DACを含むシグナル・チェーンの誤差を、正確かつ簡単に見積もる

電気的なシグナル・チェーンには、様々な形態があります。その構成要素としては、センサー、アクチュエータ、アンプ、A/Dコンバータ(ADC)、D/Aコンバータ(DAC)、マイクロコントローラなど、様々なコンポーネントが考えられます。それらを組み合わせたシグナル・チェーン全体の精度は、システムにおいて非常に重要な意味を持ちます。仮に、その精度を高めなければならなくなったとしたら、どのようにすればよいでしょうか。そのためには、個々のコンポーネントが全体の誤差に及ぼす影響の大きさを特定し、それらを最小限に抑えなければなりません。シグナル・チェーンの複雑さによっては、そのような分析は難易度の高い作業になる可能性があります。本稿では、高精度のDACを使用するシグナル・チェーンを例にとり、その全体の誤差を見積もるための計算ツールを紹介します。また、DACと併用する各コンポーネントが全体の誤差にどのように寄与するのかということについて解説を加えます。最後に、問題を特定/是正するために、計算ツールをどのように利用すればよいのか簡単に説明します。

上に挙げた計算ツールは「Precision DAC Error Budget Calculator - BETA」(以下、誤差計算ツール)として公開されています。このツールは高精度で使いやすく、特定のアプリケーションに最適なコンポーネントを選択する上で非常に役に立ちます。シグナル・チェーンがDAC単体で構成されることはまずありません。通常は、電圧リファレンスやオペアンプなどを組み合わせて使用することになります。例えば、オペアンプをリファレンス・バッファとして使用するといった具合です。したがって、DAC単体ではなく、併用する各コンポーネントの誤差を考慮しなければ、シグナル・チェーン全体としての誤差を見積もることはできません。これについて理解を深めるために、まず、主要なコンポーネントの個々の誤差が全体の誤差に対してどのように寄与するのか考えてみます。ここでは、図1に示した構成を例にとることにしましょう。

図1. DACを使用するシグナル・チェーンの例

図1. DACを使用するシグナル・チェーンの例

電圧リファレンスでは、主に4種の誤差が発生します。1つは初期精度(初期誤差)に関連する誤差です。これは出力電圧のばらつきを表します。これについては、25°Cという規定の温度で製造テスト(出荷検査)の際に測定されます。残りの3つは、温度係数に関連する誤差(温度係数誤差)、負荷レギュレーション誤差、ライン・レギュレーション誤差です。初期精度と温度係数誤差は、トータルの誤差に非常に大きな影響を及ぼします。

オペアンプについては、入力オフセット電圧誤差と抵抗の許容誤差が特に大きな問題になる可能性があります。入力オフセット電圧誤差については、出力を強制的に0Vにするために入力に印加する必要がある小さな差動電圧に相当すると考えることができます。一方、ここで言う抵抗の許容誤差とは、クローズドループ・ゲインの設定に使用する抵抗の許容誤差のことです。これは、オペアンプ回路におけるゲイン誤差の原因になります。オペアンプについては、それ以外にも、バイアス電流、電源電圧変動除去比(PSRR)、オープンループ・ゲイン、入力オフセット電流、CMRR(オフセット)、入力オフセット電圧のドリフトといった誤差が存在します。

DACそのものについては、データシートに様々な誤差に関する記載があります。例えば、積分非直線性(INL)誤差は、各入力コードに対する出力電圧の実測値と理想的な出力電圧との差に関するものです。それ以外の誤差としては、ゲイン誤差、オフセット誤差、ゲインの温度係数誤差が挙げられます。これらは、総合未調整誤差(TUE:Total Unexpected Error)としてまとめられることもあります。TUEは、DACのすべての誤差(INL、オフセット誤差、ゲイン誤差、電源電圧と温度に対する出力ドリフト)を考慮した出力誤差の測定に関する指標です。

通常、誤差の様々な原因には相関がありません。したがって、シグナル・チェーン全体の誤差を計算するための最も的確なアプローチは、二乗和平方根となります(以下参照)

数式1

各コンポーネントの誤差を収集するのは煩雑な作業です。先述した誤差計算ツールを使用すれば、この作業が大幅に簡素化されます。しかも、手作業で情報を収集する場合と同等の正確な値を算出することができます。

誤差計算ツールの使用手順

ここでは、誤差計算ツールの使用方法を簡単に説明します。同ツールの最初の画面では、まずDACの種類を選択します。具体的には、電圧出力型、乗算型、4mA~20mA用の電流出力型のうち1つを選びます。次に、誤差の計算に使用する動作温度範囲と電源電圧リップルの値を設定します。後者は、PSRRの算出において非常に重要な意味を持ちます。これらの値を入力すると、誤差計算ツールは、図2に示すように、シグナル・チェーン全体の誤差に対する各コンポーネントの寄与率を示すチャートを生成します。

図2. アナログ・デバイセズが提供する誤差計算ツール。シグナル・チェーン全体の誤差に対する各コンポーネントの寄与率が示されています。

図2. アナログ・デバイセズが提供する誤差計算ツール。シグナル・チェーン全体の誤差に対する各コンポーネントの寄与率が示されています。

この例の場合、シグナル・チェーン全体の誤差は、主として電圧リファレンスの影響を受けています。この問題を改善するには、より高精度のリファレンス・モジュールを使用すればよいでしょう。

DACが内蔵する抵抗は、同じく内蔵する反転アンプによる比較処理に対して大きな影響を及ぼします。その結果、DACの精度にも大きな影響が及びます。つまり、これはシグナル・チェーン全体の精度を左右する決定的な要因だと言えます。図2に示した構成において、抵抗や反転アンプを内蔵しないDACを使用する場合には、それらを外付けすることになります。その場合には、図2に示すように、各パラメータに関する条件を個別に設定できます。

誤差計算ツールは、使いやすい上に、高い信頼性も実現しています。そのため、同ツールを活用すれば、高精度のDACを含むシグナル・チェーンの構築ならびに設計上のトレードオフに関する評価を迅速かつ容易に行うことができます。

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brand。2015年、修士論文作成の一環で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始。卒業後、アナログ・デバイセズのトレイニー・プログラムを受講。2017年、フィールド・アプリケーション・エンジニアとなる。中央ヨーロッパの産業分野の大型顧客をサポートすると共に、工業用イーサネットの分野を専門とする。モースバッハ産学連携州立大学で電気工学を専攻後、コンスタンツ応用科学大学で国際セールスの修士課程を修了。