あらゆる製品の製造工程には、高精度かつ信頼性に優れた温度測定技術が必要になります。多くの場合、温度は接触型のセンサーを使用して測定されます。例えば、センサーを液体に浸したり、マシンの表面に接触させたりといったことが行われるということです。こうした用途には、サーミスタや熱電体、RTD(測温抵抗体)などの温度センサーがよく使われます。RTDは応答が速く、最高で数百μV/°Cという優れた感度を有しています。また、-200°C~800°Cという広範な温度範囲で、直線的な挙動を示します。RTDには、2線式、3線式、4線式などの種類があり、多様なアプリケーションに適用できるだけの柔軟性を備えています。
RTDによって温度に対応する電圧を生成するためには、励起電流が必要です。数十mVから数百mVまで、電圧のレベルはRTD製品の種類によって異なります。温度計測システムの精度は、RTDをはじめとする温度センサーだけによって決まるわけではありません。適切な計測器を選択しているか否か、システムをどのように構成しているか、測定用の回路としてはどのようなものを使用するのかといったことにも依存します。RTDを使用する場合、2線式、3線式、4線式のそれぞれに対応する測定回路を使用することになります。具体的には図1のような回路を構成します。
2線式の測定回路では、RTDに励起電流Iを供給する2本のワイヤを、電圧の測定にも使用します。この場合、RTDの抵抗値が小さいので、ワイヤの抵抗RLの値が比較的小さくても、比較的大きな測定誤差が生じます。この誤差は、3線式、4線式の測定回路の場合、最小限に抑えることが可能です。RTDの励起電流は独立したワイヤによって供給し、電圧の測定に使用するワイヤは通常インピーダンスの高い測定用デバイスの入力に直接接続できるからです。
RTDにおける小さな電圧降下により、残念ながら、生成される電圧信号はノイズの多いものになりがちです。それらのノイズは、電圧の増幅が信号源(RTD)にできるだけ近い位置で行われるようにすることで低減できます。そのため、測定用のワイヤはできるだけ短く抑える方がよいでしょう。また、電圧信号を取得してデジタル・データに変換する処理には、S/N比と感度に優れるA/Dコンバータ(ADC)を使用するべきです。例えば、アナログ・デバイセズの「AD7124ファミリ」のようなADC製品を選択するべきだということです。同製品は、分解能が24ビットのシグマ・デルタ(ΣΔ)型ADCです。アナログ・フロント・エンド(AFE)機能を含む完全な集積化を実現した製品であり、高精度の計測アプリケーションに最適な高いノイズ性能を備えています。入力部は、差動またはシングルエンド/疑似差動として選択的に構成することが可能です。AD7124ファミリは、デジタル・フィルタやプログラマブルなアンプ段も備えています。また、低電圧のアプリケーションにも最適です。図2に、AD7124を用いた4線式の温度計測システムの例を示しました。
AD7124のアナログ入力ピンAIN2、AIN3は、差動入力として構成しています。これらによって、RTDから生成される電圧を測定します。RTD用の励起電流は、アナログ電源電圧AVDDを基にAD7124内部で生成し、AIN0から供給します。励起電流は、リファレンス抵抗RRef1にも流れます。RRef1としては高精度の抵抗を使用しますが、ここでも電圧降下が生じます。この電圧降下は、リファレンス・ピンREFIN1(+)、REFIN1(-)によって検出します。そして、この電圧降下は、RTDにおける電圧降下に比例します。このようなレシオメトリックな構成であることから、励起電流の変化は、システム全体の精度には一切影響を及ぼしません。RRef2は、AD7124が内蔵するアナログ・バッファの正常な動作に必要なオフセット電圧を生成します。それらのバッファは、A/D変換を実施する前の信号のフィルタリングに使用します。このフィルタによって、エイリアスの除去とノイズの低減が実現されます。別の方法として、すべてのアナログ入力とリファレンス入力に個別のRCフィルタを接続することも可能です。AD7124を採用すれば、計測システムの校正(ゼロスケール校正とフルスケール校正)を実施することにより、測定の開始前にゲイン誤差とオフセット誤差を容易に最小化することもできます。
まとめ
AD7124ファミリのようなAFE機能を備えるADC製品を使用すれば、RTDをベースとする温度計測システムを比較的容易に実現できます。高い精度、少ない消費電力、小さなノイズをバランス良く組み合わせられるので、高精度の計測アプリケーションや、低消費電力であることが求められる携帯型の機器に最適です。また、この種のADC製品は集積度や柔軟性が高いので、アーキテクチャを簡素化することができます。更に、種類が異なる複数のセンサーを用いた計測アプリケーション(温度、電流、電圧などを計測)を短期間で設計することが可能になります。