高い精度と駆動能力を併せ持つ複合アンプ

はじめに

アプリケーションを開発する際、解決策は存在しないと感じられる課題に遭遇するのはよくあることです。そうした状況に陥るのは、想定の範囲内だと言えるかもしれません。そのような難易度の高い課題を解決するには、市場に流通している製品の性能の超えるソリューションを考案しなければなりません。例えば、あるアプリケーションでは、高速で、高電圧に対応でき、高い駆動能力を備えるアンプが必要であるとします。しかも、そのアンプは、優れたDC精度を備え、ノイズが少なく、歪みも小さくなければならないといった状況が起こり得るのです。

高速で駆動能力の高いアンプ製品は数多く存在します。また、優れたDC精度を備えるアンプ製品も簡単に入手できます。しかし、それらすべての性能を兼ね備える単一のアンプ製品は存在するとは限りません。上記の課題に遭遇した場合、そのようなアプリケーションの要件を満たすのは不可能であり、それなりに精度が高く、それなりに高速なアンプ製品を選択して、一部の要件に対しては妥協するしかないと考える人もいるでしょう。ただ、その考えが正しいとは限りません。実は、この課題を解決できる可能性があるのです。本稿では、そのための手段となる複合アンプについて説明します。

複合アンプ

複合アンプとは、異なる2つのアンプ製品を組み合わせて構成したアンプ回路のことです。互いの欠点を補いつつ、それぞれが備えるメリットを生かすことによって、上記の課題を解決します。

図1. シンプルな複合アンプの例
図1. シンプルな複合アンプの例

図1において、AMP1は、アプリケーションで求められる優れたDC精度、ノイズ性能、歪み性能を備えています。一方のAMP2は、駆動能力に関する要件を満たしています。この構成において、必要な出力仕様を満たすAMP2は、必要な入力仕様を満たすAMP1の帰還ループの中に組み込まれています。以下では、この構成に関するいくつかのテクニックとメリットについて説明します。

ゲインの設定

図1の複合アンプを初めて目にした方は、「どうやってゲインを設定するのだろうか」という疑問を持たれたかもしれません。その疑問を解消するためには、図2のような回路について考えていただくとよいでしょう。すなわち、複合アンプを、大きな三角形の中に細かい回路を内包する非反転構成/単一のオペアンプ回路だと見なすということです。三角形の部分を塗りつぶして内部が見えないようにすると、この非反転増幅回路のゲインは、1 + R1/R2であることがすぐにわかります。実は、内包される複合構成に注目して考えても、同じ結論になります。つまり、全体的なゲインは、やはりR1とR2の比率によって制御されるということです。

この構成を見て、R3とR4によりAMP2の回路のゲインを変化させると、同回路の出力レベルが変化し、複合アンプ全体としてのゲインも変化すると思われた方もいるかもしれません。しかし、実際にはそうはなりません。仮に、R3とR4によって、AMP2の回路のゲインを高めたとします。その場合、AMP1の実効ゲインと出力レベルが低下するだけで、複合アンプ全体としての出力(AMP2の出力)は変化しません。逆に、AMP2の回路のゲインを低下させると、AMP1の実効ゲインが高まります。つまり、この複合アンプのゲインは、R1とR2のみに依存するということです。

図2. 複合アンプについて理解するための回路。複合アンプを単一のアンプ回路と見なしています。
図2. 複合アンプについて理解するための回路。複合アンプを単一のアンプ回路と見なしています。

本稿では、複合アンプがもたらす主要なメリットと設計時に検討すべき事柄について説明します。特に、帯域幅、DC精度、ノイズ、歪みに注目して話を進めます。

帯域幅の拡大

複合アンプがもたらす主要なメリットの1つは、同じゲインが得られるように構成された単一のアンプと比べて、帯域幅が拡大されることです。

図3において、2つのアンプのゲイン帯域幅積(GB積)がそれぞれ100MHzであるとします。2つを組み合わせて複合アンプを構成すると、全体の実効GB積が増加します(図4)。ユニティ・ゲインにおいて、複合アンプでは少しピーキングが生じるものの、-3dB帯域幅が約27%広くなります。ゲインが高くなると、このメリットは非常に顕著になります。

図3. ユニティ・ゲインの複合アンプ
図3. ユニティ・ゲインの複合アンプ
図4. ユニティ・ゲインにおける-3dB帯域幅の拡大
図4. ユニティ・ゲインにおける-3dB帯域幅の拡大

図5に示したのは、ゲインが10の複合アンプです。このゲインは、R1とR2によって設定されています。AMP2の回路のゲインが約3.16に設定されていることから、AMP1の実効ゲインもその値になります。2つのアンプでゲインを均等に分割すれば、帯域幅を最大限に拡大できます。

図5. ゲインが10の複合アンプ
図5. ゲインが10の複合アンプ

図6は、ゲインが等しい単一アンプと複合アンプの周波数応答を比較したものです。複合アンプでは、-3dB帯域幅が約300%拡大しています。なぜこのようなことが可能なのでしょうか。

図6. -3dB帯域幅の拡大。ゲインが等しい単一アンプと複合アンプを比較しました。
図6. -3dB帯域幅の拡大。ゲインが等しい単一アンプと複合アンプを比較しました。

具体的な例を図7と図8に示しました。システムのゲインとして40dBが必要なケースを考えます。複合アンプは、オープンループ・ゲインが80dB、GB積が100MHzの同一のアンプを2つ使用して構成します。

図7. ゲインの分割による最大帯域幅の拡大
図7. ゲインの分割による最大帯域幅の拡大
図8. 各アンプに期待される応答
図8. 各アンプに期待される応答

この構成で最大限の帯域幅を得るために、システムのゲインを2つのアンプで均等に分割します。つまり、それぞれのゲインを20dBに設定します。より詳しく説明すると、AMP2の回路のクローズドループ・ゲインを20dBに設定することにより、AMP1の実効クローズドループ・ゲインも20dBになるようにします。このようにゲインを設定することで、2つのアンプは、いずれか1つを40dBのゲインで動作させる場合と比べて、オープンループの応答曲線における低周波側で動作することになります。その結果、ゲインが40dBの複合アンプにおける帯域幅は、同じゲインの単一アンプの帯域幅よりも広くなります。

この複合アンプは、比較的容易に実装できるように思えるかもしれません。しかし、回路の安定性を損なうことなく最大限の帯域幅を得るには、適切な配慮の下で設計を行う必要があります。実際のアンプは理想的なものではありません。また、性能が全く同一のアンプが2つ存在することもありません。したがって、安定性を維持するには、適切なゲイン調整が必要です。複合アンプのゲインは-40dB/decadeでロールオフすることにも注意してください。2つのアンプの間でゲインを分配する際には、十分に注意を払わなければなりません。

ゲインを均等に分割することが不可能なケースもあります。2つのアンプの間でゲインを均等に分配するには、AMP2のGB積が必ずAMP1のGB積以上でなければなりません。そうでなければ、ピーキングが生じるだけでなく、おそらくは動作が不安定になります。AMP1のGB積をAMP2のGB積よりも大きくしなければならない場合でも、通常は2つのアンプの間でゲインを再分配することによって、不安定な状態を補正することが可能です。その場合、AMP2のゲインを下げると、AMP1の実効ゲインが高まります。それにより、AMP1がオープンループの応答曲線の高周波側で動作するので、クローズドループの帯域幅は減少します。一方、AMP2は、オープンループの応答曲線の低周波側で動作するので、クローズドループの帯域幅が増加します。このようなAMP1の低速化とAMP2の高速化を適切に行えば、複合アンプの安定性を確保することができます。

以下の例では、「AD8397」を出力段(AMP2)として使用します。同ICは、310mAの出力電流を供給可能であることを特徴とします。AMP1としては、いくつかの高精度アンプを使用します。それにより、表1に示すように、帯域幅を拡大することができます。以下では、このような構成の複合アンプがもたらすメリットを示します。

表1. 異なるオペアンプを組み合わせた場合の帯域幅の拡大率(ゲインは10、出力電圧は10Vp-p)
アンプ 単一アンプの帯域幅〔kHz〕 複合アンプの帯域幅〔kHz〕 帯域幅の拡大率〔%〕
ADA4091 30 94 213
AD8676 165 517 213
AD8599 628 2674 325

DC精度の維持

図9. オペアンプの帰還ループ
図9. オペアンプの帰還ループ

一般にオペアンプ回路では、出力の一部が反転入力ピンに帰還されます。ループで生成されて出力に現れる誤差は、帰還係数βで乗算されて除去されます(図9)。それにより、クローズドループ・ゲインAが乗算された入力に対する出力の忠実度が維持されます。

図10. 複合アンプの帰還ループ
図10. 複合アンプの帰還ループ

複合アンプの場合、アンプA2には、独自の帰還ループが存在します(図10)。A2とその帰還ループは、それよりも大きなアンプA1の帰還ループの内側にあります。A2は、A1への帰還によって補正されますが、そのA2によって出力の誤差は大きくなります。A1の精度は、より大きな補正信号によって維持されます。

この複合帰還ループの効果は、図11の回路と図12の結果にはっきりと表れます。図11は、2つの理想的なオペアンプで構成した複合アンプです。AMP2のゲインは5に設定されており、トータルのゲインは100です。VOS1はAMP1のオフセット電圧(50µV)であり、 VOS2はAMP2の可変オフセット電圧です。図12は、VOS2を0mV~100mVで掃引した結果です。この図は、出力オフセットはAMP2に起因する誤差(オフセット)の大きさに左右されないことを表しています。出力オフセットは、AMP1の誤差(50µVに複合ゲイン100を乗じた値)のみに依存し、VOS2の値にかかわらず5mVで一定です。複合帰還ループが存在しなければ、出力誤差は500mVまで増加するはずです。表2に示したように、複合アンプを構成することでオフセットを抑制することができます。

図11. オフセット誤差の影響を評価するための回路
図11. オフセット誤差の影響を評価するための回路
図12. 複合アンプの出力オフセットとVOS2の関係
図12. 複合アンプの出力オフセットとVOS2の関係
表2. ゲインが100の場合の出力オフセット電圧
アンプ 実効VOS〔mV〕 VOSの低減率(複合アンプを構成した場合)
AD8397 100
AD8397 + ADA4091 3.5 28.6×
AD8397 + AD8676 1.2 83.3×
AD8397 + AD8599 1 100×

ノイズと歪み

複合アンプの出力ノイズと高調波歪みは、DC誤差と同じような形で補正されます。ただ、ACパラメータについては、2段構成の回路の帯域幅も関連します。ノイズも歪みも除去の原理はほぼ同じなので、以下では出力ノイズを例にとって説明を進めます。

図13の回路では、AMP1(1段目)に十分な帯域幅がある限り、AMP1のノイズよりも大きいAMP2(2段目)のノイズは補正されます。AMP1の帯域幅が不足し始めるにつれて、AMP2のノイズが支配的になっていきます。一方で、AMP1の帯域幅が広すぎると、周波数応答にピーキングが生じます。また、それと同じ周波数にノイズのピークが発生します。

図13. 複合アンプのノイズ源
図13. 複合アンプのノイズ源

図13の抵抗R5とR6は、それぞれAMP1とAMP2の本質的なノイズ源です。図14の上のグラフは、帯域幅の異なるAMP1の周波数応答と、帯域幅が固定のAMP2の周波数応答を表しています。ゲインの分割のところで説明したように、複合アンプのゲインが100(40dB)で、AMP2のゲインが5(14dB)であれば、AMP1の実効ゲインは20(26dB)になります。このグラフからはそのことが見てとれます。

図14の下のグラフは、帯域幅の異なる各AMP1の広帯域出力ノイズ密度を示したものです。周波数が低い領域では、出力ノイズ密度はAMP1に大きく依存します(1nV/√Hzにゲイン100を乗算するので100nV/√Hz)。この状態は、AMP1がAMP2を補正するための十分な帯域幅を備える限り続きます。

AMP1の帯域幅がAMP2の帯域幅より狭くなると、AMP1の帯域幅がロールオフし始めてノイズ密度がAMP2に依存するようになります。このことは、ノイズが200nV/√Hz(40nV/√HzにAMP2のゲイン5を乗算した値)に達する図14の2本の曲線に表れています。AMP1の帯域幅がAMP2の帯域幅よりもかなり広い場合には、周波数応答にピーキングが生じ、それと同じ周波数に複合アンプのノイズのピークが現れます。これも、図14の下のグラフで確認できます。周波数応答のピーキングは過剰なゲインにつながり、ノイズのピーク振幅も大きくなります。

図14. ノイズ性能と1段目の帯域幅の関係
図14. ノイズ性能と1段目の帯域幅の関係

表3と表4は、様々な高精度アンプを1段目に使用し、AD8397と組み合わせて複合アンプを構成した場合の実効ノイズの減少率とTHD + nの改善率をまとめたものです。

表3. 各種アンプを使用した場合のノイズの減少率(実効ゲインは100、周波数は1kHz)
構成 ノイズ、en〔nV/√Hz〕 実効ノイズの減少率〔%〕
AD8397のみ 450
AD8397 + ADA4084 390 13.33
AD8397 + AD8676 280 37.78
AD8397 + AD8599 107 76.22
表4. 各種アンプを使用した場合のTHD + nの改善率(実効ゲインは10、周波数は1kHz、ILOADは200mA)
構成 実効THD + n〔dB〕 THD + nの改善率〔dB〕
AD8397のみ –100.22
AD8397 + ADA4084 –105.32 5.10
AD8397 + AD8676 –106.68 6.46
AD8397 + AD8599 –106.21 5.99

システム・レベルのアプリケーション

図15. DACの出力ドライバ回路
図15. DACの出力ドライバ回路

ここでは具体的なアプリケーションの例として、D/Aコンバータ(DAC)の出力バッファを取り上げます(図15)。このアプリケーションの目標は、低インピーダンスのプローブに10Vp-pの出力を供給すると共に、500mAp-pの出力電流、低ノイズ/低歪み、優れたDC精度、最大限の帯域幅を達成することです。DACの4mA~20mAの出力電流を、TIA(トランスインピーダンス・アンプ)によって電圧に変換し、複合アンプに入力して更に増幅します。出力に関する要件は、AD8397(2つのオペアンプを内蔵)によって満たすことができます。同アンプはレールtoレール/大電流に対応するので、必要な出力電流を供給することが可能です。

AMP1としては、この構成に必要なDC精度を備える任意の高精度アンプを使用できます。様々な高精度アンプをAD8397(または駆動能力の高いその他のアンプ)のフロントエンド・アンプとして使用することで、アプリケーションに必要な高いDC精度と高い駆動能力の両方を達成することが可能になります。

図16. AD8599とAD8397で構成した複合アンプのVOUTとIOUT
図16. AD8599とAD8397で構成した複合アンプのVOUTとIOUT
表5. AD8599とAD8397で構成した複合アンプの仕様
パラメータ
ゲイン 10 V/V
-3dB帯域幅 1.27 MHz
出力電圧 10 V p-p
出力電流 500 mA p-p
出力オフセット電圧 102.5 µV
電圧ノイズ(周波数は1kHz) 20.95 nV/√Hz
THD + n(周波数は1kHz)  –106.14 dB

図16と表5に、AD8397と「AD8599」で構成した複合アンプの入出力波形や仕様をまとめました。他のアンプを組み合わせることでも、優れたDC精度、高い駆動能力を両立することができます。表6と表7に示した各オペアンプ製品も、この種のアプリケーションに適しています。

表6. 高い駆動能力を備えるオペアンプ製品
出力電流の高いオペアンプ 駆動電流〔A〕 スルー・レート VSの最大値〔V〕
ADA4870 1 2.5 kV/µs 40
LT6301 1.2 600 V/µs 27
LT1210 2 900 V/µs 36
表7. 高い精度を備えるオペアンプ製品
精度の高いオペアンプ VOS〔µV〕 VNOISE、en〔nV/√Hz〕 THD + n、1kHz〔dB〕
LT6018 50 1.2 –115
ADA4625 80 3.3 –110
ADA4084 100 3.9 –90

まとめ

2つのオペアンプを組み合わせて複合アンプを構成することにより、それぞれの長所/短所を補って最大限の仕様を実現することができます。高い駆動能力を備えるオペアンプに高精度のフロントエンド・アンプを組み合わせれば、要件の厳しいアプリケーション向けのソリューションを提供できる可能性が生まれます。設計を行う際には、最適な性能を達成するために、安定性、ピーク・ノイズ、帯域幅、スルー・レートについて必ず検討を行ってください。多様なアプリケーションに対しては、数多くの選択肢が考えられるはずです。適切な組み合わせを選択し、適切な実装を行うことにより、アプリケーションに対する適切なバランスを実現できるはずです。

謝辞

本稿の執筆を技術面で支援してくれたZoltan FraschとBruce Petipasに感謝します。

Jino Loquinario

Jino Loquinario

Jino Loquinarioは、アナログ・デバイセズのリニア製品/ソリューション・グループに所属する製品アプリケーション・エンジニアです。2014年に入社しました。フィリピン工科大学ビサヤ校で電子工学の学士号を取得しています。