適切な電源ICにより、車載ECU設計は容易になる!

車載される電子回路モジュールやECUの設計において、下記の三大基本要件を確実に達成出来るか否かが、設計の成否を大きく左右する事は述べられて来ました。

  • ロード・ダンプやダブルバッテリ接続などの過電圧状態に対応できること
  • 低温始動(以下、コールド・クランク)時の入力電圧低下にたして出力電圧を確保できること
  • スタンバイ状態で流れる暗電流を出来る限りなく小さくできること

本記事では、車載用回路モジュールやECU等、回路基板上で最適な電源レギュレータにおいて、上記三大要件を確実に達成し得る方法を解説します。

まず、レギュレータの種類を見ていきましょう。スイッチ・モード・レギュレータは、特に入力電圧・電流が12V・100µAに制限されている場合、(リニア・レギュレータと比べ)効率と供給電力特性が極めて優れています。なかでも、同期整流式降圧レギュレータは、最も高い効率が得られます。

ここでは、同期整流式降圧レギュレータであるLT8610 を例とします。LT8610は、最大42Vの入力電圧に対応しているため、入力電圧要件は満たしています。シャットダウン時の消費電流は2.5µAですので、暗電流要件にも適合します。残る問題は、効率とドロップアウト電圧(コールド・クランク)要件です。

ドロップアウト・テストとして、3.3Vの出力電圧を想定します。これは、USB電源回路等除くと、ECUでは5Vで駆動される回路は多用されておらず、3.3Vという出力電圧は殆どのアプリケーションで有効です。3.3V出力の場合であれば、コールド・クランク・パルスにおいても、単純な降圧電源のトポロジーで、問題なく動作しますし、コールド・クランク時の出力電圧のドロップアウト要件に合致するならば、外部に複雑な回路は必要ありません。LT8610がこのドロップアウト要件を満たすことは後述するとして、その前に、効率はどうでしょうか。

LT8610のデータシートに、12V入力、3.3V出力の出力効率曲線(図1)が記載されています。この曲線は、横軸はログスケールで6桁幅の負荷電流範囲、即ち、128dBダイナミックレンジに及ぶ広範囲の負荷電流における、効率を示しています。

 

The Right Power Supply Can Simplify Automotive ECU Design

図1. LT8610の効率(データシートより)

車載用途での効率の実例として、手元にあるLT8610デモ・ボードDC1749AのDC1749Aを700kHzで動作させて実際に測定し、図1と同様の6桁のログスケールで負荷電流範囲でのより高精細にプロットした結果を図2に示します。入力電圧を、車載用途に合わせて、現実的な13.5Vに変更しました。総電力損失は青色で示されています。

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図2. 13.5V入力、3.3V出力LT8610の効率測定結果

13.5V/100µA入力条件において、3.3V出力320µAを超える有効出力電流が得られます。図1と図2のグラフでは、出力電流に対しての効率をプロットしていますが、図3では、13.5Vにおける入力電流に対しての効率に換算して示しています。100µAの入力電流で、LT8610の効率は81%を超えています。

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図3. LT8610の効率測定結果と入力電流

3.3Vの出力電圧の維持し得る有効な入力電圧は、LT8610データシートに記載されているドロップアウト電圧のデータから確認します。

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図4. LT8610のドロップアウト電圧(データシートより)

図4のグラフだけからでは、有効な電圧レベルは分かりません。最初の制限は、レギュレータ自身が動作できる最小入力電圧です。

そのため、データシートに記載されている最小入力電圧を確認します。

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図5. LT8610の最小入力電圧(データシートより)

表内の赤丸は、このパラメータが全動作温度範囲での規定値であることを示しています。

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図6. LT8610のUVLOの温度特性(データシートより)

図6は、入力電圧のUVLO(低電圧ロックアウト)の典型的な温度依存性を示しています。この図6より、ワースト・ケースは低温度条件におけるものであることが分かります。前述のデモ・ボードを使用して、室温におけるテスト結果は、下表1のようになりました。

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表1. ドロップアウト電圧と出力電流の測定結果

表1のすべての実測値が例外なく、図4のグラフのデータシート値より小さいドロップ電圧になっており、より良い結果を示しています。

次の制限は、レギュレータが制御できる最小および最大デューティ・サイクルによって決まってきます。データシートにあるデューティ・サイクルの時間よる制限に代わって、最小オン時間およびオフ時間をデューティ比のパーセント値として算出します。200kHz~2.2MHzというような幅広い周波数範囲を持つレギュレータでは、合理的な方法です。

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図7. LT8610の最小オン時間とオフ時間(データシートより)

連続モード動作している降圧レギュレータでは、

デューティ = Vout / Vin

ここで、デューティ = 1は、100%デューティ・サイクル状態に当たります。

スイッチング周波数を1Mhzとした場合、最大デューティ = (1000ns−110ns) / 1000ns = .89.

最大デューティより大きい条件の場合は、通常ドロップアウト電圧は更に大きくなってしまいます。しかしながら、LT8610ファミリの場合は、オフ時間サイクルをスキップさせ始める事で、最小オフ時間によってドロップアウト電圧が上昇することのないようします。

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図8. 最小オフ時間によってドロップアウト電圧が上昇することのないよう、ドロップアウト近くでオフ時間サイクルがスキップさせている波形例

ドロップアウトでの動作中のLT8610では、オフ時間サイクルをスキップさせ、実働上の動作周波数が設定周波数の700khzより低くさせる事により、出力電圧が可能な限り長く維持しています。

以上により、殆どのECUに要求させる三大要件を満たせるLT8610のような1個の降圧レギュレータを使う事が可能となります。また、LT86110は42V入力に対応しているため、車載バッテリ・バスから直接動作が可能であり、ドロップアウト動作と低UVLOにより、コールド・クランク条件に何もせずに対応可能とでもあります。また、2.5µAの動作暗電流は低くなっており、その高効率性能が、バッテリの寿命をより長く保つ事になります。

Christian Kueck

Christian Kueck is Strategic Marketing Manager, Europe for the Power Products. As a graduate in Electrical Engineering from the University of Dortmund focused on microelectronics, he has 25 years’ experience in the industry.