ICのパワーオン・リセットとパワーダウン

最近のICは、電源をオン/オフしたときに理想的な状態が得られるようにするための高度な回路を採用していま す。具体的には、電源をオンにしたときには、メモリにデータを保持したまま素早く起動し、ICを既知の状態 にすることができるようになっています。一方、電源をオフにしたときには、消費電力をできるだけ少なく抑 えることが可能です。本稿では、こうしたパワーオン・リセット機能やパワーダウン機能を使用する際のヒン トを紹介します。

パワーオン・リセット

はじめに

多くのICは、パワーオン・リセット(POR:Power-onReset)回路を搭載することにより、電源を投入した際、アナログ部、デジタル部が既知の状態に初期化されることを保証しています。基本的なPOR機能では、競合状態を回避し、正しい動作を保証するための閾値に電源電圧( 外部から電源ピンに供給される電圧) が達するまでデバイスをスタティックな状態に保つために、ICの内部でリセット・パルスを生成します。この閾値電圧は、データシートに記載されている最小電源電圧とは異なることに注意してください。電源電圧が閾値に達したら、ICが内蔵するPOR回路がリセット信号を送信し、ステートマシンがIC自身を初期化します。ICは初期化が完了するまで、送られてきた何らかのデータを含めてあらゆる外部信号を無視します。唯一の例外は、リセット・ピンに入力されるリセット信号だけです。これが存在する場合には、IC内部でPOR信号にゲーティングされます。POR回路は、図1に示すようなウィンドウ・コンパレータとして表すことができます。比較に使用する閾値電圧VT2は、ICの動作電圧とプロセス・ジオメトリに基づいて回路を設計する際に定義されます。

Figure 1
図1 . 簡素化して示したPOR回路

PORに関する戦略

一般に、コンパレータのウィンドウはデジタル電源のレベルによって定義されます。アナログ部の制御はデジタル部が行いますが、図2に示すように、デジタル部が完全に動作するために必要な電圧は、アナログ部が機能するために必要な最小電圧とほぼ同じになります。

Figure 2
図2 . P O R の閾値電圧

閾値電圧VT2が高いほどアナログ部にとっては好都合ですが、推奨電源電圧の最小値に近づけすぎると、電圧が少し低下しただけで誤ってリセットしてしまう可能性があります。デバイスにアナログ電源とデジタル電源が独立して設けられている場合、誤動作を避けるための方法は、POR回路を1つ追加し、動作が保証される十分なレベルに電源電圧が達するまでデジタル部とアナログ部の両方をリセット状態に保つというものです。例えば、電源電圧が3VのICの場合に、VT1≒0.8V、VT2≒1.6Vにするといった具合です。

上記の電圧値は、製造プロセスや設計上の何らかの違いによって変更しなければならないかもしれませんが、それでも合理的な値であることは確かです。閾値の許容誤差は20%以上、旧来の設計では最大で40%にも上ることがあります。許容誤差が大きいと、消費電力に影響が及びます。PORは常時有効でなければならないので、精度と消費電力の間で必ず生じるトレードオフが重要になります。機能的にはまったく違いがなくても、精度が高いほどスタンバイ・モードにおける回路の消費電力が多くなるからです。

ブラウンアウトの検出

P O R 回路には、ブラウンアウトの検出回路(BOD:Brownout Detector)が付加されている場合があります。BODは、予期せず電圧が短時間低下した際、リセット機能が働いてICが誤動作を起こしてしまうのを回避するためのものです。具体的には、BODによって、POR用に定義された閾値電圧に300mV程度のヒステリシスが追加されます。図3に示すように、BOD回路は、電源電圧がVT2を一度超えた後は、閾値VBODよりも電源電圧が低くならない限り、POR回路からリセット・パルスが生成されないことを保証します。

Figure 3
図3 . B O D による効果

BODの閾値は、機能を保証できるほどには高くありませんが、デジタル回路において情報を保持できることを保証するには十分なレベルの高さです。このため、電源電圧が一定のレベルを下回ったらコントローラによって動作を停止することができ、ごく限られた時間だけ電源電圧が低下した場合には、IC全体を再度初期化する必要はありません。

適切なパワーオンの方法

実際のPOR回路は図1に示した回路よりも複雑です。例えば、抵抗の代わりにMOSトランジスタが使用されるといった具合です。このため、寄生素子のモデルについても考慮しなくてはならないほか、POR回路には起動用のパルスを生成するための回路が必要です。ただ、そのような回路は特定の条件下では正しく動作しない可能性があるので注意が必要です。次に、上記以外の重要な検討事項について説明します。

まず、印加する電源電圧は単調に増加するように注意することが重要です。電圧の上昇が単調ではない場合、閾値の付近で増減が生じることによって問題が発生する恐れがあります。閾値の付近で大きな増減が生じると、非単調性の同一シーケンスによって、あるデバイスでは機能が働くのに、他のデバイスでは機能が働かないといったことが起こり得ます(図4)。

Figure 4
図4 . 電源電圧が単調に増加していない例

電源は遮断(LDOがディスエーブル)されているものの、コンデンサに残留電圧(Residual Voltage)が保持されているというケースがあります(図5)。電源電圧が必ずVT1より低下するように、残留電圧はできるだけ小さくする必要があります。そうしなければPORが正しく機能しません。つまり、ICは正しく初期化されないということです。

Figure 5
図5 . 残留電圧の影響

複数の電源ピンを備える製品の場合、推奨される電源投入シーケンスがデータシートに明記されていることがあります。この場合、記載されたシーケンスに従うことが重要です。例えば、2つの独立した電源を備えるICがあったとすると、恐らく電源投入シーケンスとしては、アナログ電源よりも先にデジタル電源を投入することが求められます(アナログ部の制御はデジタル部によって行うので、デジタル部の電源を先に投入するのが一般的)。また、アナログ部、デジタル部ともに必ず最初に初期化することも必要です。どちらの電源電圧が先に上昇し始めてもかまいませんが、アナログ電源よりも先にデジタル電源が閾値を超えるようにしなければなりません(図6)。2つの電源間の遅延が1 0 0 μ s程度であればほとんど影響はなく、ICは正しく初期化されるはずです。

Figure 6
図6 . 推奨される電源投入シーケンス

IC内部のトランジスタには寄生容量が存在します。これらが原因で、電源電圧が100ms程度かけて緩やかに上昇する場合には問題が生じる可能性があります。POR回路は、電源に関する通常の条件の下で正しく動作することを保証するために、さまざまなスルーレートで評価されます。電源電圧が素早く(1 0 0 μ s以下で)増加する必要がある場合には、データシートにその旨が記載されます。

例えば、基板から電源までの間が細いケーブルで接続されているなど、グラウンドへの接続が不適切なケースがあります。こうした場合、グラウンドのインピーダンスが高くなり、電源を投入した際にグリッチが生じる可能性があります。また、一部の電磁環境では、MOSトランジスタのゲート容量(寄生容量)に電荷が蓄積されることがあります。それが放電されるまでの間にトランジスタが誤動作し、結果としてPORによる初期化が失敗する恐れがあります。

ドリフトや許容誤差についても考慮しなければなりません。コンデンサなどのディスクリート部品は許容誤差が大きく(最大40%)、温度/電圧/時間によるドリフトも大きいことがあります。また、閾値電圧の温度係数は負の値( 温度が低下すると増加) になります。VT1が室温では0.8Vであったとしても、-40℃では0.9V、105℃では0.7Vになるかもしれないということです。

まとめ

本稿では、ICの電源投入に関して、システムの問題につながる恐れのある一般的な問題について説明したほか、ICが正しく初期化されることを保証するための基本的な方法を示しました。見落とされがちなことですが、電源電圧については、その最終的な値の精度と過渡的な動作の両方が重要です。

参考資料

Merino, Miguel Usach「digiPOT(デジポット)の仕様とアーキテクチャを理解し、AC性能の向上を図る」AnalogDialogue 45-08

Miguel Usach Merino

Miguel Usach Merino

Miguel Usach Merinoは、2008年にアナログ・デバイセズに入社しました。スペインのバレンシアでリニア/高精度技術グループに所属するアプリケーション・エンジニアとして業務に携わっています。バレンシア大学で電子工学の学位を取得しています。

Dushyant-Juneja

Dushyant Juneja

Dushyant Junejaは、アナログ・デバイセズのCADエンジニアです。主に、AMSの検証、ビヘイビア・モデリング、AMSの設計におけるESD保護を担当しています。2010年にインド工科大学バラナシ校で電気工学の学士号を、2012年にインド工科大学カラグプル校で計装工学の修士号を取得しています。