エネルギー・ハーベスト向け電力変換技術の進化

現在、注目を集めている技術の1つにエネルギー・ハーベストがありますが、実はこの技術ははるか以前から存在していました。例えば、1980年代には、太陽電池によって演算ユニットと液晶ディスプレイを動作させる小型電卓が広く使われていました。それよりもはるか昔、電気革命の初期の頃には、水流によって回転する水車に発電機を取り付けて電力を得ていました。これもエネルギー・ハーベストの一種だと言えるでしょう。 今日、エネルギー・ハーベストという言葉は「電気機器で使用される電池を置き換える電力源」といった意味で使われています。つまり、1980年代の電卓の例と同様のことを、より複雑なシステムを対象とし 、エネルギー・ハーベストによって実現しようとしているということです。

エネルギー・ハーベストの基本

エネルギー・ハーベストを実現するシステムで最も重要な要素は、間違いなくエネルギーの収集を担うハーベスタです。その最も一般的な例が太陽電池だと言えます。ハーベスタによって収集したエネルギーは、システムに電力を供給したり、電気二重層キャパシタや2次電池といった中間エネルギー・ストレージ・デバイスを充電したりするために、電圧または電流に 変換する必要があります。 システムに電力を供給する場合には、各電子機器向けに適切な電圧を生成する必要があります。図1にエネルギー・ハーベストを適用したシステムの例を示しました。このシステムにおいて、図中のパワー・マネージメント・ユニットは、以下に示すさまざまなタスクを実行します。収集されるエネルギーを最大化するための入力インピーダンスのマッチング、中間エネルギー・ストレージの充電、1次電池からの給電経路の制御、給電先のシステムに出力する正確な電圧の生成、システムの信頼性を高めるための電圧/電流の監視。これらは、システムが小型のハーベスタ(またはセンサー)で動作できるように、極めて少ない消費電力で実行できなければなりません。電力の削減には、これらの機能をDC/DCコンバータIC(コントローラIC)に集積する手法が有効です。

図1に示したシステムは、ワイヤレス環境センサーに適用されるエネルギー・ハーベスト・システムの典型的な例です。ワイヤレス環境センサーは、温度、湿度、あるいはCO2をはじめとする各種のガスを検知するために使用されます。エネルギー・ハーベストを利用できるアプリケーションはそれだけではありません。産業分野で言えば、ワイヤレスの占有センサー(物体や人体の有無を検知するセンサー)における保全と監視、あるいは設備や機械の監視といったアプリケーションが例として挙げられます。

エネルギー・ハーベストは、ポータブル/ウェアラブルな民生用電子機器でも利用されます。家庭向けのヘルスケア・アプリケーションの場合、ワイヤレスによる患者のモニタリングを、電池の寿命を気にすることなく実施するためにエネルギー・ハーベストを適用します。あるいは、電池の寿命をできるだけ延ばすためにエネルギー・ハーベストを利用するケースもあります。

今日では、エネルギー・ハーベストは非常に一般的なトピックスとなりました。多くの技術者が、エネルギー・ハーベストのソリューションは既存の電力ソリューションを置き換え得るのか、あるいは補完し得るのかという評価を行う必要に迫られています。エネルギー・ハーベストがここまで一般的になった背景には、非常に消費電力の少ないマイクロコントローラやRF製品が開発されたことがあります。これらを給電の対象とし、小型のハーベスタによって比較的低コストで十分な電力を生成できるようになったために、エネルギー・ハーベストは一般的になったのです。実際、ここ数年の間に、電力の生成技術と消費電力の削減技術の両方が大きく進化しました。そのため、5~10年前にはエネルギー・ハーベストの適用は非現実的だった多くのアプリケーションが、技術的にも経済的にも実現可能なものになりました。

Figure 1
図1. エネルギー・ハーベストを適用したシステムの例

さまざまなエネルギー源 

エネルギー・ハーベストでは、さまざまなエネルギー源を対象にすることができます。最も一般的なものとして、光起電力(PV)、熱起電力(TEG)、電磁気、圧電効果、RF(電波)が挙げられます。光起電力と熱起電力に対応するハーベスタはDC電圧を生成します。一方、電磁効果、圧電効果、RFに対応するハーベスタは変動性の電圧あるいはAC電圧を生成します。このことから、電力変換技術に対しては従来とは異なる要件が生まれます。

図2は、エネルギー・ハーベストの種類と、面積が10㎝2のハーベスタによって生成可能なおおよその電力量を示したものです。図の左側にはエネルギー源の種類を、右側にはさまざまなタスクの消費電力を示しています。中央に示す電力量は対数スケールであることに注意してください。このグラフは、アイデアの実現可能性について考えるうえで非常に重要なものです。エネルギー・ハーベストのソリューションを評価するために労力を注ぎ込んだ後になって、そもそも収集するエネルギー量が、対象とするシステムの電源としてはまったく不十分であるという事実が判明することが少なくないからです。

Figure 2
図2. エネルギー源の種類、各種アプリケーションの消費電力

DC/DCコンバータの重要性

一般に、エネルギー・ハーベストを実現する最新のシステムでは、電力の変換と管理の機能が中核に位置づけられます。なかには例外もありますが、多くのアプリケーションでは複雑な電源ICが使われます。高度な電源管理を伴わない例として、積層型/デイジー・チェーン型の太陽電池が挙げられます。これらの太陽電池によって比較的高い電圧を発生し、システムに直接給電するか、または単純なリニア・レギュレータを介して給電を行うケースです。このようなシステムの場合、通常はエネルギー効率が最適ではありませんし、供給電圧が一定に制御されていないこともあります。負荷によっては広い範囲で電源電圧が変動しても動作するものもありますが、通常はそうではありません。より進化した将来のシステムでは、電力の変換/管理の機能を担う、より先進的な回路ブロックが必要になるはずです。

Figure 3
図3. エネルギー・ハーベスト向けパワー・マネージメントICのブロック図

図3に示したのは、エネルギー・ハーベスト向けの最新パワー・マネージメントICのブロック図です。ここでは、アナログ・デバイセズ(ADI)の「ADP5090」を例として取り上げました。このICは、チャージ・ポンプを利用したスタート・アップ回路を備えていることから、このICは入力が380mVに達したら起動することができます。システムが動作し始めたら、ADP5090の内部回路は同ICの出力電圧から電力を得ます。この出力電圧が、エネルギー・ハーベスト・システムの負荷に電力を供給するノードになります。このノードの電圧が1.9Vを超えると、入力電圧が80mVまで低下してもエネルギーの収集を継続できます。このような能力は、最適とは言えない状況で長い時間にわたって動作することが多いシステムにとっては非常に有用です。例として、太陽電池によって屋内にあるセンサーに電力を供給するケースを考えます。この場合、朝と夕方の時間帯には光が非常に少なくなり、太陽電池は非常に少ない電力しか生成できません。しかし、そのような時間帯にエネルギーを少しでも収集できれば、一定の時間内で見た場合のトータルの電力収支に対して貢献を果たすことができます。また、そのような状況では、静止電流が少ないというADP5090のもう1つの特質も非常に有利に働きます。同ICが待機動作時に消費する静止電流はわずか260nAです。このアプリケーションでは、住居内の各場所に太陽電池が付加されたセンサーが配置されます。図4のグラフは、その各場所が暗闇になる時間の割合を示したものです。実際には、センサーが受ける光量は、窓の数、使用される電灯の光量、センサーの位置などの条件に依存します。また、1年のうちどの時期なのか、住居の所在地はどこなのかといったことによってもグラフは変化します。その意味で、図4は1つの例にすぎません。ポイントは、そのように光量が変化する条件下において、消費電力が少ないというADP5090の特徴が一貫して役に立つということです。特に大半の時間が暗闇になる場所においては、トータルの電力収支に大きく貢献します。

Figure 4
図4. 住居の各場所が暗闇になる時間の割合

ADP5090が備えるDC/DCコンバータの回路ブロックは極めて興味深いものです。同ブロックには、ほとんどのDC/DCコンバータとまったく同様の安定化(レギュレーション)ループがあります。しかし、同ループは出力電圧や出力電流を安定化させるためのものではありません。主として、入力インピーダンスを安定化するためのものとして同ICに組み込まれています。

太陽電池の出力電圧と出力電流は、図5のような挙動を示します。オープンループの条件下、つまりは出力電流が流れていない状態では出力電圧が最大値になります。そして、出力電流が流れ始めたら出力電圧は降下します。多くの出力電流が流れたら、出力電圧は急速に低下します。グラフの曲線を見ると、中央部に電力がピークになる屈折点があります。この点では、出力電圧が比較的高く、その一方で多くの出力電流が得られます。したがって、実使用上はこの最大電力点に追従し、この点の近くで動作するように制御を行うべきです 。このような制御をMPPT(Maximum Power Point Tracking:最大電力点追従)と呼びます。図5に示した太陽電池の特性は光の条件の変化に依存してシフトするため、出力電流の値を固定するだけでは効果が得られません。MPPTを実現するために、AD5090は入力への電流をいったん止めて、負荷のない状態で太陽電池の出力電圧をチェックします。そして、それに続く16秒間に向けて最大電力点を設定します。この時間が過ぎたら、オープンループでのチェックを行うという処理を繰り返します。16秒という時間は、最大電力点からの逸脱とエネルギー収集機能の中断頻度の間の妥協点として適切であることがわかっています。

Figure 5
図5. 太陽電池の電圧/電流特性

MPPTを適用することにより、光起電力を利用する太陽電池や熱起電力を利用する発電回路といった電力源から最大のエネルギーを確実に収集することが可能になります。また、パワー・マネージメント・ユニットはその他のタスクも実行します。例えば、この種のシステムでは、出力電圧が一定の範囲内に収まるよう制御しなければなりません。ADP5090は、電気二重層キャパシタや2次電池を充電するための電流源に似た動作をします。これらのストレージは、エネルギーの収集と電力の消費とを分離するうえで重要な役割を果たします。すなわち、安定した エネルギー源が存在しないシステムにおいて、エネルギーを収集するとともに、所定の間隔でシステムのタスクを確実に実行することを可能にするということです。例えば、ワイヤレス・センサー・ネットワークの場合、センサーは5分ごとに温度データを送信しなければならないといった要件があります。そのセンサーへの給電を太陽電池で行う場合、中間エネルギー・ストレージが存在すれば、光が当たらなくなっても動作を継続することができます。

今日、最も一般的なのは、1次電池で給電するシステムにエネルギー・ハーベストの機能を付加できるようにしたアーキテクチャです。1次電池を使用する優れたシステムにエネルギー・ハーベストの機能を付加すると、システムの寿命を延伸できるはずです。この方法であれば、システムの信頼性に影響を及ぼすことなく稼働時間を延長することができます。そのようなハイブリッド型のシステムに向けて、ADP5090は1次電池を制御する機能も内蔵しています。エネルギーを十分に収集できなくなったら、1次電池から負荷に対して直接給電するための電力のパスを形成するというものです。

Figure 6
図6. エネルギー・ハーベスト向けパワー・マネージメント・システムの例

図6に示したのは、エネルギー・ハーベスト向けの完全な給電システムです。MPPTに対応するメインのエネルギー・ハーベスト用ICであるADP5090だけでなく、もう1つのICとして「ADP5310」を使用しています。ADP5310は、2系統の出力電圧を効率良く生成するDC/DCコンバータICで、効率は出力電流が100μAの場合で90%近くになります。また、ADP5310は1つの負荷スイッチを備えています。この負荷スイッチは、通電状態では定常的に電力を消費してしまう負荷が存在する場合に使用します。その負荷を機能させる必要がないときには、負荷スイッチによって電源を遮断することができます。

ADP5310の降圧コンバータは、入力電圧範囲が広く、15Vまで対応するため、圧電式や電磁式のAC発電回路などを使用する場合にも対応可能です。必要なのはブリッジ整流器だけであり、出力電圧をADP5310に直接入力できます。

今日では、エネルギー・ハーベストを利用するアプリケーションに向けて特別に設計されたパワー・マネージメントICが数多く提供されています。それらを使用することで、より小型のハーベスタを使えるようになったほか、2~3年前には設計が不可能だったアプリケーションも実現できるようになりました。システム設計者にとっては、ごく近い将来に非常に素晴らしいアイデアが得られ、すぐにでも実装できる環境が提供されるようになったと言えるでしょう。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学でマイクロエレクトロニクスについて学びました。2001年にパワー・マネージメント事業の分野で働き始め、アリゾナ州フェニックスで4年間にわたってスイッチング電源を担当したほか、さまざまなアプリケーション分野の業務に携わってきました。2009年にADIに入社し、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでパワー・マネージメントのフィールド・アプリケーション・エンジニアとして従事しています。