LTpowerCADの抵抗分圧器ツールを活用し、電源回路の出力精度を検証する

概要

本稿では、電源回路の出力を、給電先回路の許容誤差の範囲内に収めるための手順を示します。具体的には、LTpowerCADのツールボックスに含まれる抵抗分圧器ツール(Resistor Divider Tool)を使用することで、各部品の許容誤差に起因する出力電圧の誤差を見積もる方法を紹介します。この情報を活用することで、アプリケーションにおいてどれだけの誤差を許容できるのか判断することができます。

はじめに

あらゆる電子回路には電源が必要です。例えば、無線システムであれば、トランシーバー、マイクロプロセッサ、FPGA、アンプなどの要素で構成されるでしょう。そうしたアナログ回路、デジタル回路を動作させるには、電源回路から給電を行わなければなりません。

電源回路には多くの形態や形式があります。代表的なものとしては、リニア・レギュレータやスイッチング・レギュレータが挙げられます。それらは異なるアーキテクチャを採用していますが、各アーキテクチャにはそれぞれ長所と短所があります。どのアーキテクチャが適切なのかは、アプリケーションによって異なります。ただ、電源ICをベースとするあらゆるアーキテクチャには1つ共通する事柄が存在します。それは、外付け部品、特に帰還抵抗によって出力電圧が決まるということです。

シミュレーション・ツールを利用すれば、求められる仕様に合致する電源を設計するのが容易になります。特に、その仕様を満たすために必要な受動部品の値を簡単に把握することができます。但し、シミュレーションで良好な結果が得られたとしても、現実の条件を反映しきれていない可能性があるので注意が必要です。よくあるのが、受動部品の許容誤差を網羅できていないというケースです。抵抗やコンデンサなどについては定格値が規定されていますが、実際の値にはばらつきがあります。そのばらつきを表すのが許容誤差です。例えば、シミュレーションにおいて、57kΩと23kΩの抵抗を組み合わせることにより、電源の出力として5Vという値が得られたとします。しかし、現実の抵抗にはばらつきがあるので、それらの値が正確に57kΩ、23kΩであるケースはまれです。つまり、シミュレーションどおりの結果は得られないということになります。ICの本質的な誤差に加えて、受動部品の許容誤差もDC出力電圧の精度に影響を及ぼします。

レギュレータ出力の計算

アナログ・デバイセズは、数多くの電圧レギュレータICを提供しています。それらの製品は、出力電圧をフィードバックするためのピン(FBピンまたはADJピン)を備えています。そのピンと、2つの外付け抵抗RTOP、RBOTを使用することによって、出力電圧の値を設定することができます。具体的には、RTOPをVOUTとFBピンに接続し、RBOTをFBピンとICのシグナル・グラウンド・ピンに接続します。標準的なICのデータシートには、出力電圧の値を決めるものとして、以下の式が記載されています。

数式 1

ここで、VREFはICの内部リファレンス電圧です。これは、帰還経路に配置された内蔵エラー・アンプに入力されます。図1に、リニア・レギュレータ「LT3062」の出力電圧の計算方法と結果を示しました。

図1. LT3062の出力電圧
図1. LT3062の出力電圧

ICの内部で生成されるリファレンス電圧VREFは正確だと想定できます。その値は、LT3062の場合で0.6Vです。上述したように、ICのレギュレーション電圧は、帰還電圧を決定する抵抗分圧回路(図1で言えば抵抗R1とR2)によって決まります(表1)。ただ、図1に示したLT3062の出力電圧の計算式にはIADJという項が含まれています。これは、ADJピンから流れ出すバイアス電流です。IADJの標準値は15nAですが、電気的特性(EC:Electrical Characteristic)を示した表を見ると、最大で60nAに達する可能性があることがわかります。そうすると、VOUTのレギュレーション誤差は更に大きくなります。

表1. LT3062の出力電圧の設定。R1とR2の組み合わせ方として一般的な値を示しています。
VOUT (V) R1 (kΩ) R2 (kΩ)
1.2 118 118
1.5 121 182
1.8 124 249
2.5 115 365
3 124 499
3.3 124 562
5 115 845
12 124 2370
15 124 3010

R1とR2の許容誤差が1%であると仮定しましょう。その場合、抵抗分圧器に起因するVOUTの誤差は1%になるのでしょうか。それとも2%でしょうか。アプリケーションによっては、許容誤差が0.5%、0.1%の高精度の抵抗を使用しなければならないのでしょうか。言うまでもなく、出力電圧にはある程度の精度が求められます。そのため、適切な抵抗を選択することが非常に重要になります。ただ、より許容誤差の大きい抵抗を使用しても目標となる出力誤差を達成できるのならば、許容誤差が非常に小さい抵抗をわざわざ使用する必要はありません。許容誤差が小さい抵抗は、許容誤差が大きい抵抗よりもはるかに価格が高い可能性があるからです。

LTpowerCADの抵抗分圧器ツール

上述した抵抗値の設定に役立つのが、LTpowerCAD®の抵抗分圧器ツールです(図2)。LTpowerCADは、電源の設計をあらゆる機能で支援するソフトウェア・ツールです。抵抗分圧器ツールをはじめとする様々なツールがツールボックスとして提供されています。抵抗分圧器ツールには、所望の出力電圧VOUTや内部リファレンス電圧VREF(ADJピンまたはFBピンの電圧)などを入力します。すると、設定された許容誤差に基づき、標準抵抗の中から所望の出力電圧を得るために適した組み合わせが提案されます(図3)。このツールを使用すると、次の2つの誤差について見積もりが行われます。1つは、選択肢が限られている2つの標準抵抗の値に起因する誤差です。同ツールは、与えられたVOUTとVREFに対し、その誤差が最小になり、実際のVOUTが目標値に最も近くなる標準抵抗の最良の組み合わせを自動的に選択します。もう1つは、与えられたVOUTとVREFに対し、抵抗の許容誤差に起因して発生する誤差です。2つの抵抗によって構成される抵抗分圧器の実質的な誤差は、それらの抵抗比の関数として表されます。2つの抵抗の許容誤差が1%である場合、レギュレータの出力電圧の誤差は1%~2%となります。同ツールは、これら2つの誤差を合算してトータルの許容誤差を求めます。その値を確認することで、最終的な目標を達成するためには許容誤差がいくつ(0.1%、0.5%、1%、2%)の抵抗が必要なのかを容易に判断することができます。

図2. 抵抗分圧器ツールの起動。このツールはLTpowerCADのツールボックスに含まれています。
図2. 抵抗分圧器ツールの起動。このツールはLTpowerCADのツールボックスに含まれています。
図3. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その1)。2つの抵抗の組み合わせを提案してくれます。
図3. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その1)。2つの抵抗の組み合わせを提案してくれます。

LTpowerCADの抵抗分圧器ツールは、2つの抵抗のうち一方の値が指定された場合に(ユーザーが入力)、目標値や受動部品の許容誤差を考慮しながら、もう一方の値を求める機能も備えています。

また、抵抗値を提案するだけでなく、VOUTの理想的な値と現実の値を基に、受動部品の許容誤差に起因する誤差を計算して示してくれます。

これらのパラメータを参照することにより、選択した受動部品の許容誤差に対して予想される出力電圧範囲を大まかに把握することができます。それを踏まえて、対象とするアプリケーションの要件を満たすか否かを適切に評価することが可能になります。

更に、このツールは、与えられた任意の抵抗値に対応して適切な標準抵抗を検索する機能も備えています(図4~図6)。

その他の誤差、検討すべき事柄

LTpowerCADの抵抗分圧器ツールを利用するにあたっては1つ注意すべきことがあります。それは、同ツールによって見積もられるのは、抵抗分圧器に起因するDC誤差だけだということです。電源のレギュレーション精度に影響を与える要因はそれだけではありません。そうした他の要因としては、以下のようなものがあります。

(1) IC の内部リファレンス電圧 VREF の誤差。一般的には 0.5% ~1.5% の範囲の値です。IC のデータシートを見ると EC 表に記載されています。

(2) 電源のライン・レギュレーションと負荷レギュレーションの誤差。これらも IC の EC 表に記載されています。

(3) ADJ ピンまたは FB ピンのリーク電流による誤差。LT3062の例からわかるように、この誤差は RBOT の値が小さいほど小さくなります。

(4) プリント基板の配線抵抗に起因するその他の誤差。ローカルの IC とリモートの負荷デバイスの間のパターンが問題になります。

電源を設計する際には、上記のようなすべての誤差について考慮し、トータルの誤差を見積もらなければなりません。

精度の高い電子システムについては、電源回路の出力電圧におけるトータルの許容誤差に対して厳しい要件が課せられることがあります。そうした誤差には、DC誤差だけでなくACリップルなども含まれます。例えば、大電流を消費するASICやFPGAに給電する電源の場合、トータルの許容誤差を±2%~±3%に抑えなければなりません。そうした厳しい要件を満たすには、高速なトランジェント応答が得られるように電源回路を設計する必要があります。また、高速かつステップ状の負荷トランジェントに対し、VOUTのリップルを最小限に抑えられるよう値の大きい出力コンデンサを使用しなければなりません。そのような場合には、VREFの誤差が小さいICを選択することが重要です。大電流に対応するためには、電圧をリモートで検出する機能を備えたレギュレータが適しています。また、許容誤差が0.5%、0.1%の抵抗を使用することで少しコストが増加するのを避けることよりも、出力コンデンサの占有面積とコストを削減することの方がはるかに重要になります。あるいは、集積度の高い電源モジュールを使用するのが適しているケースもあります。例えば、アナログ・デバイセズが提供するLTMシリーズのμModule®レギュレータでは、高性能かつ完全な電源ソリューションとしてのDCレギュレーション誤差(VREF、ライン・レギュレーション、負荷レギュレーションの誤差を含む)が規定されています。

図4. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その2)。RTOP、RBOTTOMの値を提案してくれます。
図4. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その2)。RTOP、RBOTTOMの値を提案してくれます。
図5. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その3)。出力電圧の誤差の計算結果が表示されています。
図5. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その3)。出力電圧の誤差の計算結果が表示されています。
図6. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その4)。標準抵抗の検索結果を示しています。
図6. 抵抗分圧器ツールの利用画面(その4)。標準抵抗の検索結果を示しています。

まとめ

電源の出力電圧においては、対象となるアプリケーションに応じ、誤差を一定のレベルに抑えなければなりません。システムによっては、数mVの誤差が重大な問題になる可能性があります。したがって、設計上の要件を適切に満たさなければなりません。

レギュレーション精度を確保するために制御できる外的な要因の1つが、受動部品の許容誤差です。許容誤差が0.5%の抵抗を使用するのか、同2%の抵抗を使用するのかによって、システムの性能に大きな影響が及ぶ可能性があります。受動部品を適切に選択することで、問題が生じる確率は低下し、コストの最小化と信頼性の向上が図れます。受動部品を変更する必要が生じなくなったり、最小限に抑えられたりするからです。

LTpowerCADの抵抗分圧器ツールを使用すれば、コンポーネントの許容誤差が電源の設計に及ぼす影響を簡単に確認することができます。目標となる出力電圧とリファレンス・ピンの電圧を選択することで、以下のようなことが可能になります。

(1) 目標の電圧に対応して、標準抵抗の最良の組み合わせを見いだすことができます。

(2) 一方の抵抗の値を指定して、もう一方の抵抗の値を算出することが可能です。

(3) 使用する抵抗の許容誤差に起因する電圧誤差の範囲を算出することができます。

これらの機能に加えて、抵抗分圧器ツールは標準抵抗を検索する機能も備えています。これは、電源の設計についてこれから習得しようとする初級レベルの技術者にとって特に有用なツールです。このツールを使用することにより、対象となるアプリケーションに求められる仕様に適合した電源を容易に設計できるようになります。その結果、様々なシステム・ブロックに対して最適な電力を供給し、性能を最大限に引き出すことが可能になります。

Jose SanBuenaventura

Jose SanBuenaventura

Jose Ramon San Buenaventura は、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。フィリピン カヴィテを拠点としています。入社は2018年。センサー、センサー用のアナログ・フロント・エンド、センサ・フュージョンなどに関するプロジェクト、MATLAB/C/Pythonなどによるプログラミング、デジタル信号処理、アルゴリズムなどに関する様々な業務を担当してきました。デラサール大学ラグナキャンパスで電子/通信工学の学士号を取得しています。

Henry Zhang

Henry Zhang

Henry Zhangは、アナログ・デバイセズでPower by Linear製品を担当するアプリケーション・ディレクタです。2001年にLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)に入社しました。1994年に中国の浙江大学で電気工学の学士号、1998年と2001年にバージニア工科大学で電気工学の修士号と博士号をそれぞれ取得しています。