要約
このアプリケーションノートは、システム設計者がMAX16946リモートアンテナレギュレータおよび電流検出アンプ(CSA)とともに使用する外付け部品を正しく選択して、車載アンテナ検出サブシステムの性能目標を達成する上で役立ちます。MAX16946用の重要な外付け部品の選定に役立つ計算シートも提供されています。この計算シートでは、デバイスの動作範囲やアナログ出力電圧の精度も算定することができます。
はじめに
MAX16946は、高精度な電流検出アンプ(CSA)を備えた高電圧レギュレータで、車載アプリケーションのリモート無線アンテナにファントム電源を供給するように設計されています。このデバイスは、短絡保護、電流制限保護、オープン負荷検出の機能を提供します。電流制限保護とオープン負荷検出の電流レベルは、外付け抵抗器で設定可能です。設計技術者は、アンテナ検出回路が性能目標を満たすように、設計時に正しい外付け部品を選定する必要があります。
図1は、MAX16946の標準的なアプリケーションを示しています。主な外付け部品とその機能は次のとおりです。
- RSENSEは、負荷電流を検出する抵抗器です。CSAはこの抵抗器両端の電圧を測定して増幅します。この理由から、システム全体の精度を算定する際にこの検出抵抗の値が重要です。
- R5とR6はレギュレータの出力電圧を設定します。
- COMPのコンデンサは、あらゆる動作条件の下でレギュレータの安定性を確保します。
- R1とR2は、フォルト条件時の電流制限を設定します。電流がブランキング時間100ms (min)の間、電流制限にとどまった場合は、出力がオフになり、アクティブローのSC出力がローにアサートされ、1100ms後にリトライが試行されます。
- R3とR4はオープン負荷検出のスレッショルドを設定します。この負荷電流を下回ると、アクティブローのOL出力がローをアサートします。
- ショットキーダイオードDOUTは、出力がオフになり、LOUTが電流を維持しようとするときに、MAX16946をOUTピンにおける負の過渡電圧から保護します。このダイオードがなければ、OUTがその絶対最大電圧-0.3Vを下回る可能性があります。そうした事態は避けなければなりません。
図1. MAX16946リモートアンテナCSAおよびスイッチの標準動作回路
アンテナアプリケーションでCSAおよびスイッチを利用する場合、設計者がオープン負荷、正常動作、短絡、電流制限の範囲を決定しなければならないことがよくあります(図2)。さらに、CSAのアナログ出力電圧の精度を検証する必要があります。
図2. 電流検出アンプの動作範囲
電流制限とオープン負荷のスレッショルドを設定する検出抵抗と抵抗分圧器の正しい値を決定するには、
MAX16946の計算シートを使用します。その際には、それらの外付け部品とMAX16946の両方の公差を考慮します。各設計パラメータの公差の範囲を計算することによって、設計者はそれらの設計パラメータをシステム仕様に基づいた限度の範囲内に収めることができます。
検出抵抗値の計算
理論的には、最大負荷電流によって電流検出抵抗RSENSEの両端にフルスケール検出電圧が生じます(図1)。上限はAOUTを基準にした1.7Vの短絡電流スレッショルドになります。アプリケーションの最大負荷電流は短絡電流スレッショルドを超えてはいけません。超えると、短絡が誤って指示されます。RSENSEの初期値は、次の式を使用して計算します。
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(式. 1) |
ここで、1.7Vは短絡電流スレッショルド、0.4VはAOUTのゼロ電流オフセット、26V/Vは電流検出アンプの利得、ISCは短絡スレッショルドです。
検出抵抗には若干の公差があるため、必要な公称値は式1で計算した値よりも小さくなります。公差を見込んだ計算には、次の式を使用します。
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(式. 2) |
ここで、RSENSEは式1で計算した検出抵抗の値で、RSENSE-TOLERANCEは検出抵抗の公差です。
通常、RSENSE(NOM)には、計算値よりも小さな最大の基準値を選択します。あるいは、基準抵抗器を直列または並列に組み合わせて検出抵抗の最適値を実現することもできます。
短絡電流検出範囲の計算
検出抵抗の公称値を選択したら、次は検出抵抗を流れる電流の代表値を決定する必要があります。短絡の検出を可能にするこの電流は、次の式で計算することができます。
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(式. 3) |
ここで、RSENSE(NOM)は上で選択した検出抵抗です。
ただし、短絡電流スレッショルド(1.7V)、CSAの利得(26V/V)、AOUTのゼロ電流オフセット電圧(0.4V)には無相関の公差がある(それらの最小値と最大値が互いに無関係に変化する)ため、ISCの値は特定の範囲内で変動します。この範囲の限度は次の式で与えられます。
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(式. 4) |
および
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(式. 5) |
ここで、RSENSE(MAX)は検出抵抗の最大値(公差を含む)で、RSENSE(MIN)はその最小値です。したがって、電流がISC(MIN)とISC(MAX)の間にあるときに、アクティブローの短絡フラグ(SC)がローをアサートします。
出力電圧の設定
図1の抵抗R5とR6がMAX16946の出力電圧を設定します。それらの値は次の式で関係付けられます。
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(式. 6) |
ここで、VFBはレギュレーションにおけるフィードバックピンの電圧です(公称1V)。そこで、出力電圧の最小値と最大値は次の式で与えられます。
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(式. 7) |
および
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(式. 8) |
ここで、VFB(MIN)は0.97Vで、VFB(MAX)は1.03Vです(電流範囲は5mA~150mA)。R5(MAX)、R5(MIN)、R6(MAX)、R6(MIN)は、それぞれR5とR6の最大値と最小値です。
FBピンをREGに接続することによって、出力電圧を8.5Vに設定可能であることに注意してください。このモードでは、外付け抵抗の公差を考慮する必要がないため、出力電圧の精度の向上が実現します。
電流制限範囲の設定
AOUTの電圧がREF、LIM、GND間の抵抗分圧器を使用して設定されるLIMピンの電圧に達すると、MAX16946はその出力電流を制限します。REFの公称電圧は3Vです。したがって、次の式が成り立ちます。
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(式. 9) |
ここで、ILIMは電流制限スレッショルドの目標値です。R1に基準値の100kΩを選定します。そこで、R2は次のように計算することができます。
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(式. 10) |
無相関の公差を考慮して、ワーストケースの電流制限範囲は次の式で与えられます。
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(式. 11) |
および
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(式. 12) |
ここで、R1(MAX)、R1(MIN)、R2(MAX)、R2(MIN)は、それぞれR1とR2の最大値と最小値です。
オープン負荷検出スレッショルドの設定
MAX16946のオープン負荷スレッショルドは、REF、OLT、GND間に配置した抵抗分圧器によって、外部で調整することができます。次の式が成り立ちます。
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(式. 13) |
ここで、IOLはオープン負荷スレッショルドの目標値です。R3に基準値の100kΩを選定します。そこで、R4は次のように計算することができます。
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(式. 14) |
R3とR4の値を確定したら、次の式でオープン負荷検出スレッショルドの範囲を計算することができます。
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(式. 15) |
および
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(式. 16) |
ここで、R3(MAX)、R3(MIN)、R4(MAX)、R4(MIN)は、それぞれR3とR4の最大値と最小値です。
AOUTの電圧による出力電流の測定
検出抵抗RSENSEが与えられ、負荷電流ILOADが確定されると、CSAの出力AOUTで測定した電圧値のワーストケースの範囲を計算することができます。AOUTにおける電圧の一般式は次のとおりです。
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(式. 17) |
再び無相関の公差すべてを考慮した場合、AOUTの電圧は次の2つの式の間になります。
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(式. 18) |
および
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(式. 19) |
言い換えると、ある検出電流値から、VAOUT(MIN)とVAOUT(MAX)のワーストケースの間を取るAOUT電圧の分布が生じます。
通常、AOUTの電圧はマイクロコントローラのADCを使用して測定され、次にすべてのパラメータの公称値に基づいて負荷電流が計算されます。上記のワーストケースのAOUT電圧が得られると、マイクロコントローラによって、電流が次の2つの値の範囲内に収まると結論されます。
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(式. 20) |
および
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(式. 21) |
ADCによる電流測定の公差ITOLは、次の式で表されます。
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(式. 22) |
計算例
以下の例では、アンテナファントム電源アプリケーションで正常動作範囲の上限が100mAに設定され、アンテナに5Vの安定化電圧が必要であると仮定しています。短絡スレッショルドを110mAで10%高く設定した場合、検出抵抗の初期値は次のとおりです。
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(式. 23) |
公差が1%の抵抗器を使用すると、検出抵抗の公称最大値は次のとおりです。
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(式. 24) |
この値より小さな次のE12シリーズ値である0.39Ωを選定した場合、この抵抗器による短絡検出の標準値は、次のように計算することができます。
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(式. 25) |
短絡スレッショルド
次に、検出抵抗の最小値と最大値(1%タイプの使用を仮定して0.386Ωと0.394Ω)を使用して、短絡検出スレッショルドの最小値と最大値を算定することができます。
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(式. 26) |
および
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(式. 27) |
出力電圧
次の式に基づいて、(まずR5に22kΩの値を選定した後に)抵抗R6を選定することによって、5Vの出力電圧を設定します。
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(式. 28) |
最も近いE12シリーズ抵抗である5600Ωを選定した場合、公称出力電圧は4.93Vとなり、出力電圧の変動は次の範囲内になります。
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(式. 29) |
および
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(式. 30) |
電流制限
次に、抵抗を選定して出力電流制限を設定することができます。約200mAの電流制限を想定して、R1に100kΩの抵抗を使用します。
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(式. 31) |
最も近いE12基準値である390kΩを選択すると、実際の電流制限は0.196Aになります。すべての公差を考慮し、1%の抵抗器の使用を仮定すると、電流制限範囲の最小値と最大値は次のとおりです。
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(式. 32) |
および
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(式. 33) |
オープン負荷検出スレッショルド
10mAの公称オープン負荷検出電流を設定するには、(まずR3に100kΩの値を選定した後に)次の式を使用してR4を選定します。
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(式. 34) |
R4に20kΩの基準抵抗器を使用して、オープン負荷スレッショルドの最小値と最大値を計算します。
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(式. 35) |
および
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(式. 36) |
AOUTの確度
アナログ出力(AOUT)の精度を評価するために、上で選定したのと同じ検出抵抗(0.39Ω)を仮定して、100mAの負荷電流で精度を評価します。この電流では、AOUTの電圧の最小値と最大値は次のとおりです。
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(式. 37) |
および
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(式. 38) |
これらの電圧を採用し、マイクロコントローラのソフトウェアを使用してこれらの電圧から電流を計算すると(データシートの標準値を使用)、評価された電流の範囲は次の2つの値の間になります。
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(式. 39) |
および
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(式. 40) |
したがって、マイクロコントローラによる測定の誤差範囲は100mAで±6.7%です。この範囲はリファレンスの誤差や量子化の誤差など、ADCの測定におけるその他の誤差を考慮していません。