通常、電圧レギュレータは、一定値にレギュレーションされた出力電圧を生成する目的で使用します。制御ループを使用することによって、レギュレーションされていない入力電圧から、安定した高精度の電源が生成されます。では、ダイナミック電圧スケーリング(DVS)は何のために使用するのでしょうか。
ダイナミック電圧スケーリングとは、電源の動作中に出力電圧を調整できることを意味します。このような調整を行う理由として、様々なことが考えられます。
軽負荷時のPFC段の変換効率向上
無効電力補償用の力率補正(PFC)段は、商用電力網からAC電圧を取り込んで、それをDC中間回路電圧に増幅します。図1に示すように、240V ACシステムの場合、通常、この中間回路電圧は380Vです。ADP1047 PFCコントローラは、DVSを使用して、従属的に出力電圧負荷の値をその設定値380Vから例えば360Vに小さくします。これにより、部分的負荷で動作中の電源の変換効率を向上させることができます。
様々な動作状態におけるマイクロコントローラの効率的動作
DVSのもう1つの使用例を図2に示します。この場合は、ADP2147降圧スイッチング・レギュレータがデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)に電源を供給しています。多くのアプリケーションでは、マイクロコントローラやDSP、FPGAを使ってプロセッサがスタンバイ・モードにあるときのコア電圧を下げることにより、システムの効率を向上させることができます。アナログ・デバイセズのADSP-BF527を含む様々なDSPは、軽負荷時にVDD_INT電圧(コア電圧)を例えば1.2Vから1.0Vに下げることで、より効率的に動作させることができます。プロセッサの消費電力は、主にそのクロック周波数と動作電圧の二乗の関数です。ADSP-BF527の電源電圧を25%下げれば、ダイナミック消費電力は40%以上減少します。アナログ・デバイセズのDSPの多くが同様に動作します。
負荷過渡応答後の回復速度向上
上述した2つの例に示すように、DVSを使用する一般的な理由は、効率の向上あるいは損失の抑制にあります。更に、この他にも興味深い用途があります。多くのシステムには、極めて高い精度でレギュレーションされた電源電圧が必要です。1.2Vコア電圧の許容電圧範囲を図3に示します。許容される範囲は1.2V±10%です。この例では、静的負荷の場合に限らず、負荷が動的に変化する場合にもこの電圧を維持する必要があります。許容範囲の中央に帰還制御を設定すると、範囲の半分を静的誤差源に使用でき、負荷過渡応答に伴う動的な電圧変化にも対応することができます。低負荷時の出力電圧をわずかに増やして高負荷時の出力電圧をわずかに減らすと、より良い結果を得ることができます。高負荷時には、ある時点で負荷が小さくなることが予想されますが、この場合は通常わずかな電圧オーバーシュートが生じます。図3に示すように、このオーバーシュートは、高負荷時の設定電圧をわずかに下げることで許容範囲内に維持されます。左側では高負荷、右側では低負荷となっています。
当然、逆の場合も同様に機能します。負荷が小さい場合は、ある時点で負荷が大きくなることが予想されます。この場合も、通常は動的な電圧アンダーシュートが発生します。軽負荷時の電圧は、許容範囲内に維持できるようにわずかに大きい値に設定されます。この機能は、一般に自動電圧ポジショニングと呼ばれます。
以上に挙げた他にも、電圧を動的に変化させることが有効なアプリケーションは数多く存在します。例として、DCモータの制御、アクチュエータの操作、あるいは温度レギュレーションを目的としたペルチェ素子の駆動などが挙げられます。ダイナミック電圧スケーリング、つまり生成された電圧の動的な調整は多くのアプリケーションに有効であり、場合によっては欠かせないものでもあります。特に、DVSはデジタル制御電源用として一般的なもので、実装も容易です。