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NASA’s Space Launch System rocket carrying the Orion spacecraft
NASA’s Space Launch System rocket carrying the Orion spacecraft

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Headshot of Michael Dalton
Michael Dalton,

通信/宇宙担当セグメント・マーケティング・ディレクタ

アナログ・デバイセズ

著者について
Michael Dalton
Michael Daltonは、ワイヤレス通信の分野のアプリケーション・エンジニアリング、プロジェクト・マネージメント、プロダクト・マーケティング、セグメント・マーケティングなどにおいて様々な役割を担ってきました。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで電子工学の学士号、マイケル・スマーフィット・ビジネス・スクールで経営学の修士号(M.B.A.)を取得しています。
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Artemis IIによる人類の深宇宙への再訪、COTSのICがその原動力に

July 21, 2026


主なポイント

  • NASAは、経済的な理由と宇宙産業の成熟度の高さを背景とし、COTSのIC製品の採用を進めています。
  • 深宇宙で宇宙船の自律的な運用を実現するには、緊急を要する意思決定を行うためのインテリジェントなエッジが必要です。その基盤としては、自動運転車やロボット、産業用システムで使われているのと同様の技術が活用されます。
  • Artemis計画を具現化するためには、半導体技術の活用が必須です。航空宇宙の分野だけでなく、半導体技術は製造、自動車、ヘルスケア、エネルギー、(地球上での)通信などの分野にも変革をもたらしています。
  • アナログ・デバイセズの製品と専門知識は、ロケットのエンジンである「RS-25」から電源システム、推進システム、コア・ステージ・システムに至るまで、Artemis 計画のあらゆる部分で活用されています。

 

2026年4月6日に有人飛行試験「Artemis II(アルテミスII)」によって達成された月フライバイは、歴史的な転換点になりました。低地球軌道(LEO:Low Earth Orbit)より遠い場所での有人飛行が50年以上の時を経て成し遂げられたのです。その10日間にわたるミッションでは、私たちの想像力をかき立てる記録が樹立されました。例えば、大型ロケット「SLS(Space Launch System)」を打ち上げた際の総推力は880万ポンド(約3992t)を超えました。それにより、宇宙船「Orion」と4人の乗組員が地球から25万2756マイル(約40万6771km)の彼方へと送り届けられたのです。これにより、人類はこれまでに飛行した中で最も遠い距離に到達したことになります。

Artemis IIで使用されたOrion(「Integrity」という愛称も付けられています)は、月遷移軌道投入噴射を実行し、地球の軌道を離れて自由帰還軌道を飛行しました。月の重力を利用してその裏側を回り、追加の推進剤を燃焼させることなく地球に帰還しました。このミッションを成し遂げるためには、高精度のセンサーや信頼性の高いデータ処理が必要でした。

Artist's concept depicts the nominal trajectory for NASA’s Artemis II test flight
Spacecraft and solar array next to the Moon
The lunar surface while a distant Earth sets in the background

Orionは月面から6,545km(約4,067マイル)の距離を通過しました。7時間に及ぶフライバイの間、乗組員たちは月の裏側の画像を撮影し、「地球の入り(Earthset)」を目にしました。

Artemis計画では、3回の試験飛行が行われます。その2回目のミッションであるArtemis IIでは、持続的な月の探査を可能にするSLSや、宇宙船の重要なシステム、乗組員の運用に関する検証が行われました。この試験飛行の成功は、月への再訪とそこでの長期的な駐留、更には将来の火星探査ミッションに向けた重要な一歩になりました。それだけでなく、このミッションは世界中の人々の注目を集め、感動を与えました。その結果、有人飛行による深宇宙の探査に対し、世間の関心や戦略的な関心が再び呼び起こされたのです。その一方で、LEOを越えてOrionを運んだSLSの内部や、Orionの機体、乗組員用のモジュールでは、上述したのとは別の物語が繰り広げられていました。その物語は、精密なエンジニアリング、インテリジェントなシステム、RF通信、そしてこのミッションの実現を可能にした半導体技術から成ります。

宇宙分野の技術の限界を押し広げる

アナログ・デバイセズで高信頼性航空宇宙部門のシニア・プロダクト・ライン・マネージャを務めるEliot Fineは、「乗組員を運んで月を周回し、地球に帰還したOrionには、アナログ・デバイセズの技術が搭載されていました。当社の技術は、安全の確保とミッションの成功に貢献したのです」と述べています。

アナログ・デバイセズは、40年以上にわたりNASA(米航空宇宙局)やJPL(ジェット推進研究所)と協力してきました。その成果として、放射線に対する耐性を強化したICやシステムが開発されました。それらは、ロケットを打ち上げる際の極度のg(加速度)にも対応できます。加えて、宇宙という極めて過酷な環境に耐えるための厳格な品質基準を満たしています。2016年に木星の周回軌道投入を達成した探査機「Juno」は、アナログ・デバイセズの温度センサー「AD590S」を搭載していました。また、アナログ・デバイセズは2020年に実施された火星探査車「Perseverance」によるミッションも支援しました。具体的には、RF IC、オペアンプ、パワー・マネージメントIC、高精度のセンサー、データ・コンバータなど、63個の重要なコンポーネントが活用されました。

The ADI high-reliability engineering development team reviews the high-/low-temperature test set
宇宙で使用されるビームフォーマICの高温/低温試験の設定を確認している様子。作業を担っているのはアナログ・デバイセズの高信頼性エンジニアリング開発チームです(左から、Manuel Henao、John Mark Nieva、Jesmar Enerio、Arcef Festejo、Scott Carlisle)。

COTS製品が宇宙分野の事業にもたらした変革

ロケットに関する報道では、エンジンや耐熱シールドが見出しに取り上げられるケースが少なくありません。しかし、宇宙におけるミッションの成功の鍵を握っているものは他にも存在します。センサー、コンバータ、プロセッサなど、数千ものICがすべて協調して機能することが重要なのです。そうした重要なICの多くは、車載システムや通信用のインフラなど、要件の厳しい商業用途や産業用途で使用されていたものです。つまり、それらの性能と信頼性は実証されていました。

宇宙探査に向けたNASAのアプローチは、商用オフザシェルフ(COTS:Commercial off-the-Shelf)の技術基盤を活用する方向に進んでいます。経済的な制約から、カスタム仕様のハードウェアを個別に開発する方式ではなく、大手半導体メーカーから調達したCOTSのコンポーネントを使用するケースが増えているのです。アナログ・デバイセズのFineは、「現在、NASAが求めているのは、最小限の調整を行えばすぐに使用できるソリューションです。それらCOTSの製品を、航空宇宙分野のプライム(元請け)企業がミッションを遂行するシステムに組み込みます」と説明しています。

Artemis計画では、前述したような変化が顕著になりました。実際、NASAはアナログ・デバイセズが商用分野で培ってきた主要な技術を活用しています。例えば、高精度のアナログ技術、インテリジェントなセンシング技術、エッジの自律制御システム、デタミニスティックなネットワークなど、現在トレンドになっている様々な技術が採用されました。アナログ・デバイセズの製品は、Artemis IIのあらゆるところに採用されています。より具体的には、エンジンから、電源システム、推進システム、コア・ステージ・システム、ブースターまでに至る様々な部分で、当社の製品が使用されていました。

上述したような間接的なサプライ・チェーンは、現在の宇宙産業の構造を反映しています。宇宙に関連する事業では、月面探査のミッションを対象にすることもあれば、現在打ち上げられている数千基ものLEO衛星を対象にすることもあります。いずれの場合にも、半導体企業は契約先のプライム企業が完全なシステムを納入できるよう支援を提供します。

COTS製品の長所

NASAがCOTSのコンポーネントを採用している背景には、経済的な事情と技術的な成熟度の高さという2つの理由が存在します。民間の宇宙事業によってコンポーネントの大量生産が促進されると、コストが低減されると共に信頼性が確保されます。その結果、より高い頻度でミッションを実行することが可能になります。航空宇宙分野のパートナー企業は、何年もかかる特注のコンポーネントの開発を待つのではなく、MIL-STD-883やJANS(Joint Army Navy Space)の認定要件を満たしたCOTS製品の中から必要なものを選択することができます。それらの製品は、既に実績のあるコンポーネントだと言えます。

2027年度の大統領予算案では、探査活動向けに85億米ドル(約1兆3800億円)が計上されています。費用の負担の軽減と米国の産業基盤の強化を図るために、民間企業が輸送サービスを提供する方式への移行が優先されています。

宇宙用の技術から産業用の技術への展開

アナログ・デバイセズのような半導体企業が、商業チャンネルを通じて宇宙分野の市場に貢献することによって、技術がもたらすインパクトは増強されます。多くの場合、航空宇宙の分野に向けて設計されたコンポーネントには、後に地上の産業に恩恵をもたらす革新的な技術が盛り込まれています。本質的な課題は、航空宇宙の分野の探査事業においても、地球上で起きている産業の大改革においても同様に重要な意味を持ちます。そうした課題の例としては、高精度の信号処理、電力の効率的な管理、信頼性の高い通信の維持、インテリジェントな自律システムの実現などが挙げられます。以下、宇宙の分野でも産業の分野でも必要になる技術について簡単に説明します。

高精度のアナログ・センシング:宇宙船のモニタリング機能においても産業用のオートメーション機能においても、基盤になるのはアナログ信号を高い精度でセンシングする技術です。例えば、宇宙船において推進剤の圧力をトラッキングするセンサーの原理は、石油やガスを扱うパイプライン・システムのモニタリングに利用されています。また、宇宙船の温度の制御に必要な高精度の温度測定技術は、半導体の製造、医薬品の生産、データ・センターの冷却などにそのまま適用できます。更に、ロケットのエンジンの異常を検出するために実施される振動の解析は、予知保全で活用することが可能です。例えば、工場、風力タービン、電気自動車のドライブトレインなどに適用できます。

自律型のエッジ:航空宇宙のアプリケーションで使われる自律型のエッジも、産業分野に転用することが可能です。Artemis IIで使われたOrionのシステムは、電力の分配や温度の管理について、地球からの指示を待つことなく瞬時に判断を下します。それと同様に、アナログ・デバイセズの他分野のお客様もインテリジェントなエッジを導入しています。例えば、自動運転車ではセンサーで取得したデータをミリ秒単位で処理します。また、ロボットのシステムは、環境の変化に対してリアルタイムで適応します。更に、障害の発生を事前に予測できるように設計された産業用の機器も存在します。

デタミニスティックなネットワーク:宇宙船が備える複数のサブシステムの間では、デタミニスティックなネットワークによってデータのフローが調整されます。そのネットワークは、ファクトリ・オートメーションの分野に変革をもたらしているTSN(Time-sensitive Networking)と同様の仕組みを備えています。例えば、軌道を変更するためには、ナビゲーション(航法)、推進、姿勢制御を担う各システムの間で精密な連携が必要になります。その基盤になる通信用のアーキテクチャでは、重要なコマンドが正確なタイミングで届くことを保証しなければなりません。先進的な製造分野では、それと同様のデタミニスティックなネットワークによってモーション・コントロールにおける同期を実現しています。例えば、ロボット・アーム、マシン・ビジョン・システム、品質検査システムを、完全に同期をとった状態で動作させるといった具合です。

通信技術:航空宇宙分野でも産業分野でも、通信技術は非常に重要な役割を果たします。例えば、地球と宇宙船の間では、信号処理を活用することで長距離にわたる通信を維持する必要があります。一方、産業分野では、5Gのインフラ、衛星通信、インダストリ4.0を実現するための産業用の高速ネットワークなどで通信技術が使われます。アナログ・デバイセズは航空宇宙分野に焦点を絞り、RF/マイクロ波をベースとする通信技術に取り組んできました。例えば、広帯域幅の無線通信によってペイロードを送受信するために、高度に集積化されたシリコン・ベースのRFソリューションを開発しています。

宇宙を巡る新たな市場

COTSの製品をベースとする宇宙分野の産業は急速に発展しています。LEO衛星コンステレーションを運用している民間企業の場合、宇宙グレードの信頼性と商業経済性を両立させた数千ものコンポーネントを使用しています。月に着陸する宇宙船、軌道上の施設、民間の有人宇宙船は、いずれも同じ中核的な技術を必要とします。例えば、高精度のセンシング技術、堅牢性の高い通信技術、インテリジェントなパワー・マネージメント技術、耐放射線処理の技術などです。

将来の展望

Artemis計画では、月面に人を着陸させることを目標として掲げています。そのための準備は着々と進められており、月を周回する有人拠点である「Lunar Gateway」の建設や、将来的な火星探査のミッションの計画が具体化しつつあります。宇宙を対象とするそれらの計画に伴って技術革新が進んでおり、それによるメリットが航空宇宙以外の分野にももたらされるはずです。Apollo(アポロ)計画の時代のICは、現代のコンピューティングを支える半導体分野の変革を加速させました。それと同様に、Artemis計画の時代の技術も、イノベーションの次の波を地上にもたらすことができるはずです。そうした技術の具体的な例として挙げられるのが、アナログ・デバイセズのような企業が提供する高精度のアナログ技術、インテリジェントなエッジ処理の技術、デタミニスティックなネットワーク技術などです。

Artemis IIが生み出したのは、宇宙探査や技術革新にまつわる物語だけではありません。それは、次に挙げるような「技術のサイクル」ももたらしました。まず、大胆なミッションに対する政府の投資によって需要が創出されました。それに応える形で、民間のパートナー企業は、必要な機能を提供する装置やコンポーネントを開発しました。それらはやがて、地球上の産業、インフラ、日常生活にも応用されていきます。Artemis計画は、半導体の商用サプライ・チェーンを通じて提供される多くのCOTS製品によって具現化されました。それらの製品/技術は、製造、自動車、ヘルスケア、エネルギー、通信といった分野の構造やあり方を作り替えています。

ここまでに述べたとおり、宇宙の探査と産業分野の技術革新は深く結びつきつつあります。それは、野心的なミッションと実用的な商用アプリケーションが共に前進できることの証しと言えるでしょう。いずれの面での前進も、様々な能力や機能を一層高めさせ、より幅広い利益やメリットをもたらしていくはずです。

Earthset captured through the Orion spacecraft window
Orionの窓から見た「地球の入り」。Artemis IIにおいて、乗組員が月フライバイの最中に撮影したものです。