サージ・ストッパによる MIL-STD-1275D 準拠の容易化

サージ・ストッパによる MIL-STD-1275D 準拠の容易化

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Dan-Eddleman

Dan Eddleman

はじめに

軍用車両は、有害な電源変動が発生する可能性が高く、電子機器にとって過酷な環境です。米国国防総省が制定した MIL-STD-1275D には、28V 電源で駆動される電子機器が現場条件に耐えるために必要な要件が規定されています。

MIL-STD-1275D への適合は、大型のパッシブ・コンポーネントを使用して、高いエネルギーをグランドにシャントするという強引な方法で行うことができます。しかし、この方法では下流の電子機器に電力が供給される保証がないだけでなく、いざ役割を果たしたときには、損傷した保護コンポーネントの交換が必要になります。このような場合、直列接続した MOSFETを使用して入力電圧スパイクやサージに反応して出力電圧を制限する LTC®4366 や LT®4363 などの高電圧サージ・ストッパの使用が適しています。

リニアテクノロジーは、MIL-STD-1275D 向けのサージ・ストッパ・リファレンス・デザインを、DC2150A-Cデモ回路として提供しています。この基板は、有効電流が 2.8A に減少する±7Vリップル・テスト中を除き、あらゆる条件で 4A の出力電流を維持しながら、入力電圧が 250V に達しても、出力電圧を 44V に制限します。ほとんどのケースで、44V 耐圧デバイスの前にこの回路を配置するだけで、MIL-STD-1275D に簡単に適合できます。認証レポートは、http://www.linear-tech.co.jp/demo/DC2150A で公開しています。

MIL-STD-1275D の要件

MIL-STD-1275D は、定常状態の動作から、起動時の外乱、スパイク、サージ、リップルまでのさまざまな電源変動を定義し、次の独立した 3 つの「動作モード」に対して要件を規定しています。

  • 始動モード:始動およびクランキング運転時の条件
  • 通常モード:公称値のフォルトなしのバッテリ電源
  • ジェネレータのみモード:バッテリ未接続で、ジェネレータが直接電子機器を駆動

表 1 は、MIL-STD-1275D の通常モードとジェネレータのみモードにおける制限の比較を示します。本稿では、最も要件が厳しい、ジェネレータのみモードを主に取り上げます。

表 1. 通常モードとジェネレータのみモードの主な MIL-STD-1275D 仕様

表 1. 通常モードとジェネレータのみモードの主な MIL-STD-1275D 仕様

定常状態

ジェネレータのみモードにおいて、定常状態の電源電圧は 23V ~ 33V です。 図 1 の簡略図では、LT4363 と検出抵抗 RSENSE を組み合わせることで、最大 DC 電流を最小 4A/ 標準 5A に制限しています。これにより、出力で発生するフォルトや、入力でのヒューズ切れからシステムを保護します。

図 1.MIL-STD-1275D の簡略回路図

図 1.MIL-STD-1275D の簡略回路図

スパイク

スパイクは、通常、振動性(リンギングが発生)で、1ms 以内に定常状態電圧に減衰します。ワーストケースの MIL-STD-1275D スパイクの包絡線は、図 2 で定義されます ( ジェネレータのみモードの場合 )。

図 2.ジェネレータのみモードにおけるスパイクの包絡線

図 2.ジェネレータのみモードにおけるスパイクの包絡線

図 1 において、250V のスパイク条件は、300V を超えるドレイン - ソース間電圧に耐える定格を持つMOSFET M1 によって処理されます。–250V のスパイク条件においては、ダイオードD1 が逆バイアスされ、M2と出力からのスパイクをブロックします(LTC4366サージ・ストッパは、追加の保護手段を要することなく、逆電圧と –250V スパイクに耐えることができます)。

サージ

サージは、持続時間が 1ms を超える過度事象です。ジェネレータのみモードにおける制約を図 3 に示します。MIL-STD-1275D で推奨される試験では、持続時間 50ms の 100V パルスを 5 つ、1s の繰り返し時間で、システム入力に印加するよう規定されています。図 3 に示すサージ条件の包絡線は、期間全体の500ms の間 40V に戻らないため、この制約を満たすことはより困難です。本稿に示すソリューションは、両方の条件を満たします。

図 3.ジェネレータのみモードにおけるサージの包絡線

図 3.ジェネレータのみモードにおけるサージの包絡線

入力サージ中、M1 のソース電圧は LTC4366 によって 66V に調整され、M2 のソース電圧(および出力電圧)は LT4363 によって 44V に調整されます。1 つの MOSFET を使用する場合と比べ、個々のMOSFET における電力損失が減少し、出力で利用できる電力が増加します。

リップル

リップルは、定常状態 DC 電圧を中心とする電源電圧の 50Hz ~ 200kHz の変動です。ジェネレータのみモードの仕様によれば、リップルは DC 定常状態電圧の±7V 以内の値をとることができます。

ダイオードD1 とコンデンサ C1 で構成される AC 整流器が、高周波リップル・コンポーネントが出力に到達するのを防ぎます。ここで、入力リップル波形の立ち上がりエッジが出力コンデンサをプルアップしようとし、M2 を流れる電流を LT4363 が一時的に制限することに注目してください。このため、リップル条件中、出力負荷の有効電流は 2.8A となり、通常動作中の有効電流 4A より少なくなります。リップル条件と回路動作の改良方法の詳細については、リニアテクノロジーが 発 行する Journal of Analog Innovation の 第24 期第 1 号に掲載されている「大型のパッシブ・コンポーネントと置き換えて MIL-STD-1275D への適合を容易にする高電圧サージ・ストッパ」を参照してください。

始動モード

始動モーターとクランキング運転による電圧変動は、MIL-STD-1275D の始動モードに「電源電圧は、1秒以内に最低 16V に戻って 30 秒以内に定常状態DC 電圧に戻る前に、最低 6V まで降下できる」と記載されています。本稿に示すソリューションは、通常、最低 6Vで動作します。しかし、部品の許容誤差(特に、MOSFET メーカーによって提供されるしきい値電圧があまり厳密でないこと)によって、8Vまでの動作しか保証されません。

電磁気互換性の要件

MIL-STD-1275D は、電磁気の互換性について、別の規格 MIL-STD-461 に言及しています。通常、MIL-STD-1275D 互換システムの入力に EMI フィルタを配置します。サージ・ストッパを使用してもフィルタリングの必要性はなくなりませんが、その線形モードの動作によってノイズが新たに加わることはありません。

まとめ

リニアテクノロジーのサージ・ストッパ製品を使用すると、下流回路に途切れなく電力を供給しながら、MOSFET を使用して高電圧入力サージおよびスパイクをブロックできるようになり、MIL-STD-1275D への適合が容易になります。直列接続されたコンポーネントで電圧をブロックするため、大型のパッシブ・コンポーネントを使用して高エネルギーをグランドにシャントさせる際のようなヒューズ切れや損傷が発生しません。