産業用イーサネットの実装は どのように始めるべきなのか?

IEEE 802.3に準拠する標準的なイーサネットは、数十年前から非常に広範に使われています。現在では、ワークステーションやネットワーク・スイッチ、モデム、ルータなどに加え、PCやMacなどの民生用電子機器でも使用されています。長きにわたり、イーサネットはトークン・リングやトークン・バスといった競合技術を凌駕していると言えます。

イーサネットはもともと産業分野のオートメーション向けに設計されたものではありません。多くのオートメーション・システムや制御システムでは、従来からデジタル・フィールドバスが使われていました。イーサネットには、CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access/Collision Detection)方式のMAC(Media Access Control)への依存性、ネットワークのトラフィックに対するベスト・エフォート型の処理、多様なトラフィックを同じワイヤで扱うことによるノイズ、全般的な確定性の欠如といった欠点があります。そのため、デジタル・フィールドバスに代わる現実的な選択肢ではありませんでした。

イーサネットを産業分野に適用するためのイノベーション

上述した問題を解決するために、イーサネットをベースとし、アプリケーション層に対応する様々なプロトコルが開発されました。PROFINET®、EtherNet/IP®、EtherCAT®などが代表的な例です。イーサネットをベースとするネットワーク上でこれらのプロトコルを利用すれば、タイム・センシティブなデータに対する確定性を確保することができます。それぞれのプロトコルが備える固有のメカニズムを利用することが可能になるからです。それぞれに違いはあるものの、いずれのプロトコルも、オートメーション業界に以下に示す重要なイノベーションをもたらしました。

  • PROFINETを含むいくつかのプロトコルは、標準的なTCP/IPスタックと完全な互換性を持ちます。それぞれのリアルタイム・チャンネルに加え、TCP/IPスタックもサポートするということです。
  • EtherNet/IPなどのプロトコルでは、スイッチをはじめとするイーサネット向けの標準的なインフラを再利用できます。そのため、装置に関連するコストを抑えられます。
  • EtherCATでは、パススルー読み出し(またはオン・ザ・フライ処理)の原理が導入されました。それにより、単一のノードを対象としてフレームを送信する必要がなくなり、帯域の使用率を最大限に高めることが可能になりました。1
  • その他のプロトコルでは、オープンなシステムにおける相互接続モデルのレイヤ2~4にかなりの変更を加えることによって、確定性を達成しています。
  • これらのプロトコルの多くは、オープンな規格として提供されています。また、イーサネットのような商用技術を利用しています。それらが理由となって、各プロトコルの開発が維持されるようになりました。但し、すべてを確定的に相互運用するための手段はまだ存在しません。

このような飛躍的な進化により、産業用イーサネットは世界中の制御システムで主要な技術として利用されるまでになりました。2015年の時点で、設置されている全ノードの約1/3に産業用イーサネットが適用されています2。 ただ、逆の見方をすると、現在でも多くの設備は従来のフィールドバスを利用しているとも言えます。それでも、産業用イーサネットの普及が急速に進んでいることは間違いありません。現在、IEEE 802.1とIEEE802.3の拡張規格として、TSN(Time Sensitive Networking)の開発が進められています。それにより、産業用イーサネットの普及は更に加速する見込みです。相互運用性の問題もいずれは解消されるでしょう。

イーサネットへの移行を円滑に進めるには、実装計画を明確に定めておく必要があります。以下では、工場においてフィールドバスからイーサネットに移行する際、最初に行うべき作業について説明します。

アプリケーションの要件の定義

産業用イーサネットの目的は、要件の厳しいアプリケーションに対して確定性を提供することです。代表的な適用例としては、モーション制御のアプリケーションや安全性に関するアプリケーションが挙げられます。どちらのアプリケーションについても、イーサネット・ソリューションによって追加の帯域幅と信頼性がもたらされることがメリットになります。また、それらのアプリケーションは、標準的なイーサネットを介した診断情報のやり取りやHTTP/FTPのトラフィックとは根本的に性質が異なります。

通常のTCP/IPスタックでは、サイクル・タイムは100ミリ秒かそれ以上に達します。一方、産業用イーサネットを必要とするアプリケーションの場合、サイクル・タイムを100ミリ秒よりもはるかに短くしなければなりません。実際、1ミリ秒未満のサイクル・タイムが求められるケースもあります。上述したアプリケーションを含む多くの制御アプリケーションでは、産業用イーサネットへの移行が大きな意味を持ちます。それらのアプリケーションでは、複数の物理的なシステムの間で素早く伝送を行い、正確かつ予測が可能なタイミング性能を実現しなければなりません(したがって、ジッタは最小限に抑える必要があります)。

まずは各アプリケーションにとって理想的なサイクル・タイムを把握する必要があります。後でプロトコルを選択する際にその情報が役に立ちます。最終的には、ハード・リアルタイムとソフト・リアルタイムのうちどちらに対応するソリューションが必要なのかを判断する材料にもなります。

重要なのは、「制御アプリケーションでは、サイクル・タイムを短く設定しなければならない」ということです。

ネットワーク・トポロジについての計画

イーサネットをベースとするネットワークでは、スター型のトポロジがよく使われます。特にエンタープライズ・ネットワークでは最も広く採用されていると言えるでしょう。同トポロジでは、マルチポートのイーサネット・スイッチに各デバイスが接続されます。それ以外の代表的なトポロジとしては、ライン型のトポロジとリング型のトポロジが挙げられます。それぞれ以下のようなものです。

  • ライン型トポロジ:各デバイスが一列に接続されます。そのため、ワイヤ、スイッチなどのインフラを節約することができます。このトポロジの最大の問題は、1つのノード、あるいは2つのノードをつなぐ1つのリンクに障害が発生すると、その両側のノードとの間で通信が行えなくなることです。
  • リング型トポロジ:各デバイスを他の2つのデバイスに接続してリング状の構造を形成します。それにより、ライン型トポロジよりも優れた冗長性が得られます。トラフィックが無限に循環するといった問題を解決するために、デバイス・レベル・リング(DLR:Device-level Rings)などのレイヤ2のプロトコルが導入されます。

ライン型トポロジにもリング型トポロジにも、2ポートの組み込みイーサネット・スイッチが必要であることに注意してください。また、プロトコルによって異なるトポロジが使われることも覚えておく必要があります。例えば、EtherCATは固有の自己終端技術を採用しています。これは、一列に連なったノードが次のノードを検出しなかった場合、そこがネットワークの終端だと判断するというものです。そのため、EtherCATという1つのプロトコルにより、ライン型、スター型、リング型のトポロジをサポートすることができます。

稿末の参考資料3 (Industrial Ethernet Bookの記事)には、次の ような説明があります。

「一般に、制御やオートメーションを対象とする産業用ネットワークは、それぞれ独自のトポロジを採用しています。それに対し、標準的なオフィスでは、主にイーサネットをベースとするスター型のネットワークが使われています。その場合、マルチポート・スイッチによって他のノードへのポイント・ツー・ポイントのリンクを提供します。一方、産業用ネットワークの制御層では、リング型をベースとする構成が一般的に使われています。リング型やデイジー・チェーン型の構成は配線が容易であり、ファイバ・ベースのシステムを導入することなく、イーサネットの適用範囲を拡大することができます」。

プロトコルとIC、それぞれの選択肢

多くの工場では、複数種のイーサネット・プロトコルが使われています。複数の自社製/他社製システムの間で相互運用性を確保しなければならないからです。アナログ・デバイセズは、このような状況に対応できるようにするために、RapID® Platformを提供しています。このソリューションは、産業分野向けのネットワーク・インターフェースを実現します。ソフトウェアやプロトコル・スタックなど、必要なすべての要素が1つのパッケージに統合されています。RapIDを使えば、ホスト・アプリケーションのハードウェアやソフトウェアに変更を加えることなく、ホスト・プロセッサへの接続を実現できます。

産業用イーサネットを実装する際には、ICの選択が重要になります。なかには、1つのプロトコルしか必要ないというケースもあるかもしれません。その場合、サイクル・タイムや、TCP/IPトラフィックの処理方法など、各プロトコルの特質の比較に時間をかける価値もあるでしょう。PROFINETはその良い例です。PROFINETでは、異なるユースケースに対応するためにRT(Real-time)通信やIRT(Isochronous Real-time)といった方法が提供されています。

プロトコル以外では、今後どのようなハードウェア/ソフトウェア・コンポーネントを使用するのか、またこれまではどのようなものが使われてきたのかということを検討する必要があります。購入すべきイーサネットMACデバイスは、採用するトポロジに応じて決まります。そして、採用すべきトポロジは、オートメーション/制御システム向けに選択したプロトコルに応じて決まります。

新たなネットワーク・インターフェースのテスト

アプリケーションの要件、トポロジ、プロトコル、ハードウェア/ソフトウェアに関する選択を終えたとします。次に行うべきことは、新たなネットワーク・インターフェースのテストです。この作業は、最適な機能性を確保するために必要になります。テストを実施する際には、リファレンス設計、回路図、設計済みブロック、設計ガイド/ファイル、ドキュメント、実装に必要な部品表(BOM)などが大いに役立ちます。

使用するすべてのAPI(Application Programming Interface)については、ドキュメントが用意されていることを確認しておくとよいでしょう。それについての情報を得るために真っ先にアクセスすべき場所は開発者用のポータル・サイトです。また、実装に関するあらゆる疑問点や懸念に対する回答を適時に得たいなら、メーカーやベンダーに直接問い合わせるべきです。

システムについて入念に調べ、デタミニスティック・イーサネット(Deterministic Ethernet)に関する要件が完全に満たされていることを確認するためには、メーカー/ベンダーからのサポートが不可欠です。言い換えれば、経験豊富なメーカーを選択することが非常に重要な作業になります。それにより、イーサネットのインターフェースを構築し、それを支えるファームウェアやソフトウェアの設定を的確に行うことが可能になります。

参考資料

1EtherCAT: Leopard-like Speed and Efficiency(EtherCAT:優れた速度、優れた効率)」Real Time Automation Inc.、2008年

2Fieldbus Market is Still Twice as Big as Industrial Ethernet(フィールドバスの市場規模は、いまだに産業用イーサネットの2倍)」Drives & Controls、2015年1月

3 Mike Jones「Design Considerations for Using EthernetRings(イーサネット・リングを使用して設計を行う場合に検討すべき事柄)」Industrial Ethernet Book、Issue 47、2008年7月