本稿では新しいクラスのDC/DCコンバータを紹介します。その一例がLTC3336です。このデバイスはスタンバイ・モードでの消費電流がわずか約65nAなので、バッテリ駆動システムに最適です。
変換効率はパワー・コンバータの重要な特性です。降圧変換(降圧コンバータ)用の一般的なスイッチング・レギュレータの変換効率は、通常85%~95%です。実現可能な効率は、使用できる電源電圧と、生成されるそれぞれの出力電圧および必要負荷電流に大きく依存します。しかし、非常に多くのアプリケーションで特別なタイプの変換効率を必要としており、そのための特別なスイッチング・レギュレータ・ソリューションが存在します。これらのソリューションを展開するには、低出力用に最適化されたコンバータが必要です。常時オンで使用されるバッテリ駆動システムでは、多くの場合、スタンバイ・モードにおける消費電流を非常に小さく抑える必要があります。例としては、橋梁の振動を測定するセンサーや、森林火災を検知するセンサーが挙げられます。これらのケースでは、長時間にわたってバッテリ放電を小さく抑えることが重要です。この特性は、電源をエナジー・ハーベスタに依存するシステムでは特に重要です。
これらのセンサーは、無線を介して他のデバイスに接続されることも多くあります。通常エナジー・ハーベストやバッテリを通じて電源が供給される個々のノード・ポイントは、リンクされ複数のノード・ポイントを介して長距離の信号送信を行います。これら個々の無線ノードは一種の「スリープ・モード」で信号を常時リスニングし、関係する信号を検知した場合は消費電力の大きい動作モードへ移行して、その信号を伝達します。
LTC3336には、新たなクラスのDC/DCコンバータが採用されています。出力電圧が生成されても出力負荷が小さい場合、スタンバイ・モードで消費される電流はおよそ65nAに過ぎません。約7VのVINから2.5Vの出力電圧を生成するコンパクトな回路例を図2に示します。
この種の電圧コンバータによくあることですが、出力電圧の設定には抵抗分圧器を使用していません。分圧器は消費電力が大きすぎるからです。異なる出力電圧を設定するには、ピンOUT0~OUT3を使用します。出力電圧は、これらのピンの配線に応じて1.2V~5Vの範囲で段階的に設定することができます。
多くのエナジー・ハーベスト・アプリケーションでは、過大な電流負荷からエネルギー源を保護する必要があります。一部のバッテリやハーベスタは限定的な電流しか供給できません。仕様で規定されたこの電流制限を超えると電圧が低下したり、場合によっては損傷したりすることがあります。したがって、パワー・コンバータに流れる電流を制限することは意味があります。LTC3336では10mA~300mAの範囲で入力電流を段階的に制限することができ、制限値設定時のステップは調整可能です。この入力電流制限は出力電圧のそれと似ており、入力電流はIPK0ピンとIPK1ピンを適切に配線することによって値を設定できます。
図3の効率プロットは、1µAといった非常に小さい出力電流で達成可能な効率を示しています。特に、動作時間が長く負荷が小さいアプリケーションでは大量の電力を節約することができます。
まとめ
本稿では、スタンバイ・モードの消費電流がわずか65nAであるため、LTC3336がバッテリ電源システムに最適な選択であることを示しました。これは、バッテリ・サイズが同じであればはるかに長い時間の動作が可能になることやエナジー・ハーベスタをより小さく設計できること、したがってコストを削減できることを意味します。