集積差動アンプはオフセット電圧、オフセット電圧ドリフト、ゲイン誤差、およびゲイン・ドリフトが小さいため、高精度の安定した電流源を費用効果的に実現することができます。
参考資料
Guo, David「低消費電力、ユニティ・ゲインのディファレンス・アンプ(差電圧アンプ)で低価格の電流源を実現」Analog Dialogue, Volume 45, Number 2, 2011
Loe, James M. Grounded-load current source uses one operational amplier, Analog Dialogue, Volume 1, Number 3, 1967.
Miller, Bill. Single Amplifier Current Sources, Analog Dialogue, Volume 1, Number 1, 1967.
Moghimi, Reza「ディファレンス・アンプの性能最適化法」AN-589
Zhao, Neil, Reem Malik, and Wenshuai Liao. Difference Amplifier Forms Heart of Precision Current Source, Analog Dialogue, Volume 43, Number 3, 2009.