要約
リモートキーレスエントリ(RKE)アプリケーション用の小開口UHFアンテナはキーフォブ内のショートループまたはオープンループとして終端することができます。ループの終端方式に応じて、その遠方界パターンとアンテナの特性インピーダンスが影響を受けます。
このアプリケーションノートでは、使いやすいアンテナシミュレータのEZNECを使用してアンテナ理論とアンテナ設計を考察します。マキシムのアプリケーションボードによってアンテナの特性インピーダンスを測定します。その結果、オープンループと短絡ループ間のトレードオフ、グランド効果、およびアンテナマッチングに関する検討事項が明らかになります。ここでの情報はすべて、このアプリケーションノートのパート2で紹介される測定の序論です。
目次
- アンテナ環境
- マキシムのアンテナ実験
2.1. 方法の解説 - 自由空間および実際のアプリケーション
- 短絡ループまたはオープンループ
4.1. 短絡ループの場合
4.1.1. 短絡ループ、3次元、基本波における遠方界
4.1.2. 短絡ループの測定インピーダンス
4.2. オープンループの場合
4.2.1. オープンループの測定インピーダンス - スプリアスおよび高調波アンテナに関して
- まとめ
1. アンテナ環境
リモートキーレスエントリ(RKE)アンテナはパッケージの小型要求から短いものですが、300MHz~400MHzにおける波長は比較的長いという関係を持ちます。理想的には、単純で効率的なRKEアンテナは、放射エレメントをミラーリングするグランドプレーンを備える1/4波長のモノポールまたは1/2波長のダイポールです。ただし、こうした理想的な構成はバスケットボール大の空間が必要なため、ユーザの指先で作動させる小型のキーフォブには非現実的です。キーフォブのパッケージ要件に適合させるために放射エレメントを短縮するにつれて、効率とインピーダンスが悪化し、扱いが困難になります。こうした制約された構成では、放射効率の低下によってアンテナ損失をもたらし、部品レベルのマッチングロスが約-14dBになる場合があります¹。高調波は定義上1/n波長ごとに短い波長成分を持ってしまうため、高調波の次数が増大するに従って、アンテナ放射効率が向上します。FCC規則のパート15.231に従って、放射は電界強度の単位で測定されます。このため、小さなアンテナの開口は望んだものと逆になります。
FCC規則準拠の試験には通常、直接FCCか、または合意された規格での統制環境において包括的な電界強度の測定を行うFCCが承認したラボが関与します。通常、こうした試験はトランスミッタに対応するために木製テーブル上で実行され、キーフォブを保持する人員の電界干渉や電界に対するグランド効果は考慮されません。多くの試験機器は3次元の測定を行うことはできず、ワーストケースに関して、反射によるグランドリターンが妨害として直接電波となって伝わることのみ扱います。ただし、実際にはグランドは測定用アンテナに干渉するだけでなく、トランスミッタパターン自体にも大きく影響を与えることがあります。アンテナ試験では、空間におけるピークローブの測定とアンテナの周り360度の電界パターンの測定によってこれらのグランド効果を明らかにします。
適度なコストで一般に提供される安価な高性能のアンテナシミュレータはグランド効果を明らかにすることができますが、キーフォブで使われている誘電体の損失が大きな影響を通常説明することはできません。シミュレータはエレメントごとに理論電流に分割し、そしてそれらを「モーメント法」と呼ばれる手法によって遠方界の結果を合計して動作します。最も単純なアンテナの場合でもシミュレータの作業は極めて困難です。通常、クローズドなモデルがないため、測定データに依存した参照テーブルになります。正確なアンテナシミュレーションを実現するには、多くは各計算セグメント内に数値的な電流勾配を確保することによって決まります。
単純で趣味レベルの安価なアンテナソフトウェアであるEZNECはNEC2コアを備えているため、小型アンテナをモデル化することができ、遠方界においても興味深い結果が得られます。EZNECの結果は実際に発生していることを把握するのに非常に役立ち、利用することができます。また、NECはアンテナインピーダンスも計算します。ただし、小さなアンテナの開口の場合は、負抵抗は通常の結果となり、悪条件のマトリックス数値がもたらすシミュレーションエラーに対する警告になります。NECは測定モデルからの参照テーブルを使って結果を計算するため、ダイポールとモノポールに最適です。NECの内部数値精度はそれほど高くないため、マトリックス乗算によってスモールループ設計のエラーが伝搬するおそれがあります。別のモデル化プログラムのEIGERのほうがおそらく小さなアンテナの開口に適していますが、一般には提供されていません。
マキシムでは、どのソフトウェアが利用可能で安価であるかを検討した後に、オープンおよび短絡アンテナループに対するEZNECの遠方界シミュレーション結果を検討しました。Agilent 8753Dベクトルネットワークアナライザを使ってインピーダンスを測定しました。シミュレートされた結果は結論的なものに見えますが、設計者はアンテナ試験区域で測定可能な事項と、デバイスをアンテナとマッチングさせる際に発生する事項を把握するだけです。各種NECバージョンの情報とその使用法に関する詳細なヒントは、「State of the Art」で紹介されています。
EZNECはNittany Scientific²から入手可能で、より高度なバージョン(NEC-4)はLawrence Livermore National Laboratories IPACサービス³を通じて米国国民に提供されています。また、Ansoftなどの業務用のハイエンドシミュレータもあります。さらにもう1つの有力なシミュレータはユーゴスラビアのWIPL-D4コードです。このシミュレータはグランド上のプレートおよびストリップをモデル化することができます。マキシムではWIPL-Dツールを調査していませんが、約400ドルで米国内の入手が可能です。
これらのアンテナシミュレータは高性能で手頃な価格です。これらのシミュレータは高性能ですが、標準的な屋外設定のダイポールアンテナ、ロングワイヤアンテナ、および八木アンテナなどのより大きなアンテナ構造に通常使用されます。モデル化は誘電体媒体上の小型アンテナまたは印刷アンテナにごく限られます。政府機関を通じて入手可能なEIGER5やNEC-4などの最新の高性能シミュレータでも、小型RKEタイプのデバイスに通常あるようなグランドプレーンを備える誘電体上の小型ループに苦労しています。これらの後述の各アプリケーションはシミュレータの能力を容易に超えるため、アンテナの結果の直接測定が性能を検証する唯一の真の方法になります。
マキシムのアンテナ実験
キーフォブから展開する標準的な(ガラス基盤上に)印刷ループ構成のFR4 (誘電体)ボードが製作され、測定されました。このアンテナは大部分のアプリケーションにとっておそらくやや大きいアンテナと思われましたが、インピーダンスとEZNECシミュレーションで何が発生しているかを把握するのに十分役立ちました。
図1. マキシムのアンテナボード
ネットワークアナライザを較正するために、一連のキャリブレーション基準(オープン、短絡、および50Ω)がS1ポート測定用にボードに取り込みました。これらのキャリブレーション基準は出荷時に補正の係数を含みませんが、400MHzでも適切に機能し、アンテナの給電点に基準点を設定するにはポートのポイントを延長して持ってくる以外は必要ありません。図1を参照してください。
アンテナは、次の2つのシナリオで構成されました。
- Aで短絡された反対端
- Aでオープン状態の反対端
図 2 は、EZNECでモデル化されたマキシムのボードを示しています。エレメント1、2、3、4…8の上に浮かぶ赤紫色の線は、相対RF電流を示しています。
図2. EZNECでの有限のエレメントを備える1インチx 1インチのアンテナループのモデル化
2.1. 方法の解説
スモールループの場合は、エネルギーは電界の境界条件を満たすために共振することを求めます。同軸ケーブルを使用して被測定デバイス(DUT)を駆動する問題点は、シールドが測定される実際の能動エレメントよりも大きい開口を備えている点です。ループはループのグランドリターンを通じて同軸ケーブルのシールドを効率的に励起し、それがRFの性質をもって、八木アンテナのベータマッチと結合されます。
実験を通じて図3のRでS11を測定する間に急峻な共振を検出しました。共振は急峻でしたが、任意の測定周波数でS11を変更せずにアンテナから離れるように同軸ケーブルを離すと除去可能なほど弱い共振になりました。同軸ケーブル上に電流バランまたはフェライトビーズをつけても同じことが実現できたでしょう。
図3. 同軸ケーブルシールドがもたらす共振
同軸ケーブルのグランド共振の影響は今回の動作周波数でS11にあまり影響を与えませんでしたが、グランドプレーンで励起された電流は測定された電界パターンをゆがめました。これより困難ですが可能な範囲としてより正確な方法は、RF出力の最適化を測ることで、これはTx ICがL-Cマッチングの変更を通してアンテナに供給してから、インピーダンスを決定するネットワークで測定することによって実現します。
図4. 試験フィクスチャ−および関連するSパラメータ測定中のEZNECモデル
前述のようにループはグランドプレーンで電流を励起することになるため、EZNECを使って、同軸ケーブルによって遠方界にもたらされたエラーと、空間における独立エレメントとしてのループの理想例を比較しました。結果は図5に示されています。
図5. 遠方界に対するモデル化された同軸ケーブルの影響の比較(短絡ループ)
予想されるように、同軸ケーブルの方向への遠方界パターンの実効的な引き込みがありました。興味深い影響はZ軸における電界の変動でした。これはおそらく、グランドからの放射体の平均的な高さの変動と同軸ケーブル自体からのエネルギーの結合に起因します。同軸ケーブルがなかった場合は、電界パターンは回路のグランドプレーン上ではより対称的になりました。
3. 自由空間および実際のアプリケーション
1つの驚くべきシミュレーション結果は、図5での短絡終端およびオープン終端におけるZ軸上の極めて強いローブです。ループは小さく電流は均一であるため、等方性に近い電界(図6)や、または図7に示すように能動エレメントの物理的実装によるわずかな歪みが予測されます。
図6. 自由空間における同軸ケーブルの影響の無視
自由空間モデルにおいて同軸ケーブルの影響とグランドによって反射する場合がある-Z方向へのかなりのエネルギーが確認されました。同軸ケーブルシールドはアンテナエレメントよりも長いため、長いランダムワイヤアンテナのように遠方界に寄与しています。
図7. 自由空間における同軸ケーブルの影響(短絡ループ)
マキシムのモデルでは同軸ケーブルシールドエレメントは19インチに任意で固定されました。これは315MHzでは1/2 λよりやや長く、433MHzでは約3/4 λでした。シールドは波長の関数としてモノポールとして機能したことを考慮すると、長さが5/8 λ (0.625 λ)まで増大するに従って電界はその軸に対し方向的に垂直になりました。5/8 λを超えると、メインローブの下に新しいローブが発生するようになるため、メインローブは上空に送られました。エレメントが長くなるにつれて、ローブとアンテナ軸に対する高さにおけるヌルが交互に発生しました。図8は、ループからの入射波と組み合わさると、これらのローブおよびヌルが遠方界でどのように混ざり合うかを示し、また315MHz~433MHzに発生した歪みも示しています。
図8. 波長の関数としての垂直方向のモノポール高の電界パターン
上記の結果は自由空間においては妥当ですが、グランド効果も無視できない重要なファクタです。グランドからの反射は入射波に重畳的かつ相殺的に加えられるため、上空のローブが変動されます。315MHz~433MHz間のZ軸上のローブの相違はZ軸上のアンテナ指向性の結果ではなく、むしろグランドに対する波長の相違による入射信号と反射信号の追加位相によるものです。EZNECは、X-Y面上において理想的なグランドから(地上高) 36インチ(キーフォブ使用時の標準的な高さ)になるように前例でモデル化されました(図9)。グランドからのアンテナの距離が変更されると、中央のローブは予想通りにグランドから(地上高) 1/4 λごとに各最大値および各最小値を経ました。
図9. グランド上にモデル化されたループ
反射波の強さは1/r4に従うため、反射波は遠方界で1/r²を減少させる入射波に結果的にほとんど貢献しません。実際のRKEアプリケーションの場合は、グランドはアンテナの電界パターンに大きな影響を与えるとEZNECは予想しています。そのデータは図10に示されています。
図10. グランドからのアンテナ高の影響、 λ = 35.65インチ
4. 短絡ループまたはオープンループ
アンテナのループは短絡ループか、またはオープンループにすべきでしょうか?設計者は、より容易なマッチング結果を求めるか、またアンテナ効率をなんとか向上するかの質問に直面しています。通常、アンテナには次の2つの処理で対処することができます。まず任意の放射の開口を選択し、次にそれを信号発生源とマッチングさせます。場合によっては、終端方式が異なっても同一の開口を同様に扱うことができます。ただしアンテナの電界パターンにおける実際の結果は、電流の分配方法に応じて短絡ループかオープンループかで全く異なる場合があります。図11を参照してください。
図11. アンテナ電流の比較
1/4波長を下回る短絡ループの場合は、境界条件はグランドポイントにあり、ループ全体にわたってピーク電流が印加されます。電流の位相は、セグメント1から4の間に徐々に変化します。オープンループの場合は、パス上に中断点があり、ギャップには電流が流れず、徐々に増大する電流は給電点に向かいます。電流位相はセグメント3および4に沿って中断点から同じことを開始しますが、セグメント2および1まで続きます。いずれの場合にも、セグメントはそれぞれ、各セグメントにおいて電流から限られた量のエネルギーを放射します。セグメントの位置と流れる電流の位相に応じて、すべてのエレメントのベクトルの合計によって遠方界の電界パターンが決定されます。
単一の開放型のエレメントは高効率的で電界を放射している間は、実際にはグランドによってミラーリングされるモノポールであり、空間で回路を完成させます。オープンループを持った小型キーフォブの場合は、グランドエレメントはほぼありませんが、PCB (プリント基板)グランドがアンテナの一部の役割を果たします。
オープンループと短絡ループの比較において、最大の相違点は給電インピーダンスで、終端がスミスチャートの反対側の端に付け始められた時からです(図12)。アンテナに取り付けられた能動エレメントが安定していない場合はインピーダンスの変動がおこり、安定性の問題が生じる場合があります。マキシムのRKEトランスミッタデバイスは無条件で安定しています。金属や親指などのアンテナに近いあらゆるものがアンテナのインピーダンスに影響を与え、その結果デバイスを発振させる場合もあるため、以上のことは特に重要です。
図12. オープンループおよび短絡ループの開始インピーダンスと安定性サークル
4.1. 短絡ループの場合
交流を伝達するループまたはコイルは、ループの面に対して垂直な交流磁界を生成します。同じことが短いループを持つUHFで該当します。ただし、ループが電気的に長い場合は、流れるRF電流の位相はその周りを伝わり、それは一連の個別アンテナに等価となり、前のエレメントによって位相がシフトされ伝わります。(図13)。
図13. long loop時における等価複数ダイポール
これらの実効アンテナはそれぞれ遠方界で次第に干渉したり、または遠方界で相乗します。このため、図14および15に示されるパターンが結果として得られます。1/2波長を下回るループ周囲の場合は、電流が比較的一定であるため、遠方界強度はX軸方向に向けられます。図14および15では、X-Z面上に1インチx 1インチ平方のループの同じ機械的寸法を維持し、励起周波数を広げてみました。この方法によって、次の2つが得られました。まず1インチ平方の固定ループに対する各波長間の関係が示され、次により短い波長の高調波の影響が明らかになりました。
Frequency | Effective 4-inch circumference loop, length in wavelengths |
10MHz | 0.004 λ |
100MHz | 0.036 λ |
315MHz | 0.112 λ |
433MHz | 0.154 λ |
700MHz | 1/4 λ |
図14. 自由空間における電気的に短いループの場合のX-Y遠方界パターン
ループが電気的に長くなるか、または各素子との個別の位相関係がもたらされるまでは、遠方界での最大値はX軸上にとどまります。最初の対称境界条件が訪れるのは、ループの周りのパスが180度である場合であり、アンテナの給電点で180度の位相差もってマッチングされる時です。その結果は、下記の図15の1.4GHzの場合に示されるようなZ軸上に立つ垂直の半波ダイポールのようになります。
Frequency | Effective 4-inch circumference loop (length in wavelengths) |
1.4GHz | 1/2 λ |
2.8GHz | 1 λ |
3.5GHz | 1 1/4 λ |
4.2GHz | 1 1/2 λ |
4.9GHz | 1 3/4 λ |
5.6GHz | 2 λ |
11.2GHz | 4 λ |
図15. 自由空間における電気的に長いループの場合のX-Y遠方界パターン
1/2波長を上回る場合(1.4GHz)は、単一ループが長くなるにつれて、電流の位相シフトが実質的に増加します。ループの両側は、空間の中で別の点(波長に応じて相互に大きく間隔が空けられた点)を占有するため、遠方界の結果は図15に示されるように進行します。
図16. ループの非対称の給電点
図14および15は、いくつかの重要な点を示しています。PCB (プリント基板)上のループはおそらく完全に対称ではなかったため、これらの図のシミュレーションはすべて図16のモデルを使用しました。また、図16のモデルは、図4の試験機器に発生した事項とより厳密にマッチングしました。給電点が少しオフセットされたモデルを使用すると、電気的に短いループの場合は、ループ内の相対位相シフトがわずかであるため、給電点の位置はあまり重要ではないことが明らかになります。ただし、波長が短くなってループが電気的に長くなるに従って、電流シフトの位相は物理モデルに対し増大するため、遠方界が影響を受けます(図17の赤紫色の電流線に注目)。
図16の給電点(非対称的に給電されるループ)が図17の給電点(対照的に給電されるループと同じ場合は、1 λを超える電界パターンは完全に対称的になるのが、いくつかの軸で発生します。
図17. ループが自由空間で電気的に長くなる場合の利得および方向の影響
ループが基本波に対して短い場合は、高調波に対しては長くなります。高調波によって偏波変動など基本波より強い予測不可能な電界がどのように発生するかが判明しつつあるため、このことは重要です。また、図17の例は、X-Y面を検討しながら、高調波をより高次にすると3次元で最大値が得られることも示しています。この場合は、X-Y面で上空に移動します。このアンテナは、その指向性パターンが給電点と反対になる古典的なロンビックアンテナにも似ているため、この影響は驚くべきものではありません。
4.1.1. 短絡ループ、3次元、基本波における遠方界
図18. PCB (プリント基板)グランドプレーンを除いた短絡ループの遠方界シミュレーション
図18は、図1に示された機器のPCB (プリント基板)グランドプレーンを無視したスモールループのシミュレーション結果を示しています。こうしたグランドプレーンは小型パッケージでは利用できないため、この条件は実際のキーフォブでの条件に酷似しています。自由空間における信号とグランド上の信号の差を十分比較し、315MHzおよび433MHzにおけるZ軸上の差に注目すると、前述のように影響はグランドに関係することは明らかです。また、自由空間モデルのくぼみをY軸に沿って図15の各最小値にも関係付けることができます。
図4の試験機器の場合と同様にグランドプレーン効果を検討すると、電流の一部がグランドプレーンに引き込まれているため、遠方界に寄与していることが明らかになります。ここでは、アンテナはループとダイポールの幾分ハイブリッドになった形です。というのは、エレメント4においてグランドの端に沿って電流が流れているからです。このグランド電流の一部は、まるでトランスのようにグランドプレーンに誘導されます。この電流がループの電流に比べ大幅に下回る間は、グランドははるかに大きな開口面積を備えています。その結果、実効高が変動します。というのはアンテナの実効中心が下げられ、Z軸上のローブが315MHz~433MHzの間で変動するためです。
図19. PCB (プリント基板)グランドプレーンを備えた短絡ループの遠方界シミュレーション
4.1.2. 短絡ループの場合の測定インピーダンス
ループを短絡させることによって、電流はグランド終端までのループの周りの回路を均等に流れます。この場合は、電流をゼロにする物理境界はありません。仮想のグランドは、電流がゼロ以外にもなるグランドです。図20は、ループがごくわずかな波長の場合は、電流分配がほぼ一定の誘導性の超ローインピーダンスになります。
図20. 短絡ループ上の一定電流
回路からグランド点に取り付けられたものはすべて、ごく短いオープンスタブに酷似しているため、かなりハイインピーダンスであるように見えます。その結果、大部分の結合はループを磁気的に経由します。グランド上にアクティブな電流がほぼないため、回路グランドは能動回路におそらくほとんど影響を与えません(図21および表1を参照)。
図21. 短絡ループの測定Sパラメータ
表1. 300MHzおよび400MHz帯の短絡ループの測定Sパラメータ
Loop Antenna with shorted end to ground plane | ||||||
F (MHz) | S11 mU | Deg | Re-Ω | Im-Ω | S11x | S11y |
300.00 | 983.140 | 32.712 | 5.344 | 170.2 | 0.827 | 0.531 |
315.00 | 983.410 | 29.947 | 6.250 | 186.74 | 0.852 | 0.491 |
330.00 | 983.400 | 28.151 | 7.055 | 199.17 | 0.867 | 0.464 |
429.00 | 983.930 | 12.703 | 32.906 | 446.73 | 0.960 | 0.216 |
432.00 | 984.520 | 12.182 | 34.453 | 465.97 | 0.962 | 0.208 |
433.50 | 984.720 | 11.864 | 35.844 | 478.52 | 0.964 | 0.202 |
441.00 | 986.330 | 10.916 | 37.750 | 520.41 | 0.968 | 0.187 |
4.2. オープンループの場合
オープンループの場合は、同軸ケーブルシールドなどメインエレメントが露出したものはすべてアンテナになります。ショートモノポールアンテナの測定時には、アンテナは空間までの回路を完成するためになんらかのアンテナ終端を「確認」し、アンテナとしての機能をさせる必要があります。グランド終端が確立されていない場合は、アンテナ電流はグランドになるものを検出し、自由空間までの回路を完成しようとします。このため、グランドプレーンとそれに接触するあらゆるものが、オープンループの場合、アンテナの一部になります。励起エレメントの開口がごく小さく、グランドプレーンが大きい場合は、グランドプレーンは実際にアンテナの最も効率的なエレメントになる場合があります。図22を参照してください。
図22. オープンおよび短絡ループの場合の電流分散での同軸ケーブルの影響
図23. 各遠方界シミュレーションオープンループと短絡ループの電流の比較、同軸グランドを含む。
閉ループの場合と異なり、オープンループではアンテナ給電電流は相互に離れて流れます。このため、オープンループはグランドプレーンを備える垂直エレメントに似ています。図23を参照してください。最上部のエレメントはグランドプレーンによってミラーリングされるため、これは図24に示すようなダイポールとも等価です。
図24. オープンループの等価モデル
ダイポールはごく短いため、予想効率は低くなります。ただし、それでも遠方界パターンは自由空間では古典的なドーナツ型と類似しています。また、EZNECは、オープンループは古典的なダイポールに類似した電界パターンを示すことを予想しています。図25は、グランドによる反射もまた相互作用として起こることを示しています。
図25. PCB (プリント基板)グランドプレーンを除いたオープンループの遠方界シミュレーション
機器で実施されたグランドを拡張する場合は、遠方界パターンがわずかだけ変動すると予測されます。これは、グランドプレーンによってミラーリングされたZエレメントが-Z方向の垂直エレメントに実効的に置き換えられるためです。その結果は同じであり、図26および27に示されるような実効ダイポールに再びなります。
図26. 能動エレメントの下のグランド拡張の効果
図27. PCB (プリント基板)グランドプレーンを備えるオープンループの遠方界シミュレーション
4.2.1. オープンループの測定インピーダンス
オープンループの場合は、波長が長くなると、アンテナはオープン回路のように見えます(F2~F3)。出力がアンテナを通じて空間と結合すると、アンテナの終端は高電圧を示しますが、電流はほとんど示されません。給電点に戻って流れると電流は次第に増加し、電圧はそれに比例して下降し、1/4波長まで入力インピーダンスが低下します(F1)。図28を参照してください。
図28. アンテナ電流が増加すると、電圧はそれに比例して下降します。
またショートアンテナは容量性のように見えます。これは、1/4 λ共振を下回る開放伝送線と同様の特性を備えているためです。図1における小型オープンアンテナの抵抗性インピーダンスと容量性インピーダンスの理論的な組合せは、図29で測定したものとマッチングします。表2は、オープンループで測定されたSパラメータの値を示しています。
図29. オープンループのSパラメータ
表2. 短絡ループの測定Sパラメータ
Loop Antenna with Open End to Ground Plane | ||||||
F (MHz) | S11 mU | Deg | Re-Ω | Im-Ω | S11x | S11y |
330.00 | 982.360 | -41.064 | 3.617 | -133.41 | 0.741 | -0.645 |
315.00 | 985.810 | -38.054 | 3.359 | -144.91 | 0.776 | -0.608 |
330.00 | 982.360 | -41.064 | 3.617 | -133.41 | 0.741 | -0.645 |
429.00 | 829.400 | -97.517 | 8.191 | -43.164 | -0.109 | -0.822 |
432.00 | 809.250 | -101.860 | 8.682 | -39.85 | -0.166 | -0.792 |
433.50 | 798.260 | -104.200 | 8.940 | -38.141 | -0.196 | -0.774 |
441.00 | 730.680 | -118.520 | 10.441 | -28.765 | -0.349 | -0.642 |
5. スプリアスおよび高調波アンテナに関して
送信デバイスのアンテナは通常、システム性能に最も影響を及ぼしますが、最も理解されない部品です。さらにアンテナは通常、製品のパッケージングの要求によって、妥協を余儀なくされます。また、エネルギーを効率的に輻射できる長さを得ようとすると、小型機器においては、UHFの波長でさえ設計するのが非常に困難になる場合もあります。定義によると第n次高調波は基本波の1/nだけ短い波長になるため、短いアンテナは基本波よりも高調波により効率的な放射体になってしまいます。
伝搬されるコヒーレントな電磁放射は、空間にある別の電界が収束されるか、または反射された物の影響をうけたりすると、互いに強め合い又は弱め合いながら伝播していきます。PCB (プリント基板)上の放射エレメントは、通常1つのソースから発生するだけでなく、任意の放射エレメントから関連成分まで結合する電界がもたらす多数の意図しないアンテナの和でもあります。
この影響を示すために、アンテナシミュレーションプログラムEZNECを使って、一例が作成されました。図30は、(アクティブトレースをシミュレートする)各位相において各種エレメントを励起するソースを示しています。次にこれらの励起エレメントは、433MHzでPCB (プリント基板)上に見られるような、(リード、コネクタ、パーツ、ネジ、チェーン、トレースなどの)ランダムな長さの周囲のエレメントに結合されました。
図30. EZNECソフトウェアによってシミュレートされたランダムエレメントモデル
遠方界からの図31に示される基本波でのシミュレーション結果は、このような単純なモデルの場合でも非常に複雑です。実際には、PCB (プリント基板)上の全成分の影響をシミュレートするのは不可能であり、これはフィールド試験の重要性を明示しています。
図31. 図29のシミュレーション試験結果からの基本波のPCB (プリント基板)放射
定義によると高調波はより短い波長を備えているため、それら高調波のポイントソースに対応するアンテナ効率が向上します。オブジェクト内のハードウェアは3次元であるため、エネルギーの結合と再放射によって高調波に偏波変動を生じる場合もあります。下記の図32は、第2次高調波、866MHzを図31から除いたランダムエレメントモデルの例です。
図32. PCB (プリント基板)放射の第2次高調波
高調波をさらに第10次高調波まで展開したとき、遠方界パターンは多数の強い各ローブによって複雑化してしまいました。また、図33でZ軸に沿ったスプリアスローブが増大し、X-Y面において基本波上のアンテナ利得が大幅に増大していることに注目してください。こうした環境下で、高調波とスプリアス発射が回路で減衰する分を、高い周波数でより効率的な放射体からの利得によって上乗せすることになります。このため、実際に基本波の電界強度を実際に上回る望ましくない放射がもたらされます。
図33. PCB (プリント基板)放射の第10次高調波
偏波変動は、アンテナのPCB (プリント基板)を据え付ける1/2インチのネジのように、ボードに対して垂直なハードウェアによって引き起こされる場合があります。PCB (プリント基板)アンテナがわずか1インチ長で、300MHzで垂直(X-Z軸)に配置されている場合は、実際には電気角度長がわずか19になるため、非効率的になり、偏波は垂直になります。ただし、第40次高調波では、(Y軸に沿って)水平に取り付けられたネジは190度になり、高効率でほぼ最適なダイポールになります(図34)。高調波の送信信号が十分な場合は、エネルギーの一部がネジに結合することによって、望ましくない強い交差偏頗された放射が発生します。実際には通常、少しの高調波だけです。しかしながら、FCCでは、デバイスに応じてすべての偏波で36GHzの範囲の帯域 でデバイスが放射限度を満たすことが求められています。
図34. Y軸に沿った自由空間におけるダイポールのネジの理想的な配置
また、グランドはあらゆる放射に著しく影響を与えます。自由空間においては理想的な放射体はドーナツのように見えます(図34)。ただし、同じ放射体がグランドまたは反射面から3フィート上の位置に配置されると、-Z方向のメインローブの一部は反響し、+Z方向のメインローブに干渉します。図35は、上空への極めて強いローブの花の形のパターンと、X軸方向の水平方向にあたるX-Y面で期待されるローブの成長が見える結果を示しています。
図35. グランドから(地上高)3フィートに位置する315MHzにおけるダイポール例
次に、グランドに平行に向けられた半波長ダイポールを、各高調波ごとに検討します。電気長がグランドに対して長くなるにつれて、グランド効果はある程度まで低下します。ただし実際には基本波は固定長で放射されるので、基本波よりも高調波サイドローブにおいて利得が通常増大します。その結果は、下記の図36に示されるようにローブの複雑な干渉です。
図36. グランドから(地上高)3フィートに位置する300MHzで切り取られた半波長ダイポールを含む高周波例
6. まとめ
アンテナが実際にどのエレメントから放射するのかを判別する本当に正確な方法は1つしかありません。デバイスに対するあらゆる角度と偏波において、またトランスミッタを使用する実際の設定において、基本波放射エレメントの先で綿密に測定することです。
周波数が上昇すると、短絡ループは誘導性から始まり、共振へと発展します。対照的に、オープンループは容量性から始まり、共振へと発展します。両方の設計とも、小さな抵抗成分を持ち、これはシミュレーションによる予測や測定が困難であり、アンテナ効率を悪化させます。オープ ンループの電界パターンは通常、グランドのミラー効果が原因でグランドに依存し、ダイポールパターンに有利な傾向があります。それに対して、短絡ループエレメントはグランドリターンが短いために大きな電流成分をもちます。このため、磁気結合で空間に伝播し、それはPCB (プリント基板)グランドへの依存が少ない図8のパターンに似る傾向があります。
小型アンテナの場合は、効率とマッチングが基本波よりも高調波の方がよくなります。また、電流分配がエレメント全体にわたって変動するにつれて、電界パターンが複雑化するため、遠方界でパターンが干渉されます。このため、小型アンテナでは高調波はより効率的に励起され、アンテナ自体の利得が望ましくない周波数において予測できない場合があり、それは実際においては、設計周波数よりも利得が大きくなります。
グランド効果を無視することはできません。実際、グランドは測定結果とエネルギーの方向の両方に極めて強い影響を与えます。
シミュレーションはスモールループに対応していますが、このシミュレーション結果の価値に関しては、アンテナが理想的な環境でどのように機能するかについての常識的な知識を得て、そして空間およびグランドの効果を把握することに限定されます。この一般的な理解は、将来にわたって利用できる見識になるか、または直感的にアンテナの結果を把握できる物になるでしょう。
参考資料
The theory of antennas and practical discussions can be found in these excellent sources:
- Richard C. Johnson and Henry Jasik, Antenna Engineering Handbook, McGraw-Hill, 1961.
- RF Cafe, Smith Chart Generator (Fig. 3, 12, 18, and 25).
- Warren L. Stutzman and Gary A. Thiele, Antenna Theory and Design, John Wiley & Sons, Inc., 1981.
¹Larry Burgess, "Matching RFIC Wireless Transmitters to Small Loop Antennas," High-Frequency Electronics, March 2005, pg. 24.
²Nittany Scientific.
³LLNL.
4Gerald Burke, Lawrence Livermore National Laboratory IPAC, "NEC Version 4.1," University of California, PO Box 808 L-795, 7000 East Ave, Livermore CA, 94559.
5WIPL-D.
6Cullen College of Engineering.