24GHz~44GHzに対応する高集積度のアップコンバータ/ダウンコンバータ、マイクロ波システムの性能向上と小型化を実現

アナログ・デバイセズの「ADMV1013」と「ADMV1014」は、それぞれマイクロ波に対応するアップコンバータICとダウンコンバータICです。これらの製品は、24GHz~44GHzという非常に広い周波数範囲に対応し、1GHz以上の瞬時帯域幅を実現します。広く検討されている28GHzと39GHzの帯域をカバーしているため、バックホールやフロントホールなど、超広帯域に対応するトランスミッタ/レシーバー・アプリケーションに最適です。50Ωに整合されているなど、ミリ波を使用する5G向け小型プラットフォームの設計/実装を簡素化するための特徴を備えています。

ADMV1013とADMV1014は、いずれも高い集積度を誇る製品です(図1)。ベースバンドに対するダイレクト・コンバージョン(DC~6GHzに対応)またはIF(中間周波数)変換(800MHz~6GHzに対応)向けに構成することが可能な直交位相シフタや、I(同相)チャンネル用ミキサー、Q(直交位相)チャンネル用ミキサーを内蔵しています。また、アップコンバータであるADMV1013のRF出力部には、送信用のドライバ・アンプと可変電圧アッテネータ(VVA:Voltage Variable Attenuator)が用意されています。一方、ダウンコンバータであるADMV1014のRF入力部には、低ノイズ・アンプ(LNA)、ゲイン段、VVAが配置されています。どちらのICも、LO(局部発振器)用のパスは、LO用のバッファ、周波数逓倍器(4倍)、プログラマブルなバンドパス・フィルタで構成されています。ほとんどのプログラマブルな機能やキャリブレーション用の機能は、SPI(Serial Peripheral Interface)を介して制御できます。つまり、ソフトウェア・ベースの構成処理により、比類ない性能レベルを容易に達成することが可能です。

図1. ADMV1013(アップコンバータIC)とADMV1014(ダウンコンバータIC)
図1. ADMV1013(アップコンバータIC)とADMV1014(ダウンコンバータIC)

図1. ADMV1013(アップコンバータIC)とADMV1014(ダウンコンバータIC)

ADMV1013の詳細

ADMV1013は、2つの周波数変換モードを備えています。1つは、I/Qベースバンド信号からRF信号へのダイレクト・アップコンバージョンを実現するモードです。このI/Qモードを使用する場合、I/Qベースバンド信号用の差動入力部は、送信用の高速D/Aコンバータ(DAC)のペアによって生成されたDC~6GHzの信号を受け取ることができます。コモンモード電圧VCMは0V~2.6Vの範囲で設定できるので、ほとんどのDAC製品のインターフェースに対応可能です。アップコンバータのレジスタを設定することにより、選択したDACのVCMに対してバイアスを簡単に最適化できるため、インターフェース部の設計が簡素化されます。もう1つのモードでは、直交デジタル・アップコンバータによって生成された信号などの複素IF信号からRF信号への単測波帯アップコンバージョンが実行されます。また、このICに特有の機能として、I/Qモードでは、Iチャンネル用ミキサーとQチャンネル用ミキサーのDCオフセット誤差をデジタル的に補正し、RF出力へのLOリークを改善できるようになっています。キャリブレーションを実施した後は、最大ゲインのRF出力においてLOリークを-45dBmに抑えることが可能です。ダイレクト・コンバージョンにおける重要な課題の1つは、I/Qの位相がアンバランスである場合に、側波帯抑圧(Sideband Suppression)性能が低下することです。また、ダイレクト・コンバージョンには、一般に側波帯がマイクロ波の搬送波に近すぎるため、フィルタが実用的なレベルで機能しないという問題もあります。ADMV1013を採用すれば、レジスタを使ったチューニングによって、I/Qの位相のアンバランスをデジタル的に補正できるため、この問題を解決することが可能です。同ICが通常動作している場合、キャリブレーションを適用しない状態での側波帯抑圧性能は26dBcです。同ICが内蔵するレジスタを使用すれば、キャリブレーションを実施した後の側波帯抑圧性能を約36dBcまで改善することができます。どちらの補正機能も、外付け回路を追加することなく、SPIを介して利用可能です。なお、I/Qモードでは、I/Qベースバンド・チャンネルに対応する各DACの位相バランスを更に調整することで、より高い抑圧性能を達成することができます。性能の改善に役立つ各種の機能により、マイクロ波帯における無線性能を高めつつ、外付けフィルタの規模を最小限に抑えることが可能になります。

ADMV1013はLO用のバッファを内蔵しているため、LO用に必要な駆動レベルはわずか0dBmです。このことから、「ADF4372」や「ADF5610」など、電圧制御発振器(VCO)を備えるシンセサイザICで直接駆動することができます。その結果、外付け部品の点数を更に減らせるというメリットが得られます。また、内蔵する周波数逓倍器(4倍)により、LO周波数に対し、必要な搬送波周波数までの逓倍処理が行われます。得られた信号はプログラマブルなバンドパス・フィルタに入力され、不要な逓倍高調波が低減されます。その結果となる信号が、ミキサーの直交位相生成段に供給されます。この構成により、ミキサーに注入されるスプリアスが大幅に低減されます。加えて、対応周波数が低い安価なシンセサイザやVCOを選択することが可能になります。変調されたRF出力は、VVAを挟む2つのアンプ段によって増幅されます。ユーザ自身が調整可能なゲイン制御範囲は35dBです。また、カスケード接続を行った場合の最大変換ゲインは23dBです。ADMV1013は、40ピンのLGAパッケージを採用しています(図2)。上記の各種機能によって、卓越した性能、最大限の柔軟性、使いやすさを提供しつつ、必要な外付け部品の点数を最小限に抑えます。そのため、スモール・セルの基地局など、マイクロ波を利用する小型のプラットフォームの実装に非常に適しています。

図2. ADMV1013の評価用ボード。同ICは6mm×6mmの表面実装パッケージを採用しています。

図2. ADMV1013の評価用ボード。同ICは6mm×6mmの表面実装パッケージを採用しています。

ADMV1014の詳細

ADMV1013と同様に、ADMV1014のLOパスも、LO用のバッファ、周波数逓倍器(4倍)、プログラマブルなバンドパス・フィルタ、直交位相シフタといった要素で構成されています。但し、ADMV1014はダウンコンバータなので、RFフロントエンド部にはLNAがあり、その後段にはVVAとアンプが続きます(図1(b))。ゲインの連続的調整範囲は19dBであり、VCTRLピンにDC電圧を印加することで制御します。I/Qモードでは、マイクロ波からベースバンドDCへのダイレクト・コンバージョン用復調器として、ADMV1014を使用することができます。このモードでは、復調後のI/Q信号が各I/Q差動出力部によって増幅されます。それぞれのゲインとVCMは、SPIを介してレジスタによって設定可能です。ADMV1014を使えば、ベースバンド用のA/Dコンバータ(ADC)のペアに差動信号をDC結合することができます。あるいは、ADMV1014により、I/Qの各信号に対応するシングルエンドのIFポートに向けて、ダウンコンバージョンとイメージの除去を実施することも可能です。また、どちらのモードでも、SPIを介してI/Q信号の位相と振幅のアンバランスを補正することができます。その結果、ダウンコンバータによるベースバンド/IFへの復調時におけるイメージの除去性能を高められます。24GHz~42GHzの周波数範囲において、このダウンコンバータの総カスケード・ノイズ指数は5.5dB、最大変換ゲインは17dBです。周波数が帯域の上限である44GHzに近づいても、6dBという高いカスケード・ノイズ指数が維持されます。

図3. ADMV1014の評価用ボード。ADMV1013よりもやや小さい5mm×5mmのパッケージを採用しています。

図3. ADMV1014の評価用ボード。ADMV1013よりもやや小さい5mm×5mmのパッケージを採用しています。

ミリ波を使用する5Gシステムの性能向上

図4に示したのは、28GHzを使用してダウンコンバータの性能を測定した結果です。4つの独立した100MHzのチャンネルを使用し、5G NRに対応する信号を対象としました。チャンネル当たりの入力電力は-20dBm、変調方式は256QAM(直角位相振幅変調) です。EVM( エラー・ベクトル振幅)の値は-40dB(1%rms)であり、ミリ波を使用する5Gのシステムで求められる高次変調方式の復調に対応できます。ADMV1013/ADMV1014は、1GHzを超える帯域幅に対応します。ADMV1013のOIP3(出力3次インターセプト・ポイント)は23dBm、ADMV1014のIIP3(入力3次インターセプト・ポイント)は0dBmです。両ICを併用することにより、高次のQAMに対応し、データのスループットを高めることができます。また、両ICは、衛星/地上局の広帯域通信リンクや、セキュアな無線通信、RF試験装置、レーダー・システムなどのアプリケーションにも適用可能です。いずれも、優れた直線性、高いイメージ除去性能を備えているため、コンパクトなソリューション・サイズ、小さなフォーム・ファクタ、高性能のマイクロ波リンクを組み合わせて広帯域に対応する基地局を実現することができます。

図4. EVM性能の測定値(%rms)と入力電力の関係。上に示したのは、28GHz/256QAMの条件で取得したコンステレーション・ダイアグラムです。
図4. EVM性能の測定値(%rms)と入力電力の関係。上に示したのは、28GHz/256QAMの条件で取得したコンステレーション・ダイアグラムです。

図4. EVM性能の測定値(%rms)と入力電力の関係。上に示したのは、28GHz/256QAMの条件で取得したコンステレーション・ダイアグラムです。

James-Wong

James Wong

James Wongは、アナログ・デバイセズのRF製品マーケティング・マネージャです。25年以上にわたり、マーケティングおよびセールスの管理職を務めてきました。RF回路、アナログ回路、システムの設計についても25年以上の経験を有しています。

Kasey-Chatzopoulos

Kasey Chatzopoulos

Kasey Chatzopoulosは、アナログ・デバイセズのマイクロ波通信グループに所属する製品アプリケーション・マネージャです。マイクロ波に対応する周波数変換IC、RFチューナブル・フィルタ、ビームフォーマ製品を担当しています。2012年にマサチューセッツ大学ダートマス校で電気工学の学士号、2017年にマサチューセッツ大学ローウェル校で電気工学の修士号を取得。2012年にHittite Microwave(現在はアナログ・デバイセズに統合)に入社しました。製品技術者として2年間勤務した後、RF/マイクロ波グループの製品/アプリケーション・チーム・リードの職に就きました。その後、マイクロ波通信グループに異動し、設計評価マネージャ、製品ライン・マネージャをそれぞれ2年間務めました。2019年初頭から現職。

Murtaza-Thahirally

Murtaza Thahirally

Murtaza Thahirallyは、アナログ・デバイセズのマイクロ波通信グループに所属するアプリケーション・エンジニアです。マイクロ波に対応する周波数変換ICを担当しています。2012年にウースター工科大学で電気/コンピュータ工学と経済学の学士号、2016年にパデュー大学で電気/コンピュータ工学の修士号を取得。2012年にアナログ・デバイセズに入社し、RF/マイクロ波グループの製品技術者として3年間勤務しました。その後、マイクロ波通信グループに異動し、アプリケーション・エンジニアとして4年間勤務しています。