LTspiceによる電源プレーンのシミュレーション

LTspiceによる電源プレーンのシミュレーション

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Michael Jones

Michael Jones

配電ネットワーク(PDN:Power Distribution Networks)を設計する際、電源プレーンを表すのにSPICEモデルを使用するのが一般的です。ハイエンド設計では2D/3D電磁界モデリングツールを使ってSPICEモデルを抽出しますが、単純なSPICEモデルで充分な場合もあれば、高価な2D/3Dモデリングツールを使えない状況もあるでしょう。しかしLTspiceを使えば、いくつかの簡単な技法で最大で約3GHzのPDN設計をモデル化することができます。

PDNは通常、PCB上の2プレーンの長方形と考えることができます。これは、実際のレイアウトが小型の長方形であること、あるいは小型の長方形で近似できるためです。このような場合、まず解析ツールを使ってプレーンをモデル化してLTspiceモデルを作成した後、そのLTspiceモデルが解析モデルと一致するように試行錯誤で調整を加えていくという方法を採ることができます。結果は、PDNの測定値にかなり近くなります。本稿では、解析モデルからLTspiceモデルを作成する方法を説明し、次にプロトタイプ・ボードから得られた測定データを示しながら、この手法の限界を明らかにします。

Istvan Novak氏から解析モデル用の優れたスプレッドシートが提供されています(http://www.electrical-integrity.com)。Tools downloadのページから「It calculates the self impedance of a bare rectangular parallel plates at arbitrary locations」と説明されているモデルを検索し、ダウンロードします。このモデルを使った例を見ていきます

FR4で作成した0.003 mil(ミル)間隔の2インチ角の正方形プレーンを考えてます。負荷がプレーンの中央にあり、最良のインピーダンスモデルが正方形の中心にあるものとします。このパラメータをモデルに入力すると、次の結果が得られます。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

このプレーンは600MHzまではコンデンサのように見え、その先の3GHz近辺まではインダクタのように見えます。それ以降になると、共振空洞を扱っているため収拾がつかない状態となっています。適切なLTspiceモデルであれば、容量、インダクタンス、最初の共振ピークを説明できなければなりません。有用なSPICEモデルをDesignCon 2013の論文「Innovative PDN Design Guidelines for Practical High Layer‐Count PCBs」Shringarpure、Pan、Kim著に見つけることができます。この論文から抜粋した以下の図は、デカップリング・コンデンサとフィードスルー・インダクタを含む基本的なモデルを示します。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

モデルのプレーン部は中央部分なので、そこから始めます。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

次のステップで、解析モデルのグラフ上のポイントからプレーンの容量とインダクタンスを見積もります。

 

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

100pHを選択し、共振ピークをモデル化するLICを推測します。ここで、CおよびLの値を2等分して、それぞれCP1とCP2、LP1とLP2に振り分けることで最初のモデルが得られます。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

プレーンの共振ピークが3GHz付近にないことは明らかです。そのため、次のステップで、ピークが3GHz付近に移動するまでLICの修正を繰り返し、解析モデルと一致するようにします。他の素子についても、解析モデルと一致するまで微調整を繰り返します。LICが8pF、LP1とLP2が42pFのとき、SPICEモデルは解析モデルと一致します。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

ただし、ここでは空洞共振は表記されていません。これはSPICEモデルには空洞共振を表す素子がないためです。このプレーンのモデルは、長方形のプレーンが実際のPCBの形状を適切に表していると仮定した場合、約4GHzまで使用可能です。プレーンを表す適切なモデルを準備できたら、DesignConの論文にあるモデルに従って、フィードスルーをモデル化するコンデンサを追加して、引き続きPDNの残りの部分をモデル化することができます。例えば、以下のようなPoint of Load(POL)のプロトタイプ・ボードのモデルを考えてみます。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

このPDNのインピーダンスの目標値は、10mΩ〜10MHZでした。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

測定結果に近いとは言え、多少の相違が見られます。測定結果にさらに近づけるため、各コンデンサをBode 100 VNAで測定し、RLCとしてモデル化しました。フィードスルー・インダクタンスは、過去の経験値を基に近似しました。フィードスルーの解析モデルを使うことも可能でしたが、実験を基にインダクタンスを修正することで、分散インダクタンスをこのモデルで説明することができました。他のモデルと同様、費やす労力やモデルに求める正確さを考慮する必要があります。

上述したようにLTspiceでは1〜3GHzのPDNモデルを、さほど費用をかけずに作成することができます。このモデルは、長方形のプレーンであるという仮定の下に限定されており、分散インダクタンスやフィードスルー・インダクタンスを近似して作成しています。作成したモデルは、必ずVNAを使ってPDNのインピーダンスを測定し、検証する必要があります。40Mhzまでの低周波は、Bode 100または同等の装置で測定することが可能です。またAgilentなどのメーカーが、Ghzまで対応可能なVNAを提供しています。検証が済んだモデルは、将来の設計に再利用できます。

プロトタイピングや過去の経験に依らない極めて高精度なモデルが必要な場合は、2D/3Dモデリングツールを使用する必要があります。ただし、そのような高性能なモデリングツールを使用した場合でも、VNAを使って結果を検証し、モデルが正確であることを確認する必要があります。

 

Simulating Power Planes with LTspice IV

実際のレイアウト