はじめに

アナログ・デバイセズは、「アンテナからビットまで」を網羅する多様な製品やソリューションを提供しています。それらは、ミッション・クリティカルで堅牢性が高く先進的な航空機や宇宙システム、防衛用プラットフォームの実現に貢献しています。各種のコンポーネント製品や、性能の高いシグナル・チェーンのソリューションは、高い集積度によってサイズ、重量、消費電力の要件に応えています。そして、シグナル・チェーンを構成する各デバイスの性能を引き出すには、低ノイズで高効率のパワー・マネージメント・ソリューションが必要になります。

当社のPower by Linear^™製品群の中には、航空宇宙／防衛分野（ADEF：Aerospace and Defense）で使用される電源システム向けに提供されているものがあります。それらの製品は、堅牢性の高いシステムに求められる性能と信頼性の基準を満たすように設計／製造されています。もちろん、工場から出荷される際には、それらの基準を満たしていることがテストによって確認されます。電力密度、効率、EMI（電磁干渉）性能が高く、使いやすいことが特徴だと言えるでしょう。当社の電源製品は、主に電源電圧の供給に使用されるものと監視／制御／保護に使用されるものに分類できます。本稿では、次世代のADEFアプリケーションに理想的な信頼性の高いパワー・マネージメント製品を紹介します。

製品の可用性

アナログ・デバイセズは、古い製品は年齢を重ねているのではなく、より成熟度が増しているのだと考えています。例えば、Power by Linear製品は、リリースされてから数十年にわたってご利用いただけます。その背景にあるのは、製造中止は避けるべきだという考え方です。やむを得ず製造を中止する場合には、JESD48Aに準拠した製造中止案内（PDN：Product Discontinuance Notice）によって2年前にお客様にお知らせしています。当社は今後も製品に対する卓越した長期サポートによって、ADEF市場の特殊なニーズに対応し続けます。詳細については、製品ライフサイクル情報のページをご覧ください。

工場における100%のテスト

ADEF向けのパワー・マネージメント・ソリューションには、過酷な稼働環境の条件下にあっても高い信頼性を維持することが求められます。アナログ・デバイセズのPower by Linear製品は、業界最高水準の品質と信頼性によって、ADEF向けパワー・マネージメント製品の市場に特有の要件に対応し続けています。品番が「LT」、「LTC」、「LTM」、「LTP」から始まる製品には、様々な温度グレードのバージョンが用意されています。それらすべての製品については、性能を保証するために100%の電気的テストが行われます。具体的には、室温において、データシートに記載された電気的特性の限界条件までのテストが実施されます。また、データシートにおいて赤い丸で示された電気的特性については（図1）、サンプル（ロットからの抜き取り品）を対象とし、高温と低温においてデータシートに記載された電気的特性の限界条件までの電気的テストが行われます。一切の故障は許されていません。温度グレードの詳細については、各製品のデータシートをご覧ください。

MP（Military Plastic）グレード品は、軍用温度範囲に対する性能が保証された商用オフザシェルフ（COTS：Commercial off-the-shelf）のソリューションです。このグレードのデバイスについては、高温と低温における100%の電気的テストが行われます。それだけでなく、追加の検査、厳しいプロセス制御、初期故障を回避するための温度サイクリング、信頼性に関する十分なモニタリングが行われます。H（High Temperature Automotive）グレードやI（Industrial）グレードなど、他の温度グレードのバージョンも対象にすれば選択肢が広がります。当社ウェブ・サイト（analog.com/jp）に用意された製品セレクション・テーブルにおいて、「パラメータを選ぶ」で「Temp Range」をチェックすれば、温度範囲によるフィルタリングが行えます。

アナログ・デバイセズは、宇宙用途に対応可能な放射線耐性（RT：Radiation Tolerant）を備えるリニア・レギュレータ／スイッチング・レギュレータ製品群も提供しています。詳細については宇宙技術ソリューションのページをご覧ください。

設計時間の短縮を可能にする強力な設計ツール

アナログ・デバイセズは、電源システムや電源回路をより容易に設計できるようにするために、一連のソフトウェア・ツールを提供しています（図2）。まず、LTpowerPlanner^®を使用してシステム・レベルのパワー・ツリーを設計します。次に、LTpowerCAD^®を使って適切なソリューションを検索し、電源設計の最適化を行います。更に、LTspice^®によって回路のシミュレーションを実施します。複雑なマルチ電源システムの構成、診断、デバッグには、LTpowerPlay^®を利用可能です。いずれのツールも、非常に有用な機能を備えています。しかも、無償ダウンロード提供されています。

わずかな実装面積で高効率の電源を実現するµModuleレギュレータ

µModule^®レギュレータは、卓越した機能を備えるSiP（System in Package）型のパワー・マネージメント・ソリューションです。1つのパッケージ内に、コントローラIC、パワー・トランジスタ、コンデンサ、補償回路、インダクタが含まれています。すべての製品は、最終的なパッケージに収容された状態で、データシートに記載された電気的特性の限界条件でテストされます。µModule製品の基本コンセプトは、熱性能を強化しつつソリューションのサイズを縮小することです。そのため、放熱のために機械的な構造を付加するなど、熱の問題を緩和するための対策は必要ありません。また、高い効率とEMI性能が得られるように設計されているので、各種の規格に容易に準拠することができます。つまり、設計時間を短縮することが可能です。µModuleは複数のトポロジをサポートしており、降圧、昇圧、昇降圧、絶縁型、反転型のレギュレータ製品が提供されています。

μModule製品の多くは、SnPb仕上げのBGAパッケージで提供されています（図3）。パッケージ上面に「e0」のマークがあるものがSnPb仕上げの製品です。また、µModule製品は、JEDECの規格であるJ-STD-609に準拠しています。プリント回路基板のアセンブリにおけるBGA製品の製造ガイドラインについては、μModule設計と製造リソースのページをご覧ください。SnPb仕上げの製品を検索したい場合には、製品セレクション・テーブルの「パラメータを選ぶ」で「Terminal Finish」を選択し、「PB」でフィルタリングしてください。.

高いEMI性能を実現するSilent Switcher技術

Power by Linear製品の中には、独自のSilent Switcher^®技術を適用したものがあります。この種のレギュレータでは、高いスイッチング周波数での動作と優れた効率を実現しつつ、EMIを極めて低いレベルに抑えています。具体的には、2MHzのスイッチング周波数で動作して95%の効率を達成しつつ、CISPR 25のクラス5で定められたEMIの規定値（ピーク）を十分にクリアするといった具合です。妥協のない性能と豊富かつプログラマブルな機能を備えており、5.5V～65Vの入力電圧、1.2A～20Aの出力電流、200kHz～5MHzのスイッチング周波数に対応する製品がラインアップされています。また、第2世代のSilent Switcher技術であるSilent Switcher 2を適用した製品も提供されています。その種の製品には、内蔵バイパス・コンデンサと集積化基板が追加されており、更に高いEMI性能が得られます（図4）。より多くのコンポーネントを統合することで、基板レイアウトがEMI性能に及ぼす影響が最小限に抑えられています。また、設計と製造が簡素化され、性能面でのリスクが軽減されます。Silent Switcherを採用した降圧レギュレータはインダクタも内蔵しているので、設計と製造におけるリスクが低く抑えられます。

超低ノイズ、高PSRR、低ドロップアウトのリニア・レギュレータ

Power by Linear製品には、ノイズが極めて小さく、電源電圧変動除去比（PSRR）が高いLDO（低ドロップアウト）レギュレータも含まれています。この種の製品は、ノイズに非常に敏感なデバイスに対して安定した電力を供給するために使用されます。ノイズに敏感なデバイスの例としては、精度の高いセンサー、高速／高分解能のA/DコンバータやD/Aコンバータ、周波数シンセサイザなどが挙げられます。非常に低い出力ノイズと非常に高いPSRRを実現したLDOレギュレータの製品ファミリには、正電圧に対応する製品と負電圧に対応する製品が含まれています。それらの製品は、1.8V～20V（-20V～-1.8V）の入力電圧、200mA～500mAの出力電流に対応します。

Power by LinearのLDOレギュレータの多くは、容易に並列接続できるようになっています。それによって、ノイズを更に低減し、より多くの出力電流を供給し、基板上のより広い領域に熱を拡散することができます。また、電流の制限値やパワー・グッド信号をプログラムできる製品や、VIOC機能を備える製品もあります。VIOC機能を使用すれば、LDOレギュレータをスイッチング・レギュレータと併用する場合の効率を高め、システムの過渡応答を高速化することが可能になります。

アナログ・デバイセズは、高性能のリニア・レギュレータも数多く提供しています。例えば、堅牢性に優れ、高電圧に対応するPNPリニア・レギュレータなども用意しています。

過電圧／過電流を防ぐサージ・ストッパ

入力の予測が困難なシステムでは、フロント・エンドを十分に保護する必要があります。そのためのソリューションとして、Power by Linearではサージ・ストッパ製品も提供しています。それらの製品は、大きな受動部品を使用することなく、あらゆる種類のサージやトランジェントに対処します（図5）。具体的にはISO 7637-2、ISO 16750-2、MIL-STD-1275、DO-160といったADEF規格に対応しています。受動部品を使う場合、電力供給が保証されないことに加え、大きなエネルギーをグラウンドにシャントする際に永久的な破損が生じてしまう可能性があります。

Power by Linearの保護用ソリューションでは、MOSFETを使用し、ユーザーがプログラムしたレベルまでに最大出力電圧を抑えます。それにより、トランジェントが発生した際に高精度なライドスルー動作を実現します。つまり、入力経路が遮断されることはなく、高い信頼性で動作が維持されます。また、障害が長引いた場合に出力を遮断する機能も備えています。加えて、プログラマブルな電流制限や低電圧ロックアウトの機能も利用できます。更に、バック・ツー・バック接続のMOSFETを使用するアプリケーションで、バッテリの逆接続に対する保護機能を利用できるものもあります。

スイッチング方式のサージ・ストッパ製品は、優れた信頼性を維持しながら高い効率を達成します。つまり、出力電流を増やしつつ、高電圧のトランジェントや障害が発生した際の電力損失を抑えることが可能です。例えば、高電圧に対応するサージ・ストッパ「LTC4366」や「LT4363」を使用すれば、MIL-STD-1275Dに容易に準拠することができます。

アナログ・デバイセズは、障害の発生時に経路を遮断するタイプの製品を含めて、あらゆる種類の過電圧／過電流保護ソリューションを提供しています。

まとめ

Power by Linearでは、次世代のADEFアプリケーションに対応可能な最先端のソリューションを豊富に取りそろえています。いずれの製品も、長い動作寿命を実現し、過酷な環境に関する基準を満たすことが可能な信頼性と堅牢性を兼ね備えています。また、当社のADEF関連ページでは、製品や設計に関する数多くの情報を提供しています。製品のデータシートや、強化製品（AQEC）の一覧、アプリケーション・ノート、技術記事、LTspice向けのデモ用回路のデータ、設計ツール、EngineerZone^®のフォーラムなどにもオンラインでアクセス可能です。更に、お客様の設計コンセプトを基に高い堅牢性を備える商用ソリューションを構築できるよう支援するエキスパートを各地に配備しています。ADEFアプリケーションの開発に取り組まれる方は、お気軽にテクニカル・サポートまでお問い合わせください。

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