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Front view of Cern's collider tube in the underground facility.
Front view of Cern's collider tube in the underground facility.

 

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      科学領域の画期的な発見を支える高精度の計測技術


      CERN(European Organization for Nuclear Research)は、スイスに本部を構える素粒子物理学の研究所です。現在、同研究所はHL-LHC(High-Luminosity Large Hadron Collider:高輝度大型ハドロン衝突型加速器)の開発を進めています。HL-LHCは世界最高レベルの性能を達成する計測器であり、宇宙の基本的な構成要素である物質の内部の観測に使用されます。この装置の開発を通じ、高精度の計測技術によって達成可能な能力の限界が打ち破られようとしています。

      Front view of Cern's headquarters showing The Cern's Globe landmark building located in Geneva, Switzerland.
      CERN本部(スイス ジュネーブ)のランドマーク施設「Globe」
      Front view of Cern's Compact Muon Solenoid detector technology.
      粒子の衝突を検出するCMS(Compact Muon Solenoid)。最高で1秒あたり4000万回の衝突を3D画像としてキャプチャすることができます。

      HL-LHCは、初代LHC(粒子衝突型加速器)の性能を向上させたアップグレード版です。LHCは、27kmにわたって超電導磁石をリング状に並べた構造を成しています。その中で、粒子は27kmの円周を1秒間に1万1245回周回し、光速に近い速度で互いに衝突します。それにより、毎秒10億回もの粒子の相互作用が発生することになります。その衝突について解析した結果は、物理学の研究や宇宙の本質に関する数々の大発見につながっています。最も有名なのは、実験的な手法によるヒッグス粒子の発見です。

      1 Billion
      CERNのLHCで1秒あたりに生成される粒子の相互作用の数

      ヒッグス粒子は、宇宙について説明するために使われている物理学の標準模型の1つです。その存在が仮説として唱えられたのは1960年代のことでした。しかし、LHCによって粒子の衝突をベースとする実験を行い、その結果が得られるまでは、ヒッグス粒子の存在は証明されていませんでした。この例のように、世界で最も先進的な計測技術の能力を科学者が活用したとき、驚異的な発見が生まれます。それにより、人間の知識の限界が押し上げられます。CERNはこのことを正に実証していると言えます。

      HL-LHCは、その運用期間中に、CERNのLHCの10倍の衝突回数を実現すると見込まれています。つまり、科学的な調査のためのより強力な実験用プラットフォームとして利用できるということです。

      HL-LHCでは、粒子の衝突回数を増加させるために、より小さな空間に対してビームを収束させます。ビームの成形は、非常に強力な磁石によって行います。そのためには、より精密に調整された新たな電源が必要になります。CERNの技術者は、最大18kAの電流を測定するために、史上最高の精度と安定性を備える計測システムを開発しました。そのシステム開発で重要な役割を果たしたのがアナログ・デバイセズです。具体的には、最先端の計測技術を実現する電子回路によって、低周波ノイズの除去性能を2倍に高めることに成功しました。

      Graphics illustrating CERN's HL-LHC particle accelerator collision models and simulations.
      CERNのHL-LHCにおける粒子衝突のモデル

      (画像提供:CERN)

      精度に関する課題

      科学分野の最先端の研究には、極めて性能の高い電子回路が必要です。その回路は、安定性、精度、感度、確度、信頼性の面で極限のレベルを達成した計測技術を提供できるものでなければなりません。アナログ・デバイセズの高精度技術プラットフォーム部門でIC設計マネージャを務めるEric Modicaは、「HL-LHCにおける電流の測定では、ノイズを極めて小さく抑えなければなりませんでした。ただ、その仕様は最先端の科学的な研究に共通する要件の1つにすぎません。そうした研究は、基礎物理学だけでなく、医学や薬理学、化学分析、材料科学などの分野でも行われています」と語ります。

      科学分野の開発を大きく加速するコラボレーション

      最先端の科学分野では、複数の部門やチームが連携して大がかりな取り組みを行う必要があります。HL-LHCのプロジェクトでも、多数の開発プロジェクトが並行して進行していました。そのうちの1つが、磁石用の電源向けに高精度の計測システムを開発するというものでした。アナログ・デバイセズで科学分野向け計測器部門のマネージャを務めるDaniel Braunworthは次のように述べています。

      「HL-LHCのプロジェクトは、非常にスケールの大きなものでした。このようなケースでは、プロジェクトを担当するチームから、特定のコンポーネントの主要な仕様についてまとめたリストがベンダーに提示されます。理論的には、その仕様に最も合致する製品が、そのアプリケーションにおいて最も優れた性能を発揮するはずです。しかし、実際には、高精度の計測技術のエキスパートと研究者によるコラボレーションが、ソリューションを実現する上での鍵になることが少なくありません。より適切にチューニングされた最適なシステム性能を達成するためには、そうした関係性が重要になるのです。設計上のトレードオフについて情報交換や議論を緊密に行うことで、研究者らはより良い結論にたどり着きます。その結果として、より多くの科学的な洞察を発見することが可能になるのです」。

      Image displays the inside of a building where several people are working on CERN's mechanical technologies.

      画像提供:CERN

      要件に対する深い理解が、より良い結果を生み出す

      Braunworthは「当社のアプローチは、HL-LHCの電源の主要なシステム要件に当社のコンポーネントを合致させるというものでした。それにより、CERN側の時間と費用を節約しつつ、最高の性能を達成しました」と語ります。アナログ・デバイセズは、長年にわたって高精度の技術を開発してきました。そうした実績に基づき、高精度で信頼性の高い計測技術を提供しています。また、長年にわたるCERNのパートナーでもあります。

      アナログ・デバイセズのドメイン・スペシャリストは、一連の製品を科学研究者のニーズに整合させるための作業を行います。Modicaは「当社のドメイン・スペシャリストは、CERNの技術者と連携することで電力制御に関する要件を把握しました。彼らの目標は非常に高いものでした。開発するのは、HL-LHCの磁石で使用する高度な電源向けの計測システムです。それを利用することで、LHCと比べて、より強い磁場を、より高い精度で、粒子加速器内の非常に大きな体積空間に収束できるようにしなければなりませんでした」と説明します。

      上記の作業を受けて、アナログ・デバイセズの計測分野のエキスパートは、CERNのチームと協力して電圧リファレンスを開発しました。このリファレンスは、磁石用の電源向けの精度の高いデジタイザで使用されました。そして、CERNのパワー・コンバータにおいて大きな貢献を果たしました。パワー・コンバータの1年にわたる運用期間において、ドリフトを10ppm未満に抑えることを可能にする主要な要素として機能したのです。この性能は、同リファレンスを利用し、磁石に供給される電流をより正確に制御することによって達成されました。非常に正確に電力を制御できたことから、HL-LHCにおける27kmの円周に沿った粒子ビームの動作を、求められていたμmの精度で正確にコントロールすることが可能になったのです。

      「科学的な発見の範囲を拡大できるシステムを開発する上では、計測技術の分野における世界有数のエキスパートと科学分野の研究者のコラボレーションが重要な鍵になります。」

      Daniel Braunworth

      アナログ・デバイセズ 科学分野向け計測器部門 マネージャ

      専門家の視点から見た高精度な計測のメリット

      CERNの技術者がHL-LHCに採用した計測技術は、長い年月をかけて開発されたものでした。一般的なシステムと同様に、計測の処理はアナログ領域で始まります。そして、極めて性能の高いシステムにおいても、一般的なシステムと同様のパラメータが重要になります。すなわち、感度、ノイズ、直線性、分解能、時間の経過に伴うドリフトなどが重要な意味を持ちます。

      最先端の科学的な研究には、最先端の計測技術が必要です。非常に性能の高いアナログ技術の開発には、数十年間にわたる研究と投資によって築き上げられたアセット、能力、IP(知的財産)の卓越した組み合わせが必要になります。

      最先端のアナログ・ソリューションは、電子回路技術に関連する様々なイノベーションによって実現されています。その一例としては、長く使われてきたシリコンとは異なる特殊な半導体材料が挙げられます。また、特殊なプロセスによって製造されたウェーハもイノベーションの1つです。そうしたプロセスは、超高精度の計測アプリケーションで求められる低ノイズ、高感度といった特性の実現に向けて最適化されています。

      Image displays several people working on precision instruments for CERN's technology.

      画像提供:CERN

      科学の進展、高精度の計測の進化

      高精度のアナログ技術の継続的な進化を確認することができるもう1つの例を紹介します。それは、カリフォルニア工科大学(Caltech)とマサチューセッツ工科大学(MIT)が運用しているLIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)です。LIGOでは、長さが4kmの2本の真空トンネルを利用して、原子核の幅の1/10000の動きを計測します。そのような高精度、高感度の計測技術によって、深宇宙の奥深くを観測できるようになっています。例えば、10億年以上前に発生したブラック・ホールによる現象を検出するといったことが可能です。

      Graphic illustration of graviational wave signals and high-performance analog data signals gathered from the LIGO facilities.
      ブラック・ホールによる重力波の測定結果。ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンに配備されたLIGOで検出されました。時間軸上に見られる微小な差は、2つの観測所の間の距離に起因するものです。この時間差は、アナログ信号を高い精度で検出できていることを実証するものでもあります。

      LIGOは、宇宙の本質に関して人類史上類を見ない洞察をもたらしました。ただ、科学プロジェクトでは、本質的に次なる発見を常に追い求めることになります。LIGOのような野心的なプロジェクトによって新たな洞察を得るには、計測技術を絶えず進化させていかなければなりません。例えば、ダイナミック・レンジを高めつつ、ノイズの多い環境で微小な信号を取得する能力を向上させるといった具合です。あらゆる科学分野には、更に精度を高めることにより、更に多くの現象を検出したいという共通のニーズが存在します。例えば、医療分野の研究者は人体の仕組みをもっと深く理解したいと考えます。また、ナノテクノロジーの分野の研究者であれば、次なる驚異的な材料の開発を目指すことになります。

      これまでもそうでしたが、最先端の科学研究の進化を支えるのは、最先端の計測技術です。それを実現する上では、高度な半導体技術が有力な手段になります。「アナログ・デバイセズは、非常に微小な信号をより効果的に検出するための技術に対して継続的な投資を行っていきます。世界レベルの専門技術を有する当社のアナログ技術者であれば、そうした技術を実際の回路として実現することができます。また、高精度の計測に用いる回路の設計に向けた新たなアプローチを考案し、製造プロセスを改良することが可能です。当社は、それらの技術の相互作用をより拡大し、お客様に新たな洞察をもたらすための取り組みを継続的に行っていきます」とModicaは語ります。

      人類が抱える問題を解決する

      技術の進化は、HL-LHCやLIGOの開発に携わる世界最先端の研究者だけでなく、全人類に対してメリットをもたらします。気候の変動や新たな感染症といった深刻な問題を解決するためにも、人類、地球、宇宙に関する知識を深めるためにも、科学を更に進化させていかなければなりません。

      Image displays outerspace with stars fields  as well as one large planet and it's moon.