Thought Leadership

Tony Montalvo, Fellow and VP of Technology, Automotive, Communications, and Aerospace
Tony Montalvo,

フェロー、技術/車載/通信/航空宇宙担当バイス・プレジデント

Analog Devices

著者について
Tony Montalvo
Tony Montalvoは、2000年にアナログ・デバイセズ(ノースカロライナ州ローリー)に入社しました。2020年から車載/通信/航空宇宙部門の技術担当バイス・プレジデントを務めています。2012年にフェローに就任。2017年からは通信事業部門の技術担当ディレクタを務めていました。アナログ・デバイセズに入社する前は、EricssonでRF ICグループを率いたほか、AMD(Advanced Micro Devices)でフラッシュ・メモリの設計に携わっていました。1985年にロヨラ大学(ニューオーリンズ)で物理学の学士号、1987年にコロンビア大学で電気工学の修士号、1995年にノースカロライナ州立大学で博士号を取得。ノースカロライナ州立大学では非常勤の教授を務めています。また、同校では電子工学部/コンピュータ工学部同窓生の殿堂入りを果たしています。
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Cバンドにおけるコロケーションリスクを緩和するための戦略とは?


より多くの周波数帯、より多くの干渉

ワイヤレス革命が始まったのは約30年前のことです。当時、使用される周波数帯の数は少なく、そのほとんどは900MHz以下の帯域でした。そして、各国には基本的に1つか2つの周波数帯しか割り当てられていませんでした。しかし、その後、周波数帯の数は大幅に増加することになります。現在では、FR1(Frequency Range 1)だけでもLTEと5G向けのものとして計76もの周波数帯が使用されています。米国で最近完了したCバンド(3700MHz~3980MHz)のオークションを見ても、その数の多さは明らかです。現在、ワイヤレス業界は周波数帯の購入からネットワークの構築へと歩みを進めています。その中で、RFという観点から見て、Cバンドでは従来とは全く異なる実装が必要になることが明らかになっています。特に、Cバンドに対応する無線システムを既存の無線システムと同じ場所に設置した場合(コロケーション)、一部の無線アーキテクチャは、サイトの管理に対して干渉に起因する悪夢をもたらすおそれがあります。

周知のとおり、電波塔の数はますます増加しています。それらは驚くほどの重量と風による負荷に耐えています。Cバンドに対応する初期の実装には、それらのサイトが再利用される可能性が非常に高いと言えます。つまり、Cバンドを利用する無線システムがLTEやGSMのシステムと同じ場所に設置されるということです。電波塔の先端で、ある無線システムは100W以上のパワーで送信を行うことになるでしょう。そして、それと1mほどしか離れていない別の無線システムが、約100億分の1にあたる100nWの信号を受信するというケースも想定されるのです。実は、そうした状況はこれまでにも存在していました。ただ、Cバンドの場合、周波数が非常に高いことから、折り返し、つまりは信号の干渉の問題が新たに浮上する可能性が高まります。

折り返し、除去、ナイキスト・ゾーン

読者の多くは、信号処理の授業でサンプリング定理について学んだことがあるでしょう。その中で、全帯域をFS/2という等間隔の領域に分割したものをナイキスト・ゾーンと呼ぶと教わったはずです。各ナイキスト・ゾーンには、対象となる帯域信号のコピー、つまり、エイリアスと呼ばれる折り返しイメージが現れます。A/Dコンバータ(ADC)の出力には、サンプル・レートの上下の信号と同量の信号が、エイリアスとして互いの上に折り重なった状態で現れるということです。

無線システムでは、必要に応じてフィルタを使用することにより、他の無線システムからの干渉成分を除去します。このフィルタ処理は、やや難易度の高いものになることもあれば、極めて難易度の高いものになることもあります。どちらになるかは、無線ユニットの中核的なRFアーキテクチャとしてどのようなものを選択するのかによって決まります。ここで、難易度が高いということは、コストが高くなるということを意味します。無線アーキテクチャで特定のサンプリング・レートを使用する場合、エイリアスに対する感度が高くなります。そのため、より厳格でコストのかかるフィルタが必要になります。残念ながら、感度の問題は、中核となるアーキテクチャが確定する設計サイクルの後半まで特定できないかもしれません。

例えば、ゼロIFの無線アーキテクチャを採用した場合、対象とする帯域信号だけを変換することによってコロケーションの問題を低減することになります。一方、ダイレクトRFサンプリングのアーキテクチャでは、帯域幅全体を対象として変換を行い、フィルタを使用することによって対象となる帯域の信号だけを取得します。ダイレクトRFサンプリングを採用した場合、ADCによるサンプリング・レートは一般的に3GHz~4GHz程度です。Cバンドを使用する場合、対象とする帯域の周辺にナイキスト・ゾーンの境界が位置し、サンプル・レートの上下の信号と同量の信号がエイリアスとして互いの上に折り重なった状態でADCの出力に現れることになります。対象とする信号の上に折り返す可能性のあるすべての周波数成分は、レシーバーの感度に影響を与えないようフィルタで十分に除去しなければなりません。それらの周波数における信号の強度が高いほど、よりサイズが大きく、コストが高く、要件が厳しいフィルタが必要になります。干渉の原因となる信号源がトランスミッタと同じ場所に存在するというのは、最もコストが高くなる最悪のケースだと言えます。Cバンドの周波数と、最も一般的に使用されている一部のFDD(Frequency Division Duplex)バンドは、ADCをベースとするデバイスを使用する場合に互いに干渉することが知られています。

This illustrates spectrum folding back onto the first and second Nyquist zone creating aliases.

まとめ

設計サイクルの最初の段階で、採用する無線アーキテクチャにより、どのようにしてコロケーションの問題に対処することになるのかを把握しておく必要があります。選択したのはどのような無線アーキテクチャで、それにはどのサンプリング・レートが使われるのかを確認することが重要です。以下、要点をまとめます

  • フィルタは、Cバンドに対応する無線システムの総重量の30~ 40% を占める可能性があります。折り返しの問題によって、その重量は、アナログ・デバイセズのゼロIF アーキテクチャで採用しているフィルタと比べて50% も増加してしまうかもしれません。
  • 既に設置済みの無線システムに問題が波及するおそれがあります。折り返しの問題は相互的に生じるからです。例えば、ある電波塔に約2GHz を使用する無線システムを実装済みであったとします。そのシステムは、同じ電波塔にC バンドの無線システムを実装した途端に動作しなくなる可能性があります。
  • 従来得られていた性能が将来も保証されるとは限りません。新しい帯域が絶えず割り当てられていくからです。現時点で十分な折り返し感度で動作している無線システムが、将来適切に動作しなくなるかもしれないということです。

詳細は、analog.com/jp/5G をご覧ください