電源ラインに起因する電圧変動の防止

降圧レギュレータやリニア電圧レギュレータなどの電源は、設定された電圧を維持しながら負荷に電気的エネルギーを供給します。一部のアプリケーション(例えば実験室用の電源や様々な部品が長いケーブルに接続されている電子機器)では、相互配線全体にわたって存在するさまざまな電圧降下のために、必要なポイントにおける安定化電圧が必ずしも正確な値にはなりません。制御の精度は多くのパラメータに左右されます。その1つが、負荷が連続して一定の電流を必要とする場合のDC精度です。また、生成される電圧のAC精度もあります。これは、生成された電圧が負荷過渡によってどのような挙動を示すかによって決まります。DC精度に影響を及ぼす要素として、必要な電圧リファレンスや場合によっては抵抗分圧器、エラー・アンプの挙動、更には電源関連のいくつかの影響が挙げられます。AC精度にとって重要な要素としては、選択した電源レベル、バックアップ・コンデンサ、制御ループのアーキテクチャおよび設計などがあります。

生成された電源電圧の精度にはこのように多くの要素が影響しますが、他にも考慮すべき影響があります。電力の供給対象である負荷と電源が空間的に離れている場合は、安定化電圧が得られる位置と、電気エネルギーが必要とされる位置の間で電圧降下が生じます。この電圧降下は、電圧レギュレータと負荷の間に抵抗が存在することによって生じます。この抵抗は、プラグ接点を持つケーブルの場合もあれば、ボード上の長いトレースの場合もあります。

電源と負荷の間に存在する抵抗を図1に示します。この抵抗による電圧損失を補償するには、電源によって生成される電圧をわずかに高くします。しかし残念ながら、ライン抵抗によって生じる電圧降下は、負荷電流、つまりラインを流れる電流によって異なります。つまり、電流値が大きくなるほど、電圧降下は大きくなります。したがって、負荷に供給される安定化電圧は負荷に供給される安定化電圧はむしろ不正確で、その値は、ライン抵抗とその時点で流れるそれぞれの電流値によって異なったものとなります。

図1. 電圧レギュレータと対応負荷間の物理的距離。

図1. 電圧レギュレータと対応負荷間の物理的距離。

この問題の解決策は、かなり前に明らかになっています。実際の接続ラインに並列に接続を追加する方法です。ケルビン・センス・ラインでは、電気負荷側の電圧を測定します。図1で追加した配線を赤で示しています。ここで測定した値は、電源側の電源電圧制御に組み込まれます。この方法は非常に良好に機能しますが、センス用のリード線を追加しなければならないという欠点があります。これらのラインには大きな電流を流すわけではないので、通常は直径が非常に小さいものが使われます。それでも、大電流用の接続ケーブルに測定ラインを設置する場合は、余分な手間と高いコストを強いられます。

電源と負荷間の接続ラインによる電圧降下は、ペアのセンス・リード線を追加せずに補償することも可能です。これは、ケーブルが複雑に入り組んで高コストとなるアプリケーションや、生成されたEMC干渉が電圧テスト・リードに入り込みやすいアプリケーションにとっては特に興味深い方法です。この2つめの可能性は、LT6110のようなライン電圧降下補償専用のICを使用することで実現します。このデバイスは電圧生成側に挿入され、接続ラインに入る前の電流を測定します。この測定電流に基づいて、負荷電流の値に関わらず、負荷側の電圧が極めて正確に安定化されるように電源の出力電圧が調整されます。

図2. LT6110を使用して接続ラインの電圧低下を補償するように電源出力電圧を調整。

図2. LT6110を使用して接続ラインの電圧低下を補償するように電源出力電圧を調整。

LT6110のようなデバイスでは、個々の負荷電流に応じて電源電圧を調整できますが、この調整にはライン抵抗に関する情報が必要です。この情報は多くのアプリケーションで得られますが、得られない場合もあります。デバイスのライフタイムの中で接続ラインを長いものや短いものに交換できる場合は、LT6110による電圧補償も調整する必要があります。

また、デバイスの動作中にライン抵抗が変わる可能性がある場合は、LT4180のようなデバイスを使用することもできます。この場合、負荷側に入力コンデンサを取り付け、AC信号を使用して接続ラインの抵抗を仮想的に予測することにより、負荷側に極めて正確な電圧を供給することができます。

LT4180を使用したアプリケーションを図3に示します。伝送ラインの抵抗は未知です。ライン入力電圧は、それぞれのライン抵抗に合わせて調整されます。LT4180では、この調整はラインを流れる電流を段階的に変化させてそれぞれの電圧変化を測定することで行われ、ケルビン・センス・ラインは使用しません。この測定の結果を基に、未知のラインにおける電圧損失を決定します。この情報は、DC/DCコンバータ出力電圧の最適調整を行うために使われます。

図3. LT4180によるラインの仮想リモート測定。

図3. LT4180によるラインの仮想リモート測定。

このような測定は、負荷側ノードのACインピーダンスが小さい場合はうまく機能します。これは他の多くのアプリケーションでも同様です。長い接続ラインの先にある負荷に対しては、一定量のエネルギーを保存する必要があるからです。インピーダンスが小さいためDC/DCコンバータからの出力電流は変調可能で、ライン抵抗は、接続ライン手前側の電圧測定値を使って決定されます。

良好な安定化電源電圧を実現するには、電圧コンバータ自体だけでなく、負荷へ続く電源ラインも関係してきます。

まとめ

DC精度は、ケルビン・センス・ラインを追加することによって向上させることができます。このようなセンス・リードを追加する代わりに集積回路を使い、ケルビン・センス・ラインなしでライン電圧降下を補償することも可能です。この方法は、ケルビン・センス・ラインのコストが高すぎる場合や、センス・リードを追加せずに既存のラインだけを使用しなければならない場合に有効です。以上に述べたヒントを生かすことで、より高い電圧精度を容易に実現することができます。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学でマイクロエレクトロニクスについて学びました。2001年にパワー・マネージメント事業の分野で働き始め、アリゾナ州フェニックスで4年間にわたってスイッチング電源を担当したほか、さまざまなアプリケーション分野の業務に携わってきました。2009年にADIに入社し、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでパワー・マネージメントのフィールド・アプリケーション・エンジニアとして従事しています。