要約
SIMOレギュレータは、その最適化されたソリューションサイズ、システム効率、および汎用性から、ヒアラブル/ウェアラブル機器に最適です。SIMOレギュレータの調整可能なピークインダクタ電流制限によって、出力電圧リップルを20mV未満に抑制して、敏感なオーディオヘッドフォンアンプの要件を満たすことができます。
はじめに
一般に、従来のスイッチモード電源(SMPS)は、低ドロップアウト(LDO)レギュレータに比べて非常にノイズが多いと考えられています。スイッチングレギュレータのスイッチング動作はノイズとそれに伴う高調波を発生させ、オーディオアプリケーションの総合的なシステム性能に影響を与える可能性があります。したがって、SMPSをオーディオ回路に使用すると、設計上の課題が生じることになります。フィルタやLDOをスイッチャの後段に配置すればスイッチングノイズを低減することができますが、コンポーネントの追加によるコスト、ソリューションサイズの増大、およびシステム効率の低下は、電子機器メーカーと最終消費者にとって望ましくありません。さらに、小型のワイヤレスオーディオ機器では、サイズとバッテリ寿命に厳しい要件があります(図1)。最適なソリューションを実現する場合は、慎重なバランスが求められます。
図1. 小型のワイヤレスオーディオ機器は、サイズとバッテリ寿命の要件が厳しく、優れたオーディオ性能を発揮することが期待されている。
図2は、ノイズに敏感なコンポーネントを駆動するためにLDOが採用されているヒアラブルオーディオ機器の標準的な電力フローを示しています。
図2. ヒアラブル機器の標準的な電力フロー図
LDOを多用しているため、それに伴う効率の低下によって相当な熱放散が発生し、バッテリ寿命が短くなります。SIMO製品を使用すれば、部品の追加を最小限に抑え、最も困難なオーディオ機器の低ノイズ仕様を満たしながら、より高い電力効率を達成することができます。
この記事で説明するように、理想的で革新的なソリューションは、単一のインダクタを共有する3つのバックブーストレギュレータを実装した単一インダクタマルチ出力(SIMO)バックブーストレギュレータです。このソリューションは、サイズを大幅に低減しながら、なお高効率を実現することができます。一方、設定可能なピーク電流制限によって、工場内または動作中に出力電圧リップルを調整して、敏感なオーディオアンプの厳しいシステム要件を満たすことができます。
SIMOの仕組み
図3は、SIMOトポロジの簡略図を示しています。図4には、SIMOの動作のインダクタ電流波形を示しています。SIMOでは不連続電流制御モードを採用します。MAX77654のSIMOでは、バックモードまたはバックブーストモードで動作して0.8V〜5.5Vの広い出力範囲に対応することができます。たとえば、バックブーストモードでは、インダクタはM1およびM4が「オン」の状態でVIN/Lのレートで電流を増大させることによってサイクルを開始します。対象の出力レールに対して設定された対応するピークインダクタ電流限度に達すると、電流はその後、M2およびM3.xトランジスタを介してそのレールに供給されます。
図3. ヒアラブル機器の標準的な電力フロー図
さらに詳しく検討する場合は、アプリケーションノート6601やアプリケーションノート6628など、この革新的なアーキテクチャの動作を説明する技術概要の記事で詳細をご確認ください。
出力電圧リップル
不連続導通モード(DCM)で動作するスイッチングレギュレータについては、DCMでの大きなインダクタ電流リップルによって大きな出力電圧リップルが発生し、ノイズに敏感なアプリケーションに悪影響を与えると広く考えられています。幸い、SIMOの設定可能なピーク電流制限は、インダクタのピーク電流を抑制することによって、誘導される出力電圧リップルを低減します。超小型のポータブルアプリケーションでは低負荷電流が一般的であることも踏まえ、SIMOの各出力レールのピーク電流制限を最適化された値に事前設定または調整して、出力パワーを損なうことなく出力電圧リップルを低減することができます。
図4に示すように、ピーク電流制限はインダクタ電流リップルを抑制します。同じ負荷条件と動作モード(バック/バックブーストモード)では、ピーク電流限度を引き下げると、特定の出力レールの各スイッチングサイクルで出力に送られるエネルギーの量が実質的に減少します。これによって、そのレールのスイッチング周波数が高くなり、出力電圧リップルが低減されます。
図4. SIMOの簡略図。
MAX77654のSIMOでは、ピーク電流制限のオプションとして0.33A、0.5A、0.75A、1Aの4つがあります。ピーク電流制限は、各出力に対して個別に設定することができます。図5は、ピーク電流制限の各種設定において、1つのチャネルに同じアプリケーション条件を適用した場合のSIMOの出力電圧リップルを示しています。適用した条件は、入力電圧:3.7V、出力電圧:1.8V、インダクタ:1.5µH、出力コンデンサ:22µF、負荷電流:10mAです。ピーク電流制限が出力電圧リップルに及ぼす大きな影響は、図5のスコープショットと表1のデータから明確に読み取ることができます。ピーク電流制限を0.33Aとした場合、ピークツーピークの出力電圧リップルを20mV未満に抑制することができます。
図5. SIMOの簡略図。
CODECによるスペクトル性能
オーディオアプリケーション向けのSIMO PMICの優れた性能を実証するために、SIMOと高性能オーディオヘッドフォンアンプを使用してスペクトルテストを実施しました。テスト構成と帯域内FFTの結果を図6と図7に示しています。
マキシムの革新的なSIMOアーキテクチャはDCMモードで動作するため、チャネル間の干渉によってスイッチング周波数のスペクトルは自ずから拡散され、別のチャネルに信号がある場合に強力なキャリアを注入する可能性が低減されます。
図6(a)は、オーディオインタフェースボード上の2つのディスクリートLDOによってDVDDとVDDに給電されるオーディオアンプの構成を示しています。それに対し、図7(a)には、SIMOの3つのSIMO出力レールのうち2つによってDVDDとVDDに給電される同じオーディオアンプを示しています。スピーカアイコンで示されている負荷は、32Ωの抵抗と15µHのインダクタを直列に接続して実装しました。
表1. ピーク電流制限の各種設定における出力電圧リップルの測定
Channels | Peak Current Limit [A] | Peak-to-Peak Output Voltage Ripple [mV] | Ripple Frequency [kHz] |
---|---|---|---|
Black | 1.00 | 90.92 | 11.67 |
Blue | 0.75 | 56.45 | 20 |
Red | 0.50 | 28.73 | 42 |
Green | 0.33 | 19.62 | 82 |
図6(b)と図7(b)は、この構成に入力信号が印加されていない場合の出力信号のノイズフロアを示しています。図6(c)と図7(c)には、-60dBFSの入力がある場合にこれら2つの構成から得られる出力信号のスペクトルを示しています。
帯域内スペクトルFFTは、LDOによってVDDとDVDDに給電する場合とSIMOによってVDDとDVDDに給電する場合で、ほぼ同じノイズと周波数成分を示しています。ノイズフロアと高調波成分は、オーディオアンプのVDDおよびDVDD電源を駆動するSIMOによって影響を受けません。
(a). ディスクリートLDOによってDVDDとVDDに給電されるオーディオアンプのテスト構成 | (a). SIMO出力によってDVDDとVDDに給電されるオーディオアンプのテスト構成 |
(b). 入力信号がない場合の出力信号のスペクトル | (b). 入力信号がない場合の出力信号のスペクトル |
(c). 入力信号(-60dBFS、1kHz)がある場合の出力信号のスペクトル | (c). 入力信号(-60dBFS、1kHz)がある場合の出力信号のスペクトル |
図6. LDOで給電する構成のスペクトルテスト。 | 図7. SIMOで給電する構成のスペクトルテスト。 |
結論
マキシム独自のSIMOアーキテクチャを活用すれば、オーディオ機器などのポータブル機器のバッテリ寿命を延長しながら、小型パッケージで効率的に電力を供給することができます。一方、設定可能なピークインダクタ電流制限によって、各SIMO出力の出力電圧リップルを個別に調整することが可能です。この出力リップルは20mV未満に低減することができます。さらに、マキシムのDCM SIMOの特性から、出力電圧信号のスペクトルは自ずから拡散され、結合や混合を引き起こしやすい特異なキャリア周波数を生じません。
SIMOレギュレータが提供するこれらすべての特長によって、優れたシステム性能と小型化という最適な組み合わせが実現します。この記事で取り上げたSIMOレギュレータファミリは、超低自己消費電流、高効率、小型サイズ、および優れたノイズ性能によって、最善のワイヤレスオーディオ機器を設計する際の固有の課題に対処します。
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このデザインソリューションは、2020年11月2日にPower Systems Designに初めて掲載された同様の記事に基づいています。